概要情報
事件名 |
モービル石油(業務変更等) |
事件番号 |
東京高裁平成23年(行コ)第3号 |
控訴人 |
スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合大阪支部連合会モービル大阪支店支部 |
被控訴人 |
国(処分行政庁:中央労働委員会) |
被控訴人補助参加人 |
エクソンモービル有限会社(モービル石油株式会社が組織変更及び合併を経て、平成14年6月1日に現在の会社となる。) |
判決年月日 |
平成24年4月18日 |
判決区分 |
全部取消 |
重要度 |
|
事件概要 |
1 Y会社及び大阪支店が、①X組合支部(以下「支部」という。)との協議を経ず労使合意のないまま支店統廃合(昭和61年3月1日付け)を行い、支部組合員4名(X1、X2、X3、X4)を配置転換して業務内容の変更を行ったこと、②X1に対し、いったん同人の業務から外れると説明した業務を命じたこと、③X3及びX4を配置転換(昭和63年8月1日付け)して業務変更を行ったこと、④X3に対し、威迫・強迫して別の課の電話を取るよう業務命令したこと、⑤X3に対し、③の配置転換後、職務明細書のその他の項目を根拠に業務を命じたこと、⑥別件救済申立ての報復として、X3に対し、職務明細書により業務変更して同明細書に署名を強要し、団体交渉に応じなかったこと、⑦支店統廃合後も、支部との協議を経ずに業務を命じたことが、不当労働行為に当たるとして、大阪地労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪地労委は、大阪支店に対する申立てを却下し、Y会社に対する申立てを一部却下し、その余を棄却した。
支部は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委は棄却した。
これに対し、支部は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、支部の請求を一部却下し、その余の請求を棄却した。
本件は、同地裁判決を不服として、支部が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、原判決を取り消した。
|
判決主文 |
1 原判決を取り消す。
2 本件訴訟は、平成21年10月1日控訴人が消滅したことによって終了した。
|
判決の要旨 |
1 支部には、平成元年7月当時、4名の組合員がいたが、X4は平成12年3月に、X1は平成14年3月に、X2は平成16年7月にそれぞれY会社を退職し、X3も平成21年9月30日に定年を迎えた。
すると、支部の組合員は、平成21年9月30日までにいずれもY会社の従業員としての地位を失っており、支部は、遅くともX3が定年を迎えた前記の日の翌日に組合員が存在しない状態となって消滅したと認めるのが相当である。
2(1) 支部は、①X1及びX4については、Y会社が、X組合がその導入に同意していない「早期退職/セカンドキャリア支援制度」による両名の退職届を承認して、両名を退職させたこと、これに伴い両名に支部からの脱退表明をするに至らせたことが不当労働行為(支配介入)に当たるとして、X組合が両名の早期退職届の承認の撤回等の救済命令の申立てを行っていること、②X3については、Y会社の継続雇用制度による再雇用を申し入れたにもかかわらず、Y会社から再雇用を拒否されたため、Y会社を被告として労働契約上の地位にあることの確認を求める訴訟を提起していること等の事情を主張し、Y会社の従業員としての地位について法的紛争が継続しているX1、X4及びX3の3名については、未だ組合員であると主張する。
(2) しかし、X1及びX4がY会社に対して退職承認の撤回を求めているわけではないし、両名の退職(ないしその届)自体を撤回したわけでもないから、X組合が上記①のような不当労働行為救済命令の申立てをしていることは、X1及びX4がY会社の従業員及び支部の組合員の地位を有していることの根拠となるものではない。
なお、X1及びX4は、X組合の上記不当労働行為救済命令の申立てには関与しておらず、両名がY会社への復職あるいはX組合ないし支部への復帰を望んでいるとも認められない。
(3) X3の再雇用について
ア 支部は、高年齢者雇用安定法9条1項が定める継続雇用制度は、「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」であるから希望者全員を対象とするのが原則であり、継続雇用の対象者を選別して希望があるのに雇用しないことは例外的にのみ許容されると主張し、高年齢者雇用安定法に適合する基準に基づき欠格事由があると判断されない限り、継続雇用を拒否された労働者は、解雇権濫用の法理などに基づき労働契約上の地位を有すると解すべきと主張する。
また、支部は、①Y会社の再雇用基準、特に業績評価基準及びその適用には、客観性や明確性はなく、恣意的なものであるから無効であるが、再雇用制度のうち、再雇用制度の導入に係る部分は効力を有するから、Y会社が再雇用制度を通知した時点で再雇用する旨の意思表示をしたことになり、定年退職する従業員は再雇用の申請をすれば、就労の始期を定年退職の日の翌日とする再雇用契約が成立する、②仮に再雇用制度そのものが無効であるとすれば、Y会社は高年齢者雇用安定法9条1項が定めるいずれの措置も講じていないこととなるから、60歳定年制は無効となり、定年は65歳とされたものとみなされるべきであるから、X3に対する再雇用の拒否は解雇であり、当該解雇は解雇権の濫用であって無効であると主張するものと理解できる。
イ しかし、高年齢者雇用安定法は、継続雇用制度の内容については何らの規定を設けておらず、継続雇用制度の内容をどのようなものとするかについては、当該事業所の実情や労働者の状況に応じた多様な対応ができるものとしていると解されるから、再雇用制度のように、労働者の意欲、能力、実績を勘案して再雇用対象者を選別し、また、再雇用後の労働条件についても労使の合意に基づき定める制度も同法が予定する継続雇用制度に当たると解することができる。
そして、支部が問題とする「過去3年間の業績評価の平均が標準以上のもの」とする再雇用の要件が、直ちに客観性を欠き、あるいは恣意的なものということはできない。のみならず、Y会社は、再雇用基準規定において更に細かな業績評価基準を定め、内部的に評価手順についても公平性が保たれるような配慮をしていることをうかがうことができるから、再雇用制度における業績評価基準あるいは再雇用基準が高年齢者雇用安定法9条、労働組合法その他の関係法令に違反して無効であるということはできない。
したがって、再雇用基準ないし業績評価基準が違法、無効であることを前提とする、支部の前記主張は失当というべきであり、X3が再雇用の希望を提出したというだけで、同人が定年退職後もY会社の従業員の地位にあると解することはできない。
3 また、労働組合は団体であるから、組合員が1人もいなくなった場合はもとより、組合員が1名だけになった場合についても、その後組合員が増加する可能性がない場合は、自然消滅に至ると解される。
これを本件についてみると、支部の組合員は、平成元年7月当時は4名いたが、平成16年7月以後の組合員はX3だけとなり、X3も平成21年9月30日に定年を迎え、平成元年以後X3が定年を迎えるまで新たな組合員の加入がない状態が20年にわたって続いていたから(その状態は現在に至っても変化がない。)、遅くともX3が定年を迎えた時点では新たに組合員が加入する可能性もなくなり、支部は団体性を失って消滅に至ったものと認めるのが相当である。
4 以上のとおり、支部の組合員であった者はいずれも組合員資格を失い、組合員のない状態になって消滅したと認められ、その消滅に伴い支部の訴訟上の地位を承継する者があるともいえないから、本件訴訟は、原審係属中である平成21年10月1日(X3が定年に達した日の翌日)に終了したものといわざるを得ない。
|
その他 |
|