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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁平成27年(行ウ)第282号
泉佐野市不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  泉佐野市(「市」) 
被告  大阪府(同代表者兼処分行政庁・大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  Z1職員労働組合(「Z1職労」) 
被告補助参加人  Z1職員労働組合Z2支部(「Z2支部」、Z1職労と併せて「組合ら」) 
判決年月日  平成28年5月18日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 地方公共団体である市は、その職員により組織される労働団体であるZ1職労の組合費について無償で行っていたチェック・オフを有償とすることとして、そのための事務手数料徴収契約に応じなかったZ1職労との間でチェック・オフを中止し、チェック・オフに関する団体交渉の申入れにも応じなかったところ、大阪府労委は、市の上記行為が不当労働行為に該当する旨の組合らの申立てに基づき、チェック・オフの再開等を命じる救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発した。
2 これを不服として、市が、大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件救済命令のうち、地方公務員法が適用される組合員に係る部分を取り消し、その余の請求を棄却した。  
判決主文  1 処分行政庁が、大阪府労働委員会平成26年(不)第10号及び同第43号併合事件について平成27年7月28日付けで発した命令の主文第1項ないし第4項のうち、地方公務員法が適用される組合員に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、これを20分し、その3を原告の負担とし、その余を被告及び参加人らの連帯負担とする。  
判決の要旨  第5 当裁判所の判断
1 争点1(本件救済命令申立てにおけるZ1職労の申立人適格の有無)及び争点4(不当労働行為に対する救済として、労組法が適用されない職員についてもチェック・オフ及び振替手数料相当額の支払を命じることができるか否か)について
(1) 市は、Z1職労が地公法適用職員の方が大多数を占める混合組合であること等を理由として、労組法が規定する不当労働行為救済命令申立てにおける申立人適格がない旨主張する。
  確かに、Z1職労は、地公法適用職員と労組法適用職員の両方により組織される混合組合であること、その組合員は地公法適用職員の方が労組法適用職員よりも多いこと、以上の点が認められる。しかしながら、混合組合については、構成される組合員に対して適用される法律の区別に従い、地公法上の職員団体及び労組法上の労働組合としての複合的な法的性格を有すると解するのが相当であり、地公法適用組合員と労組法適用組合員とのいずれが主たる地位を占めているかにかかわらず、労組法適用組合員に関する事項については、労組法上の労働組合に該当すると解するのが相当である。そうすると、その限りにおいて、Z1職労については、労組法2条の規定する「労働組合」に該当し、労組法7条各号に該当することを理由とする不当労働行為救済の申立てができるというべきである。
(2) もっとも、地公法58条は、一般職の地方公務員が従事する職務の特殊性から、その労働基本権を一定の範囲で制限し、労組法の適用を排除しているところ、上記(1)のとおり、混合組合が労組法2条にいう労働組合に該当すると解されるのは、現行法上混合組合の存在が否定されていない中、労組法適用職員がこれに加入した場合に、労組法上の不当労働行為制度による救済が否定されることが不合理であることから、労組法が適用される職員に関する事項についての救済を求める限りにおいて、労組法上の労働組合該当性を認めるべきであるとの趣旨に基づくものであると解される。そうすると、本来労組法の適用のない地公法適用職員に関する事項については、かかる趣旨は妥当しないから、混合組合は、地公法適用職員の組織する労働団体としての性格ないし資格においては、労組法上の労働組合に該当するということはできず、地公法適用職員に関する事項については、労組法上の権利行使(不当労働行為の救済を求めること)もできないといわざるを得ない。
(3)ア 組合らは、①チェック・オフは非現業職員に限った活動ではない、②市が、労組法・地公法の適用の別を問わず、チェック・オフを行ってきたことを根拠に、労組法適用職員に対するチェック・オフと地公法適用職員に対するチェック・オフとは不可分であると主張する。
