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概要情報
事件番号・通称事件名  神戸地裁平成27年(行ウ)第39号
テーエス運輸不当労働行為救済命令一部取消請求事件(A事件)、第50号不当労働行為救済申立棄却命令一部取消請求事件(B事件) 
A事件原告兼B事件被告参加人  Y1株式会社(「会社」) 
B事件原告兼A事件被告参加人  A1労働組合X4支部(「組合」) 
B事件原告兼A事件被告参加人  X2 
B事件原告  X1、X3(組合、X2と併せて「組合ら」) 
A事件被告兼B事件被告  兵庫県(同代表者兼処分行政庁・兵庫県労働委員会) 
判決年月日  平成28年12月15日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、①定年退職後、X1はタンクローリーの運転を行うエキスパート職である業務係としての再雇用を希望していたにもかかわらず、内勤サポーター職として再雇用され、これにより賃金額が著しく低下したこと、②尼崎営業所勤務のX2と四日市営業所勤務のX3に対し、倉敷営業所に配転を命じたこと、③配転命令を拒否したX2、X3を欠勤扱いとして夏季賞与を減額し、年次有給休暇付与日数を削減したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 兵庫県労委は、、X2配転命令とX2に対する夏季賞与の減額・年次有給休暇付与日数の削減は労組法7条1号(不利益取扱い)、3号(支配介入)の不当労働行為にあたるが、X1を内勤サポーター職として再雇用したこと、X3配転命令とX3に対する夏季賞与の減額・年次有給休暇付与日数の削減はいずれも不当労働行為にあたらないと判断して、会社に対し、X2の転勤命令から再転勤命令までの間の賃金相当額の支払、夏季賞与の追加支給、年次有給休暇の付与を命じ、その余の申立てを棄却した(「本件命令」)。
3 これを不服として、会社及び組合らは、神戸地裁に行政訴訟(それぞれA事件、B事件)を提起したが、同地裁は、会社の請求を認容し、本件命令のうち組合らの申立を認容した部分を取消すとともに、組合らの請求を棄却した。  
判決主文  1 処分行政庁が兵庫県労働委員会平成25年(不)第4号不当労働行為救済申立事件について平成27年4月23日付けでした命令の主文第1項から第3項までを取り消す。
2 原告組合、原告X1、原告X2、原告X3の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用の負担は、参加によって生じた費用を含め、両事件を通じて次のとおりとする。
 (1) 会社に生じた費用は、原告組合、原告X2が50%、被告が50%
 (2) 原告組合、原告X1、原告X2、原告X3に生じた費用は、同原告らが100%
 (3) 被告に生じた費用は、原告組合、原告X1、原告X2、原告X3が65%、被告が35%  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(X1再雇用契約に関する不当労働行為の成否)について
 (1) 労組法7条1号(不利益取扱い)にあたるか
 ア 不利益な取扱いにあたるか
 会社において再雇用時の業務内容は定年退職時の職種を基本とすることとされており、X1も定年退職まで従事していた業務係としての再雇用を希望していた。しかし会社が提案した業務内容は内勤サポーター職であり、業務係との業務内容の違いにより、再雇用によりX1の給与は定年退職前の15%程度となった。X1は希望する業務内容で再雇用されなかったことによる精神的な不利益に加え、給与の減少による経済的な不利益を被った。
 イ 不当労働行為意思に基づくものか
 (ア)会社は、X1を内勤サポーター職として再雇用した理由として、①X1事故を起こしたこと、②誓約書の提出に応じないこと、③求償金の支払いに応じないこと、④健康状態に不安があること、⑤出張指示に応じないこと、⑥親会社発行の特定作業資格証を喪失していたことを挙げるため、これらの事情により上記の不利益な取扱いが正当化され、不当労働行為意思が否定されるか、以下検討を加える。
 (イ) ②について、従業員に誓約書の提出を義務づける根拠となる規定は就業規則には存在しない。誓約書には就業規則に明記されていない服務規律遵守が含まれており、文言上も「会社、荷主、顧客先が定める諸規則のとおりに行います」「その他会社の安全推進上の施策や指示は誠実に行います」といった包括的、一般的な表現が使用されている。このような誓約書を提出させれば、従業員に就業規則の定めを超える義務を課すことになり、運用によっては労働契約の変更につながりかねない。加えて、X1はX1事故を起こした後、?末書を提出して事故の再発防止を誓約しているのであるから、安全推進上の施策という理由により重ねて誓約書を提出させる必要性も合理性もない。したがって会社はX1に対し誓約書の任意の提出を求めることはできるとしても、その提出を義務づけることはできない。
