労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  エスアールエル 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第425号 
原告  株式会社エスアールエル 
被告  東京都(処分行政庁:東京都労働委員会) 
被告補助参加人  SRL契約社員労働組合 
判決年月日  平成24年2月27日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、有期雇用契約社員の労働条件の変更や雇止めを行ったことに対し、組合はこれを議題とする団体交渉を行い、またビラ配布、ストライキの予告及び実施をしたところ、会社が、①ストライキに参加した組合員の雇用契約期間を短縮したこと、②組合役員3名に対し懲戒処分を行ったこと、③団体交渉に会社役員を出席させなかったこと、④ストライキ参加組合員に対し面談を実施したこと、⑤雇止め通告をした社員5名(非組合員を含む。)の継続雇用を組合と約束した後、反故にしたこと、⑥会社管理職による、組合を嫌悪・威嚇する言動、及び元組合役員にストライキへの不参加や組合からの脱退の働きかけを行わせたことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 東京都労委は申立ての一部を認め、会社に(1)前記②の懲戒処分をなかったものとしての取扱い、(2)前記①、②、④及び⑥に係る不当労働行為の認定についての文書交付及び掲示、(3)履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加費用も含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 会社が、ストライキに参加した組合員6名に3か月契約ルールを適用し、維持した行為は、不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点1)
(1) 労組法7条1号の不利益取扱い該当性
 組合員6名は、ストライキへの参加という「労働組合の正当な行為をしたこと」の「故をもって」3か月契約ルールの適用を受け、次期雇用契約の期間が通常の有期雇用契約の4分の1に短縮されるという「不利益な取扱い」を受けたものと認められる。会社の行為は、労組法7条1号の不利益取扱いに該当する。
(2) 労組法7条3号の支配介入該当性
 会社は、組合員6名がストライキに参加していたことを認識していたにもかかわらず、単に同人らが社前行動に参加しておらず、現認により、ストライキへの参加を確認できないという理由から、無断欠勤扱いを撤回せず、3か月契約ルールの適用を維持した。このような会社の行為は、組合員に対して、雇用契約関係の継続に係る不安を増大させ、組合の活動等に参加することを萎縮させる効果を有し、労働組合の運営と活動を妨害し、ひいては、その影響力を低下させる行為といえ、したがって、会社の行為は、労組法7条3号の支配介入に該当する。
2 会社が、組合役員に対して行った懲戒処分(譴責)は、不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点2)
(1) 労組法7条1号の不利益取扱い該当性
 ア 組合役員3名は、懲戒処分(譴責)という「不利益な取扱い」を受けていること、ビラ配布及び構内立入と取引先スト通知をしたことの「故をもって」懲戒処分(譴責)をしたことが認められる。すると、会社の行為が労組法7条1号の不利益取扱いに該当するといえるためには、組合が行ったビラ配布及び構内立入と取引先スト通知が「労働組合の正当な行為」に該当することが必要となる。
 イ 労働組合又は組合員は、使用者が所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを、使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されない。したがって、労働組合又は組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、「使用者が、これらの組合活動等に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用と認められるような特段の事情」がある場合を除いて、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものとして、「労働組合の正当な行為」には当たらないと解される。
 ウ 組合は、会社の許諾を得ることなく、物的施設を利用して争議行為としてのビラ配布を行ったが、一般にビラ配布行為は、一時的なもので、ビラ貼付行為などと比較しても、使用者の施設管理権との抵触の度合いは少ない。
 ①会社は、従前、構内でのビラ配布行為に対して、確立したルールを有していたとはいい難い上、就業規則に抵触する行為にもかかわらず、柔軟な姿勢で臨んできており、勤務時間中の構内でのビラ配布にも厳重注意で済ませた経緯が認められるところ、②ビラは、ありふれた内容のもので、会社の社会的信用等を低下させたり、職場秩序を乱すような記述は含まれておらず、③その目的は、ストライキに対する理解を求めることにあったと認められ、④その態様も、有給休暇を取得し、あるいは非番であった組合役員3名が、深夜勤務開始時刻の前後1時間内に、食堂前通路で、上記内容の組合ビラを配布するという穏便なもので、配布者数、時間帯、場所等にそれなりの配慮がうかがわれる上、会社業務に具体的な支障が発生した形跡も認められない。
 他方、会社は、配布者数、時間帯、場所等を一切考慮せず、ビラ配布を一切許容しない強硬な姿勢がうかがわれる。
