労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  田中酸素(21年冬季賞与団交等) 
事件番号  東京地裁平成24年(行ウ)第783号 
原告  田中酸素株式会社 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  田中酸素労働組合 
判決年月日  平成26年1月20日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が、平成21年10月22日付け労働協約(本件労働協約)に反し、団体交渉に決定権限を有していない者を出席させたこと、本件労働協約及び平成21年12月19日の団体交渉における合意事項(本件合意事項)に反し、賞与及び昇給に係る団体交渉の申入れ及び査定に使用した資料等の提示を行うことなく平成21年の冬季賞与、平成22年1月の昇給及び同年の夏季賞与を支給したこと、平成22年1月26日及び同年3月22日の団体交渉の申入れを拒否したこと等が不当労働行為に当たるとして、救済を申し立てた。
2 山口県労委は、平成21年冬期賞与及び平成22年1月の昇給に係る会社の対応は、不当労働行為に該当するとした上で、会社に対し、組合との間の今後の賞与又は昇給に関する団体交渉において、本件労働協約を遵守し、必要な資料を提示して、会社の主張の根拠を具体的かつ合理的に説明し、誠実に対応しなければいけないことを命じる一方、その余の申立てを棄却した(本件初審命令)。会社は、これを不服として、中労委に再審査を申し立てたが、中労委は、申立てを棄却した(本件命令)。会社は、これを不服として東京地裁に取消訴訟を提起した。
3 本件は、会社が提起した取消訴訟一審判決である。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。  
判決の要旨  1 争点(1)(平成21年の冬季賞与及び平成22年1月の昇給に係る会社の対応が労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するか。)について
(1) 平成21年の冬季賞与に係る会社の対応について
ア 会社は、平成21年12月21日の団体交渉において、組合に対し、「平成21冬の賞与一覧表」を提示して説明し、加えて、同賞与総額600万円の根拠についても「夏と同等には払おうということで600万円となった」旨説明しており、これらの説明で十分理解できると思料されるから、不誠実な対応であるとはいえない旨主張する。
イ そもそも会社と組合との間では、本件労働協約において、賞与及び昇給に係わる団体交渉で会社が売上げ、利益その他査定に使用した資料並びに組合員各々の査定結果を提出するものとされているから、本来であれば、平成21年の冬季賞与の支給金額等が決定した後の平成21年12月19日の団体交渉において、会社は、本件労働協約の2の④(「会社は、売上・利益・その他査定に使用した資料並びに組合員各々の査定結果(査定表等)を提出する。」)に従い、売上げや利益等がわかる資料を提示して説明する必要があったのであり、同日の団体交渉において組合が本件労働協約に基づき資料を提示して交渉すべきである旨要求したことは、本件労働協約に基づく正当な要求であるというべきである。したがって、会社は、本件労働協約及び本件合意事項に従い、同月21日の説明の場において、冬季賞与総額600万円の根拠とした資料(本件合意事項①)、売上げ、利益その他査定に使用した資料及び組合員の人事考課表(本件合意事項②)を提示して説明しなければならないところ、「平成21冬の賞与一覧表」以外の資料を提示しなかった会社の対応は、本件労働協約及び本件合意事項に明らかに反するものである。
ウ 平成21年12月21日の会社の対応は、本件合意事項に反するものと認められ、加えて、前記のとおり、組合から会社に対し、平成21年の冬季賞与の支給金額の決定に使用した資料の提示が繰り返し求められたにもかかわらず、平成22年4月22日の団体交渉や同年6月10日の団体交渉に至っても当該資料が提示されていないことからすれば、平成21年の冬季賞与に係る会社の対応は、本件合意事項及び本件労働協約に基づく会社及び組合間のルールに従って誠実に対応したものと認めることはできない。
(2) 平成22年1月の昇給に係る会社の対応について
本件労働協定の2では、昇給に関し、会社は、決定次第、団体交渉の申入れを行い、昇給の支給以前に団体交渉を行うこととされているが、上記のとおり、会社は、平成22年1月中旬以降に同月の昇給について職能給は現状維持とすること等を決定したにもかかわらず、組合に対して団体交渉の申入れをしておらず、組合からの申入れに基づき平成22年2月5日に予定されていた同年1月の昇給に係る団体交渉を、会社側の都合で延期し、その結果、支給日以前に団体交渉を行うことなく同月の昇給の内容を口頭で全社員に通知して同月分の給料を支給しているのであり、その後、組合から繰り返し平成22年1月の昇給額を決定した資料等の提示が求められていたにもかかわらず、会社がこれを提示したとは認められないから、このような会社の対応は、本件労働協約に反するものであり、誠実に対応したものと認めることはできない。
