労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大津地裁平成27年(行ウ)第13号
三軌工業不当労働行為救済申立棄却命令等取消請求事件 
原告  X1ユニオン(「組合」) 
被告  滋賀県(同代表者兼処分行政庁・滋賀県労働委員会) 
被告補助参加人  Z1株式会社(「会社」) 
判決年月日  平成28年6月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 A1は、C1株式会社等に雇用され、会社がC2株式会社から請け負った新幹線軌道工事の現場で稼働していたが、平成23年12月26日をもって、上記新幹線軌道工事の現場で就労できなくなったため、組合に加入した。
2 組合が、組合員に対する直接雇用義務違反等を掲げて団体交渉を申し入れたところ、会社が応じなかったこと、A1が組合に加入していることを理由に直接雇用の申込みを行うことに抵抗があるとの回答を行ったことが不当労働行為に当たるとして、滋賀県労委に救済を申し立てたところ、県労委は、人種偏見に基づく発言への謝罪等の事項に係るものを却下し、その余の申立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として大津地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
3 争点(1)〔会社が、労組法7条の「使用者」に当たるか〕について
(1) 労組法7条にいう「使用者」について検討するに、一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正として正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(最高裁判所平成5年(行ツ)第17号同7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁)。
  本件においては、会社とA1との間で明示の雇用契約がないことについては当事者間に争いがないところ、組合は、①会社への労働者供給を目的とするC1とA1との間の雇用契約は無効であるとした上で、会社とA1との間の黙示の労働契約の成立を主張し、また、②会社は、A1の雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させており、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとして、会社が使用者に当たると主張する。以下、上記①、②について検討する。
(2) A1と会社との黙示の雇用契約の成立について
ア 前記認定事実1(4)のとおり、A1の給与はC1等の雇用契約の相手方である会社から支払われていたのであり、会社から給与が支払われていた事実は認められない。
  組合は、会社から二次下請会社に対して支払われていた請負代金は、二次下請会社であるC8の社員の延べ人数に一人当たりの単価をかけて算出されていたのであるから、会社はA1の給与の決定に関与していたと主張するが、請負代金は労働者の延べ人数に単価を掛けて算出されており、誰がどのような労働をしたか等の事情は捨象して算出されていること、そもそも会社はA1の雇用関係について正確に把握しておらず(この点、組合は、C1が会社に提出した出勤表にはC1との記載があると指摘するが、証拠として提出された出勤表にはいずれもC1の記載はない。)、会社が請負代金を支払った相手(C8)と、A1の給与を支払っている主体(C1)とは異なっていることからすれば、会社がA1の給与について一定程度関与しているとは認められないし、請負代金が、C8ないしC1が個々の労働者に支払う給与の原資になっていることをもって会社が個々の労働者の給与について関与していると評価することはできない。
イ また、組合は、会社は、A1がC4に雇用される前に同人と面接をするなどして採用について関与していたと主張するが、A1が会社を訪れた事実は認められるものの、当該訪問について、会社代表者であるC14は本件工事に必要なIDカード作成のためと述べており、A1が会社を訪問した時期も定かではなく、A1が会社を訪問したことをもって、会社がA1と面接をするなどして採用について関与していたと評価することはできない。
ウ また、組合は、会社とC8との間でなされた本件基本契約の合意解除について、作業員の社会保険加入及び発報事象回避のための列車見張員の資格取得が必要になった等の理由は存在しないと主張する。
