労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪高裁平成28年(行コ)第180号
泉佐野市不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人・被控訴人(一審原告)  泉佐野市(「市」) 
控訴人・被控訴人(一審被告)  大阪府(同代表者兼処分行政庁・大阪府労働委員会) 
控訴人(一審被告補助参加人)  Z1職員労働組合(「Z1職労」)  
控訴人(一審被告補助参加人)  Z1職員労働組合Z2支部(「Z2支部」、Z1職労と併せて「組合ら」)  
判決年月日  平成28年12月22日 
判決区分  一部取消  
重要度   
事件概要  1 地方公共団体である市は、その職員により組織される労働団体であるZ1職労の組合費について無償で行っていたチェック・オフを有償とすることとして、そのための事務手数料徴収契約に応じなかったZ1職労との間でチェック・オフを中止し、チェック・オフに関する団体交渉の申入れにも応じなかったところ、大阪府労委は、市の上記行為が不当労働行為に該当する旨の組合らの申立てに基づき、チェック・オフの再開等を命じる救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発した。
2 これを不服として、市が、大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件救済命令のうち、地方公務員法が適用される組合員に係る部分を取り消し、その余の請求を棄却した。
3  市は市敗訴部分を不服として、大阪府労委及び組合らは一審被告敗訴部分を不服として、それぞれ大阪高裁に控訴したところ、同高裁は、本件救済命令が振替手数料相当額の支払を命じたことは、労働委員会の裁量権の範囲をこえるもので違法であるとして原判決を変更し、その余の市の請求を棄却するとともに、大阪府労委及び組合らの控訴を棄却した。 
判決主文  1 一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 処分行政庁が、太阪府労働委員会平成26年(不)第10号及び同第43号併合事件について平成27年7月28日付けで発した命令の主文第1項、第3項及び第4項のうち、地方公務員法が適用される組合員に係る部分を取り消す。
3 前項の命令の主文第2項を取り消す。
4 一審原告のその余の請求を棄却する。
5 一審被告及び参加人らの各控訴をいずれも棄却する。
6 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、これを5分し、その2 を一審原告の負担とし、その余を一審被告及び参加人らの連帯負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、市の請求は、原判決と同様に本件救済命令の主文第1項から第4項のうち、地公法適用組合員に係る部分の取消しを求めることには理由があり、加えて、同第2項のうち、労組法適用組合員に係る部分の取消しを求めることにも理由があるが、その余は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり補正し、次項に当審における市、大府労委及び組合らの各主張に対する判断を補足するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第5 当裁判所の判断」の1項から4項まで(原判決15頁25行目から30頁25行目まで)のとおりであるからこれを引用する。
2 当審における市、大阪府労委及び組合らの各主張に対する判断を補足する。
  (市の主張について)
(1) 市は、Z1職労は質量ともに労組法非適用職員が主体であるから労組法上の労働組合の法的性格は有しないとして、労組法7条2号、3号については不当労働行為救済申立ての申立人適格を有しない旨主張する。
  しかし、混合組合については、労組法非適用職員と労組法適用職員のどちらが主体であるかにかかわらず、労組法適用職員に関する事項については申立人適格を有するが、労組法非適用職員に関する事項については申立人資格を有しないと解するのが相当であることは原判決を補正の上引用して説示したとおりである。したがって、市の主張は採用することはできない。
(2) 市は、本件チェック・オフの中止は、財政健全化という合理的な理由がある上、組合らに対する不利益の回避措置を講じ、事前に説明もしており、組合らを弱体化させる意図はなく、不当労働行為(支配介入)には該当しない旨主張する。
  しかし、本件チェック・オフの中止に財政健全化という合理的な理由があるとは認められないこと、本件チェック・オフの中止を行うに当たって組合らに対する配慮が十分でないこと、市長の組合らに対する対応(これまでの組合らからの団体交渉の申入れに対する拒絶を含む。)からすれば、本件チェック・オフの中止は組合らを弱体化させる意図によるものであり、不当労働行為(支配介入)に該当することは原判決を補正の上引用して説示したとおりである。したがって、市の主張は採用することができない。
(3) 市は、チェック・オフをするかしないかは地公労法7条ただし書の管理運営事項であるから団体交渉の対象にすることはできず、本件団体交渉拒絶には正当な理由がある旨主張する。
  しかし、 チェック・オフをするかしないかは管理運営事項ではない上、長年にわたって行われていたチェック・オフを廃止等することは労使関係の運営に関する事項であり、労働組合に対して一定の影響があることからすれば、団体交渉の対象とするのが相当であり、市の本件団体交渉拒絶に正当な理由があるとはいえないことは、原判決を補正の上引用して説示したとおりである。したがって、市の主張は採用することができない。
