労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東和交通 
事件番号  名古屋地裁平成25年(行ウ)第32号 
原告  東和交通株式会社(「会社」) 
被告  愛知県(処分行政庁・愛知県労働委員会) 
被告補助参加人  東海合同労働組合(「組合」) 
判決年月日  平成27年3月25日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 組合は、組合が会社に対し、会社による代理人の選任及びその権限につき書面により通知することを要請したにもかかわらず、会社がこれに応じず、団体交渉が開催されないことが不当労働行為であるとして、会社を被申立人とする救済の申立てをし(以下「本件救済申立て」という。)、その後、会社が公休出勤現金支払制度(以下「CA制度」という。)の改正を組合員に実施したこと、会社が組合組合員に出勤時間の変更指示をしたこと等を不当労働行為事由として追加した。
2 愛知県労働委員会は、組合員に対し行った出勤時間の変更指示をなかったものとして取り扱うこと、文書交付等の救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発した。
3 本件は、会社が、これを不服として、名古屋地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は愛知県労委の救済命令の一部を取り消した。  
判決主文  1 愛知県労働委員会が愛労委平成22年(不)第7号事件について平成25年3月18日付けでした命令のうち、主文1項、及び2項の次の部分を取り消す。
 原告が平成23年1月13日に被告補助参加人組合員A1に対し、同月14日に被告補助参加人組合員A2に対し、それぞれ為した出勤時間の変更指示は、労働組合法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であると認定されたこと、今後このような行為を繰り返さないようにすることを記載した文書を被告補助参加人に対し交付することを命じた部分
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、補助参加によって生じた部分はこれを2分し、その1を原告の、その余を被告補助参加人の負担とし、その余の費用はこれを2分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(参加人組合員に対し本件CA制度改正を実施したことが不当労働行為に該当するか否か)について
(2) 本件CA制度改正に関する合意の有無
ア 会社は、平成22年3月17日頃以降本件CA制度改正を延期(凍結)し、組合との団体交渉において、本件CA制度改正を適用する場合には組合に発表する旨述べた。これに対して、A1が第2回団体交渉及び第3回団体交渉において、本件CA制度改正を実施する前に団体交渉するよう要求したところ、会社の社長のB2は、第3回団体交渉において、団体交渉するかどうか会社に持ち帰って検討する旨回答し、第4回団体交渉において、特に本件CA制度改正について団体交渉事項とする旨要求した春闘要求事項4番につき、「大きい意味では、就業規則の変更のときには団体交渉事項です。」と回答した。そうすると、組合が本件CA制度改正の実施前に団体交渉することを要求したところ、会社は、第4回団体交渉において、組合の要求について「団体交渉事項です。」と答えているから、組合と会社は、第4回団体交渉において、本件CA制度改正の実施前に団体交渉を行う旨の合意をしたと認められる。このことは、各団体交渉に参加していたB3が、第4回団体交渉後のA1との交渉において、本件CA制度改正の実施を延長(棚上げ)し、団体交渉する旨述べていることからも裏付けられる。
イ これに対し、会社は、第1回から第4回までの団体交渉において本件CA制度改正が協議事項になっていなかったこと、第5回団体交渉以降は組合との間で何らかの合意をする状況にはなかったこと、口頭で合意する慣行はなかったこと、会社がB3に団体交渉の権限を付与していなかったことなどから、前記アの合意を否認する。
 しかし、第1回から第4回までの団体交渉において、本件CA制度改正反対という組合の春闘要求事項について協議が行われており、本件CA制度改正は協議事項になっていたと認められる。また、前記アのとおり、前記合意は、第4回団体交渉における社長のB2等の発言により形成されたと認めるのが相当であるから、第5回交渉以降に組合との間で何らかの合意をする状況にはなかったこと、会社がB3に団体交渉の権限を付与していなかったことは、前記合意の認定を左右する事情ではない。さらに、口頭での合意を認めない旨の合意や慣行があるといった特段の事情がない限り、労使間での口頭の合意も認められると解されるところ、そのような特段の事情は証拠上認められない。その他種々主張する点も含め、前記アの合意を否認する会社の主張には理由がない。
(3) 不当労働行為該当性について
ア 会社は、組合との間で、本件CA制度改正の適用前に団体交渉を行う旨の合意をしたにもかかわらず、事前に組合と団体交渉することなく、組合組合員を含む会社の乗務員に対し、本件CA制度改正を実施したことが認められる。よって、会社は、組合との間の前記合意を順守していないから、特段の事情がない限り、組合を無視又は軽視する意思が推認され、支配介入の不当労働行為(労働組合法7条3号)に該当するというべきである。
2 争点(2)(本件出勤時間変更指示が不当労働行為に該当するか否か)について
(1) 本件出勤時間変更指示が「不利益な取扱い」(労働組合法7条1号本文)に該当するか否かについて
 夜間の乗客には、走行距離が長く、売上が高い者が多いこと、会社は、本件出勤時間変更指示を行った頃、タクシー運行を効率良く行うために、原則として営収の低い乗務員を昼間の乗務に異動したことに加え、B3の報告書には、「タクシー乗務は昼間より夜間の方が収益率が良いという実態があります。」という記載があることからすると、夜間のタクシー乗務の方が昼間のタクシー乗務よりも収益率が良いと認められる。そうすると、A1及びA2は、それまで主として夜間に乗務していたところ、本件出勤時間変更指示により、収益率の劣る昼間の乗務に限定されたことになる。
