労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成28年(行コ)第403号
全日本手をつなぐ育成会不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  社会福祉法人X(「法人」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会(「中労委」)) 
被告補助参加人  ユニオンZ(「組合」) 
判決年月日  平成29年4月26日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、① 組合員A1の事務局長解任等を議題とする団体交渉における法人の対応、② 法人が労働協約たる団体交渉議事録の破棄を通告したこと、③ 法人が組合員A3に対して雇止めを通告等したこと、④ 法人が組合員A2に対し労働委員会への出頭を理由とする賃金控除を行ったこと、及び⑤ 法人がA2に対して組合関係者ともに法人事務所へ無断で立ち入りしたなどとしてけん責処分を行ったことがそれぞれ労組法所定の不当労働行為に該当すると主張して、救済を申し立てた事案である。
2 初審東京都労委は、組合主張の事実のうち、前記1①の一部(第8回団体交渉までの法人の対応及び第21回団体交渉後の法人の対応)、④及び⑤について不当労働行為の成立を認めて文書掲示・交付及び履行報告を命じたところ、組合が、同①については救済内容が、同③についてはそもそも不当労働行為の成立を認めなかったことがそれぞれ不服であるとして、再審査を申し立てた。
3 中労委は、法人の対応に対する救済方法を追加し、組合から組合員の労働条件に関する団体交渉の申し入れがあった場合には、誠実に対応しなければならないと命じ、その余の再審査申立てを棄却した(「本件命令」。うち追加した主文第1項を「本件対応命令」)。
4 法人は、本件対応命令部分の取消しを求め、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は法人の請求を棄却した。
5 法人は、原判決を取り消しを求め、東京高裁に控訴したが、同高裁は法人の請求を棄却した。 
判決主文  本件控訴を棄却する。
控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も、控訴人の請求には理由がないと判断する。その理由は、次のとおり補正し、2のとおりに控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2(1)ア 控訴人は、当審において、本件対応命令は抽象的で、刑事罰を伴う行為規範であることを考えれば、本件命令の理由と合わせて読んでも禁止行為の対象が判然としておらず、違法である旨改めて主張する。しかし、原判決30頁の2記載のとおり、本件命令において認定されている不当労働行為の内容、控訴人に対する懸念の内容、及び、本件対応命令を発令する趣旨を考慮すれば、本件対応命令の具体的な内容は原判決32頁のウ記載のとおりと理解することができるから、上記控訴人の主張を採用することはできない。控訴人は、本件対応命令の内容を理解するに当たり、本件命令中の「救済方法について」のみを判断材料とすべきかの主張もするが、「労組法第7条第2号の成否」をも参酌することが許されないとする理由はなく、むしろ、控訴人が行った過去の不当労働行為の内容に係る当該項目も当然に参酌されるべきである。
 イ 控訴人は、また、補助参加人や被控訴人も、本件対応命令の内容を別異に解しているとも主張するが、控訴人指摘の平成28年4月28日付け補助参加人準備書面(1)の4頁の記載は本件対応命令の内容について補助参加人が理解しているところを過不足なく表現した文脈であるなどとは到底いえない箇所であるから、これをもって補助参加人が理解した本件対応命令の内容であるなどとは解し得ないし、控訴人指摘の被控訴人の答弁書の3ないし4頁の記載も、訴状(7頁)の記載から、本件対応命令について控訴人は団体交渉に必ず応諾しなければならない義務を定めたものであると理解しているとの前提で、これに反論し、「応諾」ではなく、誠実な「対応」を求めているにすぎず、これは労組法第7条第2号の範疇を超えるものではないと反論しているにすぎない(その意味で、議題の特定性についても論じる必要がない)箇所であって、これをもって、被控訴人の本件対応命令の内容についての主張が変遷しているなどということはできない。
 ウ さらに、控訴人は、本件においては、本件対応命令のように抽象的な作為命令とするだけの根拠(具体的に特定することが技術的に困難であるとか、抽象的にしなければ使用者の脱法手段を招くおそれがあるなど)を欠くとも主張するが、上記のとおり、原判決32頁のウ記載のとおりに本件対応命令の内容を理解することは可能である上に、原判決59頁のウ記載のとおり、控訴人には将来の団体交渉において不誠実な対応に及ぶ懸念があり、救済内容として上記の程度の内容とする必要性、合理性が認められるというべきである。
 (2) 控訴人は、また、①第20回及び第21回団交での補助参加人による発言妨害行為は執拗なものであり、その謝罪、反省、再発防止誓約がなかったから、以後の団体交渉を開催しないことには合理的な理由があった、②控訴人が限定した団体交渉の議題も、補助参加人が喫緊的課題として提示したものを挙げたものであり、限定したとの評価は不当である、③これは第8回団交までとは関連性のない異種、異質な対応である(第8回団交までは、交渉出席者ないし発言者及び交渉手続を巡る応酬や、その応酬を捉えて団体交渉を拒否したものではない)、④第8回団交までは、本件解任や本件報告書という特定の議題との関係での控訴人の不当労働行為が問題とされたものであり、特定の議題を離れて開催条件を付して団体交渉が開催されなくなったのは第21回団交後にすぎないから、関連性を欠く、⑤第9回団交から第19回団交までは問題なく開催されていたなどとして、控訴人が将来、第8回団交までと同様の対応に及ぶ懸念はないとも主張する。しかし、①及び②については、原判決64頁の(5)記載のとおり、議題を限定したとの評価を受けることは当然である上に、補助参加人の対応も妥当なものとはいえないとしても、団体交渉の開催に条件を付して第21回団交以後一切団体交渉を開催していないという控訴人の対応は行き過ぎであるといわざるを得ず、③及び④については、原判決61頁の(3)記載のとおり、内容面及び手続面での共通性を見出すことができるのであって、控訴人の第21回団交以後の対応をも斟酌した上で、第8回団交までの不当労働行為に対する救済方法として中労委が本件対応命令を発したとしても、裁量権の逸脱又は濫用に当たるということはできず、このことは⑤に係る事情を考慮したとしても何ら変わりはないのであって、控訴人の上記主張を採用することはできないものといわざるを得ない。
3 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成19年不第95号、21年不21号、22年不71号、23年不63号 一部救済 平成26年1月21日
中労委平成26年(不再)第17号 一部変更 平成27年9月16日
東京地裁平成27年(行ウ)第668号 棄却 平成28年10月26日
最高裁平成29年(行ツ)第265号・平成29年(行ヒ)第307号 上告棄却・上告不受理 平成29年10月17日
 
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