  しかしながら、上記(1)(2)のとおり、混合組合であるZ1職労が労組法上の不当労働行為制度による救済を求めることができるのは、労組法適用職員が組織する労働組合たる性格ないし資格においてする場合に限られるところ、チェック・オフは、市が職員ごとに個別にその給料から組合費を天引きするものであり、最終的にはこれをまとめてZ1職労に交付するものであるとしても、組合員(職員)ごとに行うか行わないかを決することができるものであるから、組合員(職員)ごとに可分であることは否定することができず、この点は、従前市が労組法・地公法の適用の別を問わずにチェック・オフを行ってきていたとしても変わりはない。そうすると、地公法適用職員のチェック・オフに関する救済について、Z1職労は、同職員が組織する労働団体としての性格しか有しないから、これについて労組法上の不当労働行為制度による救済を求めることはできないものといわざるを得ない。したがって、参加人らの上記各主張はいずれも採用することができない。
イ 組合らは、現に市が地公法適用職員に対しても不当労働行為を行っている以上、不当労働行為制度の趣旨を貫徹すべく救済をすることが求められていると主張する。しかしながら、上記(2)で説示したとおり、一般職の地方公務員については、その職務の特殊性から、明文をもって労組法の適用が排除されているのであるから、参加人らの主張するような事態が発生したからといって、地公法適用職員に労組法の適用を肯定することはできないというべきである。したがって、組合らの上記主張は採用することができない。
ウ なお、大阪府は、本件が、Z1職労の構成員個人についての問題ではなく、一つの集合体としてのZ1職労に対する便宜供与の問題である旨主張するが、上記した地方公務員法の規定や混合組合に労組法上の権利行使が認められる趣旨等に照らすと、同事情をもって、上記認定判断を覆すには足りない。
(4) 小括
  以上によれば、本件救済命令のうち、大阪府労委が、労組法適用職員たる組合員について参加人らに申立人適格を認めた点は相当であるが、地公法適用職員たる組合員について労組法上の権利行使(不当労働行為救済申立て)を認めた部分については、違法であるというべきであるから、同部分については、取消しを免れない。
2 争点2(本件チェック・オフの中止が労組法7条3号(支配介入)に該当するか否か)について
(2) 検討
ア(ア) ①市は、平成20年度決算において財政健全化団体となったが、平成22年2月に財政健全化計画を策定した後は、比較的迅速に収支を改善し、同年12月には当初の計画を大幅に短縮して収支を黒字化する目途が立っていたところ、平成25年秋頃には財政健全化団体脱却の見通しがついており、現に同年度決算をもって財政健全化団体を脱却したこと、②本件組合費集金契約により市の得る歳入は年間約34ないし35万円であること、以上の事実が認められる。これらによれば、市の収支の改善という観点からは、本件組合費集金契約により参加人ら労働組合から手数料を徴収する必要性は乏しく、Z1職労に対するチェック・オフについての事務手数料徴収が市の財政の健全化に貢献する度合いは小さいと認められる。
  他方、チェック・オフは、労働組合にとってその活動の財政的基盤を形作るものであるところ、前提事実及び認定事実によれば、③市は、昭和49年頃以降、参加人ら労働組合のために無償でチェック・オフを行ってきたこと、④本件チェック・オフの中止により、Z1職労は、それまで経験したことのなかった組合費の徴収事務を余儀なくされ、これに相当の時間と労力を割かなければならなくなった上、徴収漏れや振替手数料支払による財政的な負担も生じていること、以上の事実が認められ、本件チェック・オフの中止が、組合ら労働組合の活動に一定の悪影響を及ぼすものであることは明らかである。
  さらに、⑤市長は、職員の給料の切下げを内容とする条例改正案を議会に提出するに当たり、労働団体に対する説明を行わなかったり、平成24年12月には、職員の退職手当の改正についての団体交渉を、申入れからわずか3日後に2日間の日程で行うよう申し入れ、Z1職労がこれに応じないと、その後にされたZ1職労の団体交渉申入れに応じることなく、同月の議会に上記の議案を上程したり、昭和49年以降使用料を免除していた組合事務所貸与について、特段の理由の説明もなくこれを有償化するなど、労働組合に対して、その勤務条件の変更について十分な説明を行ったり、合意を得るように努力する姿勢が全くみられないこと、⑤市長は、自身のブログに、Z1職労の組合活動を批判する旨の書き込みを繰り返し、平成23年12月16日には、公務員の組合活動そのものを否定するメールをわざわざ取り上げて、これを自己の方針を支持するものとして紹介したこと、⑦チェック・オフの有償化に関し、管理運営事項であることを理由に、団体交渉に一切応じていないこと、以上の事実が認められるところ、これらによれば、市長がZ1職労を自らの公約の実現を阻む労働組合として敵視していることがうかがわれる。
  以上認定した事情を総合的に勘案すると、市がチェック・オフの継続に際して本件組合費集金契約の締結に拘泥する合理的理由は見出し難いといわざるを得ず、別組合がチェック・オフの有償化に同意したこと等の事情を考慮してもなお、本件チェック・オフの中止は、市において、参加人ら組合の弱体化を意図してされたものと評価されてもやむを得ない。
