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第3章 総括

 「働き方の多様化」は、今後の経済社会の変化に沿ったいわば必然的な流れであり、働き方の多様化に対応した社会システムの整備が重要である。
 労働者が意欲と能力に応じて、就業形態にかかわらず自己の能力を十分に発揮できる状況は、企業にとっても生産性の向上につながるものであり、ひいては我が国経済の活性化に資するものである。今後の働き方の多様化のあるべき姿を実現するために、以下の取組が望まれる。
(1)  雇用・就業機会が十分に確保されていること
(2)  労働者の納得性のある処遇・評価が行われていること
(3)  多様な働き方の選択肢が十分に確保されていること
(4)  仕事と生活のバランスがとれた勤労者生活が実現されていること
(5)  意欲のある労働者に能力開発機会が確保されていること

(現状の働き方の多様化の評価)
 働き方の多様化の現状について簡単に特徴を整理すると、
 明るい動きとして、
(1)  就業形態の多様化について、SOHO、NPO等新しい就業の場が生まれている。
(2)  個人の自律性を重視する働き方の仕組みが広がってきている。
(3)  柔軟な労働時間制度の導入が進みつつある。
(4)  能力開発意欲は正社員、非正社員ともに高い。
等が挙げられる。
 他方で、問題点としては、
(1)  正社員の賃金制度は成果主義化、人事制度は個別化・多様化の動きがみられるが、従業員の納得性を高めるための評価基準の明確化、評価の透明性・公正性の確保及び考課者訓練等はまだ不十分であり、これらの制度が有効に機能していないケースも多いと思われる。
(2)  若年層・中堅層で、近年、労働時間の長時間化の動きがみられ、労働時間の長い者は、仕事と生活のバランスをとることが困難な状況にある。
(3)  就業形態の多様化については、個人の就業ニーズに対応した働き方の仕組みが広がってきているが、現下の厳しい経済情勢の下では、企業の非正社員の活用理由としてコスト削減要因が大幅に増加し、また、やむを得ず非正社員となる労働者がみられるところである。
(4)  自律的に仕事を進めている非正社員について、働きに見合った処遇となっていない可能性がある。また、就業意欲を高める効果がみられる正社員への転換制度等非正社員の就業環境の整備はまだ不十分な状況にある。
(5)  企業の能力開発支援は正社員、非正社員ともに能力開発意欲・就業意欲を高めるが、正社員、非正社員とも能力開発機会は不十分な状況にある。なお、若年層で学卒未就職者、離職失業者、フリーターが増加しており、人材育成の問題等課題が多い。
等が挙げられる。
 こうしたことから、「働き方の多様化のあるべき姿」を、労働者がその意欲と能力に応じて、ライフスタイルに応じ、多様な働き方を選択でき、自己の能力を十分に発揮できるような就業環境が整備されている状況と考えると、現状の多様化は、「働き方の多様化のあるべき姿」の状況にあるとは言い難い。企業にとっても、労働者の有効活用が図られていない状況といえる。

(働き方の多様化のあるべき姿と必要な取組)
 「働き方の多様化」は、今後の経済社会の変化に沿ったいわば必然的な流れであり、働き方の多様化に対応した社会システムの整備が重要である。今後の働き方の多様化のあるべき姿を実現するための取組としては、以下(1)〜(5)のようなことが指摘できよう。
 労働者が意欲と能力に応じて、就業形態にかかわらず自己の能力を十分に発揮できる状況は、企業にとっても生産性の向上につながるものであり、ひいては我が国経済の活性化に資するものであり、以下の取組が望まれる。

(1)  雇用・就業機会が十分に確保されていること
 まず、望ましい多様化が実現する社会の前提条件とでも言うべき、雇用・就業機会が十分に確保されていることである。雇用情勢はマクロ経済の動向に大きく影響されるので、雇用・就業機会の確保を図るには、デフレを払拭し、我が国経済の本格的な回復を図り、安定した経済成長が持続可能となることが期待される。

(2)  労働者の納得性のある処遇・評価が行われていること
 労働者が、就業実態に応じ、仕事に納得性を持ち、その意欲と能力を十分に発揮できるようにすることが重要である。その際、正社員の働き方については、客観性、公正性、透明性があり、労働者の納得が得られる評価制度や異議申立制度等が整備され、それぞれの労働者に応じたキャリア設計が図られることが重要である。なお、現在導入が進んでいる、能力主義・成果主義といった個人の属性によらない評価の仕組みは、高齢者や女性が働きやすい職場づくりにも通じるものである。非正社員の働き方については、職務の明確化が図られ、働きに応じた公正な処遇がなされるとともに、意欲と就業実態に応じたキャリア形成が図られることが重要である。

(3)  多様な働き方の選択肢が十分に確保されていること
 労働者が職業生涯において、自律的に働き、主体的に働き方を選択することが可能となるためには、正社員の転換制度や短時間正社員制度といった、フルタイム正社員とパートタイム非正社員の間の中間的な働き方の仕組みを整備することが重要である。また、企業内における労働者の意向の反映も可能となるような、社内人材公募制度、地域限定社員制度等の多様な人事管理制度の整備は、労働者の自律的な働き方を可能にするとともに、地域雇用の活性化にもつながる可能性がある。さらに、各就業形態間の移行が円滑に進むような働き方に中立的な社会制度の整備が重要である。

(4)  仕事と生活のバランスがとれた勤労者生活が実現されていること
 仕事と生活のバランスがとれた職場環境の整備を図ることは、労働者の心身の健康維持、仕事と家庭との両立等といった観点からも、仕事の効率・創造性の確保という観点からも重要であり、柔軟な労働時間制度の整備等が重要である。また、ライフスタイルに応じた働き方ができるための短時間正社員制度の定着等も重要であろう。

(5)  意欲のある労働者に能力開発機会が確保されていること
 就業意欲のある労働者が職業生涯にわたりいきいきと働くことができ、また、多様な働き方の選択が可能となるためには、その意欲と就業実態に応じて、能力開発機会が得られることが重要である。正社員について、企業は、長期的な視点にたち、計画的に能力開発を行い、意欲と就業実態に応じたキャリア形成・処遇を図るとともに、能力開発を促進するように人事処遇制度の整備を図ることが重要である。労働者自身も、自律的な働き方が求められる中で、主体的に能力向上を図ることが求められている。このため、労働者のキャリア形成への支援が重要である。さらに、能力開発機会は広範に得られることが望ましく、学校、公共職業訓練機関等の企業外の人材育成機能の充実、職業能力の体系・評価の仕組みの整備等が重要である。就業形態の多様化が進む中で、非正社員の意欲と就業実態に応じて、能力開発を行い、処遇を実施することが重要である。さらに、フリーター、学卒未就職者等が増加する中で若年層の人材育成を促進するためには、学校、公共職業安定機関、企業等の連携、若年者自身の職業意識の向上を図ること等が重要である。資源が乏しい我が国にとって、人は経済成長や付加価値の源泉であることから、能力開発の促進を図ることが必要である。


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