労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 ブライト証券
事件番号 東京高裁平成18(行コ)29号
控訴人 ブライト証券労働組合
被控訴人 東京都労働委員会
被控訴人参加人 ブライト証券株式会社
株式会社実栄
判決年月日 平成18年8月30日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要  本件は、①組合が、持株会社に組織変更するに先立って設立したZ会社に対して申し入れた賃金問題についての団体交渉において、Z会社が、賃金減額の根拠や「親会社の役割」について明確にすることなく不誠実な対応を行ったこと、②組合が持株会社であるY社に対して申し入れた「会社設立の目的」「親会社の役割」等を議題とする団体交渉について、Y社には組合加入者が在籍していないとの理由で団体交渉を拒否したことが不当労働行為であるとして、争われた事件である。
 東京都労委は、組合の請求を棄却したが、これを不服として、組合が行政訴訟を提起した。
 東京地裁は、東京都労委の棄却命令を支持し、組合の請求を棄却したところ、これを不服として組合が控訴した。
 東京高裁は、原判決を維持し、組合の控訴を棄却した。
判決主文 本件控訴を棄却する。
判決の要旨 ① Z会社らは、本件協定(組合と会社の間で締結された平成16年11月分給与から賃金を一般職22万円、リーダー職27万円とする協定)が締結されたことにより、更に団体交渉を求める必要性が消滅したと主張するところ、本件申立ては、Z会社及び親会社であるY社に対して、平成14年度賃金の決定に関する団体交渉を行うことを命じ 、併せて陳謝文の掲示を命じることを救済内容として請求するものであり、他方、本件協定は、組合と会社との間において締結されたもので、平成16年11月分以降の給与について合意するものであり、平成14年度の賃金や本件申入れには触れられていないという事実に照らし勘案すると、本件協定は、本件申入れ後の労使間の懸案のかなり重要な部分を解決したということができるとしても、仮に組合が主張するような不当労働行為があったと判断される場合に、本件協定が締結されたとの一事をもって、不当労働行為による団結権侵害の結果が除去され、正常な労使関係が完全に回復したとみることはできず、会社らの右主張は採用できないとされた例。

② 親会社であるY社の旧管理規程では、関係会社の従業員の昇給・賞与総額の決定や従業員の採用等、労働条件や人事に関する事項が、Y社の承認を要する事項と規定していたことを認めることができるが、この「承認」の趣旨は、完全親会社であり事業持株会社であるY社が、その企業グループの中核として、各事業年度の資金計画を立て、業務展開を図るに当たり、昇給・賞与の総額や従業員数によって変動する人件費総額が、子会社の損益構造の重要な要素となるため、「それぞれの経営の自主性を尊重するとともに、当社グループ全体の経営効率化を追求」し、子会社に対し「積極的に指導を行い、その育成強化を図る」等の基本方針の下に、これを承認事項として掲げたものと解されるのであり、完全子会社といえども、会社の業務執行を決し、取締役の職務の執行を監督するのは、当該会社の取締役会であって、親会社ではないから、管理規程に右のような定めがあることをもって、Y社が子会社の従業員の労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定し得る地位にあったということはできず、また、本件全証拠によっても、Y社が管理規程の右のような定めによって、会社の従業員の給与・賞与額の決定や採用・昇進等の決定について、現実的かつ具体的な管理・支配をしていたと認めることはできないとされた例。

③ Y社と子会社の各労働組合との間で「転籍者・希望退職者優遇措置等に関する協定書」が締結されたのであるから、Y社から会社への本件転籍を実施するに当たり、転籍後の従業員の賃金水準についてY社の意向が大きく影響していたのは明らかであるが、Y社は、一貫して、労働条件については各子会社が決めることであるとし、転籍後の子会社における賃金について、その後の各子会社における労使交渉による改定の余地とそれに親会社が介入する意思のないことは明確に表明していたものであり、会社における転籍2年目の平成14年度賃金という労働条件について、現実に支配、決定する地位にあったと認めることはできないとされた例。

④ Y社が、会社の従業員の採用、昇進について、支配し、決定しているということはできないとされた例。

⑤ ②から④によれば、Y社は、会社従業員の基本的な労働条件の一部に対してある程度重大な影響力を有していたことは認められるものの、その態様及び程度をみると、持株会社がグループの経営戦略的観点から子会社に対して行う管理・監督の域を超えるものとはいい難く、本件当時、直接の雇用契約関係にない会社の従業員の基本的な労働条件等につき、支配株主としての地位を超えて、雇用契約の当事者である会社がその労働者の基本的な労働条件等を直接支配、決定するのと同視し得る程度に、現実的かつ具体的に支配力、決定力を有していたとみることはできず、組合との関係で、労組法上の「使用者」に当たるということはできないとされた例。

⑥ Z会社は、当初、従業員は本件金額を承知して転籍したとの認識を示し、本件金額(会社が平成14年度の従業員の年棒額として示した額)をベースにした交渉であれば前向きに考えるとして、本件金額を上回る提示はしなかったが、Z会社は、平成13年度の財務状況や平成14年度の収支見込みを具体的に示して、本件金額での提示をせざるを得ない状況を説明しているところ、Z会社が組合に対してした説明は、同社の財務状況、とりわけ本体事業の成績を示す営業損益が大幅な赤字であった当時の現状をほぼ正しく説明したものといえ、この財務状況に照らせば、当時Z会社では、2年度目の賃金を本件金額としても、なお億を超える大幅な営業損失が見込まれていたと認められ、このような当時の業績に照らせば、Z会社が本件金額をベースにして平成14年度賃金の交渉を行おうとしたのはやむを得ないものであったといえるとした原判決は相当であるとされた例。

⑦ 組合は、Z会社が親会社であるY社と十分な協議をしないまま団体交渉に臨んだことが不誠実であると主張するが、組合員らとの雇用契約関係にあるのがZ会社であることは明白である以上、その従業員の賃金に関する決定権はZ会社にあるのは当然のことであって、会社が自らの判断と責任において、その経営基盤と財務状況及び営業損益の見通しを組合に説明し、企業として存続するために譲れない線の理解を得るべく団体交渉に臨むことが不誠実とされるいわれはないし、Z会社は、組合の要求に対応すべく必要に応じて親会社であるY社と協議をしていたと認められるから、Z会社の交渉態度が不誠実であるということはできないとした原判決は相当であるとされた例。

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
東京都労委平成14年(不)第98号 棄却 平成16年7月6日
東京地裁平成16年(行ウ)第474号 棄却 平成17年12月7日
最高裁平成18(行ツ)294号
最高裁平成18(行ヒ)346号
上告棄却・上告不受理 平成19年11月6日
 
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