概要情報
事件名 |
季朋会員光園 |
事件番号 |
東京高裁平成22年(行コ)第173号
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控訴人(第1事件原告・第2事件訴訟参加人) |
社会福祉法人やまばと会員光園(旧名称「社会福祉法人季朋会員光園」を平成19年6月25日付けで変更) |
被控訴人(第1事件・第2事件被告) |
国(裁決行政庁:中央労働委員会) |
被控訴人補助参加人(第1事件被告補助参加人・第2事件原告) |
かじみつ福祉労働組合 |
判決年月日 |
平成23年 1月18日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 | 1 Y法人が、①X組合の執行委員長X1に対し、平成18年6月1日付けで、知的障害者更生施設員光園(本部施設の一つ)から高齢者デイサービスセンター「陣屋の森」(出先施設の一つ)に配置転換したこと、②組合員に対し、X組合からの脱退を迫るなどの言動をしたこと、③上記配転に関する団体交渉を一方的に打ち切ったこと、④就業規則の変更に当たり、X組合との事前協議を行わなかったこと、⑤その他の支配介入等をしたことが、不当労働行為に当たるとして、山口県労委に救済申立てがあった事件である。 2 初審山口県労委は、上記1の①ないし④は不当労働行為に当たるとして、Y法人に対し、〔1〕X1に対する知的障害者更生施設員光園以外の本部施設への配転、〔2〕X組合からの脱退を迫るなどの言動の禁止、〔3〕就業規則変更に際してのX組合との事前の誠実協議、〔4〕文書手交(上記1の①、②及び④に関し)、〔5〕文書による履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。
Y法人はこれを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令の一部を取り消し(上記1の①の配転の不当労働行為性を否定)、その内容を変更するとともに、その余の再審査申立てを棄却した。
これに対し、Y法人及びX組合双方はこれを不服として、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、各請求をいずれも棄却した。
本件は、同地裁判決を不服として、Y法人が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。 |
判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 当裁判所は、控訴人の第1事件における請求は理由がないものと判断する。その理由は、次項以下に控訴理由に対する説示を加えるほか、原判決の「第3 当裁判所の判断」の1から3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 救済の必要性(X組合の実体は存続しているか)について
X組合は、平成22年度に至っても毎月1回又は2回程度、「X組合ニュース」を発行して活動を継続していることが認められ、上記のような活動を継続している以上、脱退した組合員が復帰したり新たに加入する者が現れたりする可能性があることも否定され得ないことを併せ勘案すれば、X組合は、労働組合としての実体を有するものと認め、その救済の必要性を肯認するのが相当である。
また、労働委員会における労働組合の資格審査においては、組合規約及びその付属諸規定、労働協約、組合役員名簿、組織形態等を記載した文書等の提出が求められ、これらに基づき、労組法2条及び5条2項の規定に適合することの立証がされているかどうかを判断するものであるところ、中労委が行ったX組合の資格審査において、かかる立証の有無を審理判断する手続が履践されず、又はその審理が不十分であり、又はその判断に誤り若しくは不当な点があることをうかがわせる事情があることを認めるに足りる的確な証拠はない。
3 本件Y1前園長言動の不当労働行為性に関し園長の人事権の有無について
知的障害者更生施設Y園は、Y法人の中核施設の一つであり、その園長(施設長)は、その業務を掌理統括する立場にあるとともに、経営責任者及び各事業所責任者と本部役席者が一同に集まってY法人の当面の問題点及び方針の確認・討議をすることを目的とする運営会議の構成員としてこれに出席し、人事に関する事項を含めY法人の事業の諸問題の討議・検討をしていたことが認められる。
Y法人にあっては、一般職員の人事に関し、その退職等によって欠員が生じたときは、その所属していた部署の長とY2常務とが協議し、最終的にはY2常務の決断によって適宜異動を行っている。そして、園長の地位・役職の職務内容を踏まえ、Y法人における人事の実情にかんがみれば、園長は、人事評価の単なる一情報源ではなく、知的障害者更生施設Y園全体の掌理者として、その意見を反映させることがY法人の業務運営に組み込まれていたものと認めるのが相当である。
また、Y3園長は、①Y法人とX組合間の団体交渉に出席し、②Y法人の常務理事とともに保護者会に出席するのが通例であったところ、合同保護者会総会や入所部保護者会に出席して保護者会の要請等に対しY法人の方針を説明するなどし、③X1が第2事故に係る始末書の作成提出に応じなかったことから、平成18年3月8日付の事故等報告書の左下余白部分に「園長命として始末書扱いとする。」と書き入れて欄外上部の「部長」欄に押印するなど、これらY3園長の諸活動は、単なるY法人の方針等の伝達役や従業員との間のやり取りの窓口ではなく、園長として、Y法人を代理し、又はその立場等を代弁する者としてされたものであることは明らかである。
