労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ダイワボウレーヨン 
事件番号  広島高裁平成25年(行コ)第8号 
控訴人  ダイワボウレーヨン株式会社 
被控訴人  島根県(処分行政庁・島根県労働委員会) 
被控訴人補助参加人  X1(個人) 
判決年月日  平成25年11月13日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 X1は、会社が、X1が正当な組合活動(平成20年7月25日、ゼンセン同盟大和紡績労働組合(以下、組合)本部委員長の信任投票において、会社側が支持していたX2が不信任となったことに関するX1の一連の対応ないし言動)をしたことの故をもって、X1を本件退職(ダイワエンジニアリングへの転籍を理由とする、X1の会社からの20年12月20日付け退職)としたことが不当労働行為に当たるとして、救済を申し立てた。
2 島根県労委は、本件退職が労組法7条1号に当たるとして、①本件退職をなかったものと扱い、X1を原職復帰させること、②文書掲示を命じた(本件救済命令)。
3 会社は、これを不服として、松江地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。
4 本件は、これを不服として、会社が広島高裁に控訴した事件の控訴審判決である。  
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 当審における訴訟費用はすべて控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 本件救済命令における審理手続の違法の有無(争点(1)、(2))
(1) 申立期間の徒過(争点(1))について
 会社は、X1は平成20年12月8日に会社に対して退社申請書を提出し、会社は直ちにそれを受理したから、X1と会社との間では同日に合意退職が成立しており、不当労働行為救済申立ての除斥期間である1年の始期となる「行為の日」は同日であり、X1の不当労働行為救済申立ては、除斥期間経過後の申立てとして不適法であると主張する。しかし、退職という不利益取扱いは、現実に退職した日に手続が完結して効果が発生するものであるところ、X1は、平成20年12月20日、ダイワエンジニアリングへの転籍を理由として会社を退職した(本件退職)のであるから、除斥期間の始期は、退職することによって不利益取扱いが現実化した同日の翌日の同月21日と解すべきである。したがって、同日から1年以内である平成21年12月16日にされ、翌同月17日に受け付けられたX1の不当労働行為救済申立ては、申立期間遵守の点においては完全に適法であると認められる。
(2) 審理手続の公平性(争点(2))について
 会社は、本件救済命令に係る島根県労委の審理手続には、客観的公平性・公正性に疑問を生じさせる点が存在するとして、その根拠として、会社が本件救済命令の審理に際して公益委員である審査委員長のZ1弁護士に対する忌避申立てをしたことを挙げる。しかし、Z1審査委員長に対する忌避申立ての理由なるものは、単に同審査委員長が弁護士として他の労働事件において労働組合ないし労働組合員の代理人として労働事件に携わったことがあるというにすぎず、会社の主張によっても、同審査委員長とX1がした不当労働行為救済申立事件との関係からみて偏頗不公平な審理がされるであろうとの懸念を当事者に起こさせるに足りる客観的事情は何ら指摘し得ていないし、本件救済命令に係る処分行政庁の審理手続に関する一件記録を精査しても、処分行政庁の審理手続において客額的公平性・公正性に疑問を生じさせる点は全く見いだせない。
2 本件救済命令における事実認定の違法の有無(争点(3)、(4))
(3) 本件退職の不利益性(争点(3))について
 ①X1は、本件退職によって給料が約20%も下がること、②X1は、本件退職から2年を経ずして実母の介護を理由にダイワエンジニアリングを退職しているところ、この事実からすれば、X1にとっては、実母の介護のために通勤が困難でない勤務地という条件は相当重要なものであったと推認されること、③それにもかかわらず、転籍後のダイワエンジニアリングにおける勤務地は、X1の自宅から自動車で2時間半程度を要する山口県岩国市とされていたため、自宅で妻と共に行っていた実母の介護に困難を来すことは容易に予想されたこと、④本件退職当時55歳であったX1は、60歳の定年を数年後に控えて、長年会社の工場で行ってきた業務とは異なる業務に従事しなければならなくなること、⑤X1は、本件退職によって本件労組の組合員の資格を喪失することが認められる。これらの事実によれば、本件退職は、X1にとって不利益の多いものであったというべきである。
 本件退職が会社都合の退職と扱われたことにより、X1が支給を受けた退職金が自己都合退職の場合と比較して約285万円多額であったことは認められるが、上記の不利益をすべて補うに足りるものとは認め難いし、そもそも、退職金の加算は、X1が退社申請書を会社に提出した後に会社から明らかにされたものであるから、X1にとって本件退職が不利益であったか否かの判断には、直接的には影響しない。
(4) 不当労働行為意思に基づく不利益取扱い(争点(4))について
