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第6節 人材育成の動向

 企業、労働者とも人材育成を重視している。企業の能力開発支援は正社員、非正社員ともに能力開発意欲・就業意欲を高めることができる。
 企業の教育訓練の実施や従業員の自己啓発の実施は十分とはいえない。成果主義により人材育成が軽視されるおそれもあり、計画的な人材育成の取組が必要である。
 離職失業者等が増加する中で、企業外の人材育成機能(公共職業訓練機関、学校)の重要性が高まっている。また、学卒未就職者、フリーター等が増加している若年者に対して、学校、企業等と連携した人材育成の取組を強化することが重要である。
 非正社員の能力開発機会は少ない。非正社員の就業意欲を高め一層の活用を図るため、職務遂行に必要な訓練、意欲と就業実態に応じたキャリア形成・処遇の実施が重要である。

(企業の従業員に対する人材育成の現状と課題)
 人材育成については、企業、労働者とも重要視している。企業の訓練はOJTが中心であるが、自己啓発の重要性が高まっている。労働者はキャリア形成や能力開発への不安を感じている。企業による能力開発支援は従業員の能力開発意欲・就業意欲を高めるとみられる(第58表)。しかしながら、計画的なOJT、Off−JTを実施した事業所の割合は1990年代後半に低下傾向にある(第59図)。
 OJTについては、上司の指導能力や熱心さに左右される可能性が高いことから、企業の能力開発計画・体系を整備し、計画的に実施していくことが重要である。
 Off−JTについては、企業の労働費用総額に占める教育訓練費の割合は低下傾向にあり、人材育成に対する投資が不十分となっている可能性がある(第60図)。
 自己啓発については、時間や費用の面で企業が従業員を支援していくことが今後とも重要である。自己啓発を実施している者の割合は、自己啓発支援策を実施している企業や教育訓練を行うのは企業の責任と考える企業の従業員ほど高くなっている(第61図)。

 成果主義の下では、職場が短期指向に陥り、人材育成が軽視されるおそれがある。
 これを防止するためには、成果目標に部下の育成や自身の能力開発の課題を設定するなど、成果主義的賃金・処遇制度を従業員の能力開発を進める仕組みとする必要がある。
 また、企業内公募制度や自己申告制度の導入、能力開発を含む目標の設定・達成状況等についての評価者と従業員との面談の実施等により、従業員のキャリア形成への関与を強めることが重要である。

(公共職業訓練、学校教育における人材育成の現状と課題)
 離職失業者や、学卒未就職者、フリーターが増加する中で、企業外の人材育成機能(公共職業訓練機関、学校)の重要性が高まっている。
 離職失業者等の求職者に対しては、労働力需要の動向に見合った訓練コースの機動的な設定、見直しを行うほか、求人ニーズや能力開発に関する情報提供等の支援を強めていくことが重要である。
 若年者では、学卒未就職者や早期離職者、フリーターなどが増加している。この問題の原因としては、(1)求人の大幅な減少、(2)将来の目標を立てられない若年者の増加、(3)経済社会の構造変化に教育・人材育成・雇用のシステムが対応できていないこと等がある。若年者の人材育成を促進するため、学校、企業、職業安定機関等が連携、協力して、若年者自らの職業意識の向上、企業実習も含む実践的な職業能力開発機会の充実等の課題に取り組むことが重要である。

(就業形態の多様化に伴う人材育成の課題)
 就業形態の多様化が進む中で、非正社員の活用により「職業訓練が行いにくくなっている」とする企業が「職業訓練が行いやすくなっている」とする企業よりもやや多くなっている。
 非正社員の自らの職業能力開発についての意欲は高く、「自分の知識・技能を高めたい」とする者は8割を超えている。ただし、非正社員を能力開発の対象とする企業が半分に満たないこともあり、過去1年間に会社の行う教育訓練を受けた非正社員は約2割に過ぎないなど、企業における非正社員の職業能力開発は十分に行われていないとみられる。
 非正社員の現在の仕事・職場における能力開発についての満足度は低くなっているが、勤め先で自己啓発支援や研修といった能力開発に関する支援を受けられる者についてみると満足度は高くなっている。これらの者は「仕事の内容・やりがい」についての満足度も同様に高くなっている(第58表)。
 また、パートタイム労働者について、事業所において計画的なOJT、Off−JTを受けている者ほど、「単純・補助的な仕事ではなく主要な仕事をしたい」、「教育訓練を受けるなどして技術・技能・資格を活かした仕事がしたい」とする割合が高くなっている(第62表)。
 これらのことから、企業の能力開発支援は、非正社員についても就業意欲を高めることができることが分かる。今後、企業がさらに非正社員の活用を図っていくためには、職務遂行に必要な訓練を実施するとともに、職務内容、意欲、職業能力等の就業実態に見合ったキャリア形成・処遇を実施していくことが、人材育成の重要な課題になると考えられる。


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