ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 重要事例情報の分析について > 事例コメント

事例コメント

前ページ  次ページ

事例2:(小児用ベッドからの転落)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (転倒転落)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 母親が患児に背を向けてタオルの整理をしていたら、柵を乗り越え、背部より転落。柵は半分まで上がっていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 父母が一緒にそばにいたため安心していた。

■実施したもしくは考えられる改善策
 患者行動を予測し、早期の危険行動を察知する。ハードウエアの改善などの対策も必要。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
ヒヤリ・ハットの具体的内容欄
 小児用ベットや柵の形状、患児の年齢、性別、身長、病状(元気でよく動く、静かに寝ているなど)を記述すると事故状況をイメージできて参考になります。

発生要因欄
 具体的には以下のような事項が含まれているとよいでしょう。
 (1) 看護師から父母へのベット使用時の留意点の説明の実施状況
 (2) 小児病棟におけるベッドの点検の状況
 (3) 小児病棟における安全管理に関するマニュアルの内容と周知・徹底の状況
 (4) 転落と患児の身体・精神状態との因果関係
 父母はどのような状況で患児のそばにいたのでしょうか。面会に来ていたのか、または付き添っていたのでしょうか。父母の状況によって、看護師の関わりに変化が生じることも考えられます。

改善策欄
 「ハードウェアの改善など対策」という記述がありますが、何をどのように改善したらよいと考えるのかを、具体的に記述すると参考になります。

■改善策に関するコメント
患児の特徴把握と安全環境の整備
 この事例の患児、幼児期の子どもであると考えられます。幼児期の子どもの体は、大人に比べて、身長に対する頭の大きさ・重さの割合が大きいことが特徴です。大人は頭の大きさが、身長の七分の一または八分の一、つまり7頭身か8頭身ですが、幼児期の子どもは、4頭身か5頭身です。また、脳の発育が急速で、4・5歳で大人の状態の8割程度ができあがるといわれています。幼児期の子どもは、小さな体に大きな頭、体の重心は上の方にあって、ちょっとしたことにも転びやすく、柵の高さも頭が出ていれば落ちる危険は大きいといえます。
 上記のような幼児期の子どもの特性を踏まえ、患児の年齢、性別、身長、病状などを十分把握して、事前に適切な安全環境を整えておく必要があります。
 小児用の柵ベッドがその患児に合ったものであるか、破損箇所がないかなども確認する必要があります。

患児の特徴に合わせた父母への指導
 初めて育児を体験する母親は、子どもの成長の特徴を十分理解できていない可能性があります。a)眠っているときも、ベット柵は上げておく、b)ベッドから離れるときは、柵を上まで完全に上げ動かないことを確認してから、c)柵を下ろしている場合は子どもと向き合って子どもが視野に入っている状況で作業する、等の基本的注意事項を指導する必要があります。
 看護師は、患児の家族に対して、なぜこのような配慮が必要なのかを説明するようにしましょう。

看護師の役割
 小児病棟においては、父母の面会時、面会後はヒヤリ・ハット、アクシデントが発生しやすい傾向があります。
 事例のような状況では、父母が付き添っていても、たびたび訪室して子どもの状況をよく観察し、柵が半分しかあがっていないことに注意を促すとともに、子どもと向き合って子どもを視野に入れた状態でタオルの整理をするように働きかける役割があります。
 また、常時、以下のようなベッドの安全点検を励行するようにしましょう。
 1) 柵を上げた状態で上から押してみて柵が落ちないことを確認
 2) ストッパーの点検
 3) 破損個所の点検

患児に適した安全なベッドの選定・改善
 子どものベッドからの転落は、母親、看護師の注意に頼るばかりでなく、安全の視点に十分配慮したベッドの選定をすることなどが必要です。そのためには、全日本ベッド工業会や日本ベビーベッド工業会の業界基準が参考となるでしょう。
 東京都は2002年1月、生活文化局消費生活部安全表示課からは全日本ベッド工業会に対して「介護用ベッドによる事故防止対策要望」を提出し、安全な商品作りや取扱方法の周知徹底を求めています。このケースの場合には、ベッド自体を低くするなどの改善策が有効でしょう。メーカーや業界団体へ製品そのものに対する改善要望も積極的に行いましょう。
 厚生労働省からは、2002年8月に医療用具メーカーへ医療現場の意見を収集し業界として取りまとめるべきとの通知が出されています。

【参考文献】
「介護用ベッドによる事故防止対策要望」,東京都生活文化局
http://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/k_joho/anzen/anzen1_bed.html
「医療安全推進総合対策への取り組みの推進について」(平成14年8月29日日医薬発第0829006号)
「Advice on the safe Use of Bed Rail」Medical Devices Agency,英国保健省,2001年7月


事例7:(処方箋における剤形の誤認による調剤)

発生部署 (薬剤部門)
キーワード (調剤)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 トプシムスプレーLの処方に、トプシムローションを調剤し、患者へ交付した。患者が使用前に気がつき連絡があったため、取り替えた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 医薬品名の記載がローションの場合には、医薬品名の後にLの記載をし処方する医師がいる。略号の使用を考慮する必要があるのではないか。また商品名に紛らわしい名称を付けるのも考慮する必要があるのではないか。

■実施したもしくは考えられる改善策
 略号の使用をしないこと。商品名を付ける際には紛らわしい名称を付けないようにする。処方箋を思いこみのないように正確に読むこと。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 内容から手書き処方せんと推測できますが、薬品名は処方せんにどのように記載されていたのでしょうか?また用法・用量はどう書かれていたのでしょうか?詳しい記載があると、調剤者がどういうプロセスでトプシムローションと判断したかが分かります。

■改善策に関するコメント
 本事例は処方箋の誤読であり、その背景としては、調剤者による商品知識の不足あるいは思いこみと、医師の略号記載による要因があると考えられます。

商品知識不足の問題
 調剤者がスプレー剤形の存在を知らない可能性があります。トプシムは汎用される外用合成副腎皮質ホルモン剤であり、トプシム軟膏、トプシムEクリーム、トプシムクリーム、トプシムローション、トプシムスプレーLが薬価基準に収載されています。
 例えば、錠剤の規格についても2mgと5mgの2種類あることを知らずに間違えたりすることは調剤経験の少ない薬剤師が起こしやすい調剤過誤の代表的なものです。こういった薬剤のリストがいくつか公表されていますので、それらを研修や勉強会などで活用するとよいでしょう。標語やカルタにして覚えやすくするといった工夫をしている施設もあります。
 しかし薬剤師の知識や記憶だけに依存するシステムは安全なシステムとはいえません。オーダリングと連携したピッキングマシンか疑義照会の支援システムの導入が有効と考えられます。

思いこみの問題
 薬局では調剤した薬剤を、別の職員の目でダブルチェックすることで、調剤者の思いこみや誤認を発見する機会となります。調剤監査の実施を徹底しましょう。
 規格が複数種類ある薬剤や、名称が似ていて間違いやすい薬剤はあらかじめそのことが分かっていると、その薬剤を扱う際に意識的に注意を向けることができ、うっかりミスの防止に有効です。

略号による記載の問題
 略号の記載は、ローションのl、軟膏のo、クリームのcさらに徐放性製剤のRなどしばしば見受けられますが、処方せんに書かれている医薬品名は必ずしも正しくないと認識する必要があります。また処方中に疑わしい点があれば必ず医師に確認しましょう。自己判断で調剤しないことが一番大切です。
 医師の側では、処方箋の記載を誰が見ても判断がつくよう、紛らわしい表現を避けることや、用法・用量を明示することなどがこういったミスを防ぐのに有効です。特に病院で扱っている医薬品が1規格のみである場合でも、複数規格が存在する医薬品については規格まで記載することが必要です。
 オーダリングで間違えやすい薬剤については、警告が表示されるソフトもありますが、院内の採用薬の一覧をブックレットにして診療室や病棟に置くなど、薬品名等を参照しやすい環境を整備していくことも大切です
 紛らわしい名称の改善については製薬企業に積極的に要望を出すことも必要でしょう。また、処方箋の記載方法の標準化を進めることも重要です。

【間違いやすい薬剤のリスト】
「外観・名称の類似した注射薬について」,日本病院薬剤師会
http://www.jshp.or.jp/naiyo/2waht/cont/rmruiji.html
「注射業務プロセスからみた新人のヒヤリ・ハット事例とエラー防止のチェックポイント」,杏林大学保健学科川村治子教授,厚生科学研究「医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究」


