労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  吹田市 
事件番号  東京高裁平成26年(行コ)第486号  
控訴人  吹田市(「市」) 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  衛都連吹田市職員労働組合現業評議会(「評議会」、大阪衛都連吹田市職員労働組合現業合同支部(「支部」)と併せて「組合ら」)  
判決年月日  平成27年5月14日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 評議会及び支部(組合ら)は、吹田市内の小中学校及び幼稚園の職員(校務員)の配置について、①市が14年協定及び15年協定を遵守せず、これらの協定に定められた職員の配置をしなかったこと、②市が評議会による平成21年6月19日付け団体交渉申入れ(本件団交申入れ)に応じなかったことがいずれも不当労働行為に該当すると主張して、大阪府労働委員会に対し、不当労働行為救済申立てをした。
2 大阪府労委は、支部が本件団交申入れに関与していないとして上記②に係る支部の申立てを却下し、その余の申立てについては、上記①②のいずれも不当労働行為に該当しないとしてこれらを棄却する命令をした。
3 そこで、組合らは、これを不服として中央労働委員会に対し、再審査申立てをしたところ、中労委は、本件初審命令のうち、上記②につき不当労働行為に当たるとして評議会の申立てを棄却した部分を取り消し、市に対し、評議会からの団体交渉申入れに対し誠実に応ずるべき旨を命ずる救済命令を発した。
4 本件は、市が、中労委命令のうち、第1項(本件初審命令のうち評議会の申立てを棄却した部分のうちの一部取消命令)及び第2項(市が評議会からの団体交渉申入れに対して誠実に応じるべきことの命令)の各取消しを求め、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は市の請求を棄却した。
5 これを不服として、市が東京高裁に控訴をした事件の控訴審判決である。  
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用及び被控訴人補助参加人の補助参加によって生じた当審の訴訟費用は、市の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、市の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の理由説示(「事実及び理由」第4)のとおりであるから、これを引用する。
(当審における市の主張に対する判断)
  市は、市が正当な理由なく本件団交申入れを拒否したとする原判決の認定は、労組法7条2号の適用を誤った違法があるから、その取消しを求めると主張するので、以下検討する。
(1) 判断の前提となる事実(略)
(2) 市は、原判決が、市教委〔吹田市教育委員会〕において十分な説明をせず、具体的な回答を十分には示していなかったとし、そのような状況下で、本件団交申入れがされたと認定するが、市は本件団交申入れ以前に評議会側に対して十分な説明や回答を行っているので、原判決の上記認定は合理的根拠を欠き、誤りである旨主張する。
 しかし、校務員の配置自体は管理運営事項であるが、校務員の配置やその労働条件等について職務権限を有する市教委は、組合側からの質問である校務員の人数の根拠や校務員が再任用事務指定とされた理由について、行革室の説明や結論を伝えるにとどまっており、また、再任用短時間勤務職員の週休日にシルバー従業員を配置することによる再任用職員の負担、再任用職員に関する高齢者の配慮や安全配慮、正規職員に比べ非常勤職員の勤務時間が短いことによって生ずる空白の扱いなど、組合側の配置人数の削減に伴う労働条件や労働安全衛生等に関する質問や要望について、市教委は、抽象的に対応を回答するか、それ以降の検討協議を約束するのみで、十分な説明や回答をしていなかったというべきである。
 市は、校務員は1人職場であり、14年協定等と異なる正規職員の配置を行ったことに伴う労働条件への具体的な影響はない旨主張する。しかし、配置人員の総数に変更がないとしても、正規職員の配置数が減るとともに再任用短時間勤務職員の配置数が増えることによって、正規職員の異動の機会が減少し、また、正規職員や再任用職員の業務体制や職務範囲、職務内容等に影響が及ぶことは避け難いというべきである。この点につき、市教委と組合側との平成24年度の校務員配置体制についての組合協議において、市教委は、正規職員36名体制の業務イメージ図を組合側に示したが、その書面には、3校の校務員による共同作業を想定した予定表の記載があった。これによれば、市教委も、正規職員の減少によって校務員の業務体制や職務範囲、職務内容等に影響が及ぶことを想定していたと認められる。そして、仮に、14年協定等と異なる正規職員の配置が行われた結果、校務員の時間外勤務時間が増加したり、年次有給休暇取得率が下がったりしたという事実がなかったとしても、正規職員配置数の削減と時間外勤務時間の増加や年次有給休暇取得率の低下との間の相関関係は必ずしも明らかではなく、そのことが上記判断に影響を与えるものということはできない。したがって、控除人の上記主張は理由がない。
 市は、評議会側から、正規職員数の削減に伴って労働条件や労働安全衛生に関し、どのような問題が生じるかについて具体的な事項が指摘されたことはなかった旨主張する。しかし、組合側は、市教委の平成20年12月17日の説明会において、非常勤職員の技能継承や非常勤職員と正規職員との勤務時間差への配慮、再任用短時間勤務職員の週休日にシルバー従事者を配置することによる再任用職員の負担の問題等を指摘している。また、市教委と組合らとの平成21年2月16日の組合協議では、再任用短時間勤務職員の週休日にシルバー従事者が勤務することについて、再任用短時間勤務職員から週休日のシルバー従事者と会ったことがない旨の不満やシルバー従事者を直接指揮すると偽装請負になること、高齢者への配慮だけでなく、安全配慮についても具体的に示すように指摘している。したがって、市の上記主張は理由がない。
