労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  エスアールエル 
事件番号  東京高裁平成24年(行コ)第125号 
控訴人  株式会社エスアールエル 
被控訴人  東京都(処分行政庁:東京都労働委員会) 
被控訴人補助参加人  SRL契約社員労働組合 
判決年月日  平成24年8月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、有期雇用契約社員の労働条件の変更や雇止めを行ったことに対し、組合はこれを議題とする団体交渉を行い、またビラ配布、ストライキの予告及び実施をしたところ、会社が、①ストライキに参加した組合員の雇用契約期間を短縮したこと、②組合役員3名に対し懲戒処分を行ったこと、③団体交渉に会社役員を出席させなかったこと、④ストライキ参加組合員に対し面談を実施したこと、⑤雇止め通告をした社員5名(非組合員を含む。)の継続雇用を組合と約束した後、反故にしたこと、⑥会社管理職による、組合を嫌悪・威嚇する言動、及び元組合役員にストライキへの不参加や組合からの脱退の働きかけを行わせたことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 東京都労委は申立ての一部を認め、会社に(1)前記②の懲戒処分をなかったものとしての取扱い、(2)前記①、②、④及び⑥に係る不当労働行為の認定についての文書交付及び掲示、(3)履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。
 これに対し、会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする  
判決の要旨  1 当裁判所の判断は、〔一部〕改め、後記2以下のとおり補足するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1~6に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 会社が、ストライキに参加した組合員6名に3か月契約ルールを適用し、維持した行為は、不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点1)
(1) ①15名のスタッフ社員が所属する検体受付課では、休暇等の事前届出制度があり、当時、単なる無断欠勤をするスタッフ社員はほとんどおらず、部長も単なる無断欠勤をするスタッフ社員が皆無に近かったことを認めているから、会社は、当日非番であった組合執行委員会議長及び上記15名が、ストライキに参加したことを認識できたと考えられる。
 また、②副部長ら4名は、3時間近くにわたり、執行委員会議長ら9名に対して、個別面談を実施し、ストライキへの参加の有無、参加人数などを確認していること、③組合は、社前行動に参加した9名のほかに、7名の氏名が記載されているスト参加者名簿を提出していること、④ストライキに参加したスタッフ社員の雇用契約の更新手続を行った人事担当者は、「スト」と書かれたクリアファイルにストライキに参加したスタッフ社員の雇用契約書を保管していたことなどの事情を併せ考慮すると、会社は、雇用契約の更新手続を行った際、組合員6名がストライキに参加した組合員であることを認識しつつ、無断欠勤のみを理由に3か月契約ルールを適用して雇用期間を短縮し、その後も是正されずに維持されたものと推認するのが合理的である。
(2) したがって、原判決が説示するとおり、会社が組合員6名に3か月契約ルールを適用したことは、労組法7条1号の不利益取扱いに該当する。
3 会社が、組合役員3名に対して行った懲戒処分(譴責)は、不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点2)
(1) ①ビラ配布は、平成16年9月に行われた際には注意の対象にならなかった食堂棟の食堂前通路で、非番又は有給休暇を取得した組合役員3名がスタッフ社員にビラを手渡しするという態様のものであったにもかかわらず、副部門長及び部長は、組合役員3名に対し、ビラ配布をやめるように強く注意した上、写真撮影させ、従来の対応とは異なる強硬な態度を取ったものである。
 そして、②組合役員3名は、部長からビラ配布をやめるように強く求められたり、写真撮影された際も、冷静に対応し、喧噪や混乱状態を招いていないこと、③ビラ配布は食堂棟内の食堂前通路で行われ、深夜勤務開始時刻の約30分前に開始され、2時間以内には終了していることから、ビラ配布によって会社の業務に直接支障をきたしたとは認め難いこと、④配布されたビラの内容は、職場の秩序を乱したり、殊更に会社の業務を妨害しようとする意図に基づくものではないと認められること、⑤一般に、ビラ配布は、労働組合にとって重要な情報宣伝活動であり、ビラ貼付などに比べて使用者の施設管理権に及ぼす影響は小さいこと等も考慮すれば、原判決の説示するとおり、ビラ配布の際の会社構内への立入りをことさらに重視し、ビラ配布の組合活動としての正当性を否定することは相当でなく、従前の対応とは異なり、構内におけるビラ配布を一切許さないとする会社の対応は、物的施設である食堂前通路に対して会社が有する権利の濫用と認められるような特段の事情がある場合に該当するから、ビラ配布及びこれに付随する会社構内への立入りは、「労働組合の正当な行為」に当たる。
