労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  株式会社ネオ 
事件番号  広島地裁平成24年(行ウ)第5号 
原告  株式会社ネオ 
被告  広島県(処分行政庁:広島県労働委員会) 
被告補助参加人  X1、X2、X3 
判決年月日  平成26年2月4日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①組合の執行委員長であるX1を平成21年8月1日付けで解雇したこと、②書記長であるX3を同年6月15日付けで降格したこと、及び③副執行委員長であるX2を同年10月1日付けで降格し、同月31日付けで解雇したことが労組法7条1号の不当労働行為であり、また、同年7月7日に申入れがあった団体交渉に応じなかったことが同条2号の不当労働行為であるとして、救済申立て(「本件救済申立て」)があった事件である。
2 広島県労委は、X1の解雇、X3の降格及びX2の降格と解雇は労組法7条1号の不当労働行為に該当すると判断して、会社に対し、X1らの原職又は原職相当職への復帰及び解雇や降格がなければ支払われていた賃金相当額(ただし、X1及びX2に対しては、命令交付日までの間は賃金相当額の半額を控除したもの)の支払を命じ、その余の申立てを棄却した(「本件救済命令」)。会社は、本件救済命令のうち上記認容部分(主文第1項)の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
3 会社は、これを不服として、広島地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(X1の解雇の不当労働行為該当性)について
(1) 会社は、X1の解雇について、次の①から⑦までの事情を挙げ、X1の解雇以外による秩序維持が不可能であるため行ったものであって合理性があると主張するので検討する。
ア フェイバリット店で、会社があと3か月もたない旨の発言をし、給料の前借りを勧めたこと及び従業員に口止めしたこと(①)
イ 前記①に係る報告書の中で、虚偽の内容を報告し、また、その中で「他店の社員が金品横領した」と誹謗したこと(②)
ウ 虚偽の理由を告げて欠勤したこと(③)
エ 自宅待機期間中のフード・リンクへのアクセス及び個人情報の取得(④)
オ 従業員に対し平成21年6月末で解雇されかねないとの不安を与えたこと及び就業活動中に組合活動を行ったこと(⑤)
カ 自宅待機期間中に同じ内容の報告書を提出し続けたこと(⑥)
キ 就業規則の届出を妨害したこと(⑦)
ク X1の解雇の合理性について
 会社がX1の解雇理由として主張する①から⑦までのうち、非違行為と評価し得るのは、①、④、⑥及び⑤のうち就業時間中に組合活動を行ったことである。
(ア) ①については、会社がX1をSV職から一般社員に降格させる以前の行為であり、降格の判断する基礎となった事情であるから、解雇理由として再度評価するべきではない。
(イ) ④については、事業譲渡以前はフード・リンクへのアクセス権限がある者全員が同一のIDパスを利用していたこと、X1が本件事業譲渡前後で同じSV職にあったこと、会社がアクセス権限を変更した後に、X1に対して従明確な説明をしていないこと、質問に対する総務課長の答えが「直接閲覧してください。」という曖昧なものであったことからすると、X1が、自己にフード・リンクの閲覧権限があると誤解していた可能性は否定できない。個人情報を業務外の目的のために利用したことについても、現実に会社の業務に対して大きな不利益があったとまでは認められないから、重大な非違行為とまではいえない。
(ウ) ⑤のうち就業時間中に組合活動を行ったことについては、重大な非違行為とはいえないし、⑥についても、不適切な行為であるが、これにより他の従業員の士気低下を招くなど直接的な影響があるわけではないから、重大な非違行為とはいえない。
(エ) したがって、会社がX1の解雇理由として挙げた事情を考慮しても、X1の解雇に合理的な理由があるとは認められない。
(2) 以上を踏まえ、X1の解雇の不当労働行為該当性について検討する。
ア X1の解雇の時期について
(ア) X1は、平成21年6月1日に本件組合が結成されてから、自宅待機中にも組合活動を行い、会社との対立が激しくなる中で、執行委員長として交渉を行っていたところ、解雇されるに至ったことが認められる。また、Y2オーナーは、X3の降格と近接した時期からX1の解雇を決めていたことが推認されるから、X1の解雇が非違行為のみを理由とした処分でなく、組合活動と関連があることが強く推認される。
(イ) 会社は、Z3とY2オーナーとの会話については、X3の降格を話題に出していることからすると、会話が行われた時期は、X3の降格からほぼ間がない時期であったと認められるものである。
イ 会社の反組合的な言動