 さらに、証拠によれば、平成22年7月度から平成24年1月度までのA1及びA2並びに同人らを含む3部制の最低賃金保障対象者(歩合給が最低賃金に満たず、その不足分を補償された者)の各月ごとの時間当たり給与対象営収等はそれぞれ別紙2から4のとおりである。これによれば、A1及びA2は、本件出勤時間変更指示後、最低賃金保障対象者の平均よりも時間当たり給与対象営収が有意に減少したと認められる。
 そして、会社の乗務員の賃金は基本給及び歩合給(ただし、歩合給で最低賃金未満になる者には不足額が補償される。)であり、給与対象営収の減少は賃金の減少を招く可能性があることも考慮すると、本件出勤時間変更指示は、A1及びA2の賃金の減少を招く可能性があるから、会社の種々主張する点を踏まえても、「不利益な取扱い」に該当する。
(2) 不当労働行為意思の有無について
ア 会社は、中部運輸局による事業認可に基づき、タクシー10両の休車を実施した。よって、1台のタクシーを昼夜2交代で運転する制度を拡充し、そのために本件勤務体系変更を行うことは必要であったと認められる。そうすると、本件勤務体系変更の一環である本件出勤時間変更指示は、業務上の必要性があったと認められるから、会社の不当労働行為意思を直ちに認めることはできない。しかし、本件勤務体系変更の対象者にA1及びA2を選定したことが不合理であるなどの事情があり、業務上の必要性よりも労働組合の正当な行為を主たる理由として本件出勤時間変更指示をしたと認められる場合には、会社の不当労働行為意思が認められるというべきである。
イ この点、愛知県労委及び組合は、A1及びA2を本件勤務体系変更の対象者に選定したことは不合理であるから、不当労働行為意思が認められる旨主張する。しかし、愛知県労委及び組合の主張には理由がない。
(ア)愛知県労委は、会社が本件出勤時間変更指示の対象者選定の合理性の立証のために本件審査手続において唯一提出した営収順位表には本件出勤時間変更指示後の期間が含まれているから、同営収順位表だけで出勤時間変更の対象者を選んだとは認められず、A1及びA2を本件勤務体系変更の対象者に選定したことは不合理である旨主張する。
 しかし、本件救済申立ての審査手続において提出した前記営収順位表の記載をもって本件勤務体系変更の対象者に選定したとはいえないからといって、直ちに会社が合理的な理由なくA1及びA2を本件勤務体系変更の対象者に選定したとはいえないので、愛知県労委の主張には理由がない。
(イ)会社は、A3の時間当たり給与対象営収額がA1のそれより多かったので、A3を夜間勤務とすることが有益であると判断した旨主張し、B3の報告書には同様の記載がある。そして、後記のとおり、時間当たり給与対象営収を考慮して本件勤務体系変更の対象者を選定することは合理的であること、A1よりもA3の方が時間当たり給与対象営収が明らかに高く、B3の前記報告書の記載と整合することからすると、会社が本件審査手続において時間当たり給与対象営収を考慮した旨説明していなかったことを考慮しても、B3の前記報告書の記載の信用性は否定できないというべきである。
 そうすると、会社は、時間当たり給与対象営収を考慮して、本件勤務体系変更の対象者にA3を選定せずA1を選定したと認められる。そして、効率の良いタクシー運行を行うために、時間当たり給与対象営収の高い者に収益率の高い夜間のタクシー運行を担当させることは合理的であるところ、証拠によれば、平成22年7月度から平成23年1月度までのA1及びA3の各月ごとの時間当たり給与対象営収等はA3の方が20パーセント弱高い。よって、本件勤務体系変更の対象者にA3を選定せずA1を選定したことは合理的であって、愛知県労委の主張には理由がない。
(ウ)組合は、会社が低営収者の乗務員の中から本件勤務体系変更の対象者を選定した旨主張しているにもかかわらず、月間給与対象営収額が月間基礎控除額以下であったB4及び月間基礎控除額を下回ることもあったB5を本件勤務体系変更の対象者に選定していないから、本件出勤時間変更指示には合理性がない旨主張する。
 しかし、証拠によれば、B4及びB5の営業順位はA1及びA2よりも高いことが認められるから、B4及びB5を本件勤務体系変更の対象者とはせずA1及びA2をその対象者に選定したことが不合理であるとは認められない。よって、組合の主張には理由がない。
3 小括
 前記1、2のとおり、会社が組合との合意を順守せずに本件CA制度改正を組合組合員に適用したことは支配介入の不当労働行為(労働組合法7条3号)に該当するので、その点に関する本件救済命令は適法であるが、本件出勤時間変更指示は不当労働行為に該当しないので、その点に関する本件救済命令は違法である。そして、証拠によれば、愛知県労委は、本件出勤時間変更指示が不当労働行為に該当することを理由に本件救済命令主文1項の本件出勤時間変更指示の撤回及び2項の謝罪文の交付の救済命令を発し、本件CA制度改正の実施が不当労働行為に該当することを理由に本件救済命令主文2項の謝罪文の交付の救済命令を発していることが認められる。そうすると、本件請求のうち、本件救済命令主文1項、及び主文2項のうち本伴出勤時間変更指示に関して謝罪文の交付を命じた部分の取消しの請求には理由があるからこれらを取り消し、その余の請求には理由がないから棄却するのが相当である。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛労委平成22年(不)第7号 一部救済 平成25年3月18日
名古屋高裁平成27年(行コ)第28号、同第31号 原判決一部取消・棄却 平成28年2月10日
最高裁平成28年(行ツ)第173号・平成28年(行ヒ)第187号 上告棄却・上告不受理 平成28年7月27日
 
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