事例11:(採血容器の準備間違い)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (検査・採血)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 CMV(サイトメガロウィルス)検査の採血スピッツの形状キャップの色が全て似ている。元からのラベルの色が白か薄紫かの違いで、患者のエンボスシールを貼ってしまえば凝視しない限り見分けることは出来ない。スピッツが違っていたために、患者に謝罪し、再度採血した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 医師の記入した採血伝票から採血スピッツを作るときに、形状の似通ったスピッツには細心の注意をする必要がある。スピッツ準備段階でまず誤ったことと、実際に採血をする者が一歩踏み込んだ確認をすべきであった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 同じ箱に似通った二種類のスピッツが入っているため、箱を分けて項目を明記する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
ヒヤリ・ハットの具体的内容欄
 スピッツの選択間違いの事例のようですが、医師はサイトメガロウィルスの何を検査する指示だったのか。また、どのスピッツを選択するべきところを、間違ったどんなスピッツを選択してしまったのか。どこでどのようなことから間違いに気づいたかを記載しましょう。
 医師の指示はどのように記載されて出され、誰が受けて、誰が患者のエンボスシールを記載して、スピッツを準備するのか、さらに採血に至るまでの経過の具体的な記載があると、指示から実施に至るシステム上の問題か、そのプロセスにおける個々の手法に問題があるのか分析に役立ちます。

ヒヤリ・ハットの発生要因欄
 採血者が一歩踏み込んだ確認をすべきであったとありますが、どのような確認の仕方なのか記載があると対策の参考になります。

■改善策に関するコメント
サイトメガロウィルス検査と採血用スピッツについて
 この検査は概ね外注で行われています。サイトメガロウィルスの採血容器はEDTA-2Na入りの容器を用いますが、この容器にはラベル印字が濃淡で異なるのみ、キャップの色が同一、長さが同一の2ml用と5ml用の採血管と長さの異なる7ml用があります。長さの同じ物はエンボスシールが貼られたら、見分けはほぼ不可能です。サイトメガロウィルス抗体の検査は採血量が3ml必要なため5mlのスピッツを使用しますが、この事例の場合、おそらくサイズが同じものであるためエラーが発生したと思われます。

採血用スピッツを正しく選択するために
 この事例の場合、スピッツを選択して患者のエンボスシールを貼る際に間違ったスピッツを選んでしまったと考えられます。エンボスシールがスピッツのほぼ全体を覆ってしまいますから、元のラベルでの識別は困難で、スピッツを正しく選択することが必要です。

エンボスシールとは、検体が誰のものであるかを識別するために、患者名、日付などを記載して検体容器に貼付するいわば名札です。サイトメガロウィルス検査のスピッツには、記載用紙は貼付してあるが、小さいことと手書きしなければならないなど使いにくいため、医療施設では別に作成していることが多いようです。

 間違ったスピッツを選ばないようにするためには、エンボスシールにどのスピッツを選んだらよいか、つまり採血量が記載されているとよいでしょう。そのためには、医師が指示伝票を記載する際に、検査内容と採血量を明記するようにします。
 エンボスシールを準備する人は、医師の指示伝票を基に、患者名と共に採血量も記載します。スピッツを選択してエンボスシールを貼付するときは、医師の指示伝票、スピッツに表示されている採血量、エンボスシールを照合するようにします。検体容器のわかりやすい区分や整理も不可欠です。
 また、エンボスシールにあらかじめ採血量が大きな字で書かれているものを使っている施設や、実物のスピッツを置いておき使用するスピッツと直接比較することができるようにしてある施設もありますので、参考にしてみてください。
 また、誤りやすいものを同じ箱に入れない、検体容器の種類をできる限り減らす(規格が異なるものをできる限り減らす)、頻度の少ない特殊検査に関しては病棟に検体容器を置かずその都度検査部門から取り寄せる、検体準備を検査部門など集中して実施が可能な部門に委譲するなど、システム上の改善が考えられます。また、オーダリングによるラベル印字時に検体容器を指定させたり、自動検体排出機などの利用によって、こうしたエラーの発生を減少させることができます。

 検査準備のシステム化
 この事例からは、エンボスシールの準備、スピッツの準備を誰がしているのか不明です。病棟で準備していると考えられますが、準備の段階までは病棟事務員でもできます。オーダリングシステムが導入されているところでは、スピッツが準備されて、病棟に届くシステムになっているところもあります。オーダリングの導入されていないところでも、検査部門の協力と責任で、検体容器の準備まで実施されると、看護師の多重課題が緩和されると考えます。この検査に限らず、検査の準備のシステム化も検討されるとよいでしょう。

検査説明書の活用
 この検査は概ね外注で行われており、さまざまな検査に対する検体の種類や採取量、実物容器をカラーで表示した冊子があります。
 サイトメガロウィルス検査部分の実物やカラーコピーを用意しておくと、医師が指示伝票を記載するとき、またエンボスシールを準備する際に参考にできます。


事例37:(本人確認が実施されても発生した患者取り違え)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 F患者の点滴が落ちきっているのを看護師が気付き、急いで点滴カートから点滴ボトルを取ってFさんですねと声をかけた。患者から返事がありボトルを点滴ラインに接続したがF患者はウトウトしていた。
 注射係の看護師がF患者の点滴ボトルをF患者のもとに持っていったところ、U患者の点滴ボトルをF患者に投与したことが判明した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 1. 確認方法の不備
 2. F患者(1ベット)とU患者(3ベット)が同室で名前も同じ○○子、年齢が73歳と72歳で近く、症状も嘔吐など似た症状があった。似たような者が同室にいることが問題(病床管理)

■実施したもしくは考えられる改善策
 1. 点滴ボトルのフルネームとベットネームの照合・確認
 2. 指差し呼称
 3. 病床管理が困難であれば、取り違えのリスク認識を常に促す(管理者)


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 点滴注射実施時の処方箋の取り扱いや、いつ発生したかを記入することは発生要因や具体策を考える上で役立ちます。
 また、滴下の終了に気づかなかった原因についても分析が必要でしょう。

■改善策に関するコメント
ベッドサイドでの処方箋との照合と実施サインの習慣化
 複数の患者の薬剤を同時に準備するときには確認しながらでもエラーのおきやすい状況です。注射や点滴実施の際には、点滴のフルネームとベットネームの照合・確認は勿論、ベッドサイドでの処方箋との照合を行い、その場で実施サインを行うことが重要です。

患者氏名の確認方法
 この事例では名前を確認したにもかかわらず返事をしてしまっています。患者さんが思いこんでいたり、良く聞き取れなかったり、アクセントやリズムが似ていると自分が呼ばれたと勘違いしてしまうことがあるようです。出来るだけ患者さんから名乗ってもらうことが望ましいでしょう。さらに意識障害のある場合や睡眠中の患者にはリストバンド等の確認がより有効でしょう。

患者誤認防止のルール化
 同姓同名患者、類似の症状、同年齢と患者誤認の危険が高い場合は同室にしないことも有効でしょう。また、始業開始時の業務連絡等での連絡、患者一覧に印をつける、処方箋にアンダーラインを引く、IDカードやネーム等の色分け等視覚に訴えることも必要です。さらに、このような誤認防止のための工夫をルール化することは有効な防止策となるでしょう。
 リストバンドは急速に普及していますが、その活用方法が今一つ徹底してません。バーコードなどの導入で患者誤認は減少します。意識がある場合でも積極的な活用が望まれます。個人個人の点滴をどのように管理していたのでしょうか。ミキシング後の点滴を同じカートの上に複数おいて置くことは、取り間違いを誘発し危険です。作業環境を見なおす必要があります。

看護方式の見直し
 注射係の存在から一部機能別の看護方式を取っていることが想定され、本来は注射係が点滴の交換を行う予定であったと思われます。このように本来の役割でない人が実施した際には、コミュニケーションを円滑にし実施責任の所在を明確にしながら業務を遂行していきましょう。一部機能別の看護方式のように1人の患者に複数の人が関わることはエラーが発生しやすい状況をつくるので準備から終了まで同一人物が関わることが望ましいといえます。安全管理の視点から、エラーが発生しやすい状況がないか看護方式の見直しを行い、エラーの危険が高い業務は報告や連絡のルールを決めるなどの防止策を講じましょう。

【参考資料】
「患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書」,厚生労働省患者誤認事故防止方策に関する検討会,1999
https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1105/h0512-2_10.html
「医療安全対策ノート」,東京都病院協会医療安全推進委員会,2001


事例50:(外用薬を注射薬と誤認)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (調剤)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 ロセフィンの点滴の指示とビソルボン吸入の指示が出たが、看護師は両者を混ぜてしまった。別の看護師が注射器の量が大きいので不思議に思い、間違いがわかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 点滴の指示と吸入の指示が同時に出た。

