戻る  前ページ  次ページ

第5節 労働時間等の動向

 我が国の年間総実労働時間は着実に減少してきている一方で、所定外労働時間の水準は高く、年次有給休暇の取得率は上昇していない。また、近年、労働時間が分散化する傾向がみられ、若年層・中堅層や大規模企業で労働時間が長時間の者の割合が上昇傾向にある。
労働者の心身の健康維持、仕事と生活のバランスがとれた働きやすい環境作りの観点はもとより、仕事の効率・創造性の観点からも、労働時間の一層の短縮が重要である。
 裁量労働制等柔軟な労働時間制度は大企業を中心に導入が進んでいるが、裁量労働制がより機能するためには、業務量や労働時間の状況の適切な把握、健康・福祉確保措置の充実、仕事の範囲・目標の明確化、適正な評価の実施及び労働者自身の自己管理等が重要である。

(労働時間の動向)
 我が国の年間総実労働時間は着実に減少してきており、2002年には1,837時間(事業所規模30人以上)となったが、所定外労働時間は2002年には年間137時間まで減少してきたものの依然として水準は高く、特に大規模事業所ほど所定外労働時間が長くなっている。また、総実労働時間についても、1980年代は500人以上規模事業所の方が他の規模より短い傾向にあったが、1990年代半ば以降は逆転しており、むしろ長くなっている(第51図)。年次有給休暇の労働者1人平均の取得率は1992、1993年をピークとして低下し、2002年には48.4%となっている。
 非農林業雇用者に占める週の労働時間が35時間未満の者の割合の推移をみると、長期的に上昇傾向にあり2002年は23.2%となっており(第52図)、一方、週の労働時間が60時間以上の者の割合は1989年〜1993年にかけて大幅に低下して以降横ばいで推移していたが、1999年以降は緩やかながらも上昇傾向で2002年は12.1%となっており(第53図)、労働時間が分散化する傾向にあるといえる。非農林業雇用者に占める週の労働時間が60時間以上の者の割合を企業規模別にみると、1990年代後半から大規模企業の方が比率が高くなっており(第53図)、また、年齢階級別(就業者)にみると、25〜34歳、35〜44歳で他の年齢層よりも高く、上昇傾向にある(第54図)。なお、長時間労働が増加している背景の1つには、企業のリストラクチャリング(事業再構築)等に伴う人員削減があると考えられる。

 雇用者の活動時間(平日)を1991年と2001年で比較すると、週間就業時間が35時間未満の場合は仕事時間が短縮しているが、60時間以上の場合は、仕事時間が長くなり睡眠等の時間が短縮されており、労働時間の長い者は仕事と生活とのバランスをとることが一層難しくなってきている。
 労働者の心身の健康維持、仕事と生活のバランスがとれた働きやすい環境作りの観点はもとより、仕事の効率・創造性の観点からも、所定外労働や年休に対する職場の意識改革や仕事の効率化を図り、所定外労働の削減や年休の取得促進等を通じて、労働時間の一層の短縮に努めることが必要である。

(労働時間制度の動向)
 近年、ホワイトカラー層を中心に、定型的ではない、創造性を必要とする業務が増えてきており、労働者が一律の時間管理の下ではなく自律的・効率的に仕事を進めることが求められている。このことに対応した柔軟な労働時間制度として、裁量労働制等の導入が進んできている。裁量労働制は、現在は大企業等一部の導入にとどまっているものの、今後は労働者の創造的な能力・専門能力の発揮、労働者の自律性を高める労働時間制度としてニーズが高まることが予想される(第55図)。
 実際に裁量労働制を導入した事業場の状況についてみると、仕事が効率的になったとする回答が相対的に多く、裁量労働制の導入の効果はみられているが、一方で、追加の仕事が多く、業務量や業務の期限の設定に無理があるという回答がみられるほか、特に専門業務型では、健康面で留意すべき点がある旨の回答が企画業務型より多くなっている。裁量労働制について、業務量や労働時間の状況の把握が適正に行われること、健康・福祉確保措置が充実されることが必要である(第56表)。また、裁量労働制がうまく機能するためには、仕事の範囲や目標を明確にし評価を適正に行うことや、管理者が業務の状況を的確に把握し必要な調整を行うこと、さらに労働者自身も自己管理を十分に行うことが重要である(第57図)。


トップへ
戻る  前ページ  次ページ