(ア) Y1社長及びY2オーナーは、本件組合結成直後の平成21年6月8日、X3に対して、組合を結成したのかを確認し、「X1君を取るか、私を取るか二者択一だ」と発言したこと、労働組合を批判する内容の発言をしたり、組合活動をけん制して本件組合に対する不信感をあおるような内容の本件店舗通達を全従業員向けに発したり、従業員に対して組合所属の有無を確認したりしたことが認められ、会社のこれらの発言等は、反組合的な態度の表出であると評価せざるを得ない。
ウ X1の解雇に至るまでの会社の対応
(ア) 解雇は労働者の生活にとって極めて重大な不利益をもたらすことから、使用者は、非違行為に対してまずは軽度の懲戒処分等により、本人に警告して注意を促し、弁明の機会を与えることが求められているところ、会社は、そのような措置をとっていない。
(イ) 会社は、X1に対し、当日のFAXによる解雇通知書及び解雇理由書の送付や、電話による連絡のみによって通知しており、十分な弁明の機会を与えているとはいえない。
(3) 以上のとおり、X1の解雇は、重大な不利益処分をするに足りるだけの合理的な理由が認められないにもかかわらず、会社と本件組合との対立が深刻化する中で、適切な手続を経ることなく性急に行われたものであり、その前後にはY1社長やY2オーナーが反組合的な言動をとっていること、降格直後からY2オーナーらがX1を解雇することを決めていたと推認されることといった事情も認められるから、会社が、非違行為ではなく、X1の組合活動の故をもってこのような不利益処分を行ったことが推認でき、労組法7条1号の不当労働行為に該当するというべきである。
2 争点2(X3の降格の不当労働行為該当性)について
(1) 会社は、X3の降格について、以下の①から⑥までの事情を挙げ、降格には合理性があると主張するので検討する。
ア 従業員へのパワー・ハラスメント(①)
イ アルバイト従業員へ雇用契約書を交付しなかったこと(②)
ウ 勤務時間中に組合活動を行ったこと(③)
エ 会社からの報告要求に対して虚偽の報告をしたこと(④)
オ タイムカードの不正打刻をした従業員への名誉棄損(⑤)
カ 近隣住民とのトラブルやクレーム処理の不適切さ(⑥)
キ 本件降格の合理性について
 会社がX3の降格の理由として主張する①から⑥までのうち、不適切な行為と評価できるのは、①、③及び④のみである。
(ア) 本件のX3の降格は、店長から一般社員に3段階も職制が下がるものであり、賃金も月10万円減額されるという重大な処分である。
(イ) 他方、その理由について検討すると、③については、不適切な行為とはいえ店舗の営業に与えた影響はそれほど大きいものではなく、重大な非違行為とはいえない。また、①についても、会社が適切な注意や指導を行っていれば解決できたものと考えられ、重大な非違行為とはいえない。④については確かに不適切な行為であるとはいえるが、会社は、結局、従業員から事情を聞き取ったり報告書を提出させたりすることで事情を把握し、X1を降格させているのであるから、会社の活動に重大な支障を与えたとはいえない。
(ウ) このように、X3の行為は、不適切な点も認められるものの、前記(ア)のような重大な不利益を受けるほどの非違行為とはいえないから、本件X3の降格に合理的な理由があるとは認められない。
(2) そこで、X3の降格の不当労働行為該当性について検討する。
ア X3の降格の時期
 会社は、平成21年4月には会社の主張する降格理由のうち①及び⑥を認識し、当初は何ら注意等をすることなく放置しておきながら、同年6月8日にX3から本件組合を結成したことを聞いてから間もない同月12日には、降格の辞令を発令している。このような経緯からすると、降格処分は非違行為のみを理由とするものではなく、本件組合の結成及び組合活動を理由とするものであることが推認される。
イ 処分理由の変遷
 X3が降格される以前において、会社が①の事実について問題視していたことは認められないところ、会社は、本件救済申立ての審査に至って①も降格理由だと主張しており、処分理由が変遷している。
ウ X3の降格に至るまでの経緯及び降格後の対応
 降格理由の①及び⑥は、会社が適切な時期に本人に対して注意や指導を促すことで解決することが十分に可能であって、直ちに降格理由となるものではないと解されるところ、会社はそのような過程を経ることなく唐突に異動を発令しており、対応が性急で不適切であったといわざるを得ない。
エ 以上に加えて、会社側に反組合的な言動があったと認められる。
(3) 以上のとおり、X3の降格は、このような重大な不利益処分をするに足りるだけの合理的な理由が認められないにもかかわらず、適切な手続を経ることなく性急に行われたものであり、その前後にはY1社長やY2オーナーが反組合的な言動をとっていること、処分当時降格理由が明らかにされず、当時の行動から推認される降格理由と、本件救済申立ての審査及び本件訴訟において会社が主張する降格理由が変遷していること等の事情が認められるから、会社が、非違行為ではなく、X3が組合員であること又は組合活動の故をもってこのような不利益処分を行ったことが推認でき、労組法7条1号の不当労働行為に該当するというべきである。
3 争点3(X2の降格及び解雇の不当労働行為該当性)について
(1) X2の降格について
ア 会社は、X2の降格について、以下の①から③までの事情を挙げ、降格には合理性があると主張するので検討する。