■実施したもしくは考えられる改善策
 吸入と点滴は全く違うものであり、疑問を感じたら確認してから注射器に詰める。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 医師の指示から薬剤の準備までのプロセスを詳細に書くようにしましょう。例えば指示は口頭指示か、指示箋によるものか、また指示内容を詳しく書くとわかりやすくなります。また薬剤の作業背景をわかりやすく記入するとよいでしょう。 状況や要因を詳細に挙げることで、指示から準備、実施までの行動を明確にすることができ、どこで間違いが発生したかが分析しやすくなります。さらに、間違いを発生させないしくみや間違いが発見されるしくみを検討することができ、有効な対策の立案につながります。

■改善策に関するコメント
指示と処方箋の再検討
 医師の指示が口頭であった場合、口頭指示は原則として受けないこと。やむを得ず実施する場合は復唱し、その後は必ず医師により指示をカルテに記載するようにしましょう(薬品名、用量、用法)。また、指示箋によるものだった場合、注射薬指示箋と処置指示箋が同じ用紙にあったことが考えられます。これらを分けることで、薬剤の取扱いや、準備作業動作の混在を防ぐために有効と思われます。
 さらに、記入が「ビソルボン」のみとなっていた可能性が考えられます。ビソルボンには、シロップ、吸入液、細粒、錠、注射液があります。同名薬剤の場合は、使用方法がわかる記載が必要です。
教育体制
 「ビソルボン吸入液」を注射用に用意していますが、「ビソルボン吸入液」と「ビソルボン注射液」があることを認識していたでしょうか。「ビソルボン吸入液」が「注射禁」という知識があったか確認し指導する必要があります。「ビソルボン吸入液、ビソルボン注射液」は新人看護師の注射事故防止のために教えておくべき薬剤としてあげられています。
 また、病棟によって使用方法が偏る薬剤があるため、勤務病棟異動直後などはベテランスタッフでも同名の薬剤の時、使用目的を間違えることがあります。例えば、外科ではビソルボン=注射、耳鼻咽喉科ではビソルボン=吸入が一般的でしょう。
 各病棟等で使用頻度が多い薬剤で同名のものを列挙し、スタッフへの意識づけをするのもよいでしょう。

薬剤管理システムと作業環境の整備
 改善策欄に書かれているとおり、ビソルボン吸入液(45ml、500ml)と注射液(1A、2mL)は、容器の外観や容量も大きく異なり、特に「ビソルボン吸入液」の瓶には「禁注射」と赤字で書かれています。この与薬準備の段階で気が付くきっかけがあるはずですから、ビソルボン吸入液を他の容器に移し替えている可能性があります。「ビソルボン吸入液」はどのような外観で病棟保管、あるいは薬剤部から搬入されていたのでしょうか。容器の移し替えは避けなければなりません。
 薬剤の管理と取り扱いについて、病棟配置薬から準備したとすれば、外用薬と注射薬が同一の場所に保管されていると考えられること、薬剤部から搬送されたとすれば、外用薬と注射薬が混在して送られたのではないかと考えられます。いずれにせよ両者(外用薬と注射薬)が混在しないような管理システムを確立することが必要です。
 作業環境について、ネブライザーなどの準備する処置台と注射薬を準備する処置台を分ける作業ルールは有効と考えられます。


事例67:(配合変化をおこす薬剤の混合)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 IVH側管より抗生剤ゾビラックスを注入しようとしていた。ゾビラックスは他の薬剤と混注すると結晶を作ってしまうため生食でフラッシュ後、IVHメインを止めて、ゾビラックス+生食のみで注入施行の指示だった。しかし、IVHメインを止めずに注入し、結晶を作ってしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 深夜勤への連絡簿に、IVHメインを止めての指示があったが見落としてしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 申し送り時、指示受け時、与薬品の作成時、与薬時の確認。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 ヒヤリ・ハットの具体的内容が結果のみで、プロセスの記載がありません。"深夜勤への連絡簿に"との記述からヒヤリ・ハット発生は深夜と推測できますが、日勤帯と手順は同様であったのか?さらに指示は文書なのか、口頭で行われたのか。状況がわかる記入が必要です。
 改善策についても、従来との違いがわかる具体的な記載が必要です。

■改善策に関するコメント
IVHルートからの薬剤投与
 病棟における点滴手技手順が浸透していなかったためのエラーです。IVHルートは患者さんの栄養補給の生命線として極めて重要であり、かつ、カテーテル交換は苦痛や、気胸などの危険を伴います。配合変化を起こしやすい薬剤の投与は原則的に別ルートとするべきでしょう。

ワークシートの活用
 注射施行においては、(1)予定時間(2)薬品名(3)投与量(4)手技(5)速度/時間(6)経路/部位(7)指示医師名など記載されたワークシートは指示が一覧できます。特殊な手技が含まれる場合も、それが確認できる様式が望ましいと考えます。
 改善策に種々の確認と記載されていますが具体的な確認方法が明記されていません。ルーチン業務であれば与薬する薬剤に確認すべき項目を予め記載したチェック欄を設けたシートを添付し与薬ステップを確実に確認できるシステムとするのも大切です。この場合、確認した事実がチェックシートに残るので結果を検証することもできます。

混注禁忌薬一覧の作成
 ゾビラックスに限らず混注によるPHの変化で結晶の析出や混濁をおこす薬品は他にもありますが、それぞれの病棟で使用される薬品はある程度限定されます。混注禁忌の薬剤一覧表を薬剤部門は作成し、関係部署の職員が情報を共有できるとよいでしょう。

【参考資料】
「医療事故防止と感染予防のための注射・輸液Q&A」陣田泰子編著,照林社,2001


事例154:(点滴ラインの閉塞)

発生部署 (入院部門一般、集中治療室)
キーワード (与薬(注射、点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 夜間2時30分のパトロール時、0時尿量約50mlと(ウロガード内)少ないことを確認。輸液(IDH)残量はどうか確認したところほとんど15時更新時点より減っていなかった。また、自然滴下中であったが滴球内が液で充満していた。側点滴中のカタボンHiは7ml/hでポンプ使用中であったがIDHルート内へ逆流している状態でアラーム音はなし。CPDダブルルーメンを右内頚静脈より挿入されており閉塞を疑いヘパリン生食で翼部分より吸引、注入試みるがいずれも不可。血圧は114〜62mHg P64と安定していた。Dr callと再度フラッシュしてみる様、また他方のルートよりの注入も試みて閉塞していれば末梢ルートをとる様指示を受ける。しかし積極的にフラッシュすることは血栓を飛ばすことも考えて行わず、他方のルートを調べたところ閉塞なく滴下できたので、ルート変更し点滴再開始した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 ICUにも緊急OP患者の重症者あり、なかなか離れられない状況にあり、また他患者の情報もカルテで充分把握しきれていないままとにかく早くパトロールをと思い訪室した。もう少し早めの訪室が必要であったが、現状はなかなか出来なかった。後でカルテより準夜帯での23時の血圧が96〜70mHgと低めで、尿量も350ml/8hと少ないことに気づく。

■実施したもしくは考えられる改善策
 輸液ポンプチェック表の活用をしていれば未然に閉塞も防げた可能性もある。また各勤務で訪室時の滴下状態や輸液残量のチェックを行うことが大切であると考えられる。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容は、CPDダブルルーメンより輸液(IDH)とカタボンHiが7ml/hでそれぞれのルートより点滴されていた情報が先の方が状況が分かり易いと思います。
 ヒヤリ・ハットの発生した要因は、改善策につながる重要な部分です。もっと端的に分かり易く書いてください。要因は、患者情報の把握不足、多忙で訪室が遅れたことだけでしょうか?輸液中の点滴ライン、残量の確認、輸液ポンプ使用時の観察等についてマニュアルはあったのでしょうか?あったのであればマニュアルが守れなかった理由の記載もあると改善策につながります。輸液ポンプチェック表は、普段どのように活用されていたのかもわかった方がよいと思います。

■改善策に関するコメント
 輸液ポンプチェック表の活用をしていれば未然に閉塞も防げた可能性があります。改善策は「各勤務で訪室時の滴下状態や輸液残量のチェックを行うことが大切であると考えられる。」という曖昧なものでなく、再発防止に向けて具体策を考え確実に実施することが大切です。

輸液ポンプ使用時の重要チェック事項の徹底
 マニュアルに輸液中の点滴ラインの確認、輸液ポンプ使用時の観察を、いつ、誰が、どのようにするか明記し、実行に移す必要があります。
 輸液ポンプを使用するのは少量を時間あたり定量に輸注するためであり、各勤務で点滴ボトルにラインを引く等して、定量が的確に輸注されていることをチェックすることも有効です。

患者状態把握、情報収集
 患者様の情報の伝達については申し送りが廃止されているのであれば、多忙で時間がない時でも、大切な情報がすぐわかる工夫をし、それを基に患者観察ができるようにする必要があります。

