労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 ネスレジャパンホールディング(団交)
事件番号 東京高裁平成20年(行コ)第264号
控訴人 国(処分行政庁:中央労働委員会)
控訴人補助参加人 ネッスル日本労働組合島田支部
被控訴人 ネスレ日本株式会社
判決年月日 平成20年11月12日
判決区分 全部取消
重要度  
事件概要 支部組合であるX組合は、Y会社が、第1事件に関しては4回、第2事件に関しては2回の団体交渉申入れに対して、団体交渉に応じないことが不当労働行為であるとして、静岡地労委に救済申立てを行った。
 静岡地労委は、Y会社の対応は不当労働行為であると認め、①X組合から団体交渉の申入れがあった事項について、支部所在地の工場内で速やかに団体交渉に応じなければならないこと、②X組合から団体交渉を申し入れられたときは、会社団交方式でなければ応じられないとの理由で、団体交渉を拒否してはならないこと、③支部所在地の工場の従業員と会社及び会社以外の関連会社3社との間の各法律関係について文書による説明をすること、④文書手交を命じ、その余の請求を棄却した(以下「初審命令」という。)。
 Y会社及びX組合は、双方とも初審命令を不服として、Y会社は、初審命令の取消し及び救済申立ての棄却などを求め、X組合は、救済方法の変更を求め、それぞれ中労委に再審査申立てをしたところ、中労委は、初審命令を一部変更した上で、X組合の申立てを救済する命令を発した(以下「本件命令」という。)。
 Y会社は、本件命令を不服として、会社の対応は不当労働行為には該当しないとして、その取消しを求めて提訴したところ、東京地裁は、本件命令発令後、X組合の組合員であった2名がY会社を自己都合退職したことにより、X組合には現にY会社に雇用されている労働者である組合員が存しなくなったため、本件命令の拘束力が失われてY会社にその取消しを求める法律上の利益はないと判断し、訴えを却下した。
 本件は、中労委がこの判決を不服とし、本件命令の拘束力は失われておらず、原判決には重大な判断の誤りがあると主張して、原判決の取消し及び第1審への差戻しを求めて控訴した事案である。
判決主文 1 原判決を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
判決の要旨 ① 原判決の判断の前提となる事実に加えて証拠並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件命令が発せられた時点では、X組合の組合員は2名いたこと、その後、それぞれ自己都合により退職し、他方、本件命令発出後、X組合にはY会社に雇用されている労働者が新たに組合員として加入したことはなく、その結果、X組合には、現にY会社に雇用されている労働者である組合員は存しないこと、Y会社の支部所在地の工場は従前どおり存在していることが認められる。
 なお、Y会社を既に退職した者の中に、退職の効力を現に争っている組合員が存在すると認めるに足りる証拠はない。
② 使用者と労働者間の団体交渉に関して、労働組合法7条は、「使用者は、次の各号に掲げる行為はしてはならない。」、2号で「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」と規定しており、この規定からすると、使用者が団体交渉応諾義務を負う労働組合は、「使用者が雇用する労働者の代表者」であることが要件とされているところ、この要件は、団体交渉を申し入れた時点で充足していることを要する交渉の適格条件ではあるが、使用者が団体交渉応諾を拒絶し続けた後に、救済命令により団体交渉に応じる時点まで充足されていなければならないとする継続要件ではないと解するのが相当である。
③ 本件では、X組合には現にY会社に雇用されている労働者である組合員が退職等のため存しなくなったことが、救済命令の履行を客観的に不可能ならしめる事情に該当するかどうか、ひいては救済命令の基礎を失わせ拘束力を失わせることになるのかどうかが問題となるところ、本件においては、X組合からの団体交渉申入れの内容からすると、交渉による労使の合意によって金銭的な解決が可能な事項も存在することから、組合員が存しなくなったからといって、救済命令の履行を客観的に不可能ならしめる事情が発生したことにはならない。
 したがって、本件命令発令後に、X組合に現に使用する従業員が存在しなくなったとしても、そのことのみを理由として本件命令がその基礎を失って拘束力を失うとされることはない。
④ 本件命令においては、部分的には訴えの利益を欠き却下を相当とする余地もないではない。しかるに、原判決は、本件命令がX組合の組合員が退職者のみとなったため、労働組合法7条2号の要件を欠き、このため本件命令が拘束力を失ったと解して、訴えのすべてを却下したが、本件においては、まず、本件命令のうち、どの部分が、X組合の組合員が退職者のみとなったことを理由に実質的に拘束力を失ったかの審理を尽くし、その上で、本案審理を行うことが必要である。
⑤ そうすると、原審の判断には誤りがあるから、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法307条により、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。


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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
静岡地労委平成14年(不)第2号、平成15年(不)第1号 一部救済 平成16年4月16日
中労委平成16年(不再)第31・32号 一部変更 平成19年5月9日
東京地裁平成19年(行ウ)第602号 却下 平成20年6月19日
最高裁平成21年(行ヒ)第71号 上告不受理 平成22年10月19日
 
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