労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 昭和シェル石油
事件番号 東京地裁平成17年(行ウ)第414号
原告 全石油昭和シェル労働組合、個人X1
被告 国(裁決行政庁 中央労働委員会)
被告補助参加人 昭和シェル石油株式会社
判決年月日 平成20年3月19日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要 Y会社が、①Y会社及びY会社の100%子会社のA会社が、Y会社からA会社に出向している組合員X1の勤務地を変更したこと、②本件配転後、Y会社及びその職制等が、同社神戸事業所内でのX組合の組合活動を妨害したこと、③Y会社が職能資格の格付け、昇給などの人事査定において組合員X1を差別し、同人の賃金を低位としたことが、不当労働行為に当たるとして争われた事件である。兵庫地労委は、③の一部(人事査定部分の差別)につき不当労働行為の成立を認めてバックペイ及び文書交付を会社に命じ、③の申立期間経過部分を却下し、その余の申立てを棄却した。これを不服として、組合ら及び会社双方が中労委に再審査を申し立てた。中労委は、初審命令のうち、会社に救済を命じた部分を取り消し、組合らの再審査申立てを棄却した。
 本件は、組合らが、これを不服として、その取消しを求めて提訴した事案である。
判決主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,補助参加により生じた費用を含めて原告らの負担とする。
判決の要旨 争点1 本件配転の不当労働行為該当性について
 ア 本件配転は、関西地区における外部請負工事の業務拡大というA会社の新たな事業方針の策定・実施に向けた人事配置と併せて、B補佐が病欠となり、委任工事担当者に欠員が生じたことから、神戸事業所で委任工事を担当していた組合員X1をA社大阪事業所での委任工事担当者に充てるという人事配置であったといえ、本件配転は、業務上の必要があり相当なものであったといえる。
 イ X組合らは、本件配転後、組合員X1はA会社大阪事業所において仕事を与えられていないなどとして、本件配転は業務上の必要性を欠いていたと主張する。しかし、A会社大阪事業所に赴任して、しばらくの間は組合員X1の要望に応じて業務量の軽減が図られていただけであり、その後の組合員X1の業務量は次第に増加していることからすると、X組合らの上記主張は採用できない。

 ウ ①本件事前協議条項については、この種条項の意義としては、配転等の前にY会社がX組合との十分な協議の機会を設ける趣旨をうたったものと解され、組合の承諾なくして組合役員の転勤を行わないこと含意していたとは認めるに足りないし、また、本件事前協議条項による運用につき、過去Y会社もX組合の同意が得られない場合には、組合役員の人事は行わないとする考えを有していたこともうかがわれるものの、組合からの承認が得られない場合でもY会社はX会社の組合役員に対する人事を行っていたことを勘案すると、本件事前協議条項につきX組合の承諾がない場合には、組合役員の転勤を行わない旨の労使慣行が確立していたとは認めるに足りない。また、組合員X1がA会社へ出向するに際してY会社から発せられた文書についても、その文言や証拠に照らすと、これが組合員X1の勤務地を限定し、神戸での組合活動を保障する趣旨のものであるとは認めるに足りない。
 ②本件協議への参加者問題については、神戸事業所はX組合神戸支部を相手として事前協議を行えば足りると考えており、本件以前において、X組合の支部役員の転勤につき、X組合本部の役員が本件事前協議条項に基づく協議に関与した例が2例あるほかは、本部役員や当該支部以外の支部の役員が本件事前協議に関与した例はなかったことが認められるから、神戸事業所の判断は不当とはいえないし、また、いずれの協議においても、X組合の本部役員や出席は認められるなど、実質的な協議に入ろうとする態度自体は崩していないことを勘案すると、本件協議におけるY会社の対応が不誠実であったとはいえない。加えて、その勤務地も神戸から大阪へと変更するにとどまり、通常の人事異動の範疇と超えるものともいえないことを勘案すると、特に、神戸事業所において本件配転に至る人選の範囲を具体的に説明すべき必要があったとも評しがたい。してみると、X組合ら指摘のような神戸事業所において本件配転にかかる不当労働行為意思の存在を基礎付けることは困難といわざるを得ない。
 なお、本件協議の過程では、同協議が調わない状況の中で、A会社及びY会社が組合員X1の異動を正式な人事として公表してしまったという事情も存するが、前示に照らすと、この一点をもって、Y会社が当初からX組合を無視する態度であったとまではいえない。
エ 本件協議において、神戸事業所は本件配転によって通常、想定される組合活動上の支障の内容を示した上で、X組合側にそれ以外の組合活動上の支障の有無を確認したのに対し、X組合から示された組合活動上の支障としてはX組合神戸支部が物理的に消滅し、組合の現業事業所支部の拠点としての広報活動ができなくなるといった点が示されたにすぎないことからすると、X組合神戸支部を存続させるべき義務を負うものではないY会社が、上記のような組合活動の支障が、本件配転の合理的理由性を覆すものではないと判断したことも不相当とはいえない。
オ 他に、本件配転がY会社の不当労働行為意思によりされたことを裏付けるに足りる事情も見当たらない。
 以上によれば、本件配転は不当労働行為に当たるとはいえない。

