労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東海旅客鉄道(組合ビラ配布等) 
事件番号  東京高裁平成22年(行コ)第149号 
控訴人  東海旅客鉄道株式会社 
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  ジェイアール東海労働組合
ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部
ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部大阪台車検査車両所分会 
判決年月日  平成22年10月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、①会社施設内で勤務時間外にビラ配布活動を行ったX1分会書記長(以下「X1書記長」という。)に対し、就業規則及び基本協約に違反するとして事情聴取を行い顛末書の提出を求めたこと、②分会掲示板から掲示物2点を撤去したことが、不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、会社に対し、ビラ配布を行ったX1書記長に注意指導を行い、総務科に呼び出し、事情聴取を行い顛末書の提出等を求めた会社の一連の対応、及び掲示物2点の撤去に関する文書手交を命じた。
 会社は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令の一部を変更して、①X1書記長が会社の業務指示に従わなかったことを理由に、1日半にわたる事情聴取を行うとともに顛末書の提出を求め、就業規則の書き写しを命じたこと、及び②分会掲示板から掲示物2点を撤去したことについて文書を手交を命じた。
 これに対し、会社はこれを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は会社の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加に係るものを含む。)は、控訴人の負担とする。
判決の要旨  1 当裁判所も、本件救済命令の取消しを求める控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は、原判決の一部を改め、後記2のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 控訴人の当審における主張に対する理由の付加
(1) X組合分会の当事者能力及び救済申立人適格について
 ア 確かに、各証拠は、原審の第4回口頭弁論期日(平成21年9月24日)において、原審裁判所からX組合分会に対し、救済申立ての適格性を基礎付ける証拠の提出を促され、原審の第6回口頭弁論期日(同年12月17日)に提出されたものであることが認められる。
 しかし、丁第1号証(分会規約)の体裁及び内容に照らすと、同号証の真性について疑いを差し挟むような具体的な問題点は見あたらないから、同号証は真性に成立したものと認められるところ、分会規約21条によれば、同規約は、1995年(平成7年)9月13日から施行する旨が定められており、上記提出の経緯を考慮しても、これが虚偽の内容を記載したものというべき根拠はないから、本件救済命令の対象となった不当労働行為があった平成17年当時から、同規約は存在していたものと認められる。
 そして、丁第2~第4号証についても、その真性を否定する事情はない。
 イ 権利能力なき社団の下部組織であるからといって、当然に当事者能力等が認められないものではない。
 ウ 最高裁昭和60年7月19日判決は、救済命令の名あて人について判断したものであって、本件とは事案を異にするものであり、救済申立人適格についてそのまま妥当するものではない。また、確かに、本件協約には、X組合関西地本の下部組織であるX組合分会についての定めはないが、民訴法上の当事者能力の有無や、使用者の不当労働行為に対する救済申立てをすることができる労働組合に当たるか否かは、その団体の実体に則して判断されるものであるから、本件協約にX組合分会についての定めがないことは、これらを否定する根拠となるものではない。
 エ 確かに、訴訟で用いられる証拠は当事者の吟味、弾劾の機会を経たものに限られることは、民事訴訟の基本原則であるが、引用に係る原判決は、そのような証拠を採用して、X組合分会の当事者能力及び不当労働行為に対する救済申立人適格を認めたものではない。
 なお、控訴人の主張は、X組合分会が労組法2条及び5条2項の規定に適合するものと認める旨の資格審査決定は、控訴人の意見陳述の機会が全く与えられなかった証拠を用いて行われたものであり、そのような資格審査の存在を、民事訴訟において引用することは許されないという趣旨の主張と解されるが、同資格審査が行われたことは甲第1号証によって明らかであり、原審は、同資格審査が行われたこと自体を摘示したものにすぎない。
(2) 本件各呼出しについて
 ア 本件救済命令は、本件各呼出しは不当労働行為とまではいえないとして、これを救済の対象とはしておらず、そのことは本件の直接の争点ではない。そして、原審は、本件各呼出し自体は不当なものとはいえないとし、さらに、そのような本件各呼出しに従わなかったX1書記長に対して本件事情聴取を行うこと自体も、不当なものではないと判示しているのであるから、控訴人の(極めて曖昧で法律的とはいい難い表現であるなどという)主張は、そもそも原審の結論を左右するものではない。
 イ 本件組合ビラ2配布行為が、本件就業規則22条1項及び23条に違反するものではないと解すべきである。
 ウ 本件協約216条には、「会社は、組合員の正当な組合活動の自由を認め、これにより不利益な扱いをしない。」と定められているのであるから、本件就業規則22条1項及び23条によって禁止されている行為を実質的に判断すべきことは当然であって、この点についての原審の判断には誤りはない。
 エ 原審は、本件組合ビラ2配布行為自体によって、本件詰所内の規律、秩序が乱れ又は乱れる具体的なおそれがあったかを問題にしているのであって、このような事情を認め得る客観的な証拠はない。そして、無許可のビラ配布であっても、それが本件組合ビラ2配布と同様に許容されるものであるなら、これをもって職場規律が著しく乱されるということはできない。
(3) 本件事情聴取について
