労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 広島県(教育委員会)
事件番号 東京高裁平成20年(行コ)第395号
控訴人 広島県
被控訴人 国(処分行政庁 中央労働委員会)
被控訴人補助参加人 広島県高等学校現業職員組合
判決年月日 平成21年7月15日
判決区分 棄却
重要度 重要命令に係る判決
事件概要  Y県の県立学校では、長年にわたってX組合の組合員を含む教職員が、勤務時間中に労働組合等の活動を行うためにいったん教頭に年休届などをしておいて何事もなければ後にこれを破棄するなどの方法により、職場を離脱することが慣行的に行われていた(以下この慣行を「組合年休」という。)ところ、Y県Y1教育委員会(以下「Y1委員会」)は、同慣行を無効とする通達を発し、X組合の組合員による同慣行の実施状況について調査を行い、調査に応じなかった組合員に対して懲戒処分を行った。
 X組合は、Y1委員会が行った、①組合年休の労使慣行を無効とする通達を発して同慣行を一方的に破棄したこと、②職務命令により組合員の組合年休の取得状況につき調査を行い、調査に応じなかった組合員に対して懲戒処分をしたこと、③懲戒処分に関する事項を団体交渉事項とする団体交渉申入れに対し、申入れにかかる団体交渉事項は、地方公営企業等の労働関係に関する法律第7条の管理運営事項であるとして団体交渉を拒否したことなどの行為が不当労働行為であるとして、広島県労委に救済申立てを行った。
 広島県労委は、Y県に対し、上記③については不当労働行為に該当するとして、X組合の団体交渉申入れに対して団体交渉応諾を命じ、その余の申立てについては棄却した。
 Y県はこれを不服として、中労委に再審査を申し立てたところ、中労委は、団体交渉応諾を命じた初審命令主文1項を、組合員の昇給延伸の基準などの労働条件に関する事項についての団体交渉応諾と訂正した上で、再審査申立てを棄却した(以下「本件命令」という。)。
 Y県は、本件命令を不服として、その取消しを求め東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、Y県の請求を棄却した。Y県が同地裁の判決を不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨 ① 団体交渉を求める利益について
  Y県は、現業職を段階的に廃止し、平成26年度末には全廃という計画で動いており、X組合との間で、現業職の行政職への転職や給与全般等について合意、問題が決着しており、組合年休を行使する者もいなくなったことなどから団体交渉を行う利益が失われたと主張する。
  しかし、本件命令時はもちろん、本件口頭弁論終結時においても、X組合の組合員である現業職員がX組合になお存在することは明らかであり、本件懲戒処分により影響を受けたX組合の組合員の労働条件に関する問題がすべて解決されたことを認めるに足りる証拠はなく、なお、団体交渉を求める利益が認められる。
② 不当労働行為(労働組合法7条2号)の成否
 ア 地公法7条の下では、管理運営事項は義務的団交事項には当たらないところ、個々の懲戒処分自体は管理運営事項に当たり、具体的な懲戒処分の当否は、義務的団体交渉事項には当たらないと解される。しかし、当該懲戒処分の実施により組合員の賃金その他の労働条件に影響が及ぶ場合には、地方公共団体は、その労働条件について団体交渉に応じなければないないと解すべきである。
 イ そこで、本件団交申入れにおける、交渉事項について  義務的団交事項が含まれるか否か検討する。
   地公法の下においても、懲戒の基準を設定するか否かは管理運営事項であると解されるが、基準を設定することとした場合に、一定の要件に該当した場合に一定の懲戒処分に処するというような基準が勤務条件であって、その基準の設定、変更は団体交渉の対象となるとしたものと解される。
   しかしながら、本件懲戒処分の根拠は、地方公務員法29条1項1号ないし3号とされ、具体的には同法32条及び33条に違反することを理由とするものと認められるのであって、本件懲戒処分は、その設定等が団体交渉の対象となる懲戒の基準に基づいて行われたものではないのである。したがって、本件懲戒処分に係る懲戒の基準が義務的団交事項の該当するとはいえない。
 ウ 本件団交申入れは、本件懲戒処分への抗議と取消しに主眼を置いているともみられるが、懲戒処分に結果として問題となる労働条件についても交渉における検討対象となることが当然に予想される。
   証拠によれば、Y1教育委員会とX組合との間で本件懲戒処分を受けたX組合の組合員の昇給延伸が問題として認識されていたことがうかがえる。これらの事情を照らすならば、昇給延伸の措置、ひいては給与については、懲戒処分の結果として問題となる労働条件として、交渉における検討対象となることが当然予想され、X組合は、これについて交渉を求める趣旨であったと解することができる。また、「組合年休」については、法的評価はともかく、年次有給休暇の利用方法という点で労働条件に関わるものであり、休暇に関する事項ついても団体交渉における検討対象となることが予想され、これについても交渉を求める趣旨であったと解することができる。
 エ このように本件団交申入れには、義務的団交事項である労働条件に関する事項が含まれていたと解されるのであり、そうするとY県としては、少なくとも団交申入れの対象の労働条件が含まれているか否かを予備交渉等によりまず確認した上で団交に応じるかどうかを判断するなどの対応をとることが可能であったのに、団交申入書の文言に拘泥し、本件懲戒処分が管理運営事項の属するとの理由で、予備交渉を含め一切の団交に応じなかった対応は正当な理由によるものとは認められない。
 オ 長年にわたり行われていた労使慣行(組合年休)について、当事者の一方であるX組合が、Y県に対して、当該労使慣行に関する団交申入れを行うことは、当該慣行が法的拘束力を有するかは別論として、労働組合として地位の濫用であるとまではいえない。そして、本件団交申入れにかかるX組合の要求は労使慣行の取扱いについて説明を求めているものであるから、そのような団体交渉を行うことが不法行為に加担し、これを助長することになるものではなく、団体交渉をすることによって「組合年休」を承認するよう合意すること自体が義務付けられるものでもないから、Y県の主張は団交拒否の正当な理由とはならない。
 カ 以上のとおり、Y県が本件団体交渉に応じなかったことは、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する。よって、Y県の請求は理由がないから棄却すべきであって、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
広島県労委平成12年(不)第1号 一部救済 平成18年3月10日
中労委平成18年(不再)第23号 一部変更 平成19年11月7日
広島地裁平成18年(行ウ)第22号 棄却 平成20年5月21日
東京地裁平成19(行ウ)762号 棄却 平成20年10月16日
広島高裁平成20年(行コ)第15号 棄却 平成21年9月17日
最高裁平成21年(行ヒ)第424号 上告不受理 平成22年3月25日
 
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