労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  日本航空 
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第510号 
原告  日本航空株式会社(「会社」) 
被告  東京都(処分行政庁・東京都労働委員会) 
参加人  日本航空乗員組合(「参加人乗員組合」) 
参加人  日本航空キャビンクルーユニオン(「参加人CCU」) 
判決年月日  平成26年8月28日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社の更生管財人であった株式会社企業再生支援機構(現在の名称は「株式会社地域経済活性化支援機構」。以下、「機構」という。)のディレクターらが、会社の従業員等で組織する労働組合である組合らとの事務折衝の場で行った「機構としては、争議権が確立された場合、それが撤回されるまで、更生計画案で予定されている出資をすることはできない」旨の発言(本件発言)が、支配介入の不当労働行為(労働組合法7条3号)に当たるとして、申立てがあった事件である。
2 都労委は、本件発言が、支配介入の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、文書の交付及び掲示を命じた(本件命令)。
3 会社は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の訴えを棄却した。
 なお、本件発言当時、機構は、更生管財人であるとともに、出資予定者でもあった。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 争点(1)-本件発言は「使用者」の行為に該当するか。
 本件発言当時、機構は、更生管財人として、組合らの申入れに応じて、人員削減(整理解雇)について組合らと団体交渉を行っており、更生3社〔原告会社(旧商号「株式会社日本航空インターナショナル」)、株式会社日本航空及び株式会社ジャルキャピタルの3社〕の更生開始決定の後、実質的にも、更生3社の従業員及び組合らとの間で労働契約の使用者としての権利を行使し、義務を果たしていた。そして、本件発言を行った機構のB3ディレクター及びB2管財人代理は、更生手続開始決定後、使用者である機構の代理人又は機構の幹部として、組合らに対する説明会、団体交渉ないしは事務折衝に出席して、組合らに対する説明、交渉、折衝を行い、本件発言の直前も、人員削減(整理解雇)についての組合らとの団体交渉に出席して、組合らと交渉を行っていた者であるから、上記人員削減に関して実施が検討されている争議権の確立に関して同人らの行った本件発言は、出資予定者としての機構の判断を伝えるという一面を有していることを考慮しても、労働組合法7条の「使用者」の行為であったと認められる。
2 争点(2)-本件発言が「支配介入」に該当するか
(1) 本件発言について
 会社は、本件発言は、機構の業務執行行為として、組合らの争議権の確立に関する見解を外部に表明したにすぎない旨主張する。しかし、本件発言において、B3ディレクターは、「機構の正式な見解」等として、「争議権が確立された場合、それが撤回されるまで、更生計画案で予定されている3500億円の出資をすることができません。」と明言していること、更生管財人関係者及び会社の幹部職員らも本件発言をもって機構が組織として意思決定したと理解し、A1参加人乗員組合執行副委員長やA2参加人CCU執行委員長(当時)もそのように受け止めたことなどからすれば、本件発言は、争議権が確立した場合、それが撤回されるまで3500億円の出資をしないことを機構が組織として意思決定したことを組合らに対して表明したものと認めるのが相当であり、単に、機構の見解が外部に表明されたにすぎない旨の会社の主張は採用することができない。
(2) 本件発言の不当労働行為性
 争議権確立のための一般投票は、労働組合が自主的に決定すべき事項である。本件発言は、 それが組合規約の必要的記載事項とされていること(労働組合法5条2項8号)からすれば、労働組合の内部意思形成過程である争議権確立のための一般投票が行われている最中に、争議権を確立したことによって会社の二次破綻、ひいては組合らの組合員らの解雇にもつながるという組合らにとって不利益なことが生じる旨伝えるものであるから、労働組合の運営である争議権の確立に対して抑制を加える行為にほかならず、労働組合法7条3号にいう労働者の労働組合の運営に介入する行為であると認めるのが相当である。
(3) 更生管財人の情報提供義務の履行としてされたとの会社の主張について
ア 会社は、更生管財人は、更生計画の認可に向けて利害関係人に適時かつ適切に情報を伝達する義務があるところ、本件発言は、①対象である情報が更生会社の事業の維持更生にとって重要性及び合理性があり、②更生手続の利害関係人たる労働者や労働組合が争議権確立に関する自主的な意思形成をするための資料となるべきものであり、③情報の内容の本質的部分を正確に再現しているものであり、④意向の伝達又は説明の態様が、労働組合の自主的な意思形成に対する不当な介入のおそれを生じさせるものでないとの要件を満たすことから、更生管財人の情報提供義務の履行として適法になされた行為であり、支配介入には当たらない旨主張するので、この点について検討する。
イ 更生管財人の情報提供義務について