ICU看護師の資質の向上
 ICUにおける患者安全管理の体制づくりや教育システムの構築も重要です。機器操作、ルート管理、薬剤に関する知識、疾病・治療に関する知識、緊急時の判断力など、ICU看護師として必要な知識・資質を向上させられる教育研修プログラムを整備しましょう。


事例159:(輸液速度間違え)

発生部署 (入院部門一般、集中治療室)
キーワード (与薬(注射、点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 FOY600mg/24Hrsの予定を注射箋に指示時間の記載が無かったので、7時間で滴下してしまった。申し送りをした看護師に指摘を受け間違いに気付いた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 時間指示が無かった。新人は、他の看護師に相談をしているが、2人で間違ってしまった。多忙で不在だったのか、リーダーへは相談していない。

■実施したもしくは考えられる改善策
 新人は、時間指示の無いものについては、必ず、リーダーに確認をして実施する事にした。薬効使用法などを学習してもらう。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容には医師が出した指示がわかるように書かれていた指示をそのまま表記した方が良かったと思います。あるいは指示のコピーを提示するのもよいでしょう。また、指示が出された経緯(初めての指示か?臨時の指示か?)がわかるように記載して下さい。通常の指示受けは、誰が行うことになっていたのか、指示は何に記載され誰が何をみてチェックするか、どのように実施者に伝えるかなどもあるとよいでしょう。
 この事例は誰が指示受けをしたのかについても、指示受けの段階で時間指示がないことに気づかなかったという点で重要と思います。要因の欄には、「多忙で不在だったのかリーダーへは相談していない」とありますが、新人看護師の場合いろいろな事が考えられます。本人にどうしてリーダーに相談しなかったのかを確認しておく必要があります。適切なアドバイスにつながり今後の事故防止に役立つと思います。

■改善策に関するコメント
 この事例の最大の問題は、指示がわかりにくかったということと、わかりにくい指示に対して確認することが明確にルール化されていなかったことにあります。医師の指示についての改善策や確認方法の制度化も考える必要があります。

指示記載の標準化
 医師は、誰がみてもわかるように指示を出します(誰が、いつ、何を、どのように)。24時間で点滴する指示の場合、総量による指示よりも、時間あたり何mlで点滴するか明記されていた方が速度間違えの事故のリスクは減少します。こういった指示の記載方法について標準化を進めることも有効な対策です。

指示受け時の確認方法と指示受けルートの明確化
 指示受けをする看護師は、指示が上記の要件を満たしているかチェックし不明確な部分については、医師に確認する必要があります。実施者は、指示に従い実施しますがわからないことは、リーダーに確認することが大切です。
 また、指示を誰がどのようにチェックし、実施者にどのように伝えるかという指示受けルートも明確にしておくとよいでしょう

新人看護師への支援、教育
 新人看護師は薬剤や処置に関する知識が不足している傾向にあり事故のリスクは非常に高いといえます。先輩看護師に聞きたくても忙しそうにしていて聞けなかった、少し変だと思ったけどやった、等の報告がたびたびあります。疑問に思ったことは、必ず他の看護師に相談するように指導します。また、日頃から声をかけ新人看護師が相談しやすいような雰囲気を作ることも重要です。知識不足により事の重大性が認識できず重大な事故につながる可能性もあります。薬剤の薬効、使用方法、特にインシュリンなどのハイリスク薬に関しての教育が必要です。新人看護師の事故を減らすためには、新人が何ができて何ができないかも把握して新人のレベルにあわせフォローする体制も考える必要があります。

確認方法の制度化
 本事例のように指示に明確な記載のない場合などの問題が生じた場合には、必ず正確な情報を確認しなければなりません。これは職場風土の問題で片付けるべきものではありません。どういう場合に、誰に、どうやって指示を仰ぐかを明確にルール化しておく必要があります。注射指示箋に指示がなかったとありますが、どこに指示の記載があったのか。また、もし指示が分散して記載されていたとすると、どのように照合するシステムになっていたのか。他に確認の方法がなく、リーダーに聞かなければわからないのであれば、システム自体が危険であると言えます。
 不明点は確認することは当然ですが、それ以前に、情報が一元的に効率的に確認できるシステムになっている必要があります。

【参考資料】
「看護スタッフのための医療事故防止教育ガイド」,日総研,(新人・初心者ナースの起こした事故事例を分析し、事故防止教育のポイントを解説)

事例182:(シリンジポンプ固定不良によるサイホニング)

発生部署 (入院部門一般 集中治療室)
キーワード (機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 塩酸モルヒネ100mg+生食水50mlをシリンジポンプで2ml/hで注入中。3:30交換。8:00疼痛増強のため150ml/hで1分間ローディング。その後2ml/hで再設定。この時残量37ml。8:17他看護師が訪室時塩酸モルヒネが0mlになっているのに気づく。アラームは鳴らず。内筒固定位置がはずれていた。17分間で塩酸モルヒネ74mg注入された。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 確認不足。点検確認不十分。配置が悪かった。管理が不十分だった。夜勤だった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 セット・注入量の確認を訪室時、輸液注入量の変更時必ず施行。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 要因に「配置が悪かった」とありますがどの様な配置になっていたのかや、同時に使用していた台数など周囲の環境の記載があると固定不良が生じた要因を分析しやすくなりよいでしょう。

■改善策に関するコメント
サイホニング現象
 この事例は、押し子(内筒固定位置)はずれによるサイホニングが生じたと考えられます。押し子は、名称が示すように内筒を押し出す働きをしますが同時にサイホニングにより吸引されるのを防止する働きをもっています。
 最近のシリンジポンプは、押し子はずれ警報が付きこのような固定不良を警告する働きを有しています。このような機器に変更することにより防止することができます。

【サイホニング現象とは】
 シリンジポンプとラインの末端(患者さんへの刺入部)に高低差があり押し子が固定されていなかった場合に落差圧によりシリンジ内の薬液が一気に注入される現象をいいます。自然注入される速度は、機器やラインの太さ、さらに高低差により異なりますが、条件によっては、50mLの薬液が数分で注入されてしまうことがあります。

輸液ポンプ等の配置
 複数の輸液関連機器を使用している場合には、1本の点滴スタンドに上下に何台もの機器を固定している場合があります。このような場合機器の視認性や操作性が非常に低下してしまいます。複数の機器を使用する場合には、複数の点滴スタンドを使用したり専用架台を用い機器の視認性や操作性の維持に努めましょう。


事例190:(新人看護師の教育及び輸血管理)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (輸血、チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 中心静脈ラインの側管より濃厚赤血球を輸液し、新人の頭の中には輸血を全部体内に入れなければならないという気持ちがあり、輸血パックを高らかに持ち上げライン刺入部のところまで血液の赤い部分を入れることに必死であった。勿論側管からつないでいるため、エアーが入っていたのも気づかないで、患者に指摘されて、エアーの混入に気付く。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 まだ、中心静脈ライン・輸血の扱いなど知らず、1・2度の体験だけで、出来ると思い込み、ペアナースも呼ばずに実施してしまった。ペアナースもそこまでの知識のなさなど考えもせず、単独でさせてしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 ライン類全般について、知識を付ける、しばらくは予想外の出来事も考慮し、生命に直結する処置にはついて回る。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 エラーが発生した現場の状況はよく理解できますが、具体的な改善策を立てるためには、発生要因をもう少し広く(直接要因、間接要因等)かつ具体的に考え情報の整理をした方がよいでしょう。
 「新人」とありますが、新卒新人看護師でしょうか。新人看護師とした場合、配属後どの時期での出来事でしょうか。(いつ=配属後○ヶ月或いは○日目、日勤○時等)「中心静脈ライン・輸血の取り扱いなども知らず、1・2度の体験」とは何を1・2度体験したのでしょうか。体験したのは、末梢から点滴静注でしょうか。
 「新人」とありますが、新卒新人看護師でしょうか。新人看護師とした場合、配属後どの時期での出来事でしょうか。(いつ=配属後○ヶ月或いは○日目、日勤○時等)「中心静脈ライン・輸血の取り扱いなども知らず、1・2度の体験」とは何を1・2度体験したのでしょうか。体験したのは、末梢から点滴静注でしょうか。
 指導ナースとの仕事の仕方はどのようになされていたのでしょうか。新人看護師は、なぜできると思ったのでしょうか。指導ナースは、なぜ単独でさせたのでしょうか。なぜ指導ナースを呼ばなかったのでしょうか。指導ナースの業務量・多忙度はどの程度であったのでしょう。新人看護の教育と評価はどのようになっていますか。チェッククリストなどを使い知識・技術の到達度をチェックしているでしょうか。
 病院としての輸血管理の手順書はどのようになっているのでしょうか。等々の情報を、できれば時系列に整理します。

