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第3節 地域の労働経済の動向

 ここ10年程度の間に失業率は大きく上昇しており、特に東北、近畿の各県で上昇幅が大きい。雇用情勢と産業構造の関係では製造業比率が高い地域で失業率が低い状況がみられる。失業率の上昇は、1990年代前半は人口の増加、後半は就業者数の減少寄与が大きい。製造業就業者数が1990年代を通じて減少する中、雇用の下支えとなっていた建設業就業者も90年代後半より減少となり、就業者数全体も減少となった。製造業就業者の減少には、経済の国際化の影響が考えられ、産業集積地域において減少の大きい地域がみられる。しかしながら地域によってばらつきがあり、輸出競争力の強い業種が基盤となっている地域では従業者数の減少割合は小さい。サービス業就業者は増加しており、特に高齢者ケアサービスの従業者数増加率は各地域ともに大きい。今後とも製造業がある程度の雇用の受皿となることが必要であるが、あわせて地域の実情に応じたサービス業等の雇用創出を図り、製造業や建設業などからの円滑な労働移動を支援していくことが重要である。

(地域の雇用失業情勢)
 2002年の地域ブロック別の完全失業率をみると、全国平均の5.4%に対して、近畿、九州、北海道の3ブロックで6%を超えている。バブル期後、全ブロックで失業率の上昇が続いているが、特に近畿、東北で失業率の上昇幅が大きい。
 都道府県別でみると、完全失業率は最も低い島根県の3.5%から沖縄県の8.3%まで4.8%ポイントの開きがあり、また、大阪府や兵庫県、京都府など近畿ブロックの県で失業率が高くなっている。1990年と2002年とを比較すると、近畿ブロックの大阪府、京都府、兵庫県、東北ブロックの秋田県、宮城県で失業率が大きく上昇している(第22図)。
 バブル期後、各地域とも完全失業率が上昇し有効求人倍率が低下しているが、この間、地域間格差は縮小している。これまで雇用情勢が良かった地域で、大きく悪化したためである。

(地域の雇用失業構造)
 雇用情勢に影響を及ぼす要因として、労働力の年齢構成や産業構造の相違が考えられる。都道府県データをもとに失業率との相関をみると、若年労働力人口比率が高い地域で失業率が高く、製造業比率が高い地域で失業率が低い状況がみられる(第23図)。
 各地域の失業率の上昇につき、(1)就業者数の変化(就業効果)、(2)15歳以上人口の変化(人口効果)、(3)労働力率の変化(労働力率効果)で要因分解すると、1992〜1997年は人口効果が、1997〜2002年は就業効果(就業者数の減少)が失業率の押し上げに寄与している(第24図)。就業者数の動向につき産業別でみると、1990年代を通じて製造業就業者数が減少する中、90年代前半は公共工事の下支えもあり建設業が雇用の受皿となっていたが、90年代後半からは建設業就業者数も減少に転じており、産業計でみても就業者数が減少となった(第25図)。

(減少基調で推移する製造業就業者)
 各地域で製造業就業者数の減少がみられており、繊維製品製造業や電気機械器具製造業で減少が大きくなっているが、この背景には経済の国際化の影響が考えられる。
 産業集積地において海外で生産している企業の割合は増加しており、今後についても生産拠点の移転が見込まれている(第26図)。生産拠点の移転は、特に下請け等の中小企業にとって大きな影響が生じており、受注減少、原価引下げなどの影響ありとの回答は6割を超えている。
 産業集積地では、出荷額や従業者数が大きく減少している地域もみられる。しかしながら地域によりばらつきもあり、輸送機械工業が中心の浜松や豊田では、従業者数は5%程度の減少にとどまっている(第27表)。また都道府県別でみた場合、半導体など電子部品・デバイス製造業などIT関連業種で従業者数の増加(1996〜2001年)がみられている地域もある。

(増加基調で推移するサービス業就業者)
 サービス業従業者は、すべての都道府県で増加している。今後雇用創出が期待されるサービス業9分野(注)では、1996〜2001年で、民営事業所が約18,000所(増加率1.4%)、従業者数で約80万人(増加率7.8%)の増加となった。各分野の特徴をみると、
(1)  個人向け・家庭向けサービスは、各地域ブロックともにサービス業に占める割合が大きいが、個人消費が低迷を続ける中で従業者数の増加はあまりみられていない。
(2)  企業・団体向けサービスは都市部に集中しており、増加率は南関東で大きい。また、企業・団体向けサービスの5割程度を占めるIT関連サービスは、東京への集中がみられる。
(3)  高齢者ケア、医療、環境、子育てサービスは地方圏にも分散がみられ、各地域とも従業者数の増加がみられているが、特に高齢者ケアサービスの増加率が大きい(第28図)。
 今後とも、これまで我が国経済を支えてきた製造業がある程度の雇用の受皿となることが必要だが、地域の実情に応じたサービス業の雇用創出を図り、あわせて製造業や建設業などからの円滑な労働移動を支援していくことが重要であろう。

(注) サービス業9分野とは、(1)個人向け・家庭向けサービス、(2)社会人向け教育サービス、(3)企業・団体向けサービス、(4)住宅関連サービス、(5)子育てサービス、(6)高齢者ケアサービス、(7)医療サービス、(8)リーガルサービス、(9)環境サービス。


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