労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  モービル石油(組織外通告) 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第747号 
原告  スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合 
被告  国 
被告補助参加人  EMGマーケティング合同会社 
判決年月日  平成25年2月20日 
判決区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が組織変更を伴う早期退職・ニュー・キャリア支援制度を実施するに当たり、組合員4名を組織変更後の新組識の組織外の部門に配属したことが労組法7条1号に、上記施策の実施及び組合員4名の配属等を巡って組合との間で誠実に団体交渉を行わなかったことが労組法7条2号に該当するとして、救済を申し立てた。
2 大阪府労委は、組合の救済申立てを棄却し、中労委も組合の再審査申立てを棄却した。
3 組合は、棄却命令の取消しを求めるとともに中労委が組合の請求する内容の救済命令を発することの義務付けを求めたところ、東京地裁は、義務付けに係る訴えは却下し、その余の請求は棄却した。 
判決主文  1 原告の請求のうち、中央労働委員会に対する採決の義務付けに係る訴えを却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含めて原告の負担とする。 
判決の要旨  1 組合員4名に対する組織外通告による本件配属をしたことの不利益取扱い該当性
 (1) 不当労働行為の成否を判断するために、 余剰人員の削減を伴う組織の見直し、業務の効率化・合理化のための施策である「シェーピング・スタデイー」の必要性・合理性について検討するに当たっては、 整理解雇法理における「人員削減の必要性」の要素のような高度の必要性・合理性が求められると解すべきではなく、施策の実施時点における会社の組織体制・経営状況に照らした時に、直ちに上記のような施策を実施する必要がない場合であっても、将来にわたっての業界全体の景気動向、会社の売上見通し、人員構成の変化等を踏まえて、将来の経営悪化に備えるとともに、更なる成長・発展を図るための経営戦略の一環として組織体制を整備する目的で上記のような施策を実施することは、その内容に一定の合理性があり、従業員らに著しい不利益を生じさせるものでない限り、原則として、必要性・合理性のないものと判断することはできないというべきである。
 以上を踏まえ、「シェーピング・スタディー」の必要性・合理性の有無について検討すると、平成8年3月の特定石油製品輸入暫定措置法の廃止に伴い、同年4月以降、ガソリン価額が低下したため、石油元売業者各社の経常利益は大幅に減少し、 会社のみならず同業他社においても経営の合理化案が計画・実施されていたことに加え、9年当時の会社の経常利益は国内の石油元売業者8社中最下位から2番目の水準であったから、その目的には正当性が認められる。 また、「シェーピング・スタディー」の内容は、新組織のポジションを業務遂行に必要な700余りに絞り込み、9年4月時点で1000名余りであった従業員数を早期退職支援制度による早期退職希望者の募集を行うことによっておおむね2年間のうちに約30%削減し、組織全体をダウン・サイジングするものであるが、上記目的の正当性やその背景事情となった会社の財政状況に照らすと、合理性が否定されるものではない。さらに、会社は、その実施に当たって、従業員らや各労働組合に対し、8年12月頃から情報提供や説明を行うほか、各労働組合との間で団体交渉を繰り返し、その柱となる早期退職支援制度については任意の応募に基づくものとして制度設計し、上記ポジションの割当がなく組織外通告をされた従業員らについても雇用を維持することとしており、原則として、賃金、勤務地等の労働条件は従前と変更しないこととしたのであり、特段、 業務が過重なものとなったというような事実を認めることはできないから、同施策が従業員らに著しい不利益を与えるものであると認めることもできない。
 以上によれば、 「シェーピング・スタディー」そのものに必要性・合理性がなかったとはいえない。
 (2) クラークの業績評価は、①職位に要求される仕事の習熟度、②仕事の信頼性・生産性、③チーム目標達成への寄与・貢献・協働の程度、④顧客 (社内・社外)への対応・サービスの程度、 ⑤仕事の改善・工夫の成果の各項目に基づいて実施されているところ、 「シェーピング・スタディー」による組織外通告が 過去の当該業績評価を基に本人の希望、関係上司の意見のほか本人の経験・知識、将来性を総合して決定されており、業績評価及び組織外通告を決定する際の考え方に不合理な点はうかがわれない。
 (3) 「シェーピング・スタディー」に基づき組織外として取り扱われた組合員の割合は、M労及びS労がいずれも約3%であったのに対し、組合が50%であったが、上記(2)のとおり、会社は、主に当該クラークの過去の業績評価を基に新組織におけるポジションを割り当てるか否かを決定したのであるから、個別の業績評価の当否を吟味することなく、 組織外として取り扱われた組合員の割合を比較することの意義は乏しいし、組合員数の多寡にかかわらず(9年当時、M労が約420名、S労が32名、組合が8名)組織外として取り扱われた組合員の割合を比較するのも恣意的なものであるとの批判を免れない。しかも、組織外として取り扱われた従業員の全員が組合の組合員であったわけではなく、組合員の中にも新組織のポジションの割当をされた者もいること、組合の組合員は、いずれもポジション削減率の高い(約50~60%)事務・技能職に就いていたことを併せ考慮すると、 組織外として取り扱われた組合員の割合がM労やS労よりも高いからといって、 直ちに 会社が組合に対し、他の労働組合の取扱いとの間に不合理な差を設け、不利益な取扱いをしたものと認めることはできない。
 (4) 以上によれば、会社が「シェーピング・スタディー」を実施し、支部組合員4名に対する本件組織外通告によって本件配属をしたことが労組法7条1号の不利益取扱いに当たると評価することはできない。
2 ス労自主と会社との間の団体交渉における会社の対応
 (1) 会社は、9年6月26日、従業員らに対し、「シェーピング・スタディー」の概要を説明し、それ以後、会社と組合との間の団体交渉は、同年11月までの約5か月の間に、組合大阪支部連合会との間の団体交渉1回を含め9回にわたって実施されており、 支部組合員4名に対する本件組織外通告がされた9年9月24日以降も約2か月間に5回にわたって実施されている。また、会社は、団体交渉の場において、組合側からの質問に対しても、可能な限り具体的なデータを示し、データに変更があった場合には適宜に更新し、説明を分かりやすくするためにレイアウト図を用意し、その説明を申し出るなどしながら、「シェーピンク・スタディー」とこれに伴う早期退職支援制度に関する説明を尽くそうとする姿勢を示していた。 さらに、会社は、 従業員及び関係労働組合らに対し、「シェーピング・スタディー」等の施策の進捗状況について適宜に情報提供もしており、組合も会社の提供する情報を参考にしながら団体交渉における交渉事項を検討し、実際の団体交渉に臨んでいた。
 (2) 以上によれば、組合との間の団体交渉の場における会社の対応は労組法7条2号の団交拒否に該当するということができない。
3 義務付け訴訟の適法性
 以上の認定によれば、組合の請求のうち、中労委に対する裁決の義務付けに係る 訴えは、裁決が取り消されるべきもの(行訴法37条の3第1項2号)に該当しないことは明らかであるから、 不適法な訴えであって却下を免れない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地労委平成9年(不)第44号・第73号 棄却 平成14年4月23日
中労委平成14年(不再)第20号 棄却 平成22年6月2日
東京高裁平成25年(行コ)第99号 棄却 平成25年7月30日
 
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