労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ダイワボウレーヨン 
事件番号  松江地裁平成23年(行ウ)第7号 
原告  ダイワボウレーヨン株式会社  
被告  島根県(処分行政庁・島根県労働委員会) 
被告補助参加人  X1(個人) 
判決年月日  平成25年4月22日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 X1は、会社が、X1が正当な組合活動(平成20年7月25日、ゼンセン同盟大和紡績労働組合(以下、組合)本部委員長の信任投票において、会社側が支持していたX2が不信任となったことに関するX1の一連の対応ないし言動)をしたことの故をもって、X1を本件退職(ダイワエンジニアリングへの転籍を理由とする、X1の会社からの20年12月20日付け退職)としたことが不当労働行為に当たるとして、救済を申し立てた。
2 島根県労委は、本件退職が労組法7条1号に当たるとして、①本件退職をなかったものと扱い、X1を原職復帰させること、②文書掲示を命じた(本件救済命令)。
3 本件は、会社が提起した取消訴訟一審判決である。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用及び参加費用は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 労働組合法7条1号本文前段
(1) 本件退職が会社による不利益取扱い(不当労働行為)であったといえるためには、①X1が不利益取扱いを受けたこと、②上記①を会社がしたこと、③X1が労働組合の正当な行為をしたこと、④会社に上記③を理由とする不当労働行為意思があったこと、が必要である。上記①に関しては、本件退職が、X1にとって不利益な内容であるというだけでなく、これが形式的には、X1の同意に基づくものであるから、その退職には、会社による事実上の強制の契機があり、X1は、これに不本意ながら同意したもので、その同意は真意に基づくものではなかったことが必要であり、かつ、それで足りる。
2 本件退職が会社による不利益取扱いによるものといえるか
(1) X1がダイワエンジニアリングに転籍して本件退職をすることについては、①X1は、転籍後の勤務地が山口県岩国市(X1の自宅から2時間半程度かかる遠方)とされていたため、自宅で妻とともに行っていた母の介護が因難になったものと推認されること、②会社を辞め、ダイワエンジニアリングへ転籍すると給料が約20%下がること、③定年を数年後に控えて、長年会社の工場で行ってきた業務と異なる業務を行わなければならなくなること、④X1は、本件退職によって組合の組合員資格を喪失したこと、⑤勤務先が岩国市に移ることに伴い、通勤のための負担が増えることが予想されたこと、⑥ダイワエンジニアリングの定年退職時の退職金はそれほど高額ではなかったものと推認されることからすると、本件退職は、X1にとって不利な面が多いことが認められる。そうすると、⑦本件退職が会社都合と扱われたことにより、自己都合退職の場合と比較して多いことが認められるものの、この退職金加算をもって、上記①ないし⑥の不利益を補うものとは認められない。
 以上からすれば、本件退職は、X1にとって不利益な内容のものであると認められる。
(2) 9月24日から11月28日までの間のX1とY2(17年6月から23年3月まで会社の取締役(益田工場勤務)を務め、取締役就任前は、組合益田支部で、昭和57年9月から平成2年9月まで書記長を、同月から17年5月まで益田支部長を務めた)との複数回の面接の中で、Y2は、X1に対し、X1は会社の益田工場には置かない旨、益田支部の新三役を作るべきである旨、本当はX1を解雇するところであるが、新三役を作れば、ダイワエンジニアリングに転籍させてもよい旨、X1が組合益田支部長である間の副支部長及び書記長であったX4及びX3の処遇がX1次第である旨述べるなど働き掛けをし、そのため、X1が、やむなくダイワエンジニアリングへの転籍を前提とする本件退職をするに至ったものである。
(3) さらに、X1は、7月25日の組合委員長信任投票で不信任とされたX2(後の11月23日に再任)を支持するとの会社の意向に反するとみられていたところ、Y2、益田工場長のY3らは、X2の不信任に関する対応につき、連絡ないし相談をし、その上で、臨時集会及び拡大労使委員会(拡大労使委員会においては、当時の会社代表者であったY5も、Y2のX1に対する発言を特に制止していない)が開催されていると推認され、会社の幹部による連携が窺われることからすると、当時の会社取締役であったY2のX1に対する上記働き掛けは会社自身の行為と評価することが相当である。
(4) よって、本件退職は、会社による不利益取扱いによるものであると認められる。
3 会社に不当労働行為意思があったといえるか
(1) X1は、第2回中央執行委員会、臨時集会及び拡大労使委員会において、Y2は益田支部を締め付けていること、X2はY2と密接であること、定期大会の投票の結果(X2の不信任)を尊重すべきことなどの発言をしたが、これらはX1の正当な組合活動に当たる。
(2) ア 7月28日及び29日、益田工場長のY3は、財務・監理部副部長のY4を立ち会わせて、会社側が組合人事に口出しすることはできないと断った上で、益田工場の係長及び主任スタッフ全員(益田支部三役を含む)を3人ないし5人ずつに分け、個別にX2の組合員に対する貢献及びそれに恩義を感じている旨、X2は会社にとって重要な人物である旨、会社としてはX2を委員長として支持してきた旨の訓示(以下、本件訓示)をした。そうすると、①本件訓示は、会社の意見として、X2を組合本部の委員長として支持するというものであり、それを益田支部の組合員に対して働き掛けるものであったものと推認されること、②臨時集会及び拡大労使委員会におけるY2の発言内容は、X2を支持するという点で本件訓示と方向性を同じくするものであり、また、拡大労使委員会において、当時の会社の代表取締役であったY5は、Y2の発言を特段制止していなかったから、Y2の発言は、会社の意向として、組合員に対し、X2支持を表明するものであったと推認されること、③Y2の発言の後、益田支部三役がそろって辞任し、11月1日、21日に行われた本件配置転換(X4が製造課製造一係長兼原液主任から購買グループ、X1が原動工作課技術係長から製造課長付に、X3が原動工作課技術係主任兼技術係保全職長から原動工作課長付に配置転換)では、益田支部三役は、職級に変化がないとはいえ役職を解かれ、手当減少の措置を受けた者もいるというもので、X1については、転換後の定常業務がないものであったから、本件配置転換は、不利益の程度が大きく、益田支部の組合活動に大きな打撃を与えるものであったと推認されること、④本件退職のタイミングは、X1が、臨時集会及び拡大労使委員会においてY2からの度重なる追及を受け、益田支部長の辞任、本件配置転換ないしX2の委員長再任の後になされたというものであったことが認められ、これらを総合すると、特段の事情がない限り、会社に不当労働行為意思があったものと推認される。
イ 以上のとおり、会社の不当労働行為意思が推認されるところ、これを覆すに足りる特段の事情は認め難いから、会社の不当労働行為意思の存在を認定することができる。
(3) 以上のとおり、会社は、X1が正当な組合行為をしたことの故をもって不利益取扱いをしたといえる。
4 被救済利益の有無、本件救済命令の審理手続の違法の存否
 X1は、既に22年9月20日付けでダイワエンジニアリングを退職しているものの、会社に復職させることが客観的にみておよそ不可能とはいえず、X1の被救済利益が消滅しているとは認められず、また、本件救済命令の審理手続において、会社が公益委員の忌避の申立てをしたことは認められるものの、そのことをもって、本件救済命令の審理手続に、客観的公平性・公正性に疑問を生じさせる違法が存在するとも認められない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
島根県労委平成21年(不)第2号 全部救済 平成23年12月1日
松江地裁平成24年(行ク)第1号 認容 平成24年11月1日
広島高裁平成25年(行コ)第8号 棄却 平成25年11月13日
 
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