争点2 Y会社によるX組合の組合活動に対する妨害の有無等について
カ 争点1で判示したように、本件配転が不当労働行為にには当たらない以上、本件配転当時組合員X1のみで活動していたX組合神戸支部は組合員が皆無となったこととなる。
 そして、本件事務所及び本件掲示板の使用はX組合神戸支部が存在することを当然の前提としていると解される。してみると、神戸事業所がX組合神戸支部に本件事務所の明渡し等を求めたこと等をしたことには合理的な理由がある。
 以上によれば、Y会社による不当労働行為があったとはいえない。

争点3 組合員X1の資格の格付け、昇給・賞与査定における差別の有無等について
キ 労組法27条2項との関係について
 この処遇等差別につき救済の申立てがされたのは、平成2年8月3日であるところ、Y会社における昇格の判断は能力考課と関連するものでとして年度ごとに行われ、格付けの結果も当該年度のものとしてその年度末には終了するものであることが認められることから、ある年度における資格の格付けは当該年度の間は一個のものとして継続すると評することができる。また、本給及び勤務地手当については、それらはいずれも、本給の昇給のうちの職務職能定昇を通じて、能力考課及び資格の格付けとを相関させた人事査定により決定される関係にあるといえるから、その決定による賃金は当該年度の最終の賃金支払日は当該年度の最終賃金支払日まで一個のものとして継続すると評することができる。さらに、賞与考課も、本給及び勤務地手当の支払いと同様、同考課とこれに基づく直近の賞与の支払とが一体として一個の行為を構成すると見るのが相当である(最高裁平成3年6月4日第三小法廷判決・民集45巻5号984頁参照)。
 そうだとすると、是正を求める対象の一つとなっている昭和63年12月31日の資格は、同年1月1日付けで格付けされたものに他ならないから、同年12月31日を経過した時点で終了となることから、この部分についての差別の是正を求める救済申立てについては、遅くとも、平成元年12月31日までに申立てがなされない限り、労組法27条2項の期間を経過したものというほかなく、昭和63年12月31日付け資格については不適法である。
 また、昭和63年1月1日付けで決定された本給及び勤務地手当並びにそれ以前の本給及び勤務地手当の是正を求める部分は、各人事考課に基づく賃金の最終の支払い支払時から1年以上を経過したものというほかなく、不適法と言うべきである。
ク 昇格差別の有無について
①Y会社における資格の格付けは、単に、従業員の「年齢」に着目して行われているとはいえないばかりか、むしろ、新卒採用の従業員群と中途採用の従業員群、そして、職種転換を経ていない従業員群とこれを経ている従業員群とではその処遇の推移が異なっていると評するのが相当であり、してみると、従業員の資格の格付け評価においては、従業員の学歴や年齢(なお、この年齢も単純な年齢ではなく、むしろ、勤続年数を意味するものと解される。)のみならず、その採用形態や、元々の職種形態といった要素が、資格や格付けやその推移を画する重要な要素となっている可能性があるということができる。
 我が国の民間企業における人事処遇の一般的傾向として、新規採用の正職員については、職能資格制度による人事管理が行われ、かつ、その場合には職能資格の滞留年数の目安などが定められるなどして、一定の勤続年数に応じた職能資格の格付けが行われることが少なくないこと(搭載板書に顕著な事実)を併せ勘案するならば、本件年数評が新規採用の正職員の資格格付けの目安・指針となることはあり得るとしても、それ以外の中途採用の社員や、職種転換を経た社員の資格格付けにおける目安・指針となっていたと認めるのは、他に、これを基礎付けるに足りる事情の見当たらない本件においては困難というほかない。
