労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  シオン学園 
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第680号 
原告  全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方労働組合 
原告  全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方労働組合三共自動車学校支部
 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  株式会社シオン学園 
判決年月日  平成25年5月23日 
判決区分  全部取消 
重要度   
事件概要  1 組合らは、自動車教習所を経営する会社が、指導員らに対する平成19年度上期から20年度下期までの各一時金額(本件各一時金)について、支部組合員に対して非組合員と比べて低額に支給したことは労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であるとして、救済を申し立てた。
2 神奈川県労委は、会社は、本件各一時金の支払について、支部組合員らを差別しており、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当するとして、会社に支部との一時金協定所定の平均支給額を基礎とした既支給額との差額の支払およびこれに関する文書手交を命じた。
3 会社が上記救済命令を不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、会社の再審査申立てを認容し、組合の救済申立てを棄却した。
  本件は、組合らが提起した取消訴訟第一審判決である。  
判決主文  1 中央労働委員会が、中労委平成22年(不再)第2号事件について、平成23年3月23日付けでした命令を取り消す。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を除き、被告の負担とし、補助参加によって生じた費用は、被告補助参加人の負担とする。
  
判決の要旨  不当労働行為該当性の判断
(1) 一時金支給額における格差
 支給された一時金について、平成19年上期及び下期並びに20年上期及び下期のいずれにおいても、支部組合員は、非組合員に比して一時金総支給額が各回とも相当に低い傾向にあるとみることができる。上記金額の差は、有意な格差と評価すべきものである。
(2) 組合員集団と非組合員集団の特性
 支部組合員集団はすべて正社員である甲社員であるのに対し、非組合員集団には、相当数の契約社員が含まれていること、前者は、22年当時50代ないし50代に近い年齢の者であるのに対し、後者は、幹部を除けば、30代及び40代が多いという点に差異があるといえる。しかし、支部組合員と非組合員は、いずれも指導員として勤務し、その基本的な業務内容には同一性が認められるのであって、その意味においては同質性を有する集団であるといえる。支部組合員集団は、稼働時間数が相当に少なく待機時間が相当に多いといえるが、本件においては、その時間数の差自体のよって立つところが問題とされているのであって、上記の点を捉えて両集団の同質性を否定することは相当ではない。
(3) 考課制度の導入の経緯等
会社は、考課制度の導入、改訂の提案等の過程で、一貫して、年功序列制度により賃金が高くなっている高年齢層の指導員の実質賃金を下げるために、各提案をしてきたものといえる。また、当該経緯及び赤字の原因は支部組合員の給料が高いことであるという旨の会社の発言等をみれば、会社が、正社員で非組合員と比して高齢の者が多い支部組合員につき、会社に対する貢献度が低いのに高い給与を受ける存在であるとの認識を有していた。
 業績重視の賃金制度を導入すること自体は不合理なこととはいえないが、会社における考課分の拡大は極めて性急なものである。会社は、業績評価による指導員の労働意欲の向上を目的とする趣旨を述べてはいるが、年功序列の賃金体系で高い賃金を受けている指導員に低い一時金を支給し、賃金が低い指導員に高い一時金を支給することにより、賃金総額の幅を狭くすることを査定制度導入及び考課分の割合拡大の理由として挙げてきたのであって、赤字と賃下げを主張し続けてきた会社が、一時金支給の一時停止や従業員の減員,勧奨退職の実施等のような具体的な提案をしないまま、相当に会社に負担がかかるはずの査定制度の維持と考課分の割合の拡大を主張し続けてきたことの合理性には疑問がある。また、一時金の総額自体が著しく減額されている中で、労働意欲の向上に資するような効果を期待することに合理性があるのかにも疑問がある。そうすると、会社が導入した賃金制度については、業績改善のために導入されたことが主たる目的であったというのは疑問がある。また、会社は、これらの制度導入が主として支部組合員に対して経済的打撃を与えるものであることも十分に認識していたといえる。