 ③について、X1はX1事故に際し、前方車両であるトラックの荷台からはみ出して電柱が積載されていることは認識していたが、どの程度はみ出しているかを認識できず、電柱と衝突するに至ったと認められる。積載された電柱の見やすい箇所には赤色の布がつけられていたのであるから、はみ出し部分の長さを認識できなかったことには過失がある、しかしX1事故が.発生した直接のきっかけは左折中に前方車両が停止したことにあり、そのような可能性自体を認識すべきであったとしても、結果の予見がきわめて容易であったとか、著しい注意義務違反により結果の予見や回避をしなかったとまではいうことができず、X1に重大な過失があるとは認められない。したがって会社はX1に対し就業規則9条に基づき求償金を請求することはできないというべきである。
 ⑤について、X1が会社の出張指示に応じなかったのは、再雇用は団体交渉事項であるという組合の方針に従ったからである。このような正当な組合活動を理由として不利益な取扱いをすることは許されない。
 ⑥について、X1が特定作業資格証を喪失したのは、会社が下車勤務を命じてこれを取得させなかったためと認められるから、下車勤務命令が上記のとおり不当労働行為にあたる以上、このことを理由に不利益な取扱いをすることは許されない。
 他方①について、X1事故によりローリーが大破し、その修理代が155万4000円であるとの見積りがされたことを考慮すると、X1に重大な過失がないとしても、X1事故自体は重大な事故といわざるをえない。運送業を営む会社にとって業務上の事故の発生は最も避けるべきことといえるから、過失により重大な事故を起こした者は業務係として再雇用しないという経営判断か不合理であるとはいいがたい。
 ④について、X1は再雇用のエントリーシートを提出するわずか3週間前に、頸肩腕症候群のため7日間の自宅加療を要するとの診断書を会社に提出しており、継続治療の要否、業務を行うにあたっての支障の有無や程度、治癒の見込みなどの詳細は不明であった。業務係は大型車両であるローリーに乗車して危険物である液化ガスを運搬し、ガスタンクに注入する業務に従事するのであり、業務に伴う危険の程度は他の職種と比較して高く、肉体的にも精神的にも負担が重い。業務係の再雇用における契約期間が他の職種よりも短く設定されていることも、業務係としての適性を頻繁に判断する必要があるためと理解できる。このような事情を考慮すれば、頸肩腕症候群に罹患しており、危険性が高く心身の負担が重い業務に耐えられるか不安のあるX1を、業務係ではなく内勤サポーター職として再雇用するという判断が、経営判断として不合理であるとはいいがたい。
 再雇用における労働条件に関して会社に合理的な範囲での裁量が認められることを前提にすると、①・④の事情は大きな考慮要素となり、以上の事情を総合的に考慮すれば、X1を業務係としてではなく内勤サポーター職として再雇用したことは相応の理由に基づくものであったというべきである。X1が組合の組合員であったが故にこのような取扱いがされたとは認められないから、不当労働行為意思の存在を認めることはできない。
 (2) 労組法7条3号(支配介入)にあたるか
 X1が業務係として再雇用されなかった理由は上記のとおりであり、これが組合の組合員としての立場に着目してされたものであるとは認められない。したがって組合の運営に対する干渉行為であるとか、組合を弱体化させる行為であると評価することはできず、労組法7条3号の支配介入にあたらない。
 3 争点(2)(X2配転命令に関する不当労働行為の成否)・(3)(X3配転命令に関する不当労働行為の成否)に共通する事実の認定
              (略)
 4 争点(2)(X2配転命令に関する不当労働行為の成否)について
 (1) X2配転命令について
 ア 労組法7条1号の不利益取扱いにあたるか
 X2配転命令は就業場所を変更させるもので、尼崎営業所と倉敷営業所の間の距離からして通常転居を伴うものといえるから、不利益な取扱いにあたる。
 そこで以下、会社の不当労働行為意思が認められるかについて検討する。
 (ア) 配転の必要性
 会社は親会社から、中四国地区の配送業務量の増大に伴い、倉敷営業所の乗務員のマンパワーを維持強化するよう要請されており、親会社との運送委託業務契約に基づきこの要請にただちに対処する必要があった。
 組合ら(この争点に関しては、組合とX2のことを「組合ら」という)は、①再雇用されて倉敷営業所に勤務しているX1を業務係にすれば人員不足は解消される、②会社はX2らに対し再配転命令を発した後も倉敷営業所に人員を配置していないなどとして、業務上の必要性はなかったと主張する。しかし①については、前記のとおりX1を業務係として再雇用しなかった会社の判断が不合理であるとは認められないから、組合らの主張は前提を欠く。②については、親会社は他の運送会社への配送依頼を行うことによって倉敷営業所の人員不足に対処したのであるから、業務上の必要性を否定する事情にはならない。
 したがって倉敷営業所への配転には業務上の必要性があったと認められる。
 (イ)人選の合理性
 平成24年の従業員1人あたりの月平均総労働時間は、倉敷営業所と新居浜営業所がいずれも250時間以上であるのに対し、尼崎営業所と四日市営業所は230時間以下であった。また倉敷営業所と新居浜営業所のマンパワー値の最大値は尼崎営業所と四日市営業所の最小値とおおむね同程度となっていた。このような営業所間での人員体制の不均衡は、遅くとも平成22年以降続いており、一時的な現象ではない。そうすると、倉敷営業所と新居浜営業所に適正数の人員を配置するために、尼崎営業所と四日市営業所から人員を配転するという会社の判断には合理性がある。特に、尼崎営業所のマンパワー値は、平成23年11月~平成24年8月の間、継続して国土交通省の定める指針の値である1.2を超えており、この間平成24年1月を除きマンパワー値が1を超えたことのない倉敷営業所よりも明らかに人員体制に余裕があったといえる。そうすると、上記(ア)の業務上の必要性に応じて、尼崎営業所に勤務する者を倉數営業所に配転することには合理性がある。
