労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  モービル石油(業務変更等) 
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第236号 
原告  スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合大阪支部連合会モービル大阪支店支部 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  エクソンモービル有限会社 
判決年月日  平成22年11月29日 
判決区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要  1 Y会社及び大阪支店が、①X組合支部(以下「支部」という。)との協議を経ず労使合意のないまま支店統廃合(昭和61年3月1日付け)を行い、支部組合員4名(X1、X2、X3、X4)を配置転換(以下「61.3.1配転」という。)して業務内容の変更を行ったこと、②X1に対し、いったん同人の業務から外れると説明した業務を命じたこと、③X3及びX4を配転(昭和63年8月1日付け。以下「63.8.1配転」という。)して業務変更を行ったこと、④X3に対し、威迫・強迫して別の課の電話を取るよう業務命令したこと、⑤X3に対し、③の配転後、職務明細書のその他の項目を根拠に業務を命じたこと、⑥別件救済申立ての報復として、X3に対し、職務明細書により業務変更して同明細書に署名を強要し、団交に応じなかったこと、⑦支店統廃合後も、支部との協議を経ずに業務を命じたことが、不当労働行為に当たるとして、大阪地労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪地労委は、大阪支店に対する申立てを却下し、Y会社に対する申立てを一部却下し、その余を棄却した。
 支部は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委はこれを棄却した。
 本件は、これを不服として、支部が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、支部の請求を一部却下し、その余の請求を棄却した。
判決主文  1 本件の訴えのうち、中労委に対する命令の義務付けに係る訴えを却下する。
2 原告のその余の訴えに係る請求を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加費用も含む。)は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点(1):大阪支店の救済命令被申立人適格の有無について
 不当労働行為救済申立ての被申立人適格を有する者は、労組法7条及び27条1項にいう「使用者」に当たる者でなければならない。そして、救済命令が発せられた場合、不当労働行為の責任主体として不当労働行為によって生じた状態を回復すべき公法上の義務を負担し(同法27条の13)、確定した救済命令又は緊急命令を履行しないときは過料の制裁を受けることが予定されている(同法32条)ことからすると、「使用者」は、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要すると解される。
 大阪支店は、有限会社であるY会社が設置している支店の一つであり、有限会社組織の構成部分にすぎないものと認められるから、法律上独立した権利義務の帰属主体たり得ないものである。
 以上によれば、大阪支店は、不当労働行為救済申立ての被申立人とはなり得ないから、大阪支店の被申立人適格は認められないとした(中労委の)本件命令の判断は正当である。
2 争点(2):本件初審申立てのうち、昭和63年8月18日以前に行われたY会社の行為に係るものは、労組法27条2項所定の申立期間を徒過した申立てに当たるかについて
(1) 労組法27条2項は、救済申立ての申立期間の起算日について、「行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)」から起算するとしている。この「継続する行為」とは、①不当労働行為には、1回の行為で終わるものだけでなく、行為自体は複数でも全体として1個の不当労働行為と評価できるものがあること、②同項が不当労働行為救済制度に関する規定であることにかんがみると、「継続する行為」とは、①個々の行為自体が継続している場合だけでなく、②行為自体は複数でも全体が一体として1個の不当労働行為を成すとみることができる場合も含むと解するのが相当である。
 そして、全体が一体として1個の不当労働行為を成すものかどうかは、不当労働行為性が問題となる各行為の具体的な目的、態様及び効果並びに各行為の関連性、時間的接着性等に照らして、評価判断するのが相当である。
(2) 本件命令は、Y会社が行った、①大阪支店統廃合、②大阪支店統廃合に伴う61.3.1配転並びに支部組合員X1ら4名に対する昭和63年8月18日以前の業務命令及び業務変更に関するもの(ただし、後記③を除く。)、③同月1日に行われたX3及びX4に対する63.8.1配転及びこれに伴う業務変更について、行為の日から1年を経過した事件についての申立てと判断していること、上記各行為に係る救済申立ては、平成元年8月19日に申し立てられた大阪地労委平成元年(不)第47号事件であることが認められる。
