労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  名古屋高裁平成27年(行コ)第28号、同第31号
東和交通不当労働行為救済命令取消請求控訴、同附帯控訴事件 
控訴人兼附帯被控訴人  愛知県(同代表者兼処分行政庁・愛知県労働委員会) 
控訴人補助参加人  Z労働組合(「組合」) 
被控訴人兼附帯控訴人  X株式会社(「会社」) 
判決年月日  平成28年2月10日 
判決区分  原判決一部取消・棄却  
重要度   
事件概要  1 組合は、組合が会社に対し、会社による代理人の選任及びその権限につき書面により通知することを要請したにもかかわらず、会社がこれに応じず、団体交渉が開催されないことが不当労働行為であるとして、会社を被申立人とする救済の申立てをし(以下「本件救済申立て」という。)、その後、会社が公休出勤現金支払制度(以下「CA制度」という。)の改正を組合員に実施したこと、会社が組合組合員に出勤時間の変更指示をしたこと等を不当労働行為事由として追加した。
2 愛知県労働委員会は、組合員に対し行った出勤時間の変更指示をなかったものとして取り扱うこと、文書交付等の救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発した。
3 これを不服として、会社は、名古屋地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は愛知県労委の救済命令の一部を取り消した。
4 これを不服として、愛知県は名古屋高裁に控訴を提起し、会社は附帯控訴をしたが、同高裁は、原判決の一部を取り消しするとともに、会社の取消にかかる請求と附帯控訴を棄却した。  
判決主文  1 控訴人の本件控訴に基づき、原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記取消しにかかる被控訴人の請求を棄却する。
3 被控訴人の本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含めて、第1、2審とも被控訴人の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、会社の請求は、理由がないからこれを棄却すべきであると判断するが、その理由は、以下のとおり付加訂正するほか、原判決「第3 当裁判所の判断」の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 原判決の付加訂正
(5) 原判決22頁16行目末尾を改行した次に、次のとおり付加する。
 「このような本件出勤時間変更指示は、これを受けた労働者の生活状況を一変させるものであって、当該労働者にとってはそれ自体が大きな不利益といわざるを得ず、それが具体的にいかなるものかを云々するまでもなく、例えば、労働者が以前から当該指示どおりの勤務時間に出退勤していたなどの特段の事情がない限り、上記「不利益な取扱い」に該当するところ、本件においては、そのような特段の事情があったとは認められない。
  却って、A1及びA2は、本件勤務時間変更指示によって、次のとおり私生活に関する不利益及び経済的な不利益を受けていることが認められる。
ア 私生活上の不利益
  証拠によれば、本件出勤時間変更指示以降、A1においては、団体交渉への出席や賃金請求訴訟の期日への出席のために、有給休暇を取るか、欠勤するか、公休日に期日を入れるかせざるを得なくなるなど、労働組合員としての活動につき不利益が生じていることが認められ、また、A2においては、少なくとも、家庭での役割分担の中で子どもの保育園の送り迎えの時間をやり繰りするのに支障を生じるといった私生活に関する不利益が生じていることが認められる。
イ 経済的な不利益」
(6) 原判決24頁5行目冒頭から27頁13行目末尾までを次のとおり改める。
  「イ そこで検討するに、控訴人は、被控訴人が低営収者の乗務員の中から本件勤務体系変更の対象者を選定した旨主張しているにもかかわらず、A1よりも営収順位が低いA3を昼間の乗務に限定していないから、A1及びA2を本件勤務体系変更の対象者に選定したことは不合理である旨主張し、証拠によれば、平成23年1月度の営収順位はA1よりもA3の方が低いこと、A3は同年2月度から昼間の乗務に限定されていないことが認められる。
  これに対し、被控訴人は、A3の時間当たり給与対象営収額がA1のそれより多かったので、A3を夜間動務とすることが有益であると判断した旨主張し、本件訴訟の原審で被控訴人が提出したB1の報告書にはその旨の記載がある上、確かに、証拠によれば、平成22年7月度から平成23年1月度までのA1及びA3の各月ごとの時間当たり給与対象営収等は原判決別紙2及び5のとおりであり、前記期間の時間当たり給与対象営収の平均は、A1が約3618.5円、A3が約4331.4円であって、A3の方が20パーセント弱高いことが認められる。そして、被控訴人は、当審において、上記B1の報告書の内容と同旨といえる「営収順位表に基づきながらも、個別の乗務員のハンドル時間や時間当たりの給与対象営収額を考慮して会社の収益性確保の観点から適正に対象者を選定した」との主張を追加したことは、本件記録上明らかである。
