労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  日本航空 
事件番号  東京高裁平成26年(行コ)第369号 
控訴人  日本航空株式会社(「会社」) 
被控訴人  東京都(処分行政庁・東京都労働委員会) 
参加人  日本航空乗員組合(「参加人乗員組合」)  
参加人  日本航空キャビンクルーユニオン(「参加人CCU」)  
判決年月日  平成27年6月18日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社と会社の従業員等で組織する労働組合である参加人らとの事務折衝の場において、当時の会社の更生管財人であった株式会社企業再生支援機構(現在の名称は「株式会社地域経済活性化支援機構」。以下「機構」という。)のディレクターらが、組合の争議権が確立された場合に機構はそれが撤回されるまで更生計画案で予定されている3500億円を出資することはできないなどと発言したこと(「本件発言」)が、不当労働行為に当たるとして、申立のあった事件である。
2 東京都労委は、労働組合法7条3号所定の支配介入に当たるとして、会社に対してポストノーティス等を命じた。これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は会社の請求を棄却した。
3 本件は、これを不服として会社が、東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、会社の控訴を棄却した。  
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  2 当審における当事者の主張に対する判断
(1) 本件では本件発言も許容されるとの会社の主張について
ク 会社は、平成22年1月19日に会社更生手続の開始を申し立て、同日にその手続開始決定を受けた上、機構の支援を受けて同年11月30日に予定された本件更生計画案の認可に向けて、総額5215億円もの大幅な債権の放棄を求められる主要債権者らの同意が得られるか否か微妙な時期であって、仮に参加人ら労働組合において争議権が確立され、実際に争議行為が実施されて、会社における航空機の運航に支障が生じて運航が停止されるなどの事態が生じたならは、公的資金を投入して救済を図ることへの大きな疑問が生じて、再生が困難になることも大いに考えられるところではあるが、そのような事態に陥ったとしても、もともと民間企業である以上、致し方のないところもあるのであって、本件の参加人らのような企業別組合においては、会社が破綻して消滅すれば、労働組合を構成する従業員も職を失って会社を離れざるを得ず、結果的に労働組合そのものも消滅せざるを得ないこととなることは明らかであるから、そのことを覚悟の上で労働組合が争議権を確立して争議行為を実施しようとし、会社がその存立のために争議行為を阻止したいのであれば、労働組合が求めるところをも踏まえて、労働組合との間で何らかの妥協を図るしかないのであって、そのような妥協を図る方法によることなく、一方的に労働組合の運営に重大な影響を及ぼすようなことを述べるなどして、その運営に介入しようとすることは、前記のとおり、労働組合の自主性や独立性を脅かすものであって、労働組合法7条3号が禁止しているところというべきである。
 そして、本件で問題とされた争議権の確立は、労働組合が会社と交渉する際に、会社との対等性を確保するための有力な対抗手段となるものであって、現行の労働法制の下では、労働組合にとって最も根幹的な権利の一つであり、そのような意義を有する争議権の確立を目指して組合員投票を行うことは、労働組合としての在り方そのものを問う極めて重要な組合活動であるから、C6ディレクターによる本件発言は、そのような争議権の確立の是非を問う組合員投票が行われている最中に、参加人らから説明を求められたわけでもないのに、積極的に参加人らの執行部を招集して事務折衝の機会を設け、その席上で、まだ機構としての正式な企業再生支援委員会の決定がなされていないにもかかわらず、その決定があったかのような口ぶりで、しかも、争議権が確立されたならば、それが撤回されるまで、機構として、本件更生計画案で予定されている3500億円の出資をすることはできないなどと告げて、争議権を確立すれば、確実に更生計画は頓挫して、破綻に至ることを示唆したものであり、もはや機構としてなされている決定事項やその内容を参加人らに知らせたという限度にとどまるものではなく、争議権の確立に向けて運動中の参加人らの活動を抑制し、少なくとも消極的な効果を与えることを意図してなされたものといわざるを得ないから、労働組合としての参加人らの主体性や自主性や独立性を阻害するものとして、参加人らの運営に介入するものであったといわざるを得ないものであり、労働組合法7条3号にいう労働組合の運営に介入する行為であると認めるのが相当である。
ケ 以上によれば、会社の主張するとおり、機構執行部は、争議権の確立を公的資金が回収不能となるリスク要因と捉えて、公的資金を預かる出資者としての経営判断として、参加人らが客観的状況を正確に認識した上で自主的な意思形成を行う機会を確保するためには、参加人らの争議権確立と機構による公的資金の出資に関わる機構の見解を可及的速やかに参加人らに表明する必要があったと理解し、これを実行したものであるとしても、本件発言が労働組合法7条3号が禁止している労働組合の運営に介入する行為であることに変わりはなく、その告知の方法等も適切ではなかったものであるから、会社の上記主張はその前提において失当であり、採用することはできない。