 そして、各行為は別個のものであり、各行為の前後の関係、目的、態様及び効果の関係、時間的接着性の関係において、不即不離の関係にあるとはいえず、また、一体的にみて1個の行為と評価し得るに足りる関係性や継続性を見いだすことはできない。さらに、各行為には、昭和63年8月19日以降も継続して行われたと認められる行為もない。
 なお、Y会社が同日以降に行った各行為についても、別個のものであり、これら各行為とY会社が同月18日以前に行った上記各行為との間に、一体的にみて1個の行為と評価し得るに足りる関係性や継続性を見いだすこともできない。
(3) 以上であるから、争点(2)に関する本件命令の判断は正当である。
3 争点(3):Y会社が行った別紙2「不当労働行為事項」に記載の各行為は不当労働行為に当たるかについて
 次の各行為は、以下のことから不当労働行為に当たるとはいえない。
(1) X1に係るY1総務課長業務命令について
 61.3.27Y1課長発言は、X1がそれまで担当していた親睦会クラブ関連業務を全て免除する旨の発言ではなく、X1の業務量を調整するために、同業務を減免する措置をとる旨の発言であると認められ、現に、X1は、その後、同業務の一部を担当するにとどまっていることが認められる。
 そして、Y1課長業務命令は、同クラブの役員改選の投票箱をX1の机の上に設置することを命ずるものであるところ、この投票箱の設置は同クラブ関連業務に含まれると認められること、X1はY1課長業務命令が出された当時も同業務を担当する者であったことからすると、Y1課長業務命令は、X1の業務内容を変更するものではなく、X1が担当する同業務を具体的に指示するにとどまるものである。
(2) 本件X3関係行為1について
 職務明細書Aに記載されているX3の同課における職務内容は、X3が担当する全ての職務を個別具体的に記載しているものではなく、X3が就いている職位の職責、目的、量の最低限を記載したものであることが認められることからすると、職務明細書A・9項にいう「その他、アドミニストレーション・コーディネーターの指示による業務」としては、職務明細書Aの「職責」欄の1項~8項までに記載されている同課における職務内容以外の同課の所掌業務の範囲に含まれる業務で、個別具体的場面において実施を必要とするものが予定されていると解するのが相当である。
 以上のことからすると、Y2業務課長による各業務命令は、いずれもX3の職務とされている事項について具体的な業務を指示するために発せられ、これらの業務命令がX3の業務内容を変更するものということはできない。そして、各業務命令に係る各業務は、いずれも単純な業務に属するものであり、また、これらによってX3が時間外労働等をする事態が生じなかったことからすると、その業務量に関しても、本来的に予定された範囲内であったと認めることができる。
(3) X3に係るY2業務課長による電話応接命令について
 X3については、業務課における電話の応接が本来的業務の一つであり、大阪支店においては、X3が所属していた同課を含めて、外来着信電話に対しては、直接関係する部署の従業員でなくても、対応が可能な従業員は応接することが通常の業務に含まれていたということができるから、外来着信がX3の所属する業務課の電話でなく、隣接する他課の電話にあった場合でも、X3が対応できる時には応接することがその業務に含まれていたというべきである。
 そうすると、Y2課長がX3に対し、労務指揮権に基づき、X3の業務範囲に属する他課の電話に掛かってきた外来着信に応接するように命じること自体は、X3の労働条件や業務負担の変更を生じさせるとはいえない。そして、Y2課長による電話応接命令が、外来着信があった電話が置かれていた他課の従業員全員が不在であり、他方、X3が当該外来着信に対応できない状況にあったことをうかがわせる事情がないという事実関係の下で行われたことからすると、それを出す必要性、相当性があったことも認めることができる。
(4) 本件X3関係行為2について
 ア 職務明細書Bの交付行為について
 Y会社の職務明細書Bの交付行為が、支部による救済申立てに対する報復であることを認めるに足りる証拠はない。
 また、従業員の業務内容を変更するに当たり、当該部署が所掌する業務の枠内において、当該従業員が担当するものとして通常想定される業務の範囲内で具体的な担当業務の内容を変更することは、使用者に委ねられている労務指揮権の行使として認められるものであり、事前協議約款があるなど特段の事情がない限り、上記範囲内で行われる業務指示や業務命令の一つ一つに、従業員又は所属労働組合との間で事前協議や合意を要するものではないと解するのが相当である。
  職務明細書Bは職務明細書Aより詳細にX3の業務内容等を記載したことが認められるところ、職務明細書Aには記載がなく職務明細書Bに新たに記載された業務のいずれも、業務課の営業活動に付帯するものということができ、職務明細書Aの目的欄に「営業活動に付帯する業務を行う。」と記載されていたことに照らすと、職務明細書Aにおいても、必要に応じて職務明細書A・9項に基づき、X3の職務内容になり得るものとして予定されていたと認めるのが相当である。