ア 本件退職が上記(3)のとおりX1にとって不利益な内容であるとしても、本件退職に当たってX1が会社に退社申請書を提出しているため、本件退職は、形式的にはX1の同意に基づくものとなるから、本件退職が不当労働行為に当たると認められるには、本件退職がX1の正当な労働組合活動の故をもってされた会社からの事実上の強制の契機によるものであり、X1は不本意ながらこれに同意したにすぎず、本件退職に対するX1の同意は真意に基づくものではなかったと認められることが必要となる。
イ そこで検討するに、①X2委員長が不信任となった本件定期大会後に、Y1取締役〔平成17年6月から23年3月まで会社の取締役(益田工場勤務)を務め、取締役就任前は、組合益田支部で、昭和57年9月から平成2年9月まで書記長を、同月から17年5月まで益田支部長を務めた〕から連絡を受けたY2工場長は、Y3副部長と相談の上、益田工場の係長及び主任スタッフ全員を3人ないし5人ずつに分けて個別に、会社としてはX2委員長を委員長として支持していく旨の本件訓示をしたこと、②Y1取締役は、本件臨時集会において、本件訓示と同様にX2委員長を支持する旨を繰り返し表明し、また、本件拡大労使委員会において、益田支部がX2委員長に世話になってきたのに益田支部三役がX2委員長の不信任をY4社長に直ちに報告しなかったことや、X4書記長が本件訓示が支配介入ではないかとして外部の機関に相談したことに関して、X1を含む益田支部三役を非難する発言を繰り返し、会社のY4社長は、本件拡大労使委員会におけるY1取締役の発言を全く制止しなかったこと、③X1が益田支部の支部長を辞任する旨の報告に行ったところ、Y1取締役は、益田支部三役全員の辞任が必要である旨示唆し、益田支部三役がそれに従って全員辞任することにしたこと、④X1とY1取締役との複数回の面談において、Y1取締役がX1に対してX1を会社の益田工場には置かない、益田支部の新三役を作るべきである、本当はX1を解雇するところであるが、新三役を作ればダイワエンジニアリングに転籍させてもよいなどと申し向けたこと、⑤会社は、益田支部三役が支部役員を辞任した後、職級の降格はないものの、益田支部三役全員の役職を解き、X1とX4書記長については手当の減少を伴う本件配置転換を行い、X1に対して定常業務を与えないという状況に置いたこと、⑥Y1取締役は、本件配置転換直後、X1に対し、具体的な条件を示してダイワエンジニアリングへ転籍を前提とする本件退職の諾否を迫ったことなどの事実を総合すれば、X1は、本件退職に形式的に同意したものではあるが、Y1取締役を通じた会社による事実上の強制に屈して不本意ながら同意したものであって、その同意は真意に基づくものではなかったというべきであるから、本件退職は、不当労働行為意思に基づく会社による不利益取扱いに当たると認められる。
ウ 益田支部の中央代議員が本件定期大会においてX2委員長を不信任としたか否かはさておき、不信任の理由を聞かせるようにとの第2回中央執行委員会におけるX2委員長の理不尽な要求に対し、X1が代議員による無記名投票である以上答える必要はないと回答したり、X1が本件臨時集会において本件定期大会の信任投票の結果は尊重すべきである旨発言したり、X4書記長ら益田支部三役が本件訓示について不当労働行為に当たるのではないかと考えて調査したりしたことは、労働組合員として何ら不当な活動ではなく、正当な労働組合活動に当たることは明らかである。
エ よって、会社は、X1が正当な労働組合活動をしたことの故をもって、すなわち、不当労働行為意思に基づき、X1に対し、その意に反する本件退職への同意を強制し、本件退職という不利益取扱いをしたものであると認められ、本件において、それを覆すに足りる証拠はない。島根県労委がした事実認定には何らの誤りもなく、極めて正当である。
3 本件救済命令におけるその他の違法事由の有無(争点(5)、(6))
(1) 裁量権の濫用(争点(5))について
 使用者が労働組合員に対して不当労働行為意思を持って不利益取扱いをしたときには、その不利益取扱いは不当労働行為として私法上無効になることは明らかであるところ、本件において、会社は、X1の正当な労働組合活動を嫌悪し、退社申請書を書かなければならないようにX1を追い詰め、現実に不利益な本件退職に至らせたのであるから、本件退職は、不当労働行為として私法上無効である。X1と会社との雇用関係は終了していないとの前提で原職復帰を命じた本件救済命令に救済方法における裁量権の逸脱は認められない。
(2) 被救済利益の存否(争点(6))について
 X1が既にダイワエンジニアリングを有効に退職しているとしても、現にX1が原審裁判所の平成24年11月1日付け緊急命令によって会社に復職しているように、X1を会社に復職させることが客観的に不可能であるとは到底認められないから、X1の被救済利益が失われたと認めることはできない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
島根県労委平成21年(不)第2号 全部救済 平成23年12月1日
松江地裁平成24年(行ク)第1号 認容 平成24年11月1日
松江地裁平成23年(行ウ)第7号 棄却 平成25年4月22日
 
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