  本件訴訟における組合の主張からは、当該事実と黙示の労働契約との関連性は明らかではないが、本件申立てにおける組合主張に照らせば、会社がA1の人事権を掌握している事実を主張するものと善解されるところ、前記認定事実1(8)のとおり、会社とC8は締結していた本件基本契約を合意解除したのであって、一方的な解除ではないこと、合意解除の理由についても、会社は、軌道工事の安全確保と発報事象の発生を回避するため、工事に従事する全ての作業員に列車見張員の資格を取得させる方針を定めたが、C8はこれに応じることができなかったこと、また、会社が、C8がその従業員らに対する社会保険未加入を知り、C8に対し、社会保険への加入を求めたが、拒否されたことが契機となっており、これらは合意解除に至る合理的な理由であったといえることからすると、組合が指摘するブラジル人労働者の排斥といった目的で会社とC8が契約解除を偽装したとは認められない。また、本件基本契約を合意解除したことでA1が本件工事に従事できなくなったことをもって、会社がA1の人事に関与していたと評価することもできない。
エ 他方、前記認定事実1(2)のとおり、会社は、C2から受け取った年間・月間スケジュールに基づいて、作業計画書を作成し、これを各二次下請会社に交付し、各二次下請会社が提出する出勤表に基づいて、本件工事の作業予定表を作成しており、本件工事の最終的な人員配置を行い、A1が赴く作業現場を決定していたことが認められる。また、前記認定事実(5)ないし(7)のとおり、会社の社員である軌道作業責任者の任務には工事施工の指示及び施工工程の確認が含まれていたことや、作業現場において班長等の会社従業員がA1を始めとするブラジル人労働者に対して作業内容を指示していた事実が認められる。これらからすると、会社が、本件工事の作業内容について、一定の関与をしていたということができる。
  しかしながら、上記作業予定表は、上記のとおり、各二次下請会社が提出する出勤表に基づいて作成されるものであり、誰が会社の作業現場で本件工事を行うか、どのような就業日程を組むかについてはC8等の各二次下請会社が決定していたといえ、また、A1が仕事を休む場合にはC1等の雇用契約会社に連絡し、同会社が承認していたのであるから、個々の作業員の具体的な出勤・労働時間といった就業態様の管理は各二次下請会社又はC1が行っていたというべきである。
  また、会社は、A1がC4に雇用されて以降、同人の雇用契約会社が次々に変遷したことは知らず、全く関与していなかった。
オ 上記事実からすれば、A1とC1との間で締結された雇用契約が労働者供給契約の手段として締結された公序良俗に反する無効な契約であるか検討するまでもなく、会社が、A1との間で黙示の労働契約が締結されたと評価できる程度に、A1の就業や給与等に関与していたとは認められず、A1の作業内容等について会社が決定する場合もあった等の前記認定の他の事実を考慮しても、A1と会社との間で黙示の労働契約が成立していたと評価することはできない。
(3) 会社が、A1の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったかについて
ア 上記(2)エ説示のとおり、会社が、A1が実際に行う本件工事の作業予定表を作成するなどして人員配置を行っていたこと及び本件工事の作業内容について、会社が一定の関与をしていたと評価できる。
  しかしながら、同説示のとおり、作業予定表の前提となる出勤表はC8等の各二次下請会社が作成していたのであり、そもそもA1が一ヶ月にどの程度稼働するかという基本的な労働条件については、会社は一切決定することはできないこと、A1が仕事を休む場合の連絡は会社には直接なされないことからすれば、個々の作業員の具体的な就業態様の管理は各二次下請会社又はC1が行っていたというべきである。
イ また、上記(2)アないしウ説示のとおり、会社が、A1の採用、給与及び契約解除について関与していたとは評価できない。
ウ これらに照らせば、A1の基本的な労働条件等について、会社が雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと評価することはできない。
4 よって、会社は、A1の使用者(労組法7条1項)とは認められないから、他の要件について検討するまでもなく、会社が不当労働行為を行ったとは認められず、これと同旨の本件棄却命令の認定判断には取り消されるべき違法はない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
滋労委平成25年(不)第2号 棄却 平成26年12月15日
大阪高裁平成28年(行コ)第201号 棄却 平成28年12月15日
最高裁平成29年(行ツ)第157号・平成29年(行ヒ)第173号 上告棄却・上告不受理 平成29年7月4日
 
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