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第2節 デフレ下における企業・家計行動

 我が国経済の低成長と長期的なデフレ状態が継続している中で、企業における人件費抑制圧力・雇用過剰感が高まっている。一般労働者からパートタイム労働者への代替は限られているものの、正社員の削減、パートタイム労働者の活用の動きがみられる。また、希望退職の募集や解雇といった厳しい雇用調整を行う事業所の割合が高まり、中高年齢層を中心に非自発的失業も増加している。さらに、一般労働者の賃金の減少といった厳しい賃金調整が行われている。
 個々の企業が雇用調整を行うのは経営上やむを得ない面はあるが、人員削減については、就業意欲の低下、優秀な人材の流出、職業能力開発機会の減少といった、企業活動にマイナスとなる点がある。また、雇用調整やデフレは消費抑制要因となることに留意する必要がある。

(デフレ下での企業行動)
 最近の雇用の特徴として正社員が減少し、非正社員の増加傾向が続いている点がある。この背景として、低成長が続き企業の業況が厳しいことがまずあるが、最近では、(1)販売価格の低下対策としての人件費削減、(2)企業の期待成長率の低下を背景とした先行き不透明感の強まり(第17図)、(3)名目成長率が高まらない中での企業の人員構成の高齢化・高学歴化による人件費負担感の増大といった要因も大きい。
 労働分配率は1990年代に入ってから高止まりの状態で推移している。労働分配率の変動要因のうち、一人当たり名目人件費要因はマイナス寄与傾向で推移しているものの、製品価格要因はプラス寄与傾向で推移している。こうした動きをみると、企業が人件費抑制などコスト削減への取組を進めているものの、デフレ下での製品価格低下や売上高の落ち込みなどから労働分配率が高止まっているものと考えられる(第18図)。

(最近の雇用調整の状況)
 今回の景気後退期の雇用調整の状況をみると、雇用調整の方法は「残業規制」、「配置転換」、「出向」などが多いが、「希望退職の募集・解雇」といった厳しい雇用調整を行う事業所割合は、水準は低いものの高まりをみせ、中高年齢層を中心に非自発的失業が増加している。一方、一般労働者からパートタイム労働者への代替は限定的であり、一般労働者の大幅な減少は、パートタイム労働者も含めて労働者を減少させている事業所において一般労働者の減少割合が大きくなったためと考えられる。
 また、「賃金等労働費用の削減」を実施した事業所割合も高水準となっており、企業の人件費削減手段として賃金抑制という手法も用いられている。1998年から2002年までの期間における現金給与総額及び実質賃金は、ともにマイナスとなった(第19図)。賃上げ率の低下、賞与等の特別給与の大幅減といった要因から、2002年は、特に一般労働者について厳しい状況となっている。

(雇用調整の影響)
 人員削減に伴う影響として、企業経営の観点からすれば、コスト削減、経営の効率性向上といったプラスの側面がある一方で、従業員の士気の低下、優秀な人材の流出、職業能力開発機会の減少といったマイナスの側面もある。また、従業員の士気の低下を招くような人員削減は、生産性に対してもマイナスの影響を与える傾向が強い(第20表)。
 さらに、人員削減に伴う雇用量の減少は、雇用者所得の減少及び将来不安に伴う消費マインドの悪化を通じて、個人消費を抑制する可能性がある。可処分所得の減少は消費の減少要因に寄与しており、雇用不安や収入減少は消費マインドを悪化させ、雇用調整が家計行動にも影響を及ぼしているものと考えられる。また、世帯主の収入減少が、配偶者の就労率を高め、そのパートタイム労働者就業比率を高めている可能性がある。

 デフレは、実質購買力増加による消費拡大につながる可能性があるものの、収入が増えないことや将来の所得不安、物価下落の期待による消費抑制の可能性もある。物価が下落と回答した世帯ほど支出を削減している世帯の割合が高くなっており、デフレは消費抑制的という結果となっている(第21図)。


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