労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  大阪府 
事件番号  大阪地裁平成25年(行ウ)第45号(第一事件)、同26年(行ウ)第8号(第二事件)  
第一事件原告兼第二事件原告  大阪府(「府」) 
第一事件被告兼第二事件被告  大阪府(処分行政庁・大阪府労働委員会) 
被告訴訟参加人  大阪教育合同労働組合(「組合」) 
判決年月日  平成26年7月23日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合(いわゆる混合組合)は、府が、組合員の労働条件に関する団体交渉申入れに対し、交渉参加者名簿を事前に提出しないことを理由に拒否したことが不当労働行為に当たるとして、第一事件、次いで第二事件に係る救済を申し立てた。
2 大阪府労委は、組合の各救済申立てについて、いずれも地公法適用者については申立適格を否定して却下するとともに、その他の労組法適用者については正当な理由のない団交拒否として労組法7条2項に当たると判断し、文書手交を命じる救済命令をそれぞれ発した。
3 大阪府は、大阪府労委の各命令を不服として、救済命令主文第2項の取消しを求める訴訟をそれぞれ提起したが、同地裁は、大阪府の各訴えを棄却した(なお、大阪府は、各訴えの提起に際して、行訴法25条2項に基づき、本案事件の判決確定まで命令の執行停止を申し立てたが、大阪地裁は、各執行停止申立てをいずれも却下している)。  
判決主文  1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 争点1(本件組合が、労組法適用組合員に関し、労組法上の権利行使ができるか)について
(1)  府は、労組法が労働組合の要件として2条に定める「労働者が主体となって」というのは、組合員の主要部分を労組法上の労働者(同法3条)が占め、それら労働者が組合の運営活動を主導することをいい、本件組合のような混合組合については、その組合員・役員の構成において、地公法適用組合員と労組法適用組合員のいずれが主たる地位を占めているかによって、地公法上の職員団体と労組法上の労働組合のいずれと解するのかを判断すべきである旨主張する。
ア しかし、上記見解によれば、労組法適用組合員が地公法適用組合員が主たる地位を占めている混合組合に加入した場合に、その保護に欠けることになることは否定できない。
(ア) すなわち、上記組合は、地公法53条の登録職員団体としての保護を受けることができない結果、当該組合を通じて当局に交渉に応ずることを義務付けることができない上、他方で、当該組合は、労組法にいう労働組合にも該当しないとされる結果、当該組合を通じて労組法が定める不当労働行為救済手続による保護を受けることはできないことになる。
(イ) これに対し、府は、個々の労働者は、自らが選択し、加入した団体あるいは労働組合に付与されている権利・利益の範囲内でのみ保護を受けることになる旨主張するが、保護を受けることができないのは自己選択の故であると切り捨てるのは相当でない。また、地公法適用組合員と労組法適用組合員が混在している場合に、加入する以前に、その実体を把握することは必ずしも可能とはいえず、加入した結果、自らの意図した権利・利益を享受することができないという事態は労働者の権利保護に欠ける。さらに、使用者と対等の立場で交渉し得る労働組合を一個人が設立するというのは、実質的には不可能ないし著しく困難であって、自ら労働組合を設立すればよいと解することは、やはり労働者の権利保護に欠ける。地公法あるいは労組法が、混合組合の存在を許容していると解されるところ、混合組合の存在を前提としながら、上記のような職員又は労働者の保護に欠ける状態を許容しているものとは解し難い。
イ また、上記見解は、当該労働組合において労組法適用組合員が主体となっていると評価できるか否かで、救済命令の申立適格の有無を峻別する考え方であるが、混合組合において、労組法適用組合員と地公法適用組合員のいずれが主体となっていると評価できるか必ずしも明らかでない場合に、運用上の問題が生ずることは否定できない。
(ア) すなわち量的視点〔量(数)的に多数を占める〕と質的視点〔組合活動への関与の程度〕から主たる地位にある組合員が一致しない場合に、どちらをもって主たる地位にあるというべきかを判断することは困難である。
(イ) 量的視点で決めるとしても、両者が拮抗しているような場合には、当該組合の構成員の変動如何により、当該組合の救済命令の申立適格が変動することになり、法的安定性に欠けることは明らかである。
(2) そもそも、労組法2条が、「労働者が主体となって」いることを労組法上の「労働組合」の要件としているのは、労働者において外部からの不当な干渉を受けないで自ら進んで労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図るための組合を組織することが、使用者との交渉において対等の立場に立ち、ひいてはその地位を向上させることに資するからであると解される(同法1条1項参照)。一般職の地方公務員が当該団体の主たる地位を占めている労働組合に対し、労組法適用組合員に関する事項について、労組法上の労働組合としての権能を与えることが、同組合の構成員となっている労組法適用組合員に対する不当な干渉を招くとは考え難い。また、使用者との関係で利害を共通にするところが多い同一の職場に勤務する者が団結して使用者との交渉等に当たることは、むしろ、労組法適用組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上に資するというべきである。この点、地公法58条1項が一般職の地方公務員につき労組法の適用を除外しているのは、その職務の特殊性と地方公共団体における住民の意思に基づく民主的コントロールの観点から、勤務条件の決定方式が異なるものとされたためであるが、労組法適用組合員に関する限りにおいて、混合組合が労組法上の労働組合であることを肯定し、不当労働行為救済命令の申立適格等を有すると解すれば、前記規定の趣旨にも反しない。
