労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪高裁平成29年(行コ)第22号
テーエス運輸不当労働行為救済命令一部取消、不当労働行為救済申立棄却命令一部取消請求控訴事件(原審・神戸地裁平成27年(行ウ)第39号(原審A事件)、同第50号(原審B事件))
控訴人・控訴人県参加人(原審B事件原告・原審A事件参加人)  X1労働組合X2支部(「組合」) 
控訴人(原審B事件原告)  X3 
控訴人・控訴人県参加人(原審B事件原告・原審A事件参加人)  X4 
控訴人(原審B事件原告)  X5(組合、X3、X4と併せて「組合ら」) 
被控訴人・被控訴人県参加人(原審A事件原告・原審B事件参加人)  Y1株式会社(「会社」) 
被控訴人兼控訴人(原審A事件・原審B事件各被告)  兵庫県(処分行政庁・兵庫県労働委員会) 
判決年月日  平成29年10月31日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、①定年退職後、X3はタンクローリーの運転を行うエキスパート職である業務係としての再雇用を希望していたにもかかわらず、内勤サポーター職として再雇用され、これにより賃金額が著しく低下したこと、②尼崎営業所勤務のX4と四日市営業所勤務のX5に対し、倉敷営業所に配転を命じたこと、③配転命令を拒否したX4、X5を欠勤扱いとして夏季賞与を減額し、年次有給休暇付与日数を削減したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 兵庫県労委は、、X4配転命令とX4に対する夏季賞与の減額・年次有給休暇付与日数の削減は労組法7条1号(不利益取扱い)、3号(支配介入)の不当労働行為にあたるが、X3を内勤サポーター職として再雇用したこと、X5配転命令とX5に対する夏季賞与の減額・年次有給休暇付与日数の削減はいずれも不当労働行為にあたらないと判断して、会社に対し、X4の転勤命令から再転勤命令までの間の賃金相当額の支払、夏季賞与の追加支給、年次有給休暇の付与を命じ、その余の申立てを棄却した(「本件命令」)。
3 これを不服として、会社及び組合らは、神戸地裁に行政訴訟(それぞれA事件、B事件)を提起したが、同地裁は、会社の請求を認容し、本件命令のうち組合らの申立を認容した部分を取消すとともに、組合らの請求を棄却した。
4 これを不服として、組合ら及び県は、大阪高裁に控訴したところ、同高裁は、組合ら及び県の請求を認容し、原判決のうち、会社の請求を認容した部分を取消すとともに、本件命令中の組合らの申立ての一部について、申し立てを棄却した部分を取り消した。 
判決主文  1 被控訴人県の控訴に基づき、原判決主文第1項を取り消す。
2 被控訴人会社の請求を棄却する。
3 控訴人組合、控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X5の控訴に基づき、原判決主文第2項を次のとおり変更する。
 (1)処分行政庁が、兵庫県労委平成25年(不)第4号不当労働行為救済申立事件について、平成27年4月23日付けでした命令の主文4項のうち、原判決別紙「救済申立て」の1、5、6及び7項の申立てを棄却した部分を取り消す。
 (2)控訴人組合、控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X5のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担は、第1、2審を通じて次のとおりとする。
 (1)控訴人組合、控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X5に生じた費用はこれを10分し、その6を被控訴人会社の、その3を被控訴人県の、その余を控訴人組合、控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X5の各負担とする。
 (2)被控訴人会社に生じた費用はこれを10分し、その9を被控訴人会社の、その余を控訴人組合、控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X5の各負担とする。
 (3)被控訴人県に生じた費用はこれを10分し、その1を控訴人組合、控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X5の、その5を被控訴人会社の、その余を被控訴人県の各負担とする。 
判決の要旨  1 争点(1)(X3再雇用契約に関する不当労働行為の成否)について
(1)X3は、X3再雇用契約において、希望するタンクローリー運転を行うエキスパート職ではなく、内勤サポーター職として再雇用されたことにより、賃金額の著しい低下による経済的な不利益とともに、精神的な不利益を被り、会社から不利益取扱いを受けた。
(2)会社と組合との間では労使紛争が多発し、その中には、平成20年度年末一時金について、意図的に控訴人組合の組合員であることを理由に低い評価をして一時金の支給額を下げるという不当労働行為のほか、会社が不当労働行為意思をもって、X3及びX5に対する下車勤務命令を発したことは別件訴訟の確定判決で認定されている。これらの状況から、会社が控訴人組合の存在や同組合の組合員による組合活動を嫌悪していたことが推認されるところ、会社が、不当労働行為であるX3及びX5に対する下車勤務命令により下車勤務が継続する中、X3との間でX3再雇用契約を締結し、引き続きタンクローリー運転業務に勤務させなかったことは、不当労働行為意思に基づくものと推認することができる。
(3)会社はX3を内勤サポーター職として再雇用した理由として、①事故を起こしたこと、②誓約書を提出しないこと、③求償金を支払わないこと、④健康状態に不安があること、⑤出張指示に応じないこと、⑥特定作業資格証を喪失していたことを挙げている。
 しかしながら、理由②と③については、別件訴訟の確定判決で不当労働行為とされた下車勤務命令の理由と実質的に同一のものであり、理由⑤と⑥については、いずれもこれらを理由とする不利益取扱いはもとより許されないものである。また、理由①については、事故による会社の損害の多くが損害保険金で賄われており、事故に関しX3に重大な過失はなく、会社はX3に対し事故の再発防止策を講じた後、X3を再びタンクローリーに乗務させていることからすると、会社がこの事故をもって、X3をタンクローリー運転従事者としての適性がないと判断したとは認められず、かえってX3をタンクローリー運転業務に勤務させる方針であったというべきである。理由④については、会社はX3が提出した頸肩腕症候群の診断書を踏まえて、その治療の要否や乗車業務遂行上の支障の有無や程度等について、X3から事情を聴取したり改めて診断書の提出を求めたような事情はないことから、会社がX3をタンクローリー運転を行うエキスパート職として再雇用するか否かの判断に当たり、X3の健康状態を重視していたとは認められない。
(4)したがって、再雇用における労働条件について会社に合理的な範囲で裁量が認められることを考慮したとしても、会社が主張する上記各理由は、いずれも合理的なものとして不利益取扱いを正当化し、不当労働行為意思の推認を覆すに足るものとは認められないことから、X3再雇用契約は、労組法7条1号の不利益取扱いに該当し、正当な組合活動を萎縮させ組合の弱体化を図る行為であるから労組法7条3号(支配介入)にも該当する。