 すると、組合役員3名によるビラ配布行為は、その目的、内容、手段・態様等からみて会社の職場秩序を乱すおそれの少ない行為であったといえ、それまで会社は組合のビラ配布行為に対して柔軟な姿勢を示してきた経緯等があることを併せ考慮すると、ビラ配布行為を一切許さないとする会社の対応は、当該物的施設に対して会社が有する権利を濫用するもので、ビラ配布については上記「特段の事情」があると認められる。
 以上によれば、ビラ配布及び構内立入行為は、「労働組合の正当な行為」に該当すると認められる。
 エ 取引先スト通知の目的は、ストライキの目的達成を容易にすべく、使用者の取引先に対し、ストライキの趣旨・目的等に関する自らの認識・見解を説明した上、ストライキの正当性を訴え、理解を求めることにより取引先からの責任追及(損害賠償請求等)を回避し、団体交渉での使用者との対等性を確保することにあると認められる。すると、取引先スト通知も、労働組合の目的の範囲内の行為といえ、その内容が企業秩序を乱したり、使用者の名誉・信用・営業秘密等の権利利益を不当に侵害するようなものでない限り、「労働組合の正当な行為」に当たると解される。
 取引先スト通知の内容は、「検査業務の遅延のおそれがあります」等の記載が虚偽ないし過度の誇張表現であると断じることはできないなど、全体としてみる限り、企業秩序を乱したり、使用者の名誉・信用・営業秘密等の権利利益を不当に侵害するようなものとはいい難く、したがって、「労働組合の正当な行為」に当たる。
 オ 以上によると、会社の行為は、労組法7条1号の不利益取扱いに該当する。
(2) 労組法7条3号の支配介入該当性
 ビラ配布及び取引先スト通知は、いずれも「労働組合の正当な活動」であるから、かかる行為に対する懲戒処分(譴責)は、組合の運営・活動を妨害し、弱体化させるおそれの高い行為といえ、したがって、会社の行為は、労組法7条3号の支配介入にも該当する。
3 業務部長は、「ストライキで業務を遅延させたり、取引先にストライキ通知を送り会社の信用を失墜させたりしたら、組合員に損害賠償請求する」旨の発言を行った事実が認められるか、仮に認められるとして、その発言は支配介入に該当するか(争点3)
 業務部長発言が行われた事実が認められ、業務部長発言の効果は組合役員を威嚇、けん制するもので、このような幹部職員の発言は、組合の運営・活動を妨害し、ひいては、弱体化させるおそれの高い行為と評価でき、したがって、業務部長の発言は、労組法7条3号の支配介入に該当する。
4 組合執行委員会副議長及び同執行委員が行った組合員に対する働きかけ行為は、業務部長の意を受けて行われたものか、仮にそうでないとしても会社がこれを容認し、積極的に支援したものか、そのいずれかであるとした場合、その行為は支配介入に該当するか(争点4)
 執行委員会副議長らは、業務部長発言があった直後に、同部長らに会い、ストライキ決行につき弁明、謝罪し、組合を脱退したことを明らかにするとともに、組合員に対し、ストライキへの不参加を呼びかけて回るなど、その態様等は、使用者の意を汲んだ妨害行為とみることが可能で、執行委員会副議長らの単なる善意ないし個人的な感情に基づき行われたものにすぎないと考えるのは、不自然である。
 すると、執行委員会副議長らの働きかけ行為の背後には業務部長の指示ないしは会社の積極的な支援・関与が存在していたと推認するのが合理的である。
 執行委員会副議長らの働きかけ行為は、業務部長の指示ないしは会社の積極的な支援・関与に基づき行われたもので、その態様等からみても、組合を弱体化させるおそれの高い行為と評価でき、したがって、労組法7条3号の支配介入に該当する。
5 会社人事部門担当者が、ストライキ参加組合員9名に対し行った個別面談は、支配介入に該当するか(争点5)
 ビラ配布及び構内立入行為(以下「ビラ配布等」という。)と取引先スト通知は、ストライキの一環ないしはその重要な事前活動として行われたことは明らかだから、それだけに組合員に対する事情聴取の手段・態様等によっては、組合の運営・活動に対する不当な干渉行為に該当し、ひいては組合を弱体化させるおそれがあることは否定し難く、すると、このようなおそれが認められる場合には、組合員に対する上記事情聴取も労組法7条3号の支配介入に該当し得ると解される。
 ①個別面談は、ストライキ終了後に行われたとはいえ、その原因となった新スタッフ社員制度の導入問題が未だ解決せず、しかもスト参加者に対し無断欠勤扱いが行われ、3か月契約ルールの適用問題の発生が十分に予想された時期に行われたものであるばかりか、②その面談目的からみて、組合役員3名はともかく、それ以外の組合員に対しても面談を行う必要があったかは疑問が残る上、③上記面談で発せられた質問は、ビラ配布等及び取引先スト通知への関与やストライキへの参加の有無だけでなく、ストライキへの参加人数や取引先スト通知書を作成し、発送した組合員名など組合の内部問題ないしは組合運営に関連する事項のほか、必要もない組合ビラ配布写真の被写体確認などまで及んでいるから、個別面談は、その時期、手段・態様面で、組合員らに対して、ストライキへの参加や組合活動に不安や躊躇の念を抱かせるに足るもので、組合の運営・活動に対する不当な干渉行為として一線を越えており、組合を弱体化させるなどのおそれがある面談行為であった。
 すると、個別面談は、組合員の組合活動等に動揺を与え、組合を弱体化させるものといえ、したがって、労組法7条3号の支配介入に該当する。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成20年(不)第49号 一部救済 平成22年6月1日
東京高裁平成24年(行コ)第125号 棄却 平成24年8月29日
最高裁平成24年(行ヒ)第451号 上告不受理 平成25年2月7日
 
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