労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 広島県教育委員会
事件番号 広島地裁平成18年(行ウ)第22号
原告 広島県高等学校現業職員組合、個人3名
被告 広島県(処分行政庁:広島県労働委員会)
判決年月日 平成20年5月21日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要 本件は、県らが、①Y1委員会が労使慣行である組合年休を一方的に破棄したこと、②組合年休の行使状況について調査を行い、この調査に応じなかったX組合の組合員に戒告処分を行ったこと、③当該戒告処分に関わる団体交渉を拒否したことなどの行為が不当労働行為に当たるとして争われた事件である。
 広島県労委は、誠実団交応諾以外の請求を棄却したところ、X組合らはこれを不服として、命令の棄却部分の取消しを求めて広島地裁に行政訴訟を提起したものである。なお、組合員X1らは命令の取消しと併せて、Y1委員長の戒告処分の取消しを求めた。
判決主文 1 原告X1,原告X2及び原告X3の訴えのうち,広島県教育委員会が原告X1,原告X2及び原告X3に対して平成11年12月28日付けでなした各戒告処分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決の要旨 ① 不当労働行為の成否について
ア 9月10日通達による労使慣行の破棄が支配介入又は不利益取扱いに当たるか
(ア)X組合らは、仮に、組合年休の慣行に法的効果がなかったとしても、X組合らに対する事前の告知なく、一方的に労使慣行を破棄することは不当労働行為に該当する旨主張する。
 しかし、法的効力を持たず、強行法規にも反している慣行を是正するのに、X組合らに対する事前告知等の何らかの手続きが法的に必要とされると解するのは不合理であるから、X組合らの上記主張を採用することはできない。
(イ)なお、X組合らは、不当労働行為該当性の解釈に当たり、ILO98号条約1条2項(b)の趣旨を考慮すべきであると主張するが、同条約6条により同条約が公務員に対して適用される余地がないこととなるのであるから、X組合らの主張する条項は本件において考慮される性質のものではない。よって、X組合らの上記主張にも理由がない。
イ 組合年休に関する調査及び職務命令が支配介入及び不利益取扱いに該当するか
(ア) 組合年休に関する調査について
 (a)組合年休が違法な慣行であり、その是正の為にまず従前の組合年休の取得に関する実態を解明することは必要不可欠であり、組合年休の問題が大きく報道され、市民団体から組合年休を取得した時間に相当する時間分の過払給与の返還を求める監査請求まで出された事情の下では、組合年休の取得状況について網羅的な調査を行う必要性があったことは容易にうかがえ、調査の実施が、X組合を圧迫し、X組合員に不当な不利益を与える目的に基づくものであったとはいえない。
 (b)調査方法をみても、①組合年休に関しては、正規の年次有給休暇の取得の場合と異なった扱いがされ、記録に残されない場合もあったこと、②X組合が組合年休に関する調査に関してY1委員会に非協力的な態度をとっていたことから考えて、X組合に対して回答を求めても情報提供に協力しないことが十分に予想されたことにかんがみれば、調査に当たって自己申告を求める形をとったことには合理的な理由があったというべきである。
(c)X組合らは、調査対象を組合年休にのみ絞った点が不当であると主張するが、社会的に最も問題とされたのが組合年休の問題であった以上、膨大な作業を要する調査の対象を組合年休に絞ったことが不当であったとはいえず、また、会議一覧表の使用についても単に職員の記憶喚起の為に示されたにすぎず、調査対象は常にすべての常勤職員であったといえるから、X組合らの主張は認められない。
(イ)職務命令について
 (a)Y1委員会は、職務命令を発して得た調査の結果を過払給与の返還を求める際にも用いることを想定していたことが推認されるが、このことから直ちに、Y1委員会がX組合及びX組合組合員に不当な影響を及ぼす目的で職務命令を発したとはいえない。
   (b)また、職務命令は、少なくともX1、X2及びX3に関する限り、各校長が、上記組合員らに調査票の提出を何回か督促した上、職務命令を発することを警告した後に発せられたものであって、このような経過も勘案すれば、職務命令を発したことが上記組合員らに不当な不利益を及ぼしたともいえない。
   (c)なお、X組合らは調査票に「記憶にない」と記載したのは真実を述べたものであるから、そのような回答の調査票を不適正であると断じ、職務命令を発した点は違法であると主張するが、直近1年数ヶ月の組合年休取得について、全く記憶がないことは不自然であり、組合年休の取得があった場合におおよそいつ頃にどのくらいの時間組合活動を勤務時間中に行ったかを申告することは可能なはずであり、組合員らの「記憶にない」との回答には、X組合の配布物等においてY1委員会からの調査に対しては記憶がないと回答するほかないといった見解を再三にわたり示していたことが影響していたと考えられ、これらの点からすれば、真実を述べたものであるとは到底考えられず、上記主張を採用することはできない。
 (ウ)以上より、Y1委員会による組合年休の調査及びそれに関係する職務命令が原告組合に対する支配介入又は不利益取扱いであるとするX組合らの主張には理由がない。
② 本件戒告処分が不利益取扱いにあたるかについて
 前記のとおり、X1、X2及びX3に発せられた職務命令が適法なものである以上、右記職務命令に対する違反があったとすれば、地方公務員法32条に定められた職務上の命令に従う義務に対する違反が認められることになる。
 ところで、前記のごとく、単に「記憶にない」とのみ記入した調査票を提出する行為は、上記職務命令に対しての対応として不適切であるといえるから、上記組合員らには地方公務員法32条違反に該当する事実が認められる。そうすると、上記組合員らについて、地方公務員法29条1項2号の所定の懲戒事由は存在することは明らかである。
 そして、①組合年休の慣行は職務専念義務という地方公務員の中核的な義務に反する慣行であったこと、組合年休の慣行に対する社会的な非難も高まっていた状況下で組合年休に関する実態の解明は重要な意味を持っていたと考えられることからして、本件における職務命令違反には公務員秩序の観点から相応の重大性があり、職務違反に対して懲戒処分を行うことが不相当な制裁であるとはいえないこと、②戒告処分の前提となる職務命令の前にも、学校長が複数回にわたって上記組合員らに対して適切な調査票を提出することを求める督促を行っており、本件戒告処分が不意打ち的にされたともいえないこと、③戒告処分を受けた場合、退職金支給において不利となったりすること等の不利益が生じるものの、こうした不利益は懲戒処分の中では比較的軽微なものであることにかんがみれば、職務命令違反に対する懲戒処分が、不当目的に基づいていたり、手段として不相当であったりしたとはいえず、本件懲戒処分が不当労働行為であるとはいえない。
 よって、X組合らの主張には理由がない。


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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広島県労委平成12年(不)第1号 一部救済 平成18年3月10日
中労委平成18年(不再)第23号 一部変更 平成19年11月7日
東京地裁平成19(行ウ)762号 棄却 平成20年10月16日
東京高裁平成20年(行コ)第395号 棄却 平成21年7月15日
広島高裁平成20年(行コ)第15号 棄却 平成21年9月17日
最高裁平成21年(行ヒ)第424号 上告不受理 平成22年3月25日
 
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