(2) 次に、取引先スト通知については、検体受付課での契約社員のストライキの予定、検査業務の遅延のおそれを伝える内容で、取引先との関係をできる限り損なわないことに意を用いた表現が見られること等を考慮すると、組合が取引先スト通知を発送した行為は、使用者の名誉・信用・営業秘密等の権利利益を不当に侵害する違法なものとはいえず、「労働組合の正当な行為」に当たる。
(3) 以上によれば、原判決の説示するとおり、組合役員3名が行ったビラ配布及び構内立入行為並びに取引先スト通知は「労働組合の正当な活動」に該当すると解され、会社がこれらを理由に組合役員を懲戒処分にしたことは労組法7条1号の不利益取扱い及び同条3号の支配介入に該当する。
4 業務部長は、「ストライキで業務を遅延させたり、取引先にストライキの通知を送り会社の信用を失墜させたりしたら、組合員に損害賠償を請求する」旨の発言を行った事実が認められるか、仮に認められるとして、その発言は支配介入に該当するか(争点3)
 ①部長が損害賠償請求をする旨発言したとの執行委員会議長の供述は、損害賠償額についての発言があったことまで述べる具体的なものであり、他の組合員の供述とも一致しているのに対して、部長の証言は、一言そうした事実はない旨を証言するにとどまるものであること、②当時の状況からして、部長が損害賠償請求に言及することも十分に考えられること、③部長が損害賠償請求に言及したとすれば、その後、執行委員会副議長らが損害賠償請求に言及していることとも整合することなどから、執行委員会議長の供述に信用性が認められることは、原判決の説示するとおりである。
5 執行委員会副議長及び同執行委員が行った組合員に対する働きかけ行為は、業務部長の意を受けて行われたものか、仮にそうでないとしても会社がこれを容認し、積極的に支援したものか、そのいずれかであるとした場合、その行為は支配介入に該当するか(争点4)
 ①執行委員会副議長及び執行委員は、20年3月19日に部長が組合員に損害賠償を請求する旨の発言があった直後に、部長らに会い、ストライキ決行に至ったことにつき弁明、謝罪し、組合を脱退したことを明らかにしたこと、その後、翌20日午前零時近くに出勤後、同日午後8時ころまでの間、会社の業務に従事せずに、組合員に対し、違法なストライキに参加すれば会社から損害賠償を請求されるなどと述べて、ストライキに参加しないよう説得したり、組合からの仮の脱退届を提出するように働きかけたこと、②会社においては、スタッフ社員が本来の労働契約日以外の日に出勤した場合に「応援」の名目で出勤扱いにすることがあったところ、執行委員会副議長は同月19日に、執行委員は同月20日に、それぞれ「応援」の名目で出勤扱いになったが、会社は、出勤扱いにした執行委員会副議長と執行委員が就労時間中に会社の業務に全く従事せずに上記の働きかけを行ったことについて両名に注意や懲戒処分等を行っていないこと等から、執行委員会副議長らの働きかけ行為の背後には、部長ないし会社の積極的な支援・関与が存在していたと推認されることは、原判決の説示するとおりである。
6 会社人事部門担当者が、ストライキ参加組合員9名に対し行った個別面談は、支配介入に該当するか(争点5)
 ①個別面談が、ストライキの3日後に行われ、質問内容もストライキの参加人数、取引先スト通知の作成者、発送者の氏名など組合の運営事項に関わる事項に及んでいること、②組合員1名に対して会社の人事担当者2名が対応する形で密室で面談が行われたこと等を考慮すれば、個別面談は、組合員に心理的不安を与え、組合活動に参加することに不安や躊躇の念を抱かせるに足るものであり、組合を弱体化させるおそれのあるものであったと推認される。
 個別面談の実施時期や態様からすれば、会社が、同面談が組合員に与える影響を考慮していなかったとは考えられないから、会社が個別面談を行ったことは、労組法7条3号の支配介入に該当する。
7 その他、会社は、当審においても原審におけると同様の主張を繰り返すが、これらの主張に理由のないことは、原判決の説示するとおりである。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成20年(不)第49号 一部救済 平成22年6月1日
東京地裁平成22年(行ウ)第425号 棄却 平成24年2月27日
最高裁平成24年(行ヒ)第451号 上告不受理 平成25年2月7日
 
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