以上の諸点を総合勘案すれば、園長は、Y法人における従業員の労働関係についての方針等に関し相当範囲の機密事項に接するとともに、従業員を監督する立場又はこれに準ずる立場にあり、しかるときは、使用者であるY法人の利益代表者(理事長又は常務)に近接する職制上の地位にあったものというべきであり、他にかかる判断を左右するに足りる的確な証拠はない。
4 本件Y2常務発言の有無及び不当労働行為性について
Y2常務がY4理事宅においてX組合の執行委員を一人ずつつぶす旨発言した旨陳述するY5の陳述部分については、同人は、Y法人の業務について決定する理事会の構成員であるY4理事の娘であり、その立場にかんがみ、ことさら虚偽の事実を記載した陳述書を作成する必要性や動機が存したとは認められず、また、同人が同陳述書を作成した際の状況に関し、これに虚偽の事実を記載したことをうかがわせる事情を認めるに足りる的確な証拠もない。
また、県労委の審問における本件Y2常務発言を肯認するX2の供述についても、その具体性及び一貫性を肯認することができるほか、同供述に現れたX2の行動を規定した同人の意見や心情等にも格別不自然な点はないとともに、同供述にことさら記憶にない点を付加したり記憶に反する供述をしたりしていることをうかがわせる事情を認めるに足りる的確な証拠はない。
しかるときは、県労委の審問におけるX2の供述が、Y3園長のそれと附合しないことだけのゆえをもって、直ちにその信用性が失われるともいえない。
さらに、Y2常務のX組合やその組合員に対する関心、意向等についてみるに、Y2常務においてX2が団体交渉に出席していないことを認知し、これを理由にあまり組合活動をしていない旨の認識を持つこと自体、X組合やその特定の組合員に対する関心があったことの現れであるとみるのが相当である。
そして、Y2常務のY4理事宅での発言その他X組合やその組合員に対する対応のあり様をも踏まえれば、X組合に対する否定的感情を有するとともにその内部の状況について関心を持っていたY2常務が本件Y2常務発言をしたものと認めるのが相当であり、他にこれを左右するに足りる的確な証拠はない。
5 本件団交の態様の不当労働行為性について
X組合は、本件団交申入書において、本件配転をしないこと、X1の異動が避けられない場合には同人を選んだ理由を明確にし、X1の同意を得て本部施設内での異動とすることなどを要求事項としたものであり、その内容は、本件配転とは大幅に異なるものの、X1の異動自体を一切受け入れないとするものではなかったものである。
一方、Y法人は、本件団交によって本件配転を変更することはあり得ないとの方針でこれに臨み、X組合に対し、本件配転につき、その理由としてX1の2度の与薬過誤のみを挙げ、通常の人事異動の一環であって撤回はあり得ない旨及び夜勤手当相当額の収入の補償の要求には応じられない旨回答して議論を打ち切った上、X組合の日を改めた団体交渉の要求にも応じずに約30分程度で本件団交を終了させ、本件配転の時期がX3の退職予定日の1か月前であること、他の施設よりも異動が適切であることなどについては説明をしていなかったものであり、かかる本件団交の経過からすれば、Y法人が本件配転の合理性等について十分な説明をしたとはいいがたい。
また、Y法人が本件団交においてかかる説明をする必要がなかったと評すべき程度に事前にY3園長等がX1に対し本件配転に関する十分な説明を尽くしていたとも認められない。
以上の点からすれば、Y法人の交渉態度が誠実であったとはいえないとした原判決の説示は正当として是認することができる。
6 本件就業規則変更の不当労働行為性について
①本件就業規則変更は、変形労働時間制の採用及び懲戒解雇を含む解雇事由の改定等に関するものであることからすれば、基本的かつ重要な労働条件にかかわるものであり、平成18年1月協定においても、労働条件の変更又は改定が団体交渉事項であるとされているのであるから、これを実施することは義務的団体交渉事項に該当するものであったというべきである上、②X組合においては、就業規則の変更の届出がされるであろうことを予測していたものと認められるものの、本件就業規則変更の具体的な変更内容について了解していたことを認めるに足りる的確な証拠はないことからすれば、Y法人は、X組合に対し、平成18年1月協定に基づき、信義則上、本件就業規則変更を事前に通知するべき義務があったにもかかわらずこれを怠ったものと解するのが相当であり、これと同旨の原判決の説示は、正当として是認することができる。
7 中労委の救済方法の相当性について
①Y法人のX組合に対する不当労働行為が存しない旨の主張が採用することができないものであることは、前示のとおりであり、また、②X組合(及びその組合員)との間の労使関係、労使紛争の推移等からすれば、前示の各不当労働行為が単にY法人の人事や団体交渉に係る所要の手続等についての認識の僅かな不足やその忘失、一過性の手違い等によるものであるとはいえないことは明らかである上、③X組合がその実体を失ったものではないことも前示のとおりであること及び④X1の解雇が有効であることを認めるに足りる的確な証拠はないことにかんがみれば、Y1前園長、X2等が退職しているとしても、中労委が本件命令において、Y法人に対し、X組合への主文2項のとおりの文書交付を命じたことは、不当労働行為の被害救済措置として適切でないということはできず、中労委がその裁量を濫用又は逸脱したものとはいえない。
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その他 |
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