労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ゼンショー  
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第537号 
原告  株式会社ゼンショー 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  東京公務公共一般労働組合 
判決年月日  平成24年2月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、アルバイト従業員の未払時間外割増賃金の支払等を議題とする組合からの平成19年1月17日付け団体交渉申入れ(以下「本件団交申入れ」という。)に応じなかったことが、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、会社に対し①誠実団交応諾、②文書手交及び③履行報告を命じた。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加費用も含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 組合の申立適格(争点1)
(1) 会社は、組合の労組法2条、5条2項の労働組合資格要件の適合を認める本件命令の判断は違法で、また、組合の適格性について十分吟味することなく、労働組合としての法的保護を受けることを認める本件命令は憲法14条の法理に反するなどと主張する。
(2) 労組法5条の立法趣旨は、労働委員会に同法2条及び5条2項の要件を欠く組合の救済申立てを拒否させることにより、間接的に、組合が上記要件を具備するよう促進することにあると解される。同法5条は、労働委員会に申立組合が上記要件を具備するかどうかを審査し、具備しないと認める場合にはその申立てを拒否すべき義務を課している。
 しかし、この義務は、労働委員会が、組合が上記要件を具備するよう促進するという国家目的に協力することを要請されているという意味において、直接国家に対して負う責務で、使用者に対する関係で負う義務ではないと解される。
 すると、組合の救済申立資格の不備を問題とする会社の上記主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件命令の取消しを求めるものだから(行政事件訴訟法10条1項)、失当である。
2 会社が本件団交申入れに係る団交に応じないことは、労組法7条2号の不当労働行為に当たるか(争点2)
(1) 本件団交申入れについて
 本件団交申入れは、組合員の未払時間外割増賃金の支払及び組合員への差別的な勤務時間制限という組合員の「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」(労組法16条)を交渉議題とするものであり、会社はこれに対して誠実に交渉すべき義務を負う。
(2) 交渉事項及び対象者が不特定であるとの主張について
 会社は、本件団交申入れには「未払いの時間外割増賃金の支払いについて」と「組合員への差別的な勤務時間制限について」という一見相容れない矛盾する内容の2つの協議事情が列記されており、それぞれが、誰の、いつの時点についての問題事項であるかも特定されていない旨主張し、また、会社が組合に対して真に団交を求めるために加入した者がいるかについて疑念を持ったことには正当な理由があった旨主張する。
 この点、本件団交申入れには交渉事項に利害関係を有する組合員の氏名及び交渉事項である時間外割増賃金等の具体的内容は記載されていないことは認められるものの、本件申入れの約1か月前までに、会社自身が組合との間で組合員の時間外割増賃金の支払及び差別的な勤務時間制限に関する交渉を行っていたことからすれば、本件申入れの際の交渉事項の記載の程度であっても特定はなされており、本件団交申入れにかかる団交の交渉事項が特定されていないとして団交に応じないことは正当とはいえない。また、会社が組合に対して真に団交を求めるために加入した者がいるかについて疑念を持っていることについて、組合に対する書面の中でも具体的根拠について示しておらず、上記疑念があることだけで本件団交申入れに応じないことの正当な理由になるとはいえない。
(3) 組合が労組法2条の「労働組合」といえるか
 ア 主体性
 労組法の労働組合と認められるためには、労働者が主体となって組織された団体でなければならない(労組法2条本文)。労働者が「主体となって」とは、労働組合の構成員中、大部分の者を労働者が占めていること及び組合の運営及び活動において労働者が指導的地位を占めていることをいう。
 そして、組合は、東京の地方公共団体関連の職場で勤務する非常勤職員等を中心に組織されたものであり、構成員中、大部分を労働者が占めていると認められる。したがって、組合は、労働者が「主体となって」組織されたものといえる。
 この点、会社は、会社とアルバイト契約がある者で組合に加入した数名を除いて、その構成員の大部分は会社との労働契約はもとより、直接にも間接にも使用従属関係又はこれに類する関係を有せず、会社との間で憲法28条の権利の保護を受けるべき経済的弱者ではなく、主体性の要件を欠く旨主張する。
 しかし、憲法28条の「勤労者」の意義について「使用者との関係で」限定的に解すべきものではない。また、労組法2条の「労働者が主体となって」の「労働者」とは、この場合も「使用者との関係で」「労働者」に当たる者に限定されると解することはできない。企業別労働組合に組織されにくい労働者を一定地域で企業を超えて組織する地域一般労組などの形態をもつ労働組合を、労組法上の「労組」に該当せず、団体交渉権の享有主体たり得ないと解することはできない。
 イ 自主性