2 争点(2)(X4配転命令に関する不当労働行為の成否)について
(1)X4配転命令は、X4の就業場所を変更させるものであり、尼崎営業所と倉敷営業所との距離からして、通常転居等を伴うものであるから、不利益な取扱に該当する。
(2)上記1(2)のとおり、会社が控訴人組合の存在や同組合の組合員による組合活動を嫌悪していたことが推認される状況において、組合の書記長であるX4に対し、配転先の倉敷営業所から組合の主たる事務所がある尼崎営業所までの移動は2時間程度(往復4時間程度)かかり、会社との団体交渉等の出席に支障が生じることが予想されるとともに、書記長であるX4のそれまでの組合活動が制約され、組合の運営に打撃を与えることになるX4配転命令は、そのことを正当化するに足りる十分な必要性や合理性が認められない限り、会社における不当労働行為意思の存在が推認される。
(3)この点、会社が尼崎営業所に勤務する従業員を倉敷営業所に配転しなければならない十分な業務上の必要性や合理性は認められず、また会社の主張する尼崎営業所内での人選の合理性も認められないことから、会社は、X4が組合員であることの故をもってX4配転命令という不利益取扱いをしたものと認められる。そして、X4配転命令の不当労働行為意思が認められる以上、X4配転命令に応じないX4について欠勤扱いとして夏季賞与を減額し、年休付与日数を削減した行為についても組合員であることの故をもって行われたものであるから、会社のこれらの行為は、労組法7条1号の不利益取扱いに該当し、正当な組合活動を萎縮させ組合の弱体化を図る行為であることから労組法7条3号(支配介入)にも該当する。

3争点(3)(X5配転命令に関する不当労働行為の成否)について
(1)X5配転命令は、X5の就業場所を変更させるものであり、四日市営業所と倉敷営業所との距離からして、通常転居等を伴うものであるから、不利益な取扱に該当する。
(2)上記2(2)のとおり、会社が控訴人組合の存在や同組合の組合員による組合活動を嫌悪していたことが推認される状況において、会社が組合の四日市分会の書記次長であるX5に対し、X5配転命令を発することは、そのことを正当化するに足りる十分な配転命令の必要性や合理性が認められない限り、会社における不当労働行為意思の存在が推認され、X5が控訴人組合の組合員であることの故をもって不利益取扱いをしたものとされることは、X4の場合と変わらない。
(3)この点、会社が四日市営業所に勤務する従業員を倉敷営業所に配転しなければならない十分な業務上の必要性や合理性は認められず、また会社の主張する四日市営業所内での人選の合理性も認められないことから、会社は、X5が組合員であることの故をもってX5配転命令という不利益取扱いをしたものと認められる。そして、X5配転命令の不当労働行為意思が認められる以上、X5配転命令に応じないX5について欠勤扱いとして夏季賞与を減額し、年休付与日数を削減した行為についても組合員であることの故をもって行われたものであるから、会社のこれらの行為は、労組法7条1号の不利益取扱いに該当し、正当な組合活動を萎縮させ組合の弱体化を図る行為であるから労組法7条3号(支配介入)にも該当する。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成25年(不)第4号 一部救済 平成27年4月23日
神戸地裁平成27年(行ウ)第39号 一部取消 平成28年12月15日
最高裁平成30年(行ヒ)第105号 上告不受理 平成30年7月12日
 
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