 以上によれば、混合組合は、地公法適用組合員と労組法適用組合員とのいずれが主たる地位を占めているかにかかわらず、労組法適用組合員に関する事項については、労組法上の労働組合に当たり、不当労働行為救済命令の申立適格を有すると解するのが相当である。
(3) なお、組合と〔非現業職員のみをもって組織される地公法上の職員団体として登録されている〕教育合同(職)は実質的には同一の組織であることが認められる。そして、職員団体としての登録が行政処分であって公定力を有するとすれば、府教委において、登録を取り消さない限りにおいて組合を地公法上の登録職員団体として取り扱い、交渉の申入れに応じなければならない(同法55条1項)とともに、前記(2)の立場によれば、労組法適用組合員に関する事項に関し、労組法に基づく団体交渉の申入れにも応じなければならない立場に立つことになるが(同法7条2号)、職員のみで構成される登録職員団体と労組法適用組合員をも構成員とする混合組合とは、同組合員が単純労務職員だけでない場合には、構成員の点において相容れないことは確かである。
 しかし、それは混合組合に労組法適用組合員に関し労組法上の権利の行使を肯定したことにより生じたものではなく、府において、労組法適用組合員が含まれていることを知りながら、登録職員団体として権利の享有を追認してきた府教委の対応によるものであり、上記立場に立たされることを理由に、労組法上の不当労働行為救済命令の申立適格を否定するのは本末顛倒というべきである。教育合同(職)が地公法上の職員団体として登録されていることは、上記(2)の結論を左右するものではない。
(4)  以上からすれば、組合は、労組法適用組合員との関係においては、労組法上の「労働組合」に当たり、同組合員に関する事項についての交渉の申入れは、労組法7条2号の団体交渉の申入れに該当するからそれを正当な理由なく拒めば、不当労働行為が成立し、それについて、組合は、救済命令の申立適格を有すると認められる。
2 争点2(交渉参加者名簿の事前提出を求めた府教委の対応が不当労働行為に当たるか)について
(1)  府は、本件において、上記交渉を拒否した理由として、組合に対し、地公法55条5項、6項及び8項に基づき参加人名簿の事前提出を求めたにもかかわらず、提出しなかったことを挙げる。確かに、組合は混合組合としての職員団体としての性質をも併有しているところ、本件において組合は府に対し、地公法適用組合員に関する事項についても申入事項として団体交渉の申入れをしたものであることからすれば、各団体交渉の申入れについて地公法55条5項、6項及び8項が適用されることとなる。
(2)  そして、 実務的な観点からみれば、事前に交渉参加者名簿を提出することはそれほど困難なことではなく、実益もあるといえ、事前に交渉参加者名簿の提出を求めた府の対応もあながち不合理なものとはいえず、組合以外の他の職員団体は、いずれも交渉の都度、交渉参加者名簿を事前に府教委に提出している。
(3)  しかし、地公法55条の規定をみると、 いずれの規定によっても、交渉参加者名簿を事前に提出することまでをも義務付けているということはできない。また、平成16年ないし平成21年に行われた団体交渉に関して、組合が、府教委に対し、交渉終了後に交渉参加者の職場、名前、職免対象時間を記載した名簿を提出し、職務専念義務免除の手続をとることを求めるという扱いがされていたこと等が認められるところ、府としても、従前は、組合と団体交渉を行うに際して、組合が地公法上の登録団体であることを前提としていたが、交渉参加者名簿を事前に提出することが必要であるとの認識は有しておらず、また、上記取扱いにより大きな支障は生じていなかったと推認することができる。府教委が提出を求める名簿が事前に提出されないとしても、団体交渉を実施するのに、現実的・具体的な不都合が生じるというような事情はうかがわれない。
(4)  以上を総合考慮すれば、 団体交渉が、憲法上保障された権利であり、労働者と使用者が対等の立場で労働条件その他の問題に関して協議を行う重要な権利であり、団体交渉を拒否するには正当な理由が必要であることからすれば、府教委が、事前提出が法律上義務付けられているとまではいうことができない交渉参加者の事前提出にこだわり、従前の扱いに反してまで、組合が交渉参加者名簿を事前に提出しないことをもって直ちに団体交渉に応じないとし、それに固執することは、正当な理由があるとは評価できず、労組法適用組合員に関する事項に関して不当労働行為に当たるといわざるを得ない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成23年(不)第42号 一部救済 平成25年1月21日
大阪地裁平成25年(行ク)第17号 却下 平成25年6月17日
大阪府労委平成24年(不)第77号 一部救済 平成25年12月20日
大阪地裁平成26年(行ク)第2号 却下 平成26年3月25日
平成26年(行コ)第148号 棄却 平成27年1月29日
 
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