 労働組合は、労働者が「自主的に」組織した団体でなければならず(労組法2条本文)、とりわけ、使用者からの自主性の確保が重要であり、労組法2条ただし書は、使用者の利益代表者の参加を許すもの(1号)及び使用者から組合運営のための経費援助をうけるもの(2号)を労働組合に当たらないとして挙げている。
 そして、本件では、組合に資格審査決定書が交付され、中労委が実施した資格審査でも労組法2条及び5条2項の労働組合資格要件に適合すると認められる旨決定されているところ、組合に会社の利益代表者の参加や、会社からの組合運営のための経費援助を認めるに足りる証拠はなく、ほかに自主性を欠くと認めるに足りる証拠もない。したがって、組合は、労働者が「自主的に」組織した団体といえる。
 この点、会社は、組合が組合員名簿を示さないため、会社の利益代表者の立場にある者が組合員として参加しているのか判断できず、会社からの人的独立性を判断できない旨主張する。
 しかし、組合は、代わりに都労委による資格審査決定書を提示しており、その後も、会社は、都労委による判断に瑕疵があることを疑わせる具体的事情を指摘していないことからすれば、組合員名簿の不提出をもって組合が自主性の要件を欠くと認めることは相当でない。
 ウ 目的
 労組法の労働組合と認められるためには、「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的」として組織された団体でなければならず(労組法2条本文)、労組法2条ただし書は、主として政治運動又は社会運動を目的とするもの(4号)は労働組合に当たらないとしている。
 そして、組合は残業代の支払等に関する団交を求めるなど、組合員の労働条件の維持改善等の経済的地位の向上を図ることを主たる目的として活動していると認められる。
 この点、会社は、構成員の大部分が部外者ないし外部者である組合にとって、会社における労働条件は維持改善の目的たり得ず、このような部外者による会社の労働条件への干渉は同情ストによる支援活動と同質の社会活動ないし政治活動であって、法が予定する労働組合としての活動ではない旨主張する。
 しかし、組合が主として政治運動又は社会運動を目的とするものと認めるに足りる証拠はない。
 エ 団体性
 労組法の労働組合と認められるためには、労働者の「組織する団体又はその連合団体」であることが必要である(労組法2条本文)。「組織する」とは、複数の労働者が共同の目的のために一定の活動を行う意思をもって団体を結成している状態を指し、その後も団結の状態を持続することが必要である。
 そして、組合は、東京の地方公共団体関連の職場で勤務する非常勤職員等を中心に組織されたものであるから、労働者の「組織する団体」といえる。
 オ 民主性
 労組法5条1項は、労働組合が労組法上の諸手続に参与し、かつ労組法の規定する救済を受けるためには、労働委員会に対して証拠を提出し、労組法2条の自主性の要件を満たしていることのほか、その組合規約に5条2項各号に掲げる事項を記載していることを立証しなければならないことを定めている(民主性の要件)。
 そして、中労委が実施した資格審査でも労組法2条の労働組合資格要件に適合すると認められていることなど、組合は、民主性の要件を満たしていると認めるのが相当である。
 カ その他の会社の主張について
 会社は、労組法上の労働組合と認められるためには、「労使対等の要件」及び「責任性の要件」も必要である旨主張するが、前記アないしオの各要件に加えて上記2つの要件が必要とはいえない。
 キ まとめ
 よって、組合は実質的にみても労組法2条の労働組合といえる。
(4) 組合が不誠実であるとの主張について
 ア 会社は、労働組合としての要件具備の関係で釈明を求めたのに、組合は誠実な説明をしなかったから、会社が団交の機会を持たなかったことには正当な理由がある旨主張する。
 しかし、以上によれば、組合の労働組合としての要件具備の関係での会社の求釈明は理由があるとはいえず、これに対して組合が説明をせず、疑念が払拭されなかったとしても、会社が本件団交の申入れに応じなかったことについて正当な理由があるとはいえない。
 イ 会社は、組合が、労働実態の状況把握もしないままの団交要求、業務妨害行為、労働基準監督署への集団申告という労働組合活動を逸脱した集団行動、記者会見での事実に反する内容の公表等の違法・不誠実な行動を重ねたから、会社が団交の機会を持たなかったことには正当な理由がある旨主張する。
 しかし、記者会見での行為が不当、違法と認めるに足りる証拠はない。そして、その余の行為は、会社が本件団交申入れに正当な理由なく応じない対応をした後の行為である。また、それらの行為に至る経過及び態様等からすれば、いずれも正当な組合活動の範囲を逸脱したものとまではいい難い。
 したがって、組合側の上記各行為をもって。会社が本件団交申入れに応じなかったことの正当な理由となるものではない。
 ウ さらに、会社は、(組合が)団交事項の趣旨や範囲の特定・明確化に応じず、会社が団交に応じるだけの信頼を得る努力を怠っており、会社が団交の機会を持たなかったことには正当な理由がある旨主張する。
 しかし、本件団交申入れ記載の程度でも団交の交渉事項が特定されているといえることからすれば、組合が会社の団交事項の趣旨や範囲の特定・明確化の要請に応じなかったとしても、会社が団交に応じるだけの信頼を得る努力を怠っているとはいえず、会社が団交の機会を持たなかったことには正当な理由があるとはいえない。
(5) 以上によれば、会社が本件団交申入れに応じなかったことは、正当な理由を欠くものとして、労組法7条2号の不当労働行為を構成する。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成19年(不)第39号 全部救済 平成21年10月6日
中労委平成21年(不再)第43号 棄却 平成22年7月21日
東京高裁平成24年(行コ)第106号 棄却 平成24年7月31日
 
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