概要情報
事件名 |
京都淡路交通 |
事件番号 |
京都地裁昭和44年(行ウ)第33号
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原告 |
京都淡路交通株式会社 |
被告 |
京都府地方労働委員会 |
判決年月日 |
昭和49年 3月15日 |
判決区分 |
一部取消 |
重要度 |
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事件概要 |
1 会社が、経歴詐称等を理由に組合活動家を懲戒解雇したことが、不当労働行為に当たるとして、京都地労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審京都地労委は、原職復帰とバックペイを命じ、バックペイからの中間収入の控除を認めなかった。
本件は、これを不服として、会社が京都地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、初審命令において中間収入を控除しないでバックペイを命じた部分を取り消した。 |
判決主文 |
1 被告が原告とA間の京労委昭和40年(不)第45号第一京都淡路交通不当労働行為救済申立事件につき昭和44年9月4日付で原告に対してなした命令のうち金員の支払を命ずる部分中「昭和41年10月14日以降原職復帰に至るまでの間同人が受けるべきはずの諸給与相当額」の支払を命ずる部分はこれを取消す。
2 原告その余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 社屋管理権の浸害について
Bの居室は原告が同人個人に対して貸与していたもので、淡路分会に対して組合事務所として貸与していたものと言うことはできず、Bが右分会役員であった関係から淡路分会の組合事務所として使用することを黙認されてきたと解せられる。
そうすれば右分会としては原告に対し同室の使用権原を有しないのであるから、Bが原告会社を退職することによって使用権が終了すれば、原告の要求に対し右分会としても或はA個人としても返還に応じなければならず、原告よりB居室の鍵の返還を求められたに拘らずこれを拒否したAの態度が何ら非違に値しないとは言えない。
しかしながら、右居室が淡路分会の組合事務所として使用されてきたことは公然の事実で、原告に於ても黙認してきたのであるから、右分会役員であるAが組合事務所として右分会に使用権があると解していたとしても無理からぬものがある。
そうでないとしても、第二組合である淡路労組に対しては組合事務所の使用を認めながら、淡路分会に対してBの退職を機に組合事務所の使用を禁じようとする原告会社の差別的取扱に対し、これを確保するため鍵の返還を拒否したAの態度には、組合活動として正当の域を超えたものがあるが、右事情より見てこれに対し懲戒解雇を以てすることは明らかに過重であるといわねばならない。 2 経歴詐称について
雇用契約は継続的信頼関係を基調とするから雇入れに当っては労働力についての判断のみでなく、人格的評価も必要なことは原告主張のとおりである。従って人格評価のために重要な経歴の記載をなさず、使用者に評価選択を誤らせることは雇用契約締結に於ける信義則に反するものと言わねばならない。
しかし労働関係に於ける使用者による懲戒処分は、企業秩序違反に対する制裁としてのみ課しうるのであるから信義則違反にすぎないところの雇入れに当っての経歴詐称ということだけでは懲戒権を行使することはできず、その後引きつづき使用者の欺罔状態を奇貨としてその地位を保持し、この一連の容態が具体的に企業秩序違反の結果を生ぜしめていることを要するものと解すべきである。 これを本件について見るに、いわゆるレッド・パージは敗戦後占領政策下に於ける特異事情に基づくもので、共産党員ないしその同調者をそのことの故に企業外へ排除した思想、信条を対象とする解雇であったことは公知の事実である。共産党員ないし共産主義の信奉者であったとしてもそのこと自体は何ら企業秩序を紊す結果を生ぜしめるものではなく、又雇入れ後労働者が共産党員となり共産主義思想を抱くに至ったからとてこれを解雇事由となし得ないことは言うまでもない。
原告はAがレッド・パージで解雇された事実を知っておれば、同人を雇入れることはしなかったと主張するが、そうであったとしても、レッド・パージにより解雇されたとの右経歴不申告の事実を以て企業秩序を紊す重大な経歴の詐称に当ると評価し得ないから、これを懲戒解雇の理由とすることはできない。 3 不当労働行為の成否について
これらの事実に前記のとおり原告主張の各事実が懲戒解雇に値するものでないことを併せ考えると、原告はAの組合活動を嫌悪して同人を企業外へ排除し、ひいては淡路分会を弱体化すべく、口実を設けて本件懲戒解雇を為すに至ったものと推認せざるを得ず、この懲戒解雇は労組法7条1号に該当する不当労働行為と認むべきである。 4 給与の遡及払について
救済命令は使用者の不当労働行為を排除して、それがなかったと同じ事実上の状態にもどすことを目的とするのであるから、副次的臨時的なものと異なり、正規従業員として就職して支給を受けている収入は支払を命ずる遡及賃金額より控除すべきものと解する。従ってこれを控除しない本件救済命令はこの点に於て違法である。 Aは本件懲戒解雇後の昭和41年10月14日C運輸株式会社に正規従業員として就職し、同日以降月額金44,600円の支給を受けてきていることが認められるが、Aの本件懲戒解雇時の月額賃金は金43,000円程度であったことが窺われ、C運輸より同人の受ける賃金はこれを上廻るから、本件救済命令のうち「昭和41年10月14日から原職復帰に至るまでの間、Aが受けるべきはずの諸給与相当額」の支払を命ずる部分は取消を免れない。
C運輸との雇用契約はAが結び、その資金は、C運輸よりAに対し支払われるのであるから、Aがその金員を同人の意思に基づいて組合資金として組合に交付したとしても、同人の収入に帰したことを否定し得べきものではない。 5 結論
以上のとおり、原告のAに対してなした本件懲戒解雇は不当労働行為と認むべく、これに対する救済として被告が発した本件救済命令は、賃金遡及払のうち前記一部は違法であるが、その余は正当である。 |
その他 |
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