(ア) X1に対するフード・リンクのIDパスの漏えい(①)
(イ) 本件署名文書について第三者に伝えたこと(②)
(ウ) 前記②についての報告書等の提出を拒否したこと(③)
(エ) 会社がX2の降格理由として主張する①から③までの事実は、全て非違行為とは評価できないから、X2の降格に合理的な理由があるとは認められない。
イ 以上を踏まえて、X2の降格の不当労働行為該当性について検討する。
(ア) 処分理由の変遷
 X2の降格に先立ち訓戒処分がされた当時、その理由としてX2に伝えられていたのは③だけであり、会社は、本件救済申立ての審査及び本件訴訟に至ってから①及び②の理由を追加したもので、降格処分の理由に変遷が認められる。
(イ) X2のみを処分していること
 上記②の行為については、本件署名文書自体が組合活動を妨害する不穏当な内容であるのに、会社は作成者等を調査せず、一方的にX2だけを降格処分の対象としていることが認められる。執行委員長であるX1の名誉毀損ともなりかねない内容であるにもかかわらず、書面において攻撃されているX1に対して本件文書の写しを交付したX2だけが降格されていることから、会社が本件組合や組合活動に対して悪感情を抱いていることが推認される。
(ウ) 以上に加えて、会社と本件組合の対立が深刻化する中でX2の降格が行われたことや、会社側に反組合的な言動が認められる。
ウ 以上のとおり、X2の降格は、このような不利益処分をするに足りるだけの合理的な理由が認められないにもかかわらず、会社と本件組合との対立が深刻化する中で、本件署名文書の作成者等は処分することなくX2のみを対象にして行われたものであり、従前Y1社長やY2オーナーは反組合的な言動をとっていたこと、処分の理由が処分当時から変遷していること等からすれば、X2の非違行為ではなく、組合活動又はX2が組合員であることを理由としてされた不利益処分であることが推認できるから、労組法7条1項の不当労働行為に該当するというべきである。
(2) X2の解雇について
ア 会社は、X2の解雇について、④から⑥までの事情を挙げ、解雇には合理性があると主張するので検討する。
(ア) パートタイム従業員に対して「給与の未払が発生する。」等の虚偽の事実を伝え、従業員が集団で退職する行為をそそのかしたこと(④)
(イ) Z5社員が病気による欠勤であるとの虚偽の報告をしたこと(⑤)
(ウ) 訓戒の処分を受けたのに、④及び⑤の行為を繰り返したこと及び報告を求められたのに拒否したこと(⑥)
(エ) ④及び⑥の行為については、非違行為と評価できる可能性がある。とはいえ、④の事実については、大量退職に至った経緯について慎重に調査してから非違行為の重大性を判断する必要があるし、⑥については、X2の報告書以外にも、従業員に対して調査するなど、会社が事態を把握するための方法がないわけではないから、X2の報告書提出拒否そのものが会社の業務に与えた影響は大きいとはいえず、重大な非違行為とまでは認められない。
イ そこで、X2の解雇の不当労働行為該当性について検討する。
(ア) 解雇に至るまでの会社の対応等
 X2がCKでした異動挨拶がパート従業員らの大量退職の端緒となった可能性は高いものの、事実関係について十分な調査を行わないまま、X2に対して解雇という重大な処分を行った会社の対応は適切とはいい難い。また、解雇という重大な処分について、会社がX2に十分な弁明の機会を与えたということはできず、不適切である。
(イ) 処分理由の変遷
 会社は、上記①から⑥までの事実全てを解雇の理由としてX2に通知していた。その後、本件救済申立ての審査においても降格と解雇に係る理由を区別して主張していなかったところ、本件訴訟の途中で、①から③が降格理由、④から⑥が解雇理由であると区別して主張するに至ったものである。
(ウ) 以上に加えて、会社と本件組合の対立が深刻化する中でX2の解雇が行われたことや、会社側に反組合的な言動が認められる。
ウ 以上のとおり、X2の解雇について、会社が解雇理由として挙げた非違行為が重大な非違行為に当たる可能性は否定できないものの、会社は、事実の調査を十分に行わず、また、弁明の機会も十分に与えないまま、解雇という重大な不利益処分をしているのであり、従前Y1社長やY2オーナーは反組合的な言動をとっていたこと、処分の理由が処分当時から変遷していること等からすれば、X2の解雇は、X2の非違行為ではなく、組合活動又はX2が組合員であることを理由としてされた不利益処分であることが推認できるから、労組法7条1号の不当労働行為に該当するというべきである。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広労委平成21年(不)第8号 一部救済 平成23年12月27日
広島高裁平成26年(行コ)第4号 棄却 平成26年8月29日
最高裁平成27年(行ツ)第439号・平成27年(行ヒ)第485号 上告棄却・上告不受理 平成27年9月29日
 
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