(4) 考課制度についての説明
  会社は、個々の従業員や支部を、意図的に、その当時、査定結果や査定の根拠の正確性について的確に吟味するだけの情報を知り得ない状態に置いていた。
(5) 労使関係の状況
 ア 16年以降は、支部らが会社による不当労働行為を理由として、県労委への救済申立てを繰り返し行い、また、会社は救済命令に対して取消訴訟を提起するなど、会社と支部との対立関係が継続している状況にあったが、それらの訴訟及び救済申立てについて、支部あるいは同組合員の主張が認められたものが多くあった。
 イ 会社は、20年、3人の係長職の支部組合員に対し、係長職にとどまるのであれば、組合を脱退してほしい旨を述べ、これを拒否されると、同人らを係長職から解任し、賃金を減額している。この申入れは、支部組合員に対し、幹部候補生であるとして、将来の昇進の可能性を示唆する一方、支部から脱退しなければ、係長職を解任して賃金を切り下げる旨を申し入れたものというほかなく、支部に対する支配介入の意図が窺える。
 ウ 上記からすれば、会社は、支部あるいは同組合員を嫌悪し、不当な対応を繰り返すことが多かったということができる。
 エ この間、会社は、支部と継続的に団交を行い、一時金については、支部と協定書を交わしていることは認められるが、支部において、会社からの譲歩がなく、そのままでは早急な一時金の支払がない場合には、支部組合員らの生活を考えて、会社の対応を不当であると考えつつも協定に応じることはやむを得ない対応であるといえるのであって、支部が協定に応じていることをもって会社が相応の対応をしていたことを裏付ける事情と評価することは相当ではない。
(6) 以上によれば、19年上期及び下期、20年上期及び下期において、支部組合員集団と非組合員集団は、指導員という意味において同質性のある集団といえるところ、両集団には一時金の支給額について有意な格差があるといえること、この格差は会社が採用した考課制度によって生じているといえること、この一時金における考課分は15年までは極めて僅かな比率であったのが、16年から18年にかけて100パーセントにと急激に拡大していること、会社と支部とは、もともと対立関係にあり、Y1社長は支部を嫌悪する発言もしていたところ、この関係は15年頃から急に顕在化して激化し、組合らによる訴訟、不当労働行為救済申立てが提起され、会社に対して救済命令が出されたり、会社が訴訟において敗訴することが複数回あったこと、上記考課分が著しく拡大した時期は、会社と支部との対立関係が悪化し、その状態が継続している時期と重なることが認められ、考課分の拡大についても会社において支部に十分な説明をしたとは認め難いことからすれば、上記一時金の格差は、会社による支部に対する不利益扱いによって生じたものとの推認が可能である。
  もとより、考課制度の内容及びその運用について、十分な合理性があって、支部組合員と非組合員について、差別的に取り扱うものでないといえるのであれば、その推認は排斥されると考えられるから、以下、この観点から、考課制度について検討を加える。なお、本件各一時金は稼働考課と考課査定から算定される。
(7) 稼働考課について
 ア 稼働考課とは、乗車教習、業務命令での営業・事務、空き時間を利用しての清掃等の業務に携わった時間を基にランク付けし、係数(単価)を掛け合わせて金額を算出するものである。
 イ 稼働考課について、以下の点を指摘できる。
  (ア) 稼働考課においては、稼働時間から「欠勤、有休、待機、組活、特別休暇、夏休、公休、早退、遅刻」が除外されることとされている。しかし、有休取得時間及び組合活動時間を稼働時間から控除することは、労基法及び労組法において、各権利を保障した趣旨を実質的に失わしめるものと考えられ、合理性を欠く。
  (イ) 稼働考課については、業務命令による営業事務や事務整備作業も対象となるところ、これらは、会社による指示によって稼働時間が大きく異なるという性質を有している。そして、Y1社長は、営業事務等を従業員に指示する場合に、そもそも支部組合員に声を掛けなかったことがあることを認めており、上記会社と支部との対立状況も勘案すると、上記稼働時間の前提をなす業務指示が全従業員に対して平等になされたとは考え難い。また、支部や個々の従業員は、当時、営業活動がどのように評価に影響するのか、明確に知り得ない状態に置かれていたから、これを、査定の評価対象とするのは、公正とは言い難い。