 ア 本件事情聴取の最終的な目的が、控訴人の主張のとおり(事情を聴き取るということだけではなく、そのような業務命令を無視ないし拒否することが、社員として労働契約上の義務に反し、不当な行為であることを指摘し、必要に応じて注意指導することをも含んでいること)であるとしても、それは、X1書記長から本件各呼出しに従わなかった行為の経緯等を聴取した結果から判断されるべきものであって、当初から確定的に目的とされる性質のものではない。(本件事情聴取を「その経緯等の事実関係を聴取することを目的としたもの」とする)原審の判示が不相当なものであるとはいえない。
 イ 控訴人は、X1書記長は業務命令に応じなかったことの違法・不当性について反省していないことが顕著であったなどと主張するが、反省の有無は主観的な問題であって、X1書記長が反省していたか否かは証拠上明らかではなく、X1書記長の事情聴取に対する態度について、Y1助役による事情聴取に「まがりなりにも応答」したという原審の判示は相当である。
 また、控訴人は、Y1助役が本件事情聴取を終了したのは、最終的な目的が達せられたからであるなどと主張するが、原審は、本件事情聴取の状況から、客観的にみて、その続行の必要性、実効性を判断したものであって、Y1助役になり替わって、その主観的判断を分析したものではないから、控訴人の主張は、原判決を正解しないものというほかはない。
 ウ 確かに、本件事情聴取の目的が、X1書記長が本件各呼出しに従わなかった経緯等の事実関係を聴取することにあるとしても、そこから、直ちに本件就業規則総則服務規定の書き写しが、同目的の範囲外の行為であるとはいえない。
 しかし、原審は、本件事情聴取の経過等を踏まえ、事情聴取を続ける必要性、実効性にかんがみ、Y1助役がX1書記長に本件就業規則総則服務規定の書き写しを命じたことが、相当性を欠くと判断したものであって、その判断過程に何らの不相当な点はない。
(4) 本件掲示物撤去について
 ア 原審が判示するとおり、組合活動に関する総則規定である本件協約216条が、「会社は、組合員の正当な組合活動の自由を認め、これによる不利益な扱いをしない。」と定めているのであるから、本件協約227条1項、228条1項も、これと整合的に解釈するのが相当であって、本件協約が締結される際に、労使間において(掲示物の掲出行為が「正当な組合活動」であるか否かということを判断し、撤去要件として定める旨の)合意がされたことがないことをもって、原審の解釈が左右されるものではない。
 イ 本件協約228条は、「会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、または職場規律を乱すものであってはならない」と規定しているところ、これは多かれ少なかれ一定の評価を経た上で判断されるべきものであるから、各撤去事由が、控訴人がいうような、一義的に明確であるものとはいえない。そして、同条の解釈は、組合活動に関する総則規定である本件協約216条と整合的に解釈するのが相当であり、これが協約自治の原則を否定するものでないことは明らかである。原審の本件撤去要件についての判示は相当である。
 ウ 本件掲示物2について、「記載内容を全体としてみれば、伝えようとしている趣旨及び内容は、原告(控訴人)において日常的に『パワーハラスメント』が行われているという事実や、本件各呼出し及び本件事情聴取が『パワーハラスメント』に当たるという事実を指摘したものではなく、本件各呼出し及び本件事情聴取が『パワーハラスメント』にも当たるような不当なものではないかという問題点を指摘し、原告が本件各呼出し及び本件事情聴取を行ったことについて抗議するものであるといえる」とした上で、本件撤去要件該当性を判断し、いずれもこれを否定した原審の判断は、相当である。そして、本件撤去要件には、会社の信用を傷つけるものであってはならない旨が定められており、かつ、控訴人が本件各掲示物は控訴人の信用や名誉を毀損するものであると主張しているのであるから、原審が、その判断の際、本件組会掲示板が本件詰所奥の下駄箱室内にあることを考慮していることも、相当である。
 また、本件掲示物1について原本が提出されていなくても、他の証拠でその内容を確定することは可能であって、それを前提に救済命令の判断をすることは何ら問題ではない。
(5) ポスト・ノーティスについて
 ア 控訴人とX組合らとの間では、不当労働行為の成立を巡って激しく対立しており、労使関係の正常化がいまだ果たされていないことは明らかである。そして、本件救済命令の内容は、中労委において、不当労働行為であることを認定されたこと、及び今後このような行為を繰り返さないようにする旨の文書をX組合らに手交するにとどまるものであるから、不当労働行為救済制度の目的のために必要最小限度の作為を命じたものと解するのが相当である。したがって、本件救済命令において救済措置の選択に係る裁量権を逸脱し又は濫用したものとはいえない。
 イ X組合分会に当事者能力及び不当労働行為に対する救済申立ての適格が認められることについて判示したところから、その自主性・独自性が認められることは明らかである。
 また、控訴人は、X組合らが救済命令請求権者という債権者的立場にあるから、本件救済命令がX組合らにあてた文書をX組合らのそれぞれに交付することを控訴人に命じたのは、連帯債権者のうちの1人に対して当該文書を手交すれば、他の連帯債権者の債権も当然消滅するという連帯債権の法理からみて、不必要な義務を課すものなどと主張するが、X組合らがそのような関係にあるという実体法的な根拠は何ら見いだすことはできない。
(6) 原審のその他の瑕疵について
 控訴人は、本件初審申立ての一部について、大阪府労委が判断を脱漏したこと(結論を主文に表示しなかったこと)は違法であり、これを看過した本件救済命令も違法であるとした上、原審が、「救済申立てにおける申立ての趣旨は、民事訴訟における請求の趣旨のように限定的に解する必要はなく----請求どおりの救済が与えられなかった部分ごとに『申立てを棄却する』旨の判断を示す必要はないと解される。」と判示した点は誤りであると主張する。
 しかし、この点についての原審の判断は相当である上、仮に本件初審命令に瑕疵があったとしても、本件救済命令に取消事由があるとは解し得ず、控訴理由になるものではない。
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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
大阪府労委平成17年(不)第48号 全部救済 平成19年5月23日
中労委平成19年(不再)第32号 一部変更 平成20年11月26日
東京地裁平成20年(行ウ)第762号 棄却 平成22年3月25日
最高裁平成23年(行ツ)第31号・平成23年(行ヒ)第38号 上告棄却・上告不受理 平成24年6月12日
 
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