(3) 平成21年の冬季賞与及び平成22年1月の昇給に係る会社の対応は、本件労働協約及び本件合意事項に反するものであり、誠実な対応であるとは認められないから、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するというべきである。
2 争点(2)(救済の利益の存否)について
(1) 会社は、平成21年の冬季賞与及び平成22年1月の昇給に係る会社の対応に仮に不当労働行為と認定される行為があったとしても、Y3の指導により会社における団体交渉への取り組みが改善された結果、平成21年1月以降の団体交渉において会社に不誠実な点は存しないから、会社において将来同種の行為が繰り返されるおそれがあるとは認められない一方で、X1の暴言は、誠実な団体交渉の実現を困難にするものであるからこれをやめる必要があるところ、Y3の指導による団体交渉の正常化に組合が抵抗している実情や平成24年8月4日の暴力事件の発生等の事情を踏まえると、今後の団体交渉の場の内外で同様の暴言や暴行が繰り返されるおそれがあると優に認められるから、本件初審命令のような救済命令を発すべき救済の利益は失われている旨主張するので、以下、検討する。
 なお、前記1において不当労働行為に該当すると認定された会社の行為は、平成21年12月以降に行われた団体交渉等における平成21年の冬季賞与及び平成22年1月の昇給に係る会社の対応であるところ、会社が本件において主として問題としている組合(X1)の「刺し殺す」等の暴言は、直接的には団体交渉における上記議題に関するものとまではいい難いし、時期的には同年8月3日の団体交渉において発せられたものであるから、組合の暴言等を理由に、前記1において認定した会社による不当労働行為の存在自体が否定されるものではない。
(2) 前記のとおり、会社は、会社が同種の行為を繰り返すおそれがない一方で、組合による暴言等は今後も繰り返されるおそれが優に認められる旨主張する。
 しかし、労務管理の経験を買われて平成21年1月に総務部長代理として採用されたY3が加わって以降の団体交渉においても、不当労働行為に該当する対応が認められるのであるから、会社が主張するようにY3が入社した平成21年1月以降の団体交渉において会社に不誠実な点が存しなくなったとはいえないのであり、Y3が団体交渉に関与することをもって直ちに会社において将来同種の行為が繰り返されるおそれがないと認めることはできず、他にこれを裏付ける具体的な事情は見当たらない。
 他方、組合の団体交渉における暴言等に関しては、はなはだ不適切かつ不穏当な発言をし、これに対して会社が団体交渉の実施を控える旨を組合に通知したことのほか、これに先立つ平成21年12月の団体交渉においても、組合からY3に対して侮辱的発言があり、会社が組合に対して態度を改めるよう要求していたことなども認められるのであり、組合が会社からの改善要求にもかかわらず団体交渉において不適切な態度を繰り返す状況であったこと自体は否定できない。しかしながら、会社が、平成21年12月以降に行われた団体交渉等において、組合からの再三の要求にもかかわらず、本件労働協約や本件合意事項に従った対応を必ずしもとっていなかったことなど、従前の経緯を踏まえると、このような団体交渉における会社の対応が、組合が団体交渉において上記のような態度をとったことの原因又は誘因の一つになっていた可能性も必ずしも否定することができないとも考えられるのであるし、団体交渉における組合の上記の態度をもって直ちに、組合が今後の団体交渉において、いかなる議題であるかにかかわらず、又は会社の対応にかかわらず、繰り返し同様の態度をとるであろうとも、これを前提とした上で会社が今後の組合との団体交渉において何ら本件労働協約等に従った対応をとる必要がないとも認めることはできないというべきである。
 さらに、会社は、X1の数え切れないほどの暴言、暴力を含む傍若無人な振る舞いは労働組合活動の名の下に正当化されるものではなく、会社に対してのみ厳しい中労委等の判断は、公平、公正でない旨主張し、平成20年12月から平成24年5月までのX1の勤務状況についてX1の上司であるY4の陳述書を提出し、また、平成24年8月4日の暴行事件の発生に関する証拠を提出する。しかし、これらの事実が認められるとしても、X1の言動等の多くは、組合の代表者の立場として行ったものというより、むしろ、会社の一従業員の立場として行ったものと解されるから、本件において問題となる救済の利益の有無に直ちに影響を及ぼすものとはいい難いというべきである。以上のほか、今後の団体交渉において会社が同種の行為を繰り返すおそれがないこと又は組合が暴言等の不適切な態度を繰り返すおそれが高いことを具体的に裏付ける事情を認めるに足りる証拠はない。
(3) よって、本件命令を発する時点で組合に救済を与える利益又は必要性が失われたものとは認めることができないから、救済の利益が喪失した旨の会社の主張は、理由がないというべきである。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山労委平成22年(不)第1号 一部棄却 平成23年12月8日
中労委平成23年(不再)第89号 棄却 平成24年10月3日
東京高裁平成26年(行コ)第63号 棄却 平成26年6月25日
 
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