■改善策に関するコメント
 本事例の発生要因は、記入方法のコメントに書いたように複数考えられます。「ライン全般について」「知識をつける」「しばらくは予想外の出来事も考慮し」とありますが、看護チームの他のメンバーが具体的に分かるような計画が必要です。

各種手順書の見直し
 手順書がある場合、手順書と新人看護師が行った行為のどこが違ったかをチェックしましょう。中心静脈からの輸血は、経路としては間違いではありませんが、第一選択とした手順書でしょうか。基準・手順を頻繁に訂正してばかりでは、内容が周知されず事故の要因になりえますが、定期的な見直しは必要なことです。また、手順を改善すれば、個々の職員の手順も改善するとは限らないのでリスクの回避ポイントを絞った安全の視点での手順書の見直しが有効でしょう。

新人看護師の研修
 (1)輸血・輸液に関する研修;末梢からの点滴静脈の管理、中心静脈の管理、輸血の管理の研修をそれぞれ具体的に(施行部位の解剖学的相違を含め)行いましょう。特に輸血は「血液細胞の移植」であること等、一般の輸液製剤との違いを研修することは重要です。(2)研修の評価;知識・技術の到達度をチェックリスト等で把握しながら業務範囲を個別に広げていくことが重要です。
 (3)新人看護師の特性;周囲が忙しい臨床現場では、新人看護師は遠慮から自信がなくても、先輩看護師に声をかけるのをためらい、つい一人で実施してしますことがあります。業務の同時進行はエラーの原因の一つですが、新人看護師は特に注意を要します。1・2度経験し出来ると思っても、業務が計画的にいかないとパニックになりあせって手順を遵守できなくなる事例もあります。指導ナースはこのような新人看護師の特性も考慮し指導することが必要です。

【参考資料】
「医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究」医療技術評価総合研究事業総括報告書,川村治子,医療・看護安全管理情報No.7:「新人看護師の与薬エラーを防ぐ」,日本看護協会


事例342:(患者によるナースコールの切断)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (チューブ・カテーテル類、その他)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 前日、患者本人のハサミでナースコール切断をしていたため、本人の届かないところにしまっておいたが、それを出してIVHラインを切断し、また、しまっていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 患者の可動域の範囲を把握できていなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 どの程度動くことができるのか、患者の状態を把握し、危険を及ぼすものは患者さんの付近に置かない。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 このケースでは患者さんが自分のハサミでナースコールやIVHラインを切断した事実が記載されています。しかしこれだけでは「なぜ患者はこんなことをしたのだろう」という疑問が残ります。患者が行為に及んだ理由は、例えば、夜間せん妄で精神錯乱状態だったのか、病名告知後の不安からなのか、また患者の悪意のある行為なのかもしれません。これらの理由を分析するためには、もっと患者さんにまつわる情報が必要です。何の疾患及び症状で入院しているのか、どのくらい入院しているのか、年齢はなど。また時間やその経過の記入も、行為の分析の際に有効となる情報です。数え上げたらきりがないですが、「これは必要かな」と思われる情報は、できるだけ多く記載するようにしてください。ヒヤリ・ハットレポートは分析のための資料だということを忘れないでください。

■改善策に関するコメント
 患者さんの可動域の範囲を把握できていなかったから、ということを事故発生の要因にしていますが、それだけでは不十分ではないでしょうか。「なぜこんなことをしたのだろう」ということを理解しなければ、再び同じようなことが起こってしまいます。ナースコールの切断は確かに迷惑な行為ですが、そうさせた要因は何かを探ることで、患者にとって望ましい治療環境を考えていくことができます。以下の項目を参考にして、改善策を考えてください。

危険物の除去
 理解能力・知的能力が低下している患者の場合には、身の回りに危険物をおかないことが必要です。本人や家族の同意の下で、持ち帰るか、看護室で管理するかを選択してください。可動域の範囲を把握しても、患者さんは予想を超えた行動をとる可能性があり、思わぬ事故につながります。また、意識レベルがあがってくると活動範囲や活動量が増加しますので、疾患によっては一歩先の変化の可能性を考慮する必要があるでしょう。

患者のアセスメント
 「なぜ?患者はその行為をしたのか」にあたる部分を解明するためには、的確に患者のアセスメントをしておくことが必要です。患者が前日にも同じ行為をしたため対応(届かないところにハサミをしまう)したのにもかかわらず、再発しています。新たな要因が加わったためかもしれませんが、前日の要因分析が不十分であったかもしれません。再発予防のために、ヒヤリ・ハット報告を活用するためには、要因分析など専門的な知識のあるリスクマネジャーの関与も必要です。
 今回の場合、もしも無意識で行われた行為であるならば、危険物は一切手元にはおかず、看護室で管理する必要があります。しかし意図的な行為であるならば、ナースコールやIVHラインの切断に至るまでの経過を分析する必要がありますし、それによって対処方法も異なってきます。そのためには状況判断だけでなく、患者からの声を集めることが大切です。

患者に対する最小限度の制限
 「予測のつかない危険な行動」を防止するために、患者の身体の動きを制限する身体拘束(安全ベルトや紐による四肢の抑制など)という方法があります。万策尽きて止むを得ず使用する場合と、身体治療優先のため一時的に使用する場合とがあります。いずれも最小限度の使用を考えて行われることが望ましいです。しかし、この身体拘束は痴呆性老人や精神障害者に対して安易に使われる恐れがあります。そのために複数の看護者の判断や法的な手続きなどが規定されています。十分なアセスメントと最小限度の使用を考えて使用してください。

【参考資料】
「米国精神医学会治療ガイドライン:せん妄」,American Psychiartic Association,医学書院,2000


事例367:(栄養チューブの誤接続)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 点滴ルートの3方活栓を経管栄養チューブと間違えてエアー確認をしようとした。最終確認時、点滴のルートに経管栄養の注射器を接続していることに気付き防止できた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 誤接続防止タイプの経管栄養チューブを使用していない。患者と話をしながら作業を行なっており、無意識で集中できなかった。細い経管栄養チューブを使用していたため(アトム多用途チューブ)、誤接続防止タイプのものがなかった。誤接続防止にするEDコネクターを使用していなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 アトム多用途チューブを使用せず、後接続防止タイプの、他社の経管栄養、EDチューブ等を使用する。どうしても多用途チューブが必要な場合は、EDコネクターを使用し、接続部が注射器と合わないようにする。細いチューブに対しても誤接続防止タイプの開発を希望する。この事例とは直接関係はないが、未熟児の治療現場では現在の誤接続防止タイプを使用することは無理がある。接続部や注射器のデッドヴォリュームが多すぎることや接続部が児に比して大きいこと、開発しても製品のコストが高すぎて通常頻繁に使用できる状況にない。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 今回は誤接続防止用具を使っていなかったようですが、エラー発生時の状況はもう少し詳細に書くとよいでしょう。細い経管栄養チューブを使用していた理由は何でしょう。誤接続防止用具を使用していても、患者が嫌がるからと誤接続防止用具以外のチューブを使用し事故になったという事例もあります。用具がないのか他の理由かは改善策を考える上で重要です。

■改善策に関するコメント
 経管チューブと静脈ラインとの取り間違えは、患者の生命に関わる事故になりますが「誤接続エラー」はしばしば見受けられます。他院の事例を活かして、対策に組織的に取り組む必要があります。

使用物品の工夫
 改善策としてはまず誤接続防止物品の導入が必要ですが、安全管理委員会等へ提案しましょう。組織としての導入が決定したら、手順書を決め、決められた手順は遵守しましょう。
 現在はメーカーも厚生労働省基準に適合する、「医療事故対策適合品(※)」を出すようになってきています。(小児用も含め)患者にとってより安全に、より安楽な用具の開発要望も、組織的に申し入れしていくことで、改善の可能性は高まります。
 導入に際しての経済的な問題は、安全対策委員会等で組織として検討することが必要です。

※ 医療事故対策適合品
 医療事故防止対策のために制定された厚生労働省基準に適合する医療用具について、従来製品との相違が医療機関で容易に確認できるよう、日本医療機器関係団体協議会が業界として自主的な基準適合マークを策定している。該当製品には医療事故対策適合品マークが表示されている。
(日本医療機器関係団体協議会ホームページ http://www.jfmda.gr.jp/new_page_8.htm
 その他に、誤接続エラーの防止には以下のようなことが考えられます。
 (1)  カラーシリンジ等を利用してルートを色で区別する。
 (2)  点滴ルートと栄養ルートを左右に分ける。
 (3)  ルートは挿入部までたどって確認することをルール化する。
 (4)  点滴用ルートに接続できない(経管栄養用の)注射器の採用をする。
 ただし、ルートを色で区別する場合は、以下のような点に注意する必要があります。
 a) 色をつけることで意味を考えた判断をしなくなる恐れや、単純な判断ミスを招く恐れがある。多くの色分けを用いず、無色/有色のような単純かつ少数の区別にする。
 b) 色による区別のルールは病棟単位ではなく病院全体で統一する。病棟ごとに異なっていると、かえって混乱を招くことになる。