(4) 市は、本件救済命令が振替手数料相当額の支払を命じたことは、労働委員会の裁量権を逸脱し、違法である旨主張する。
  この点については、振替手数料相当額の支払を命じることは、不当労働行為がなかったのと同じ事実状態を回復させることを越えて、これによる損害の賠償を命じるものであり、このような救済命令を発することは労働委員会の裁量権の範囲を越えるものであり違法である。したがって、市の主張は採用することができ、この点についての原審の判断は相当でないからこれを変更することとする。
  (大阪府労委の主張について)
(1) 大阪府労委は、原判決は、不当労働行為救済申立ての申立人適格の問題と救済内容の問題を混同し、チェック・オフが労働組合に対する便宜供与であることを看過している旨主張する。
  しかし、混合組合が不当労働行為救済申立ての申立人適格があるのは、労組法適用組合員に関する事項についてであり、その救済命令の内容はその事項の限度にとどまるべきものであり、この理は、チェック・オフが労働組合に対する便宜供与であったとしても、個々の組合員に関する事項であるから変わりがないのは次項で説示するとおりである。
(2) 大阪府労委は、本件の不当労働行為は、労働組合に対する便宜供与の中止という労働組合の運営に対する支配介入とそれについての団体交渉拒絶であり、救済命令の内容は、労組法適用職員の団結権の侵害ひいては労働組合の活動への侵害の回復であるところ、市は、チェック・オフもその中止も地公法適用職員と労組法適用職員を区分することなく行っており、本件の不当労働行為はZ1職労の組合員全員に不可分一体に影響を及ぼすことからすれば、本件救済命令の内容を地公法適用組合員に係る部分と労組法適用職員に係る部分に区分することは不可能であり、労組法適用職員についてしかチェック・オフの再開等の救済を命じることができないとすれば、労組法適用職員の団結権の侵害ひいては労働組合の活動への侵害の回復はほとんどなされないことになる旨主張する。
  しかし、混合組合が不当労働行為救済申立ての申立人適格があるのは労組法適用職員に関する事項であるから、救済命令もその事項の限度で発することができるのであり、労組法が適用されない地公法適用職員に関する事項について救済命令を発することはできなし、本件の場合、これまで地公法適用職員と労組法適用職員を区分せずにチェック・オフが行われており、本件チェック・オフの中止も同様であるけれども、チェック・オフをするには個々の組合員の承諾が必要であって、法律的には使用者と個々の組合員との間の個別の法律関係(委任ないし準委任)が集積したものと観念できることや、賃金からの組合費相当額の天引き、労働組合への交付という事実行為は個々の組合員ごとに行われることからすれば、組合員によって適用される法規が異なる場合にはそれぞれの法規の定める救済制度によって救済されるのであり、本件救済命令の内容を労組法適用組合員に関する事項に限定するのが相当であることは、原判決を補正の上引用して説示したとおりである。したがって、大阪府労委の主張は採用することができない。
(3) そのほかの大阪府労委の主張も本件の結論を左右するものではなく、採用することができない。
  (組合らの主張について)
(1) 組合らは、市のチェック・オフは地公法適用職員と労組法適用職員を区別することなく、一つの団結体たる労働組合(混合組合)であるZ1職労に対する便宜供与として行われてきたものであり、本件チェック・オフの中止も地公法適用職員と労組法適用職員を区別することなく、一つの団結体たる参加人Z1職労に対してなされたものであるから、労働委員会は、地公法適用職員と労組法適用職員を区分することなく、一つの団結体たる参加人Z1職労が受けた影響全体を排除、回復させる救済命令を発することができるものであり、本件救済命令のうち、地公法適用職員に係る部分を違法として取り消した原判決の判断は誤っている旨主張する。
  しかし、この点については、大阪府労委の主張について上記(2)で説示したとおりであり、不当労働行為救済申立ては、労組法適用職員に関する事項に限られるところ、チェック・オフをするかどうかは個々の組合員(職員)ごとの問題であり、本件チェック・オフの中止が不当労働行為に該当するとしても、労働委員会において、労組法の適用を排除された地公法適用職員についてチェック・オフの再開を命じる旨の救済命令を発することはできない。したがって、組合らの主張はいずれも採用することができない。
(2) 組合らは、組合らが申し入れた団体交渉は、一つの団結体たる労働組合である組合らとの団体的労使関係の運営に関する事項であり、これを地公法適用職員に関する部分と労組法適用職員に関する部分に区分することはできないから、労働委員会は、市の交渉拒絶の態度自体を改めさせる命令を発する権限を有しており、本件救済命令のうち、団体交渉拒絶に関する部分についても、地公法適用職員に係る部分を違法として取り消した原判決の判断は誤っている旨主張する。
  しかし、この点についても、地公法適用職員に関する事項についての団体交渉の拒絶は、地公法適用職員に関する事項であり、これについて、不当労働行為救済申立てをすることはできないから、本件団体交渉のうち、地公法適用職員に関するものについては、不当労働行為救済申立ての対象にならないのは、上記(1) と同様である。したがって、組合らの主張は採用することができない。
(3) そのほかの組合らの主張も本件の結論を左右するものではなく、採用することができない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成26年(不)第10号・第43号 一部救済 平成27年7月28日
大阪地裁平成27年(行ク)第309号 緊急命令申立ての却下 平成28年3月29日
大阪地裁平成27年(行ウ)第282号 一部取消 平成28年5月18日
 
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