労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  大阪府 
事件番号  大阪高裁平成26年(行コ)第148号 
控訴人  大阪府(「府」) 
被控訴人  大阪府同代表者 
同代表者兼処分行政庁  大阪府労働委員会(「府労委」) 
被控訴人補助参加人  大阪教育合同労働組合(「組合」) 
判決年月日  平成27年1月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 大阪府内の公立学校の常勤講師,非常勤講師等が加入する労働団体である組合が,府に対し,組合員の労働条件等に関する団体交渉を申し入れたところ,府は,組合に対し,交渉員の数及び氏名を明らかにした名簿を事前に提出することなどを求めたが,組合が要求に応じなかったことから団体交渉に応じないとの対応をとった。
2 これに対し,組合は,労働組合法(以下「労組法」という。)7条2号の正当な理由のない団体交渉の拒否であり不当労働行為に当たるとして,第一事件,次いで第二事件に係る救済申立てをし,府労委は,地方公務員法(以下「地公法」という。)の適用を受ける組合員に関する申立てについては組合に申立適格を認めることができないから不適法な申立てであるとして却下したものの,労組法の適用を受ける組合員に関する申立てについては組合の申立適格を認めた上で,不当労働行為に当たるとして,府に対し,同様の行為を繰り返さないことなどを記載した文書を組合に交付することを命ずる旨の命令をした。
3 本件のうち原審の第一事件,第二事件は,府が,同命令のうち上記文書の交付を命ずる部分の取消しを求める事案である。
4 原審は,府の各請求をいずれも棄却する旨の判決をしたことから,府が控訴を提起したのが,本件である。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 争点1(組合は,不当労働行為救済命令の申立適格を有するか)について
(1) 労組法は,使用者に対して労働組合に関する一定の行為を不当労働行為として禁止し,その違反につき労働委員会による救済手続を定めているが,団体が労組法に基づく不当労働行為救済命令の申立適格を有するのは,当該団体が労組法2条の定める労組法上の労働組合である場合に限られることとなる。
(2) 一般職の地方公務員は,地公法58条1項により,労組法上の「労働者」に該当しないが,憲法28条の労働基本権の保障が及ぶ「勤労者」であることは明らかであり,その実質は「賃金,給与その他これに準ずる収入に
よって生活する者」(労組法3条)であって労組法上の労働者と異ならないのであるから,一般職の地方公務員が当該団体の主たる地位を占めている混合組合に対し,労組法適用組合員に関する事項について,労組法上の労働組合としての権能を与えたとしても,同組合の構成員となっている労組法適用組合員に対する不当な干渉を招くとか使用者との交渉において対等の立場に立ち,ひいてはその地位を向上させることに支障が生ずるとは考え難い。
  また,地公法52条1項は,職員団体について,「この法律において『職員団体』とは,職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体をいう。」と規定しているところ,同法53条4項において,職員団体が登録を受けるためには,職員のみをもって組織されていることを必要とすると規定しているから,これらの規定からすると,地公法上の職員団体は,職員のみによって組織されていなければならないものではないことは明らかであり,組合のような混合組合も,地公法上,許容されているものというべきである。
  これらのことからすると,現行の法体系において,混合組合について,その組合員・役員の構成において,地公法適用組合員と労組法適用組合員のいずれが主たる地位を占めているかによって,地公法上の職員団体と労組法上の労働組合のいずれかと解すべき理由に乏しく,地公法適用組合員に関する問題については,職員団体として,地公法上の権利を行使することができ,労組法適用組合員に関する問題については,労働組合として,労組法上の権利を行使することができるものと解することができる。そのように解したからといって,実際上の支障があるとは認められない。かえって,上記のように解さないと,組合のような混合組合は,地公法適用組合員と労組法適用組合員のいずれが主たる地位を占めているかによって,地公法又は労組法のいずれかの権利を行使することができなくなり,権利を行使することができない組合員(主たる地位を占めていない組合員)の保護に欠けることは明らかである。
(3) 地公法55条2項は,地公法適用組合員に関する事項について団体協約締結の権限がないことを規定したにとどまるから,混合組合との間で労組法適用組合員に関する事項について労働協約を締結することが同項に違反すると解することはできない。
  また,府は,地公法上の職員団体として登録されるには非現業職員のみをもって組織されていることが必要とされているが,組合が地公法上の職員団体として登録を受けており,当該登録が取り消されていないため,組合を地公法上の登録職員団体として取り扱わざるを得ず,このような組合を混合組合であるからといって,二面的な法的権能を都合良く使い分けることができるというような法解釈は現行法上到底認められないとも主張する。教育合同(職)〔大阪府人事委員会の登録を受けた職員団体である「大阪教育合同組合」〕と組合とが同一の組織であるか否かについては,当事者間に争いがあるが,仮に同一であるとすれば,誤って登録されているというにすぎないのであるから,このような事情は,上記(2)の判断を左右するものと解することはできない。