 そうすると、市教委が本件団交申入れ以前に組合側に対して十分な説明や回答を行っていたとする市の前記主張は、採用することができない。
(3) 市は、評議会側に対し、本件団交申入れ後も可能な範囲で必要な説明を尽くしてきた上、具体的な対応も行ってきたので、本件団交申入れ後の事情からしても団体交渉の必要性は認められないと主張する。
 しかし、本件団交申入れ後の事情は、市教委と市職労、組合ら及び分会との間で、平成22年1月5日及び同年3月2日、平成22年度の校務員の配置体制について組合協議が行われ、また、市教委と組合ら及び分会との間で、同年9月6日及び平成23年3月18日、平成23年度の校務員の配置体制について組合協議が行われ、さらに市教委と組合側との間で、同年7月12日、同年12月8日及び平成24年2月27日、平成24年度の校務員の配置体制について組合協議が行われた。これらは、組合協議であって、本件団交申入れに対応して開催された団体交渉ではない。また、平成21年9月1日から平成24年4月16日までの間、市教委と市職労(評議会)との間で、人員補充、配置体制、校務員に関する労働条件や労働安全衛生等について窓口協議や組合説明協議、組合協議、窓口交渉が行われたことが認められる。これらも、窓口協議や組合協議等であって、本件団交申入れに対応して開催された団体交渉ではない。したがって、市教委と評議会との間で、窓口協議や組合協議等において、人員補充、配置体制、校務員に関する労働条件や労働安全衛生体制等について質疑応答がされたとしても、団体交渉の必要性が否定されるものではない。他に団体交渉の必要性を否定させるような事情はうかがえない。
 そうすると、本件団交申入れ後の事情からしても団体交渉の必要性は認められないとする市の前記主張は採用することができない。
(4) 市は、本件団交申入れが、交渉担当権限のない市長に対してされたものであり、交渉窓口を誤った不適法な団交申入れであるから、これに対して適法な窓口を案内した市の対応が団体交渉の拒否と評価されるべきものではないと主張する。
 しかし、本件団交申入れは、市に対し、14年協定に基づく欠員補充だけでなく、校務員の配置の変更に伴う職務範囲や職務内容、職場環境の整備等について団体交渉を申し入れているものと解するのが相当であり、そのうち、欠員補充自体は管理運営事項であるから、団体交渉の対象とすることはできないが、その余の事項は職員(校務員)の労働条件に関する事項に該当するものを含んでいるから、団体交渉の対象となり得る事項である。そして、校務員の配置自体は管理運営事項であるが、校務員の配置やその労働条件等について職務権限を有する市教委は、組合側からの質問である校務員の配置人数の根拠や校務員が再任用事務指定とされた理由については、行革室から示された説明や結論を伝えるにとどまり、また、正規職員数の削減に伴う労働条件や労働安全衛生等についても、将来の検討協議を約束するものの、具体的な説明を十分にしていなかった。本件団交申入れは、そのような職務権限を有する市教委が組合側に対し十分な説明や回答を行っていない状況においてされたものということができる。つまり、評議会は、本来職務権限を有する市教委が組合側からの要求等に対して責任と権限をもった十分な対応をしていないとして、校務員の使用者であり、交渉当事者である市に対し、本件団交申し入れを行ったものということができる(なお、本件団交申入書は、市の市長に宛てたものとなっているが、本件団交申入れ前後の事情を考慮すると、市に対するものと理解される。)。
 以上によれば、本件団交申入れは、交渉当事者である市に対してされたものであって、交渉窓口を誤った不適法な団交申入れであるということはできないから、市の前記主張は理由がないというべきである。
(5) 市は、評議会側が本件団交申入れにおいて求めていたのは、専ら14年協定どおりの人員配置に尽きるところ、それは管理運営事項そのものであり、原判決は、評議会側が何を求めていたのかについて、十分な評価・検討を加えておらず、誤った判断に陥ったものであると主張する。
 しかし、本件団交申入れに係る交渉事項は、①14年協定に係る協定書に基づき早期に欠員補充を行うこと、及び、②14年協定に係る協定書及び確認書に照らして不履行となっている点については直ちに必要な予算措置を行い実施することであり、市長に宛てた本件団交申入書には、労使協定どおりに正規職員を配置することや、確認書に基づく職場環境を整備することについて履行を求め、関係部局に人員補充の要請をしたが、実現に至らなかったそれまでの当局の対応を非難し、労働協約を履行できる権限を有する市長に団体交渉に応じることを求める旨の記載がある。そして、14年協定に係る協定書及び確認書には、正規職員等の配置のみならず、これと関連する細目事項として校務員の職務の内容及びその範囲についての取決めが含まれている。
 これらの事情に照らせば、本件団交申入れは、市に対し、14年協定に基づく欠員補充だけでなく、校務員の配置の変更に伴う職務内容や職務範囲、職場環境の整備等について団体交渉を申し入れているものと解するのが相当である。そして、本件団交申入れに係る事項のうち、欠員補充自体は管理運営事項であって、団体交渉の対象とすることは許されないというべきであるが、その余の事項には管理運営事項に当たらず、職員の労働条件に関する事項に該当するものを含んでいるから、団体交渉の対象となり得る事項であって、市が団体交渉応諾義務を負う事項であるというべきである。
 したがって、評議会側が本件団交申入れにおいて求めていたものが専ら14年協定どおりの人員配置に尽きるということはできず、この点に関する市の主張は、採用することができない。
(6) 以上によれば、市は、正当な理由がなく、本件団交申入れを拒否したということができる。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成21年(不)第66号、同(不)第80号 却下、棄却 平成23年8月2日
中労委平成23年(不再)第55号 一部変更 平成25年4月3日
東京地裁平成25年(行ウ)340号 棄却 平成26年11月17日
 
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