(イ) もとより、チェック・オフは労働組合に対する便宜供与にすぎず、これを行うか否かは原則として使用者の裁量に委ねられているものであり、また、これが長きにわたって継続されてきたとしても、そのことから直ちに使用者がこれを継続すべき法的義務を負うものでもない。しかしながら、当該便宜供与が長きにわたって継続されてきたものである場合には、その中止により労働組合の組合活動に相当程度の支障が発生し得るのであるから、使用者がこれを中止しようとするときは、その中止について合理的な理由を要するとともに、代替手段の用意を含め、労働組合の了解を得るべく誠実な努力・配慮を行う必要があるものというべきである。
  これを本件についてみると、上記(ア)で説示したとおり、本件チェック・オフの中止が労働組合の財政基盤、ひいてはその組合活動自体に相当の影響を及ぼすものであるのに対し、チェック・オフの有償化により市が得ることになる経済的利益はわずかなものであって、長年にわたり継続的に行ってきた便宜供与を打ち切る理由としては合理的なものと認め難いこと、市は、チェック・オフの中止について団体交渉に応じたこともなく、Z1職労の了解を得るべく誠実な努力・配慮を行ったものとは到底いえず、さらに、労働組合を批判する市長の言動にも照らせば、上記(ア)で認定説示したとおり、本件チェック・オフの中止は、労働組合の弱体化を意図したものと推認され、市が他の団体等に対しても、職員給料からの控除について手数料を徴収することとし、これに応じた者があったとしても、同認定判断は左右されない。
3 争点3(本件団体交渉拒絶に正当な理由があるか否か(本件団体交渉拒絶の労組法7条2号該当性))について
 チェック・オフは、使用者が労働組合に対し、その運営の基礎となる組合費の徴収に関して行う便宜供与であり、団体的労使関係の運営に関する事項であることは明らかであるし、これが使用者たる市において処分可能な事項であることもまた明らかであるから、チェック・オフに関する事項は義務的団体交渉事項であるというべきである。まして、市は、昭和49年以降の長きにわたり、参加人らに対しチェック・オフを継続してきたところ、争点2について検討したとおり、便宜供与が長年継続しているからといって、そのことから直ちに使用者がこれを継続して行うべき法的義務があるとはいえないとしても、これを廃止するには合理的な理由を要し、かつ、労働組合に対しては当該理由を説明するなどして誠実な交渉を行うべきものである。そうすると、チェック・オフに関する団体交渉申入れを拒絶した本件団体交渉拒絶に正当な理由があるということはできない。
4 争点5(不当労働行為に対する救済として、振替手数料相当額の支払を命じることができるか否か)について
 労組法27条に定める労働委員会の救済命令制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した同法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであるところ、同法が、上記禁止規定の実効性を担保するために、使用者の上記規定違反行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を上記命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復及び確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限を委ねる趣旨に出たものと解される(最高裁昭和52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁参照)。
 以上を踏まえて本件についてみると、Z1職労は、チェック・オフ中止後、組合費の集金のため、労金の口座振替を利用するようになり、これに伴って振替手数料を支払っているところ、組合員が相当数に上ること(組合員数は合計190名、労組法適用職員だけでも29名)からすれば、組合費の徴収を口座振替によることが不必要とはいえないこと、同手数料の支出は、Z1職労に経済的に打撃を与えているものであり、その限りでその団結権ないし組合活動を侵害していること、以上の点に鑑みれば、市に対し、Z1職労にその手数料相当額を支払うよう命ずることは、上記侵害状態を回復するものとして、労働委員会が救済方法について有する裁量権の範囲内であると解するのが相当である。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成26年(不)第10号・第43号 一部救済 平成27年7月28日
大阪地裁平成27年(行ク)第309号 緊急命令申立ての却下 平成28年3月29日
大阪高裁平成28年(行コ)第180号 一部取消 平成28年12月22日
 
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