【参考資料】
医療・看護安全情報No8「経鼻栄養チューブの誤挿入・誤注入事故を防ぐ」,日本看護協会
http://www.nurse.or.jp/anzen/anzenjoho/no_8.pdf
輸液ラインの誤接続防止のための基準の整備(平成12年8月31日医薬安全局長通知:医薬発第888号)

事例374:(携帯型持続注入ポンプの麻薬注入状況の観察不足による未注入)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 携帯型持続注入ポンプ(4日用タイプ=2ml/Hr)を使用し、手術直後より硬膜外注入(マーカイン100ml、塩酸モルヒネ10mg、生食99ml)を行っていた。術後6日目に硬膜外チューブを抜去し、医師及び看護師で残量を確認すると挿入時より投与されていないことがわかった。硬膜外注入と併用してCVルートからも塩酸モルヒネが投与されていた為疼痛コントロールは図れていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 薬液が投与されなかった原因は特定できないが、注入ポンプの不良や硬膜外チューブの位置不適切等が考えられる。勤務帯の引き継ぎの際、投与内容・ルートの屈曲の有無、三方活栓の向きは確認していたが、投与量の引き継ぎをしなかった為、気付くのが遅れた。注入量は目盛りがなかった為に外観だけで減っていると判断し、注入量の測定をしていなかった。疼痛コントロールが図れていた為に鎮痛効果が得られていると思っていた。

■実施したもしくは考えられる改善策
 携帯型持続注入ポンプのメーカーに情報提供と、原因調査を依頼する。(メーカー:ディビインターナショナルのDIBカテーテル)注入ポンプは麻酔科により選択されていた為、臨床で使用しやすいタイプに変更してもらう。看護師は時間を設定し、薬液注入量を測定する。(・注入器の直径サイズを測定し記載する・重量を測定する)診察の際、医師と看護師は硬膜外挿入部から注入ポンプまで一緒に確認する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 院内における携帯用持続注入器を使用した麻薬取り扱いの業務手順について、マニュアルで定められていた手順と、ヒヤリ・ハット発生時に行われた確認手順をもう少し記述すると、第三者による分析が容易になります。また、計算上終了する予定の日時に(4日後)発見されなかった理由も記述されると、事故の要因が明確になると考えます。
 「術後」とだけの情報ではなく手術部位の情報が必要です。術後の創痛に対するペインコントロールのプロトコールは、硬膜外とCVライン併用なのでしょうか。そうすると創痛に対する鎮痛剤の効果の評価はどのようにされているのでしょうか。静脈より硬膜外のほうが全身に及ぶ鎮痛効果は高いわけですから、使用の意図が見えません。CVラインの塩酸モルヒネの容量が記載されていないため、鎮痛効果があったのか判断できません。

■改善策に関するコメント
 院内における携帯用持続注入器を使用した麻薬取り扱いの業務手順について、マニュアルで定められていた手順と、ヒヤリ・ハット発生時に行われた確認手順をもう少し記述すると、第三者による分析が容易になります。また、計算上終了する予定の日時に(4日後)発見されなかった理由も記述されると、事故の要因が明確になると考えます。「術後」とだけの情報ではなく手術部位の情報が必要です。術後の創痛に対するペインコントロールのプロトコールは、硬膜外とCVライン併用なのでしょうか。そうすると創痛に対する鎮痛剤の効果の評価はどのようにされているのでしょうか。静脈より硬膜外のほうが全身に及ぶ鎮痛効果は高いわけですから、使用の意図が見えません。CVラインの塩酸モルヒネの容量が記載されていないため、鎮痛効果があったのか判断できません。

麻薬の取扱い規則
 麻薬を使用する場合の業務手順、鎮痛効果、副作用の観察が行われるためのマニュアルを作成し、遵守することが重要と考えます。携帯用持続注入器に注入されているとはいえ、麻薬の取扱いは他の注入方法と同様に取り扱われるような基準が必要と考えます。

携帯型持続注入ポンプ取扱いマニュアル
 もともと携帯型持続注入ポンプは薬剤の減り具合が見にくいのですが、だからこそ、観察と鎮痛効果を定期的に確認することが必要になります。少なくとも、勤務交代の開始時、終了時に薬液量を確認すること、患者の鎮痛状態と副作用の有無を評価することを看護計画に盛り込み、実践していれば、早期発見に継がったと考えられます。提起されている改善策は、注入器の直径のサイズを測定し記載する・重量を測定するとなっていますが、業務が煩雑になると予測され、周知することに困難性を感じます。マニュアルはシンプルで手間がかからないことが原則です。誰もが実践できる内容の標準的な看護業務手順を作成し、マニュアルとすることに加え、確認作業手順をフローチャートにして、携帯できるようにし確認作業に活用できる方法が有効です。

術後疼痛コントロールの標準化
 痛みは主観的な感覚なのですが、術前にペインスケールで判定し、エビデンスを基に院内で統一されたプロトコールを使用することで、術後疼痛に対する観察項目が明確になり、確認行動につながります。


事例390:(指示内容の誤解釈)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 塩酸モルヒネ+生食を1.8/Hで持続注入している患者さんから、痛いから流してほしいと言われ、フラッシュのことと思い込んでしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 患者さんに言われたことを確認しなかった。
 思い込みをしてしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 必ず、受け持ちの人に確認する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 ヒヤリ・ハットの具体的内容については、正確で誰が読んでも誤解のない解釈が可能となるように記述します。患者から"痛いから流して欲しい"というニードをどのように解釈されたのかが不明です。また、その解釈の基となった指示の内容が解りません。本来実施すべきことと間違ったことを、詳細に記載されると事象の内容が読み取れ、結果的に要因分析が可能となり、具体的対策に継がると考えます。
 塩酸モルヒネと生食の容量、静注なのか硬膜外なのか皮下注なのか記載をしてください。
 "フラッシュ"とは、どのような行為のことを指しているのかが解りません。早送りのことを言っているのか、静注のことなのか、院内で統一され、注射処方せんに指示する際の標準的な方法として使用されているのかが解りません。また、どのように思い込んだのかが解らないため、事象の事実が理解できません。事故が起きたのかも不明です。
 ヒヤリ・ハットを含め事故の記述にはポイントがあります。
 (1)  本来あるべき姿と事故事象を時間順に対比させて記述する。
 (2)  いつ(行為や事象の発生したタイミング)(when)、場所(where)、行為者(who)、何(what)を、どうしたのか(how)の4W1Hを明確にする。(もう一つのWである。「なぜ(why)」は要因で記述する)
 (3)  情報の利用者を想定し分かりやすい言葉で書く。
 (4)  事実のみを明確に記述する。
 さらに、これらは簡単にできるものではないので、報告書式を用意したり、記述の練習をしたりする必要があります。

■改善策に関するコメント
 この事例は、麻薬の取扱い及び管理(患者への効果確認を含む)が問題だと考えます。
 患者の要望で麻薬を操作する問題に気が付いているでしょうか。疼痛時指示が誰でも正しく投与量・方法が理解できるようにオーダー方法を統一し、その後の鎮痛効果の観察を含めたマニュアルが必要です。
 改善策に「受け持ち看護師に確認する」とありますが、マニュアルを整備し、患者への指示が明確にある場合は、指示内容を確認する行動がとれるように指導・教育が必要と考えます。
 指示内容の読取りエラーを起こさないようにする際"フラッシュ"という言葉で指示を受けない、使わないことが必要と考えます。早送りにも使用され、IVと同じ感覚で使用されることもあり、解釈に複数の方法を想像させる言葉は使用しないことが事故を予防することにつながります。
 また、要因に「患者に確認をしなかった」とありますが、鎮痛目的のモルヒネの持続注入時は、鎮痛効果を定期的に確認することが必要になります。薬液量を確認すること、患者の鎮痛状態と副作用の有無を評価することにより、ペインコントロールの評価につながり、一方で持続注入用機器の故障等の早期発見になることもあります。

事例406:(シリンジポンプの電源確認忘れ)

