事件名 |
芝信用金庫 |
事件番号 |
東京高裁平成10年(行コ)第186号
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控訴人 |
中央労働委員会 |
控訴人参加人 |
芝信用金庫 |
被控訴人 |
芝信用金庫従業員組合 |
判決年月日 |
平成12年 4月19日 |
判決区分 |
一審判決の一部取消し |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、金庫が(1)施設利用について別組合と差別したこと、
(2)組合員の永年勤続表彰を他の職員と別個に行ったこと、(3)職員慰安旅行などの行事に組合員を参加させなかったこと、
(4)平和条項締結を条件に傷病扶助制度等に関する協定締結申入れを拒否したこと、(5)組合員21名を昇進・昇格させな
かったことが、それぞれ不当労働行為であるとして争われた事件である。
初審東京地労委(平元・5・23決定)は、いずれも不当労働行為に当たるとして、金庫に対し、施設利用に関する別組合との
差別取扱いの禁止、組合員21名の昇進・昇格の実施等及びポスト・ノーティスを命じ、中労委(平4・8・5決定)は、初審命
令のうち、組合員の昇進・昇格について、申立期間を徒過しているとして一部を却下し、Sほか3名の副参事昇格・店舗長代理昇
進に関する申立てを棄却したところ、組合はこれを不服として行政訴訟を提起した。
原審の東京地裁(平・10・10・7判決)は、組合の請求を一部を認容して、中労委命令の一部を取り消した(昇進・昇格の
時期を昭和62年4月1日付けに変更、Sほか3名の副参事昇格・店舗長代理昇進の申立てを棄却した部分を取消し)。中労委
は、これを不服として控訴を提起したところ、東京高裁は、原判決の一部を変更した。
なお、一審判決において労働委員会の再審査手続において申立人とならなかった労働者には原告適格が無いと判示された点については、控訴がなかったので一審判決が確定した。
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判決主文 |
1 原判決中被控訴人と控訴人関係部分を次のとおり変更する。
1 控訴人が中労委平成元年(不再)第66号事件(初審東京地労委昭和62年(不)第45号事件)について平成4年8月5
日付けで発した命令の主文のうち、III項は、X1、X2及びX3の各店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役昇進並びに
X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10、X11、亡X12、X13、X14、X15及びX16の各係長又は係長待遇の
推進役昇進について昭和61年4月1日から同年6月17日までの間の救済申立てを棄却した部分を取り消し、右各昇進したもの
として取り扱うべき時期を「昭和61年6月18日付け」とした部分を「昭和61年4月1日付け」と変更し、IV項は、
X17、X18、X19及びX20の各係長又は係長待遇の推進役昇進について同年4月1日から同年6月17日までの間の救済
申立てを棄却した部分を取り消し、右各昇進したものとして取り扱うべき時期を「昭和61年6月18日付け」とした部分を「昭
和61年4月1日付け」と変更し、VIII項は、同年4月1日から同年6月17日までの間の昇進に係る救済申立てを却下した
部分を取り消す。
2 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人と被控訴人との間で生じたものは、これを五分し、その2を控訴人の、その余を被
控訴人の各負担とし、補助参加人と被控訴人との間で生じたものは、これを五分し、その2を補助参加人の、その余を被控訴人の
各負担とする。 |
判決の要旨 |
1601 福利厚生上の差別
会社は、定期的に一定の目標を掲げた増強運動を行い、成果を上げた店舗に報奨金を出していること、報奨金の使途は支店長に任
されており、組織運営上必要であると判断すれば歓送迎会等に費用を支出していること、和解協定において、職場の歓送迎会等に
ついては、組合の組合員を他の職員と区別することなく参加させることを約していることが認められるが、これらの事実の外に、
会社が歓送迎会等を主催していることの裏付けとなる事実を認めるに足りる証拠はなく、歓送迎会等に組合の組合員を参加させな
いことが会社の不当労働行為であるということはできないとされた例。
6320 労委の裁量権と司法審査の範囲
中労委命令にいう店舗長代理待遇の推進役の職位の内容は、昇進されたものとして取り扱うべきものとされた当時に会社において
行われていた右職位に対する処遇内容いかんにかかることになり、中労委命令においてはこれは確定されていないことになるが、
中労委命令が組合員につき命じた救済の内容としては、その明確性に欠けるところはないし、また、救った、救済として不十分で
あるということもできないのであり、会社に不可能な人事権の行使を強いるものともいえないとされた例。
5201 継続する行為
会社における職員の昇進は、特にその時期を定めた規定等は存在しないが、運用上毎年4月1日が昇進時期とされていたものと認
めるのが相当であるが、一般に、毎年1回特定の時期に労働者の昇進が行われる事業所において、当該年度の予定の昇進時期に当
該労働者を特定の職位に昇進させない旨の決定は、次の時期まで昇進させないという意思を包含するものと解されるから、労働者
の職位を昇進させない旨決定した行為は、労働組合法二七条二項の解釈上、年度ごとに異なる一個の行為であり、かつ、当該年度
の昇進時期から次の昇進時期までの1年間は継続するものであると解するのが相当であり、これを本件についてみるに、昭和62
年6月18日に本件救済申立てがなされた時点では、昭和61年4月1日に昇進させない旨決定した会社の行為が昭和62年3月
31日まで一個の行為として継続し、その終了から1年以内であったことは明らかであるから、昭和61年4月1日に昇進させな
い旨決定した会社の行為を対象とする救済申立ては、労働組合法二七条二項に定める期間内になされたものとして適法であるとさ
れた例。
1200 降格・不昇格
原審原告X1外3名を副参事に昇格させないことについて、同人らの人事考課の得点を受験者中の最高得点に置き換えても、学科
試験及び論文試験の各得点との合計得点はいずれも合格者の最低点に達しないことから、仮にX1外3名の人事考課における低い
査定が会社の不当労働行為意思に基づく差別的取扱いの結果であるとしても、右不当労働行為意思に基づく人事考課における差別
的な低い査定とX1外3名の副参事昇格試験不合格との間に相当因果関係はなく、X1外3名の副参事昇格及び店舗長代理昇進を
認めなかった中労委命令が支持された例。
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業種・規模 |
金融業、保険業 |
掲載文献 |
労働委員会関係裁判例集35集316頁 |
評釈等情報 |
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