 そうすると、職務明細書Bで新たに記載された業務は、いずれも同課が所掌する業務に属し、同課の従業員であれば担当することが予定される事務的な業務であり、それまでX3が同課で担当していた業務と性質を異にするとはいえない。
 職務明細書Bに基づく業務の量については、増加の有無及び程度を明らかにできる証拠はなく、かえって、X3が職務明細書Bに係る業務を行うについて、時間外労働を行ったことはなく、以前と比べて、組合活動による欠務時間や年次有給休暇の取得時間が減少したなどということはなかったのであるから、職務明細書Bに基づくX3の業務は、職務明細書Aに基づいて業務をしていた時と同程度と認めるのが相当である。
 イ 職務明細書Bに署名を求めた行為について
 Y2課長のX3に対する職務明細書Bへの署名指示は、社内規定である職務明細書作成手引に定める手続を実行するために行ったものと認められる。そして、その後、Y会社は、X3に対し職務明細書Bへの署名を求めることがなかったというのであるから、署名を強要したということはできない。
 ウ 団交拒否について
  a 職務明細書Bに基づく業務変更を議題としてされたH1.4.4団交申入れに対する拒否行為について
 X3に対して職務明細書Bを交付した行為は、X3の業務内容の変更をもたらすものではなく、Y2課長がX3に職務明細書Bに記載する業務を行わせるのは、X3が担当するものとして通常想定される業務の範囲内で具体的な担当業務を行わせるにすぎず、使用者の労務指揮権に委ねられている。そうすると、支部がH1.4.4団交申入れの議題とした職務明細書Bに基づく業務変更の件は、使用者の労務指揮権に委ねられた範囲内の問題を対象とするものであるから、義務的団交事項に当たるということはできない。
 以上によれば、H1.4.4団交申入れに対してY会社がこれを拒否した行為は、正当な理由のないものとはいえない。
  b 職務明細書Bへの署名を議題としてされたH1.5.9団交申入れに対する拒否行為について
 ①X3に対して職務明細書Bに署名を求めた行為は、Y会社の社内規定である職務明細書作成手引に定める手続を実行するために行われたものにすぎず、Y会社は、その後、X3に対し、職務明細書Bへの署名を求めることはなく、強要と評価されるものではなかったこと、また、②職務明細書BはX3の業務変更をもたらすものではないことからすると、X3に対して職務明細書Bに署名を求めた行為は、義務的団交事項に当たるものとは解されない。
 そうすると、H1.5.9団交申入れに対してY会社これを拒否した行為は、正当な理由のないものとはいえない。
(5) 本件X4関係行為について
 X4に対する業務指示は、受注関連業務に関する単発的ないしは臨時的な必要性から生じた業務指示であると認められ、また、社内誌を配布するという単純な業務を単発的に指示したものと認められ、入社して以降、一貫してクラークとして勤務し、63.8.1配転までは主として受注関連業務を担当していたX4にとっては、いずれの業務もさしたる困難を伴う業務とは考えられず、許容される労務指揮権の範囲内における業務指示であるということができる。このような業務を指示することが支部の団結破壊を企図して発せられたとは捉え難く、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。
4 争点(4):中労委の違法不当な審査指揮の有無について
 Y3支店長及びY2課長に対する証人尋問が採用されていないことが認められる一方、①本件初審事件において、Y4支店長代理に対する証人尋問が13回審問期日を使って実施されていること、Y4は、Y3支店長及びY2課長がかかわった行為についても承知しており、Y3支店長及びY2課長がかかわった行為についての尋問がされていること、②Y3支店長及びY2課長がかかわった行為の相手方であるX1ら4名に対する証人尋問も都合19回審問期日を使って実施されており、Y3支店長及びY2課長がかかわった行為についての尋問がされていることが認められる。以上のことからすると、Y3支店長及びY2課長がかかわった行為に関する証拠調べは実施されており、それが不十分なものと判断するに足りる事情はない。
 以上に加え、中労委での審査手続における証人の採否に関する判断は、中労委の専権に属する事項であることに照らすと、中労委が上記両名の証人尋問を採用しなかったことが直ちにその審理指揮に関する裁量権の範囲を逸脱するということはできず、本件命令に採証手続上の瑕疵を認めるには至らない。
5 義務付け訴訟について
 支部は、本件命令の取消しを求める訴えのほかに、中労委に対して別紙1「請求する救済の内容」に記載の命令を発するように義務付けることを求める訴えを提起している。
 そこで、職権により判断するに、本件命令は適法であり、取り消されるべきものとはいえない。そうすると、上記義務付けを求める訴えは、行訴法37条の3第1項2号に規定する場合に当たらないから、不適法な訴えである。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地労委平成1年(不)第36号・同47号 却下・棄却 平成 6年12月12日
中労委平成6年(不再)第49号 棄却 平成20年10月15日
東京高裁平成23年(行コ)第3号 全部取消 平成24年4月18日
 
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