 そして独身者か既婚者か、同居の扶養親族がいるかといった基準に基づいて人選を行い、X2を選定したのであるから、この人選は不合理とはいえない。
 組合らは、長期出張に協力する対価として平成24年年末一時金において4万円の支給を受けているC2労連の組合員から対象者を選出すべきであったと主張する。しかし会社はX2が配転される日に先立つ日付けでC2労連の組合員2名に対し配転命令を発しており、まずはC2労連の組合員に対し長期出張への協力を求めていた。他方、組合も会社との間で組合員には配転がありうるという内容の労働協約を締結しており、組合の組合員らも配転命令に応じる義務を負っている。これらの事情に照らせば、組合らの主張を採用することはできない。
 (ウ) X2に生じる不利益
 X2は配転を命じられた当時、組合の書記長であって組合活動の中心的人物であり、会社との紛争に関して会議等を頻繁に行い、裁判の期日に神戸地裁に出頭するなどしていた。しかも組合の主たる事務所はX2の勤務する尼崎営業所内に設けられていたから、X2が倉敷営業所に配転されることにより組合活動に影響が出ることは否定できない。しかし尼崎営業所と倉敷営業所との距離は鉄道で約2時間程度のものであり、倉敷営業所と神戸地裁との距離も同程度であるから、組合活動を行うことが困難になるとまではいえない。
 生活上の不利益については、X2は会社が実施した転勤に関するアンケ-トに回答しておらず、父親の病気等の事情を会社に伝えたのは配転を命じられた後であるから、これを考慮しなかったことにより会社の不当な動機・目的が導かれるものではない。
 イ 労組法7条3号の支配介入にあたるか
 上記のとおり、X2配転命令は業務上の必要性に基づく合理的な判断によりされたものであり、組合の運営に対する干渉行為であるとか、組合を弱体化させる行為であると評価することはできない。したがって労組法7条3号の支配介入にあたらない。
 (2) 夏季賞与減額と年次有給休暇付与日数削減について
 平成25年夏季賞与については、会社と組合の間で平成25年7月16日に締結された労働協約により欠勤1日につき支給総額の130分の1を支給総額より減じることが合意されており、X2の平成25年夏季賞与を減額した措置はこの労働協約に従ったものである。
 年次有給休暇については、就業規則39条2項によれば、出勤率が80%に満たない従業員に対しては、診断書提出の私傷病の場合を除きまったく付与されないが、会社は同項を準用して、平成26年の年次有給休暇8日を付与するという取扱いをしたのであると解される。
 以上のとおり、X2配転命令が不当労働行為にあたらないことを前提にすると、会社の上記措置はいずれも正当であり、これが不当労働行為にあたることはない。
 5 争点(3)(X3配転命令に関する不当労働行為の成否)について
 (1) X3配転命令について
 ア 労組法7条1号の不利益取扱いにあたるか
 X3配転命令は就業場所を変更させるもので、四日市営業所と倉敷営業所の間の距離からして転居を伴うものであるから、不利益な取扱いにあたる。
 一方、この配転命令の業務上の必要性、人選の合理性については、X2配転命令について検討したところと同じである。
 X3に生じる不利益については、平成24年当時、組合の組合員の多くは支部あるいは分会において何らかの役職に就いていたのであり、四日市分会の書記次長であるX3が組合活動において特に重要な役割を担っていたとは認められない。生活上の不利益については、X3は会社が実施した転勤に関するアンケートに回答しておらず、妻との同居予定等の事情を会社に伝えたのは配転を命じられた後であるから、これを考慮しなかったことにより会社の不当な動機・目的が導かれるものではない。
 以上によれば、X3配転命令は業務上の必要性に基づき合理的な判断によりされたものと認められ、不当労働行為意思に基づくものとは認められないから、労組法7条1号の不利益取扱いにあたらない。
 イ 労組法7条3号の支配介入にあたるか
 上記のとおり、X3配転命令は業務上の必要性に基づき合理的な判断によりされたものであり、組合の運営に対する干渉行為であるとか、組合を弱体化させる行為であると評価することはできない。したがって労組法7条3号の支配介入にあたらない。
 (2) 夏季賞与減額と年次有給休暇付与日数削減について
 X2について述べたところと同様であり、平成25年夏季賞与の減額、平成26年年次有給休暇付与日数の削減のいずれも、不利益取扱いにも支配介入にもあたらない。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成25年(不)第4号 一部救済 平成27年4月23日
大阪高裁平成29年(行コ)第22号 一部取消 平成29年10月31日
最高裁平成30年(行ヒ)第105号 上告不受理 平成30年7月12日
 
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