(4) したがって,組合は,不当労働行為救済命令の申立適格を有すると解することができる。
2 争点2(交渉参加者名簿を事前に提出しないことを理由として団体交渉に応じないことが不当労働行為に当たるか)について
(1) 府は,特定独立行政法人労働関係法10条2項では,特定独立行政法人及び組合は,交渉委員を指名したときは,その名簿を相手方に提示しなければならないと定めているところ,この規定が類推されるか,あるいは地公法55条5項及び6項の解釈の基準になると解することが可能であると主張する。しかし,同法は,特定独立行政法人に勤務する一般職に属する国家公務員を対象とする法律であって,直ちにそれが地方公務員に類推適用されるとか,地公法55条5項及び6項の解釈の基準になると解することはできない。
  したがって,交渉参加者名簿を事前に提出することを義務付けている法規が存在するということはできないし,それが条理上の義務であるとまでいうこともできない。
(2) 平成16年から平成21年までの間においては,府が交渉参加者名簿を事前に提出することなく団体交渉が行われており,府教委〔「大阪府教育委員会」〕が組合に対して,職務専念義務の免除申請をする必要がない者も含めて交渉参加者名簿を事前に提出するよう明示的に求めたとは認められず,また,交渉参加者名簿を事前に提出しないことにより大きな支障が生じていたとも認められない。
  なお,府は,従前から,組合と府教委との交渉の場では,全ての参加者の氏名・所属が明らかではなく,また,参加者が指名又は委任を受けているか否かも分からないまま,出席者が自己紹介もなく勝手に発言するなどの事象が多く見られたと主張するが,交渉における発言者の特定は,発言者が自己紹介をするなどすることにより可能であると考えられ,組合の交渉員が発言する場合は所属学校名と氏名を名乗ることについては,府教委と組合との間で合意が成立しているから,この点が,交渉参加者名簿を事前に提出しないことによる支障とまでいうことはできない。
(3) 組合の交渉担当者の中に,地公法35条に基づく職務専念義務免除の承認手続が必要な職員がいる場合には,その手続が必要であるが,それは,当該職員についてその手続をとることを求めれば足りる(教育長通知はその手続を定めている)のであって,職務専念義務の免除申請をする必要がない者も含めて交渉参加者名簿の事前提出がされなければ上記承認手続をとることができないとは認められない。付加訂正後の原判決前提事実のとおり,組合は,第二事件における協議の過程では,職務専念義務の免除の申請の書類を事前に提出することを承認している。仮に,職務専念義務に違反して団体交渉に参加した組合員がいる場合には,懲戒処分の対象とすれば足りるのであって,そのことに支障がある旨の府の主張は到底採用することができない。
(4) 第一事件について,組合による団体交渉の申入れ及びその後の組合と府教委との協議の経過は,付加訂正後の原判決前提事実のとおりである。府教委は,協議において交渉参加者名簿の事前提出を求める理由について説明しているものの,地公法55条に則る旨の説明をするのみであり,それを超える説明はしていない。そして,その後,交渉参加者名簿の事前提出がない限り,団体交渉はできない旨を通知している。
  第二事件について,組合による団体交渉の申入れ及びその後の組合と府教委との協議の経過は,付加訂正後の原判決前提事実のとおりである。府教委は,交渉開始の直前に当日の交渉参加者が職,氏名等を記入する方法や地公法適用組合員に係る交渉参加者名簿(A様式)と労組法適用組合員に係る交渉参加者名簿(B様式)の2枚に名簿を分けることなどを提案しているものの,地公法55条に基づき交渉参加者名簿の事前提出が必要であるとして,すべての交渉参加者の名簿の事前提出を求めている点では,第一事件のときと変わっていない。
  しかし,交渉参加者名簿の事前提出を求める法令上の根拠がないことは,前記(1)で判示したとおりである。
(5) 以上述べたところからすると,府教委が,従前の扱いとは異なる,すべての交渉参加者の名簿の事前提出にこだわり,組合がこれを事前に提出しないことをもって団体交渉に応じないとしたことは,交渉参加者名簿の事前提出に実益があること(出席者の確認を迅速に行うことができることなど)や他の職員団体は交渉参加者名簿を事前に府教委に提出していることを踏まえても,正当な理由があるとは評価できず,労組法適用組合員に関する事項に関して不当労働行為に当たるということができる。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成23年(不)第42号 一部救済 平成25年1月21日
大阪地裁平成25年(行ク)第17号 却下 平成25年6月17日
大阪府労委平成24年(不)第77号 一部救済 平成25年12月20日
大阪地裁平成26年(行ク)第2号 却下 平成26年3月25日
大阪地裁平成25年(行ウ)第45号(第一事件),同平成26年(行ウ)第8号(第二事件) 棄却 平成26年7月23日
 
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