労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  モービル石油(研修) 
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第18号 
原告  スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合大阪支部連合会 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
補助参加人  エクソンモービル有限会社 
判決年月日  平成22年11月29日 
判決区分  却下、棄却 
重要度   
事件概要  1 Y会社大阪支店で開催された社内研修(以下「本件研修」という。)において、支店管理職Y1による同和地区等に関する発言に対し、研修リーダーの支店長代理Y2が同発言を正さずに本件研修を終了させたことが、Y会社及び大阪支店によるX組合支部連合会(以下「支部連」という。)に対する支配介入に当たるとして、救済申立てがあった事件である。

2 初審大阪府労委は、大阪支店に対する申立てを却下し、Y会社に対する申立てを棄却した。
 支部連は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委はこれを棄却した。
 本件は、これを不服として、支部連が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、支部連の請求を一部却下し、その余の請求を棄却した。
 
判決主文  1 本件訴えのうち、中労委に対する命令の義務付けに係る訴えを却下する。

2 原告のその余の訴えに係る請求を棄却する。

3 訴訟費用(補助参加費用も含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点1:大阪支店の救済命令被申立人適格の有無について
 不当労働行為救済申立ての被申立人適格を有する者は、労組法7条及び27条1項にいう「使用者」に当たる者でなければならない。そして、救済命令が発せられた場合、「使用者」は、救済命令に従って、不当労働行為の責任主体として不当労働行為によって生じた状態を回復すべき公法上の義務を負担し(同法27条の13)、確定した救済命令又は緊急命令を履行しないときは過料の制裁を受けることが予定されている(同法32条)ことからすると、「使用者」は、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要すると解される。
 大阪支店は、有限会社であるY会社が設置している支店の一つであり、有限会社組織の構成部分にすぎないものと認められるから、法律上独立した権利義務の帰属主体たり得ないものである。
 以上によれば、大阪支店は、不当労働行為救済申立ての被申立人とはなり得ないというべきであるから、本件初審事件における大阪支店の被申立人適格は認められないとした(中労委の)本件命令の判断は正当である。

2 争点2:本件研修における本件研修リーダーY2の行為が、Y会社及び大阪支店による支部連に対する不当労働行為(支配介入)に当たるかについて
 (1) 本件研修における本件管理職Y1発言は、自由討論の場面においてされたものであり、その発言は、その内容の当不当はともかく、同和差別に関するものであることが認められ、本件Y1発言の内容自体が支部連及びその組合員の組合活動に影響を与えるような内容のものであると解することはできない。
 なお、Y1は、支部連の組合員であるX1からの質問に対して、回答を拒否する応答をしていることが認められるところ、Y1の当該応答は、Y1がX組合の中心人物だと感じていたX1からの質問であったことから感情的に反発したことによるものであることが認められるのであり、Y1の当該応答も、その内容に照らし、それ自体が支部連又はX1の組合活動に影響を与えるような内容のものとは解することができないものであり、また、それがY1の支部連に対する支配介入意思に基づくものとも、それがY会社による支部連に対する支配介入を具体的に実行するための指示等に基づくものとも認めることはできず、他に、この点を認め得る証拠はない。

 (2) Y2は、Y1のX1に対する上記応答について何らの対応をしていないことが認められるが、Y1とX1との間のやり取りは自由討論の場面におけるものであり、参加者が自由に発言する場であったことからすると、Y2がY1の上記応答について注意や回答するように促すことをしなかったとしても、自由討論の趣旨にかんがみて問題視すべきこととは解されず、また、Y1の当該応答の内容が不穏当なものとはいえないことからしても、Y2の上記行為に問題があるということはできない。

 (3) Y1は、本件Y1発言の中で逆差別発言に当たる不穏当な内容の発言を行い、これに対し、Y2は、Y1をたしなめた上、引き続き研修することを提案して自由討論を締めくくり、研修を終了させたことが認められる。以上のY2の対応は、研修リーダーとしての対応として相当性に欠けるものとはいえず、その対応内容に照らすと、その対応自体が支部連及びその組合員の組合活動に影響を及ぼすようなものとは到底解することができないし、また、その対応が支配介入意思の現れであると認めることもできない。