発生部署 (入院部門一般 集中治療室)
キーワード (機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 シリンジポンプの電源が切れていて、5時間カコージンが投与されなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 シリンジポンプの向きで電源の確認が出来にくく発見が遅くなった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 複数のシリンジポンプを使用する際は、点滴架台のバランスを考えながら、見やすい位置に取り付ける。または専用ワゴンに設置する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 通常シリンジポンプは電源に接続した場合、何らかのランプが点灯します。また、ほとんどの機種には開始忘れ防止装置のついている機種もあります、この事例の場合はどうだったのでしょうか?元々電源を入れていなかったのか、途中で切れたのかは大切な情報です。また、電源を切るときはどんなときなのでしょうか。シリンジ交換の際に一時的に切ったことも考えられますが、この場合、どんな原因が考えられかがわかるように記入するとよいと思います。
 さらに電源と書かれていますが開始スイッチなのか、本体の電源なのかも重要な情報ですので記入しましょう。また、電源とは本体とコードをつなぐ部分かコンセントなのかも記入しましょう。
 さらに電源と書かれていますが開始スイッチなのか、本体の電源なのかも重要な情報ですので記入しましょう。また、電源とは本体とコードをつなぐ部分かコンセントなのかも記入しましょう。
 また薬剤の情報として薬剤名は記入してありますが、指示希釈量、指示注入速度、注入部位、さらにバイタルサイン等も記入しましょう。
 そしてヒヤリ・ハットの発生した要因であるシリンジポンプの向きのついても、何台がどこにどんな形でついていたか、ベットとポンプと記入者の関係についても情報があると分析しやすいでしょう。

■改善策に関するコメント
 多種類のシリンジポンプがあり、必ずしも全てが同じ操作方法、画面表示方法ではないため、新規購入時に統一規格の機器を選択するよう病院組織としての判断が必要です。また、機器に関しては、ヒヤリ・ハット事例の詳しい分析をすることにより、フールプルーフやフェールセーフ機能の視点から改善する必要があります。

設定の確認
 シリンジポンプ等輸液ポンプ使用時は、重要な薬剤が投与されていることが多いので、流量を設定する場合や一旦電源を切って再度スタートさせる場合はダブルチェックを行うなどのルールづくりが必要です。また、患者が点滴中、病棟を離れる際にバッテリー使用となりますが、離棟時に警告音が鳴っていても、患者は気が付かないことがあります。帰棟後、必ず看護師が確認することが必要でしょう。

機器の使用法の徹底
 病院には様々な医療機器がありますが、機器を理解し使用することは事故防止の上でとても重要です。
 通常シリンジポンプは電源に接続した場合、AC100Vの接続された事を示す何らかのランプが点灯します。次に、電源スイッチを入れることにより内部テストを行いスタート開始待機状態になります。ここでAC100Vの接続をし忘れた場合バッテリー表示になります。スタート開始待機状態は機種によってさまざまな方法で待機しますがここまでの工程はほとんどのポンプに共通な開始工程にあります。
 この事例では途中で電源が切れたのかスタートし忘れたのかが重要で使用開始前の点検で電源が確実に入り、注入指示量の設定ができ、注入開始の確認点検が確実にできるように指導しましょう。「やったつもり、入れたつもりが」ヒヤリ・ハットにつながります。簡単な開始チェックリスト、注入記録表などを作成して効果を挙げましょう。また、実物を用いた機器の操作指導を院内教育に設け、定期的に新人、経験者を問わず、扱い方を理解できるようにしましょう。
 通常はポンプに電源が入っている状態だったのでしょうか。通常から電源が入っているのであれば、電源を確認するという行為はどうしてもおろそかになります。こういった通常はしなくても大抵上手くいく手抜きが、大事故の引き金になるものです。対策としては確認がしやすくなるような機器や環境の整備、確認エラー自体を防止する機器の改善等が考えられます。また、冗長的な手順は誰でも省略されやすいということを踏まえ、このようなヒヤリ・ハット報告があるたびに、手抜きの可能性のある手順について意識を高めることも報告を活かすという意味では大切でしょう。

注入量の確認
 カコージンなどの塩酸ドパミン製剤は重症心不全、ショック時などに多く用いられます、今回の事例では5時間も投与されていませんでしたが、バイタルサインの観察、記録、シフト勤務体での申し送り、点検はどうなっていたか再検討しましょう、時間ごとの注入設定確認、残量チェックと記録への記載、バイタルサインの変動、尿量、などの観察方法、記録への記載方法を検討しなおし、注入薬剤の持つ薬効がどうなのかを再学習しておきましょう。そして勤務交代時はダブルチェックをルール化して行うことも大事です。

ポンプのセッティング
 ポンプのセッティング位置についても共通のルールを設けましょう。セッティングする場合、最重要な薬剤は常に目の留まる位置につけましょう。ポンプ類の架台は2つのネジ構成になっているものがほとんどです、2つのネジを使えば取り回しが効き、効率よく配置できます。専用ワゴンを使うのも1つの手ですが点滴スタンドを何本か応用して配置すれば美的感覚もよく、作業効率も上がり安全性も確保できます。ただし電源の事故等を防止するためにも、ポンプ本体だけに注意を向けるのではなく、付属品、電源コード、点滴コード類についても注意を払いきちんと整理整頓する必要があります。


事例423:(トリプルルーメンの誤使用)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 トリプルルーメンの1ルートにカテコラミン120mg、5%TZ併せて50mlが2ml/hで持続注入されていた。このルートにはもう1個の3方活栓が取り付けられており、これから血小板10単位を1時間で点滴した。その後収縮期血圧が130mmhgから90mmhgへ低下した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 手技が未熟(研修医1年目、ローテーション1ヶ月目)

■実施したもしくは考えられる改善策
 1. 側管から薬物投与をするときは、ベースの点滴や側管から何がいっているかの確認をして投与
 2. 側管から濃度や、投与速度に影響がある薬剤を持続注入しているときは、そのルートの別の3方活栓からの薬剤投与は避ける。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 本事例は、実施した事と血圧が130mmHgから90mmHgへ低下したことのみ記載されています。患者様の背景(身長、体重、年令、病名、投与前のバイタルサイン等)が記入してあるとよいでしょう。また、カテコラミン系薬剤の中で何を使用したのか、中心静脈ラインの基本補液としては何を使用していたのかが、記入してあるとよいでしょう。
 ヒヤリハットの発生した要因として手技が未熟と記されていますが、点滴ラインを接続する手技自体は困難なものではないと考えられます。事例の内容からは、どの点を問題視しているのか明らかではありません。(中心静脈ラインから輸血を行う場合の注意点、カテコラミン類との同一ルートからの輸血の是非、この程度の血圧の変動を重要と考える理由など)
 研修医1年目、ローテーション1ヶ月目とありますが、研修医が指示を出す、施行するなどの場合の教育体制、診療業務に関する実施・責任の範囲等が記入してあるとよいと思います。

■改善策に関するコメント
トリプルルーメンからの薬剤の投与
 トリプルルーメンは、カテコラミン、血管拡張薬、高張液など投与薬剤の種類が限られるべきものであるため、他の薬物(抗生物質、利尿剤、輸血製剤)などは末梢ルートを確保して施行するほうがよいでしょう。

教育体制の見直し
 中心静脈栄養についての知識・技術の習得には、使用薬剤の副作用や手技の合併症に関しても認識させるような指導が必要です。たとえば、IVHカテーテル自体が血小板減少の原因となり得ますが、念頭に置かれたでしょうか。
【参考資料】
「医療事故防止と感染予防のための注射・輸液Q&A」陣田泰子編著,照林社,2001


事例429:(複数規格が存在する薬品の誤処方)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (処方)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 医師1:5月20日入院時、持参薬のアンギナール錠(25mg)6T3Xを紹介状の処方に6T3Xとのみ記載されていたためアンギナール錠(100mg)6T3Xと思い込み、病院薬に変更するときにアンギナール錠がなかったため、アンギナール散600mg3Xで処方。
 医師2:今回の処方に関して、前医からの紹介状で持参薬にアンギナール6T3Xの記載があり、当院コンピューター処方の薬剤DI表示を確認したところ同剤は1回25mg1日3回投与とされていた。この時点で持参のアンギナールは12.5mgと判断。当院ではアンギナール錠12.5mgは採用されておらず、アンギナール散12.5%が採用されており、125mg/gと表示されていたためアンギナール75mg/日に相当すると思われたアンギナール散12.5%を600mg処方した。処方時、画面上の注意表示には気づかなかったため、処方エラーの意識はなかった。薬剤が処方され、患者さんに本人に渡されている際にも処方医に過剰投与の注意連絡はなかったため、服用後も気づかなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 確認が不十分であった。その他の確認の問題。複数の規格が存在する薬品の混同。薬剤の略号類似による薬品の混同。その他の連携に関する問題。

■実施したもしくは考えられる改善策
 持参薬は、不明な点(薬剤名・一回量・一日量など)があれば必ず紹介先へ電話で確認する。薬剤の名称、用量が異なる際には当院で採用されている薬剤で同等量の処方法を薬剤部に確認する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 医師2がアンギナールの1日量を75mgと判断する経過を整理して記載しましょう。規格の取り違えと製剤量と成分量を混同したことが要因です。
 アンギナール600mg/日という過量投与については薬剤部からの疑義照会はなかったのでしょうか?さらにどのような経緯で本事例が発見されたのでしょうか。内服薬の指示がでた際、指示受けのルートはどのようになっているのでしょうか。指示を受けた時点で、指示受けをした看護師は不審に思わなかったのでしょうか。詳しい記載があると、医師の処方ミスといった観点だけでなく、処方から与薬までのシステムの問題が見えてきます。