  しかしながら、関係各証拠によれば、被控訴人は、本件出勤時間変更指示を行った前後において「時間当たりの給与対象営収」を対象者の選定基準とする旨の説明をA1、A2はもとより被控訴人の従業員らや労働組合に説明したことはなく、本件審査手続においても、終始上記のような選定基準に関する主張立証をしようとしたことはなく、ようやく手続の終盤になった平成24年10月26日付けの書面で、最低補償額の支給対象となる月間営収額が低い者を対象とした旨主張して、平成23年1月度(平成22年12月16日から平成23年1月15日まで)の営収順位表を提出したのみであったことが認められる。このような事実経過の上に、前述した被控訴人の本件訴訟の原審及び当審における主張立証状況に鑑みると、被控訴人は、本件出勤時間変更指示から2年近くが経過した本件審査手続の終盤になってようやく、平成23年1月度の営収順位表に基づき、順位の低いA1及びA2を昼間勤務者として選定した旨主張するに至ったのみであったが、本件救済命令において、それより営収順位の低いA3の存在を指摘されてその不自然さに言及されるや、本件訴訟の原審において、俄かに「時間当たりの給与対象営収額」なる基準を主張し始め、 前記B1の報告書等が提出され、更に当審において、同報告書に基づく主張が追加されたものということができ、かかる経緯はそれ自体が相当に不自然なものということができる。
  そして、そもそも、平成23年1月13日及び14日になされた本件出勤時間変更指示が、平成22年12月16日から平成23年1月15日までを対象期間とする平成23年1月度の営収順位表に基づいていたという主張内容それ自体も相当に不自然なものである上、効率の良いタクシー運行を行うために、時間当たり給与対象営収の高い者に収益率の高い夜間のタクシー運行を担当させることは合理的であるとはいえ、そのような比較考慮が有効であるのは、同一期間における稼働時間が同一又は近似する場合というべきであって、そうでなければ、むしろ、同一期間における営収額の絶対額による比較の方が合理的であるというべきところ、前記B1の報告書別紙1及び3によれば、平成22年7月度から平成23年1月度の問におけるA1とA3の一日当たりの平均営収額はほとんど差がないばかりか、同期間の営収額の累計では、A1が186万円余であり、A3は129万円余であることが認められ、同一期間における営収額の絶対額の比較によれば、A1の方がA3より優位的に営収を上げていることが認められるから、A3を選定の対象とせず、A1を選定の対象としたことの合理性は極めて疑わしい。
  そうすると、前記B1の報告書の記載内容及びそれに基づく被控訴人の選定基準の主張には信用性が認められない。
ウ また、控訴人及び参加人は、被控訴人がA1及びA2に対してのみ本件出勤時間変更指示後の出勤時間を厳格に順守させようとしたから、不当労働行為意思が認められる旨主張し、A2は、本件審査手続の第2回審問において、平成23年1月27日午前6時頃に出社した際、「営業所職員へ。A1、A2が、朝7時、8時、9時に出社しない場合、乗務させないこと。B2営業部長」と赤字で書かれたA6サイズの本件メモが点呼簿の横に置かれていたので、担当職員のC1に対し、「何でこんなもんがあるんだ。組合つぶしじゃないのか。」と言ったところ、C1が同メモをあわてて隠した旨供述し、A1は、本件審査手続の第1回審問においで、A2から本件メモを見たという報告を受けた旨供述する。
  しかるところ、上記A2の供述は、時間、場所、本件メモの形状や特徴等について具体的かつ詳細なものであるばかりか、両名の供述相互に矛盾はなく、争いのない事実である本件出勤時間変更指示の事実に合致するものである上、その主張する本件メモの内容は特段新規性のないものであるから、これをA2が敢えて捏造する動機にも乏しいこと、その場又はその直後にA2やA1が抗議していないとしても、既に本件出勤時間変更指示に対してはその直後に抗議していることや、本件メモの現物を押さえていない以上、そのような抗議は却って曖昧な否定や言い訳を誘発するだけだと考えて、直ちに抗議することを控えたとしても不自然とはいえないこと、これら供述は、その後もA1及びA2以外の乗務員は、乗務開始時間を自由に決めているとうかがわれることにも合致すること等からすると、現在そのようなメモの現物の存在が認められないとしても(むしろ廃葉の可能性が高い。)、上記A2供述及びA1供述は十分に信用することができる。
エ 上記イ及びウで述べたところを総合すれば、被控訴人は、業務上の必要性よりも労働組合の正当な行為を主たる理由として本件出勤時間変更指示をしたものと認められるから、被控訴人は不当労働行為意思があったものと認められる。
(3) 以上によれば、本件出勤時間変更指示は、不利益取扱いの不当労働行為(労働組合法7条1号本文)及び支配介入の不当労働行為(同条3号)に該当するとした本件救済命令の判断に違法なところはない。」
3 以上のとおりであって、争点(1)、(2)のいずれについても、本件救済命令の判断に違法はなく、その取消しを求める会社の本件請求は理由がないから、会社の本件請求は全部棄却されるべきことになる。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛労委平成22年(不)第7号 一部救済 平成25年3月18日
名古屋地裁平成25年(行ウ)第32号 一部取消 平成27年3月25日
最高裁平成28年(行ツ)第173号・平成28年(行ヒ)第187号 上告棄却・上告不受理 平成28年7月27日
 
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