 更生管財人には、更生会社の事業の維持更生のため利害関係人の利害を適切に調整する活動の一環として、更生会社の使用人で組織する労働組合に対し、適時に適切な情報を提供することが期待されているといえる。そして、更生管財人の利害関係人に対する善管注意義務としての情報提供義務が借定できる場合があると考えられる。更生管財人の利害関係人に対する情報提供義務が、利害関係人に対する善管注意義務の内容として利害関係人の利益を目的として認められるものであることからすれは、更生管財人が労働組合に対してした情報提供が、外形的には労働組合の運営に介入する行為に該当すると考えられるにもかかわらず、更生管財人の利害関係人に対する情報提供義務の履行として適法であるというには、少なくとも、提供した情報の内容が正確であること、及び、情報伝達の時期や方法が利害関係人の利益に反しないものであることが必要であるというべきである。
ウ 本件発言により提供された情報の内容の正確性について
(ア) 争議権を確立してからでも、団体交渉等により争議権の行使が回避されることは通常あり得ることであり、争議権確立のみによって直ちに運航停止や事業毀損リスクが極めて高くなるとまでは必ずしもいえない。また、組合らの組合員以外の運航乗務員ないし客室乗務員を争議行為予定日の勤務に当てる等の調整をすることによって、運航停止を回避することは不可能とはいえないから、争議権行使によって必ずしも運航停止が生じるとはいえず、この点でも本件発言は正確とはいえない。
(イ)  機構の出資を決定する権限は企業再生支援委員会にあり(機構法16条1項4号)、出資を行わないことを決定する権限も同委員会にあると解されるが、本件発言当時、同委員会が、「組合らの争議権確立がされた場合、これを撤回しない限り、機構は会社への3500億円の出資を行わないこと」を決定したことも、そもそもその検討すらしたこともなかったことからすれば、正確ではない。また、本件発言当時、企業再生支援委員会が、機構執行部の当時の考えどおりの決定を必ず行う見込みであったとは認め難い。
(ウ)  また、「労使に争議を想定した争いがある場合には、更生裁判所が本件更生計画案を認可しない可能性もあること」については、 推測の域を出ないもので、この点についても本件発言は正確であるとは認め難い。
(エ)  そうすると、組合らが争議権を確立した場合、これが撤回されるまで、機構は会社に対する出資を行わないとの意思決定をした旨伝える本件発言は、本件発言当時の組織としての機構の見解を正確に伝えるものであったとは評価できない。
エ 情報伝達の時期や方法が利害関係人の利益に反しないものであることについて
 本件発言は、組合らが争議権を確立するための一般投票を行っている最中に行われたもので、利害関係人の利益を害しない時期であったとはいえず、情報提供義務の履行として適法に行われたものと認めることはできない。また、本件発言は、組合らの執行部に限定して伝えられたものの、本件発言後には、本件発言と同旨の内容が会社の従業員らに伝えられていたことからすれば、本件発言の伝達対象を限定したことをもって、利害関係人の利益を害しない方法で伝えたとも評価できない。
オ 以上から、本件発言により提供された情報は正確ではなく、また、情報伝達の時期や方法も労働組合の利益に反しないものとはいえないから、本件発言は、更生管財人による労働組合に対する情報提供義務の履行として適法であるとは認められない。
(4) 不当労働行為意思が存在しない旨の会社の主張について
 本件発言は、争議権の確立という労働組合の運営に関する事項に関し、組合らが争議権を確立したときは、機構は会社に対する出資をしないという不利益を告知する行為であり、労働組合の運営に直接干渉することを認識、認容してなされたものであるから、不当労働行為意思に欠けることはないというべきである。
(5) 労働組合の運営・活動が阻害されたとの結果がなく、また、結果との因果関係もない旨の会社の主張について
 支配介入は、使用者が労働組合の結成・運営に対して影響力を行使する行為をすることで成立し、現実に労働組合の結成・運営に影響を及ぼすことは必要ではない。また、参加人乗員組合では、本件発言後に、執行部が争議権確立の一般投票を中止する決定をしたこと、参加人CCUでは、争議権を確立したものの、投票期間中、争議権の投票を躊躇する旨の意見が寄せられたことが認められるから、現実に組合らの運営に影響があったことが認められる。
(5)  本件命令が本件発言を「支配介入」に当たると判断したことに違法はない。
4 争点(3)-本件命令に至る審理手続に違法があるか
 都労委の審査手続において、会社には主張立証の機会が与えられており、会社の主張立証が不当に制約されたとは認められない。会社は、会社が都労委の審査委員会に対し、詳細な主張、立証の機会を与えるよう求めたところ、都労委の審査委員会から、会社は補充的な書面と証拠提出を行えば足りるとの認識を示される等して、会社の主張立証の機会を制された旨主張するが、都労委の委員らが会社主張のような認識を示した事実があると認めるに足りる証拠はない。また、仮に、そのような認識が示されたとしても、追加の主張立証があるかを問われ、最終的に追加の主張立証はない旨の判断をしたのは会社であるから、会社に対して主張立証の機会が与えられなかったとはいえない。したがって、本件命令に至る審理手続に違法があるとは認められない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成22年(不)第121号 全部救済 平成23年7月5日
東京高裁平成26年(行コ)第369号 棄却 平成27年6月18日
最高裁平成27年(行ツ)第392号、平成27年(行ヒ)第422号 上告棄却・上告不受理 平成28年9月23日
 
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