労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成25年(不再)第90号・平成26年(不再)第1号
土浦日本大学学園不当労働行為再審査事件 
再審査申立人(25不再90号)  法人 
再審査被申立人(25不再90号)  組合、個人X1、X2、X3。 総称して「組合ら」 
再審査申立人(26不再1号)  組合、個人X1、X2、X3。 総称して「組合ら」 
再審査被申立人(26不再1号)  法人 
命令年月日  平成28年10月5日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事案概要  1 法人が、① 組合の情宣文書等の配布方法等を制限する旨の通知を行ったこと(「本件通知」)が労組法第7条第3号に当たり、② 事実と相違する内容を含む情宣文書(「本件配布物」)の作成・配布に関与したとして、組合員X1、X2及びX3(「X1ら3名」)を譴責処分に処したこと(「本件譴責処分」)が、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるとして救済申立てのあった事案である。
2 初審茨城県労委は、本件通知は不当労働行為に当たるとして、法人に対し同通知の撤回を命じ、また、本件配布物の作成・配布に関与したことを理由とするX2及びX3に対する本件譴責処分は不当労働行為に当たらないが、3名のうちX1は、本件配布物の作成・配布に関与したと認められず、同人の活発な組合活動に鑑みれば、組合活動を理由とする不利益取扱いであるとして、X1に対する本件譴責処分の撤回を命じてその余の救済申立てを棄却したところ、法人及び組合らは、これを不服として再審査を申し立てた。 
主文の要旨   初審で命じた本件通知の撤回及びX1に対する本件譴責処分の撤回は維持し、X2及びX3に対する本件譴責処分の撤回を救済内容に追加した。 
判断の要旨  1 本件通知について
 職場内における組合活動として行われる情宣文書等の配布行為は、使用者の施設管理権との関係上、職場秩序との整合性からその配布の方法等が一定の制限を受けることはやむを得ないものだが、本件通知は、長年にわたる従前の取扱いを大きく変更し、組合の情宣文書の取扱いに一方的な制限を加えようとするもので、組合活動に対し大幅な不利・不便を生じさせるものであるから、このような場合には、団体交渉等において取扱いの変更の趣旨や必要性を説明して協議を尽くすべきである。しかし本件通知は、事前の協議や説明をされることなく提示され、提示後に一度団体交渉を行った後に内容が修正されたが、それは誤解を招く表現を修正したにすぎず、組合との協議を尽くした結果が反映されたものとはいえない。さらに、その後組合が4回にわたって要求した本件通知に関する団体交渉が行われていないことを併せ考えれば、法人が本件通知に関し、組合に対し説明・協議を尽くしたということはできない。
 以上と併せて、法人は、この取扱いの変更が組合の情宣活動上の不利益をもたらすことを認識した上で、あえて本件通知を行ったものと認められることからすれば、法人が、組合活動を抑制ないし妨害する意図をもって本件通知を行ったことは明白であるといえ、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
2 本件譴責処分について
 (1) 労働組合等は使用者の方策や対応等に関しては使用者に比べて取得する情報量が相対的に劣るのであるから、情宣文書において使用者の方策や対応等について言及する場合には、労働組合等の側の不正確な知識や誤解等により、記載されている事柄が厳密に見ると客観的事実に符合しないことや、自己の主張を強調し、使用者の方策や組合員への対応を批判するために、事実の一部について誇張とみられる表現等が用いられることもあるが、労働組合活動としての情宣文書という事柄の性質上、そうしたことも一定程度許容される余地がある。
 (2) 本件配布物は、一部事実と相違する内容及び表現を含み、それにより読み手に対し誤解を生じさせるおそれは否定し難いものであったといえるが、事実に相違する程度は格別に大きいとまではいえず、問題とされた内容及び表現は、発行元が自らの主張を交じえて誇張して表現したことにより生じたものと考えられ、その内容自体、殊更に事実を歪曲し、法人の名声を傷つけるものとまでみることはできない。加えて、本件配布物全体の趣旨や配布の目的は不当なものとはいえず、配布態様も従前の取扱いに則った平穏なものであって、法人の業務に具体的な支障が生じたとも認められないことをも併せ考えれば、本件配布物の配布は正当な組合活動の範疇に留まるものであると認められる。
 (3) 法人は、本件配布物の作成・配布への関与が、法人の教職員として不適切な行動であるから、これが組合活動であるか否かにかかわらず、本件譴責処分を行ったものである旨主張する。
 しかし、法人の訂正・謝罪要求に応じてX1ら3名の側が相応の合理性のある対応(訂正版の配布)をしていること、それにもかかわらず、その適否を検討されることなく排斥されていること等を総合的に勘案すれば、本件譴責処分は相当性を欠く処分であり、組合活動であるか否かに関わりなく処分したものと認めることはできない。
 (4) さらに、X1ら3名は、本件発生以前から組合の執行委員長や書記長の地位にあり、当事者間の先行事件等においても積極的に審査等に関与していることから、いずれも活発に組合活動を行っているものと認められ、これらの事情を併せ考えると、法人が本件配布物の配布を組合活動であると認識した上で、本件配布物の配布に関与したと法人が見なした同人らを本件譴責処分に処したことは明白であるから、X1ら3名に対する本件譴責処分は、同人らの組合活動を嫌悪し、その妨害を意図してなされたものと考えざるを得ないものであって、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。
 (5) 上記(4)のとおり、本件配布物の作成・配布に関与したことを理由としてX1ら3名に対して行われた本件譴責処分は、正当な組合活動を理由とする懲戒処分であり、かつ、法人が本件譴責処分に先立ち、組合の情宣活動に大幅な不利益をもたらす本件通知を行ったことを併せ考えれば、組合の情宣活動を牽制する意図でなされたものと推認できるから、労組法第7条第3号の支配介入にも該当する。 
掲載文献    

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
茨城県労委平成24年不第2号 一部救済 平成25年12月5日
東京地裁平成28年(行ウ)第544号 棄却 平成29年7月20日
東京高裁平成29年(行コ)第267号 棄却 平成29年12月21日
 
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