概要情報
事件名 |
協和出版販売 |
事件番号 |
東京高裁平成19年(行コ)第367号 |
控訴人 |
協和出版販売株式会社 |
被控訴人 |
国(採決行政庁:中央労働委員会) |
被控訴人補助参加人 |
日本出版労働組合連合会 |
被控訴人補助参加人 |
協和出版販売労働組合 |
判決年月日 |
平成20年3月27日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
X組合らがY会社に対し、従前55歳であった定年が60歳に延長されることに伴い55歳以降の従業員に支給される嘱託給支給額の相当性につき、各種計算書類の開示を含めた説明を求めたのに対し、Y会社がこれに誠実に応じなかったことが不当労働行為に当たると主張し、東京都労委に救済を申し立てたところ、同労委は同組合らの申立てをほぼ容れて団交応諾等を命じる旨の命令を発した。これに対し、Y会社が、東京都労委が発した命令のうち団体応諾を命じた部分を不服として、中労委に再審査申立てを行ったところ、中労委は初審命令の一部を取り消した上で、同申立てを棄却する本件命令を発した。 Y会社はこれを不服としてその取消しを求めて、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は請求を棄却した。 本件は、Y会社が、中労委のした本件命令の取消しを求めた事件の控訴審である。
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判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,補助参加により生じた費用を含め,控訴人の負担とする。 |
判決の要旨 |
当裁判所は、Y会社の請求に理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、以下の判断を付加するほか、原判決事実及び理由「第3 争点に対する判断」に記載されたとおりであるから、これを引用する。 1 本件申入れを受けて開かれた平成12年6月15日の団体交渉において、何ら客観的な資料の提示せず、売上金額等も明らかにしなかったのであるから、誠実に交渉すべき義務を履行したとはいえず、不誠実な団交をしたものと認められる。また、初審申立て後平成13年9月から平成14年5月22日までの間に行われた第4回目の団交においても損益計算書の一部の項目の金額を提示した他、経営状態について説明しているが、経営状態が悪化していること等の説明をしたに過ぎず、誠実に交渉したとはいえないのであり組合の救済を求める利益は失われていなかった。 2 Y会社は、組合に説明を待つまでもなく新嘱託制度の合理性を認識していると主張するが、X組合の組合員らがY会社の社員として朝礼や各部署で経営状態についての説明を聞いたりする等により、会社の財政状況をある程度推測することができるといえるとしても、X組合は新制度における55歳から60歳までの間の給与額の相当性について納得せず、根拠となる資料の提示等を一貫して求めてきたのである。しかも、Y会社は資料の提示も、具体的説明もしなかったのであるから、合理性を認識しているとか、この制度によらざるを得ないと認識していたということはできないことは当然である。また、朝礼等の説明については、労使として対等な立場で行う団体交渉に代わる役割を果たすものでないのは明らかである。 3 Y会社は、小委員会で提案説明をしたほか、朝礼や各部署で新制度の説明をしたが、X組合らから質問や対案は出ず、資料を分析する知識や意欲がなく、本件計算書類の開示要求はためにする要求であると主張する。しかし、小委員会の経過においても、新嘱託制度下での給与額の相当性につきその根拠となる資料の開示が問題とされていたのであり、Y会社が資料も提示しないで質問や対案が出なかったとX組合を非難するのが相当ではないことは明らかである。 4 Y会社は、平成4年5月ころの小委員会で、55歳以降の退職者を対象とした嘱託制度があり、嘱託給の内容は広く知られており、定年延長後の給与の定め方につき上記嘱託給を基準とする旨話しており、X組合らは新制度での給与の具体額について認識していたことは明らかであるという。しかし、小委員会では50歳(後に52歳)から54歳までの昇給を抑え、これによる給与額の減少分を原資にした新給与の支給が提案され、これが反対され、平成8年5月に開催された小委員会において、旧嘱託制度下の嘱託給である18万5千円である旨回答したのみで、定年延長後の嘱託給の具体的な金額は明示せず、平成9年5月に開催された小委員会において、定年延長後の嘱託金額を18万5千円と提示したものであり、それ以降この相当性をめぐる交渉が開始したものである。X組合や組合員らが平成4年から定年延長後の新制度における具体的な給与額を認識していたとはいえないことは明らかである。 5 新制度における定年延長後の給与額につき、組合員以外の多数の従業員が賛同していたとしても、X組合らがこの制度に不満を抱いて団体交渉を申し入れ、財政状況の資料等の提示ないし説明を求めるには十分な理由があり、売上等の具体的な金額が提示されないと、上記給与額が妥当か否か、Y会社の提案が妥当であるかを判断できず、団体交渉の効果的・円滑な進行が図れないことは明らかである。 別件訴訟の控訴審判決は、新就業規則が法的規範性を有するための最小限の合理性を有するか否かの判断中で、団体交渉においてY会社が誠実に応じなかったことが窺われるとしつつ、そのことによって合理性を否定しなければならないものではない旨判断したものである。同事件は新就業規則の法的効力の問題であるのに対し、その内容である嘱託給の額についてはまさしく、労使が資料となる計算書類を開示する等誠実な団交を通じて変更、形成されることもありうることは当然のことであり、そのような団交における誠実性が問題となった本件とは事案の次元を異にするのみではなく、別件の控訴審判決が前記判断と抵触するところは全くない。
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