(2) 本件発言は参加人らにとって何ら目新しいものではなく、労働組合の運営に介入するものではなかったとの主張について
ウ これに対して、本件発言は、上記のとおり、争議権の確立という労働組合の運営に関する事項に関し、参加人らが争議権を確立したときは、それだけで機構が会社に対する出資をしないという内容であり、実際に争議行為によって運行停止などの運行支障が生じた場合を前提としていたそれまでの発言とは、その重要な部分において異なるものといわざるを得ない。しかも、それまでの発言は、世間が理解できなければ機構として支援を継続できないし、出資を撤回せざるを得ないという担当者としての見込みを述べたものであったのに対し、本件発言は、機構としての正式な見解であるとした上で、争議権が確立された場合には、それが撤回されるまで、更生計画案で予定されている3500億円の出資をすることはできないことが、あたかも機構としての確定的な決定であるとして伝えられたものであって、担当者の見込みというのと、機構としての正式な確定見解というのでは、その重みも及ぼす影響も全く異なるものであるから、その意味でも、従前の発言とは比較にならない重大な意味合いを有するものであったことは明らかである。そうすると、前記のとおり、争議権の確立が参加人ら労働組合にとって極めて重要な組合活動であり、参加人らにおいてそのような争議権の確立を目指して投票を行っている最中であるのに、機構から、争議権の確立そのものが出資の撤回につながり、ひいては会社更生の頓挫を招き、会社として存立できない自体に追い込まれるような意味合いを有する本件発言がなされることは、参加人ら組合にとっては予想を超えた発言であったというべきであり、そのことは、本件発言の内容が社内に周知されたことにより、参加人らに所属する労働組合員らに大きな衝撃と動揺が広がり、参加人乗員組合では、争議権確立の是非を問う投票そのものが中止されたことからも明らかというべきである。
エ したがって、本件発言は参加人らにとって何ら目新しいものではなく、参加人らの運営に介入するものではなかったとはいえないから、この点の会社の主張を採用することもできない。
(3) 本件発言は参加人らの主体性や自主性や独立性を侵害するものではなかったとの主張について
イ 確かに、労働組合と会社との団体交渉等の席上において、出資者としての機構が有する経営判断の内容が組合執行部に伝えられ、それが組合内部の議論における「判断材料」として何らかの影響を及ぼしたとしても、そのことが直ちに労働組合法で禁止されている不等労働行為に当たるものとまではいえない。しかし、その内容が、第三者機関等において正式に決定された事項や決定されようとしている事項を、情報提供として正確に伝えるだけであればともかく、労働組合が組合として実施している事項について、その実現を妨げることになる事柄を実現し、又は実現を助長することを目的として、まだ正式には決定されていない事項をあたかも既に決定された事項であるかのように伝えたり、個人的な推測や期待を交えて、決定されることが確実であると伝えたりすることは、労働組合の運営を支配したり、運営に介入しようとするものといわざるを得ず、労働組合の主体性や自主性を阻害するものとして、労働組合法7条3号所定の不等労働行為に該当することは明らかというべきである。特に本件で問題とされた争議権の確立は、前記のとおり、労働組合が会社との交渉において対等性を確保するための有力な手段となるもので、労働組合にとって最も根幹的な権利の一つであり、そのような重要な組合活動である争議権の確立の是非を問う組合員投票が行われている最中に、参加人らが説明を求めたわけでもないのに、機構から積極的に参加人らに呼びかけて事務折衝の機会を設け、その席上で、C6ディレクターが本件発言をして、争議権が確立され、撤回されなければ、確実に更生計画は頓挫して、破綻に至ることを示唆したものであり、それは、もはや機構としてなされている決定事項やその内容を参加人らに知らせたという限度にとどまるものではなく、争議権の確立に向けて運動中の参加人らの活動を抑制し、少なくともその組合員に対して消極的な効果を与えることを意図してなされたものといわざるを得ないから、C6ディレクターによる本件発言は、参加人らの労働組合としての自主性や独立性を脅かすものであって、労働組合の運営に介入するものであったといわざるを得ない。なお、参加人乗員組合では、本件発言後に、組合員から執行部に対して、争議権を確立すると機構は出資をしないのかという確認や、投票を中止してほしいという意見が寄せられ、本件発言の5日後、執行部が争議権確立の一般投票を中止せざるを得ない事態を招いたものであるし、参加人CCUにおいても、最終的に争議権は確立されたものの、組合員から執行部に対して投票を躊躇する意見が寄せられるなどしていたことをも勘案すれば、本件発言によって参加人らの労働組合としての自主性や独立性について悪影響が生じていたものということができる。
ウ したがって、本件発言は参加人らの組合活動に対する支配介入に当たるものというべきであり、労働組合法7条3号所定の不当労働行為に該当するから、これに反する会社の上記主張を採用することはできない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成22年(不)第121号 全部救済 平成23年7月5日
東京地裁平成23年(行ウ)第510号 棄却 平成26年8月28日
最高裁平成27年(行ツ)第392号、平成27年(行ヒ)第422号 上告棄却・上告不受理 平成28年9月23日
 
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