 (4) なお、支部連の主張のうち本件研修以降のY会社の対応及びこれに係る本件命令の事実認定を取り上げる部分は、本件救済申立事項にかかわらない事柄に関するものであり、本件救済申立事項に係る本件命令の判断の適否に影響を与えるものとはいえない。
 次に、支部連の主張のうち本件研修以前のY会社と支部連及びX組合との関係に関する事実認定を取り上げる部分は、本件研修以前に支部連及びX組合とY会社との間に労使対立状況があることが認められるが、このことから直ちに、本件研修における本件Y2の行為の客観的観点からの不当労働行為性はもとより、Y2の不当労働行為意思を裏付けるものということはできない。
 また、支部連、X組合及び支部連大阪支店支部(以下「原告ら」という。)は、本件研修以前の原告ら及びその組合員に対するY会社の行為について、原告らを嫌悪し、敵視して行われたものであるなどとして非難や抗議をし、救済命令の申立てを行っていることが認められるが、他方、原告らが行った救済申立ては、いずれも排斥されていることが認められる。このような事情に照らすと、本件研修以前のY会社の原告らに対する行為は、Y会社の原告らに対する不当労働行為意思の存在を客観的に裏付けるものとはいえない。

3 争点3:争点2のY会社による支部連に対する支配介入が認められる場合において、「社内同和研修の内容を支部連と協議し、決定した上で実施すること」との救済が認められるべきかについて
 上記争点は、争点2におけるY会社の支部連に対する支配介入が認められることを前提とするものであるところ、上記2で説示したとおり、争点2における支部連主張の不当労働行為を認めることができない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、争点3に係る支部連の主張は採用することができない。

4 争点4:中労委の不当、違法な審理指揮の有無について
 Y1の証人尋問の必要性については、本件Y1発言の内容自体に争いがないことは支部連も自認しているところであり、その具体的内容は、本件初審命令における本件Y1発言の内容に関する事実認定のとおりのものであるから、この点についてY1を証人として取り調べる必要性は認め難い。また、本件救済申立事項のうち本件研修に係るものは、本件Y1発言をY2が放置したことであるから、この点についてもY1を証人として取り調べる必要性は見い出せないし、その余の本件救済申立事項との関係でも、Y1を証人として取り調べる必要性は認められない。
 次に、Y2の証人尋問の必要性については、支部連が申請書に記載したY2の尋問事項は、①本件研修の事実経過、②平成7年3月31日に行われた大阪支店における社内同和研修の事実経過、③本件Y1発言をめぐる支部連とY会社との間の団体交渉の事実経過であることが認められるところ、上記①~③のいずれにも関与しているY2の証人適格性は認められるものの、X2ら4名も同様に上記①~③のいずれにも関与していることからすると、それらの事実経過については、X2ら4名によっても立証し得るものであり、Y2が唯一絶対の証人であるとはいえない。そして、本件初審事件においてはX2ら4名が、本件再審査事件においてはそのうちのX3が、それぞれ証人として採用されて証言していることが認められる。
 以上によれば、中労委がY1を証人採用しなかったことは、その審査指揮として不当、違法とはいえず、また、中労委がY2を証人採用しなかったことは、その審査指揮として不当、違法とまでいうことはできない。

5 義務付け訴訟について
 支部連は、本訴において、本件命令の取消しを求める訴えのほかに、中労委に対して別紙「請求する救済の内容」に記載の命令を発するように義務付けることを求める訴えを提起している。
 そこで、職権により判断するに、上記2~4で説示したところからすると、本件命令は適法であり、取り消されるべきものとはいえない。そうすると、上記義務付けを求める訴えは、行訴法37条の3第1項2号に規定する場合に当たらないから、不適法な訴えである。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地労委平成7年(不)第20号 却下、棄却  平成10年12月21日 
中労委平成10年(不再)第49号 棄却  平成20年 6月18日 
東京高裁平成23年(行コ)第5号 棄却  平成23年 8月23日 
 
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