  (ウ) 定時退社措置(一時間単位のコストが高い人から順に5回~1回定時退社を指定するもので、18年9月20日以降実施。ただし、20年上期は実施せず、同年下期は12月のみ実施)を導入すれば、比較的年齢が高く、正社員で、残業代計算の単価が高い者が多い支部組合員が多くその対象になり、稼働考課における時間数が減って評価が下がることが想定される。対象となる従業員にとっては、残業時間のみならず稼働時間を減少させられることになり、二重の意味で不利益をもたらすものとして打撃が大きく合理性を欠く。
 ウ 結局のところ、稼働考課については、一見すると、稼働時間という客観的な数値を一時金に反映させるものであるが、その制度設計において不合理な点があり、その運用にも会社の恣意を許す要素が多分に入っており、考課制度として公正なものであって十分に合理性を有するものとはいえないし、その運用において、支部組合員が不利益に取り扱われる可能性が高いといえる。
(8) 考課査定について
 ア 考課査定における評価項目は、一般的にいえば主観的な評価項目や評価者の裁量に委ねられている評価項目が大半を占め、その判断基準は明確でない。会社は、当時、各査定期間毎の評価点数等の具体的評価方法等や、査定結果を明らかにすることを拒否していたのであって、前記項目に係る状況等の全容は明らかにされていない。会社自身も、業務報告書の提出状況について各評価者の評価に転記ミスがあったことを認めており、会社主張の評価点数が相当かどうかを認める足りる証拠はない。
 イ 個別の項目についてみても、会社は、アンケートにつき、16年、管理者から注意を受けたことが対象で単純に生徒からの声で判断しないという旨の説明をしているのに、アンケートの評価は相対評価ではなく件数に基づく絶対評価であると主張しており、異なる内容を説明している。また、評価に当たっての具体的な基準は明確にされているとはいえない。教習生からの拒否、5分前乗車、原簿記入ミス、日報(点検表)チェック状況については、全指導員についての当該期分の指導員拒否リストの集計結果や5分前乗車をしなかった者の記録、原簿等の原資料は提出されていない。車両の状況、軍手等の評価基準はきれいかどうかであり、全員分を並べて相対評価したと認めるに足りる証拠はなく、明確な基準があるとはいえず、評価者の主観の入る余地が多分にある。業務報告書についても、提出状況については、そもそも何日内に提出すべきであるという指示があったのかどうかが不明確であるし、提出状況の全容は明らかにされておらず、内容については、評価者の主観の入る余地がある。資格(取得)については資格配点表に照らし合わせて評価するとされているが、同表の内容は明らかにされていない。資格活用については、資格数に応じ5点満点で評価するとされているが、その具体的な評価基準は不明である。募集については、客観的な基準ではあるが、やはりその原資料は提出されていない。
 また、会社の19年上期から20年下期までの査定方法の変動の説明についてみても、考課査定においては、会社において左右することが可能な項目が増やされている。
 一方で、成果主義というのであれば、指導員の業務の中で中核をなすものであるというべき教習につき、担当した教習生が所定の最低限の教習時限のみで試験に合格したか、それとも試験の不合格等により余分の教習を要したかなども、教習の質を図る意味で、検討されてもよいと思われるが、かかる項目を査定対象とすることが検討された形跡はない。
(9) 会社における一時金に関する考課制度は、上記(7)及び(8)において説示したようにその内容及び運用について十分な合理性があるとは認められず、本件における上記(6)の推認が排斥されることはない。
(10) 以上によれば、会社が、本件各一時金支給において、多くの支部組合員に対して協定上の平均額を下回って支給したことは、会社が、支部組合員らが支部所属又は組合活動のゆえに不利益取扱いを行ったものと認めるのが相当であって、労組法7条1号に該当し、そのことによって、支部らの組合活動等の弱体化を意図して支配介入を行ったものとして、同法7条3号にも該当する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成20年(不)第14号
神奈川県労委平成20年(不)第31号
神奈川県労委平成21年(不)第9号
一部救済 平成22年1月20日
中労委平成22年(不再)第2号 一部変更 平成23年3月23日
東京高裁平成25年(行コ)第251号 棄却 平成26年4月23日
 
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