 してみると、本件年数評で示されている資格の滞留年数を前提として、組合員X1の資格の格付けを比較・検討することが合理的であるということはできないから、組合らの主張はその重要な前提を欠くため採用できない。
 ②中途採用であり、かつ、ローリードライバーから職種転換を経ている組合員X1については、元々、資格が低位となる要素が存するほか、資格の格付けには、授業員の能力考課の結果も反映されることをも勘案するとその職務活動に問題がなかったとはいえない組合員X1の資格が低位であったとしても、Y会社による組合員X1の資格格付けの判断が、Y会社のX組合に対する差別政策によりされたことを基礎付けるに足りる程度の優位的な関係を見いだすことは困難である。すなわち、前示のような事実関係を前提とすれば、Y会社の組合員X1に対する昇格判断に不当労働行為意思が影響を及ぼしていたことを窺わせるだけの根拠は見いだせない。また、他に、組合員X1に対する昇格判断において、Y会社が同人の昇格判断を同人組合所属関係の故に差別的に取り扱っていたと認めるに足りる事情も見当たらない。
ケ 能力・賞与考課の差別の有無について
 平成3年夏季・冬季考課、平成4年冬季考課及び平成6年冬季考課について、それぞれを検証したところ、委任工事の完遂に至る過程や努力に関する業務面のほか、服装の注意や勤務時間中の離席に関する注意をされても応じないこと、出張の出先から飛行機で戻るように指示をされているにも関わらず戻らないことに関して注意をうけても応じないこと等の規律性や協調性といった情意面、油槽所に対する指導等の能力面に関して問題があったとする当時の第一考課者の判断は一応の合理性が認められるから、この判断を基準としてY会社が久美委員X1の評価を基準評価である「B]を下回る「C」としたことが不当ということはできない。
 また、平成4年能力考課についても、能力考課期間中に見られた組合員X1の職務活動は賞与考課と同様に業務面、能力面において問題があったとする第一考課者の判断には一応の合理的関連性が認められるから、この判断を基礎としてY会社が組合員X1の平成4年能力考課を基準評価である「B」を下回る「C」と判断したことが不相当でということはできない。
 なお、それぞれX組合らから反論はあるものの、それぞれにおいて証拠等により上記の判断が左右されるこはなく、X組合らの主張を前提としても、人事考課に関する限りでは、組合員X1に対する人事考課が不当労働行為意思によりされたことを導くには足りない。
 よって、Y会社がした組合員X1の上記考課が労組法7条1号、3号に当たるとは認めるに足りない。





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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成2年(不)第4号、平成2年(不)第7号、平成3年(不)第6号、平成4年(不)第10号、平成5年(不)第13号、平成7年(不)第1号、平成8年(不)第1号、平成9年(不)第1号、平成10年(不)第1号 一部救済 平成10年10月20日
中労委平成10年(不再)第39・第40号 一部変更(初審命令を一部取消し) 平成17年2月2日
東京地裁平成18年(行ク)第245号 文書提出申立ての却下 平成19年2月14日
東京高裁平成19年(行ス)第13号 文書提出 抗告却下 平成19年3月14日
東京高裁平成20年(行コ)第182号 棄却 平成22年5月13日
 
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