■改善策に関するコメント
複数規格がある薬剤
 アンギナールの成分であるジピリダモールは、血小板凝集抑制に使用する場合75mg/日ですが、蛋白尿減少には300mg/日、血栓・塞栓症においては300〜400mg/日と疾患により用量が異なる薬です。アンギナールは12.5mg錠、25mg錠、12.5%散と3規格ですが同成分のペルサンチンは12.5mg錠、25mg錠、100mg錠、150mgカプセルと4規格あります。
 「薬局・薬剤師のための調剤事故防止マニュアル」((社)日本薬剤師会)には、複数規格がある薬剤や間違えやすい薬剤が掲載されていますので、参考にするとよいでしょう。このマニュアルには、それ以外にも調剤に関する注意点や具体的な事故防止対策がまとまっています。

薬剤師による疑義紹介
 医師自身もいろいろな規格、濃度がある事を知らず、自身の知っている規格、濃度で処方する場合があります。持参薬など、通常自身が処方する事のない薬を処方する場合、規格の確認や容量、用法の確認は必須です。一方、処方監査を行う薬剤部も、600mg/日が適宜増減の範囲内と判断できなくもありませんが常用量(最大400mg/日)を超えての処方は疑義照会の必要があるでしょう。

持参薬処方への対応
 そして本事例の場合、医師1及び医師2ともに用量を誤処方していますがそのプロセスは異なります。医師1は複数の規格が存在する薬品の混同が要因であり、医師2は製剤量と成分量を混同したことが要因で、個々の事例の分析は別に考える必要があります。
 ただ、同一の患者で2度もヒヤリ・ハットを起こしている真の要因は、"持参薬を処方する"ことにあると考えられます。持参薬処方についての取り決めを作る必要があります。場合によっては前医の処方を踏襲するのではなく、医師自身の医学的判断で処方することが必要です。

内服薬指示受け時の確認事項の明確化
 内服薬の指示が出た場合に指示受けをする際にも用量がその患者に合ったものかどうかを確認することができます。指示受けをするときは、用量や用法に誤りがないか、その患者に適しているか、不明な点があれば医師に確認することも大切です。

【参考資料】
「薬局・薬剤師のための調剤事故防止マニュアル」,(社)日本薬剤師会,2001年4月


事例433:(散剤の調剤間違い)

発生部署 (薬剤部門)
キーワード (調剤、処方)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 朝食後内服薬のジゴシン散剤0.1を配薬する準備を日勤看護師が行っていた。そこへ、薬剤部よりジゴシン散剤0.1の調剤を10倍量の1.0に、誤って調剤払い出したと連絡があった。そのため患者へは、投薬されずにすんだ。ジゴシン散剤の処方は、前日の夕方にオーダーされ、当直帯に調剤された物であった。また、当直帯で作成した薬剤は、1包を保存し日勤の薬剤師により再度確認をするシステムがあり発見された。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
医師の都合により日勤帯で処方オーダーしなかった。
時間外に臨時処方でオーダーされたため、薬剤部でのダブルチェックができなかった。
時間外臨時処方オーダーは、散剤の薬包の一つ一つに薬剤名と容量を記載するコンピューターシステムがなかった。そのため、看護師の容量確認は、散薬の場合実施できなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
時間外臨時オーダーは、患者の状態が許す限りしない。
薬剤部でのコンピューター印字システムを改善する。
薬剤部は、当直帯で作成された時間外臨時処方薬の散剤
水薬の朝食後薬の確認を午前8時頃までに実施する。
看護師は、朝食後薬で当直帯で作成された時間外臨時処方薬の散剤・水薬について薬剤部へ薬品名、容量、に間違いないか確認する。
医師は、時間内に処方するように徹底する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 薬剤の調剤ミスが発見された経緯はかかれていますが、なぜ調剤ミスが発生したかという要因が明確ではありません。時間外処方時の通常の手順はどうなっていたか、調剤時の薬剤部における人員配置と業務量は適切であったか、多重課題はなかったか、調剤する作業空間に問題はなかったか、調剤した薬剤師の経験年数や時間外調剤の経験の有無等、ヒヤリ・ハットが発生する要因と考えられるものは何かなかったか、情報収集し、記入しましょう。
 また、時間外処方で出された散薬について、薬剤部と病棟間での薬剤確認に関するルール(手順等)はどのようになっていたでしょうか。時間内と時間外では、病院全体のシステムが変わりますので、ルールの有無についても記入しましょう。

■改善策に関するコメント
 本事例はアクシデントにならずヒヤリ・ハットとなった例であり、医薬品取扱いに関する院内の運用が生きたことが示されています。大変よいことですが問題点も見出されました。

院内で使用する医薬品呼称の統一
 まず、当該医療機関では処方あるいは調剤内規に「略称」が用いられているのでしょうか? ジゴシン散剤をどのように調剤ミスしたのか本報告から全く分かりません。例えば「ジゴシン散剤0.1」との記載がありますがジゴシン散剤には0.1%散と1000倍散が市販されています。どちらなのでしょうか? また、10倍量の1.0にとの記述ですが秤取量を10倍過誤したのか全く不明です。
 院内における処方医薬品をはじめ医療器材に至るまでの名称に慣用名、俗称などを勝手に命名し汎用する事のないよう定期的に点検することは投薬ミスを撲滅する有効な手段です。医療事故の30%が医薬品で発生していることを考慮し、医薬品に関する院内の取り決め事項について講習会・研修会を開催し職員間の連携と意識向上を図り、院内のシステム構築することが重要です。

特定薬剤治療管理料対象医薬品
 なお、「ジゴシン」は治療血中濃度範囲が0.8〜2.0ng/mLと極めて狭く特定薬剤治療管理料の対象となっている、取扱いに極めて慎重を要する医薬品です。他にも特定薬剤管理指導対象医薬品があり、施用直前点検重要医薬品として一覧表にまとめ周知徹底を図る事が必要です。

ワークシートを活用した確認
 「確認する」との記述がありますが、具体的な確認の方法・手段・確認したことの検証方法がありません。ルーチン業務であれば与薬する薬剤に確認すべき内容を予め記載したチェック欄を設けたシートを添付し与薬ステップを確実に確認できるシステムとすることが大切です。この場合、確認した事実がチェックシートに残るので結果を検証できます。

時間外処方におけるチェック体制の検討
 時間外の臨時処方は、患者の状態や医師の都合により必然的に発生します。時間内に処方するよう徹底することは限界がありますので、時間外に処方しても調剤ミスが起きないようなシステムや防護策を検討する必要があります。
 時間外は薬剤部でのダブルチェックが出来ないのであれば、病棟と連携したダブルチェック体制を整えることも必要です。

外見で判断の困難な薬剤の取り扱いの検討
 また、散薬のように、容量、薬品名を外見で判断できないような薬剤は、病棟では内容物を確認することは困難です。散薬のなかでも、容量を間違えると重篤な症状を発生させる恐れのある薬剤の調剤は、特に注意を喚起できるような仕組みを検討することも必要でしょう。


事例546:(処方の入力ミスによる誤薬)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (処方)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 指示の入力ミスで、アクプラチンとジェムナールの予定がアクラシンも入力してあり、実施した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 医師の指示間違いに気付かなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 治療内容の把握をすることで、チェックできる。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
この事例で問題となっている薬剤の名称はこれで正しいのでしょうか?×アクプラチン→○アクプラ、×ジェムナール→○ジェムザール、×アクラシン→○アクラシノン、ではないかと思われます。
 また、院内での薬剤の処方プロセスや関係した当事者の状況を記述し、どの段階でどのような作業中に発生したヒヤリ・ハットなのか、どの場面で誰が気づいたのかなど、もう少し詳しく記述してください。「指示の入力ミス」とあるのでオーダリングシステムにおける薬剤の選択ミスがそのまま実施されてしまったケースと思われますが、一方で「指示間違い」となっており、処方ミスなのか入力時のミスなのか、もう少し状況がわかるように記入してください。また、指示受けのルートはどうなっているのでしょう。指示受けの際になぜ指示間違いに気づけなかったかを知るためにも詳しく記述してください。
 もし、上述のようにこのレポートの薬剤名称が間違っているようなら、治療に必要な薬剤について正確な知識を持っていないことになります。職種経験年数や部署配属年数、あるいは当日の勤務状況など当事者の情報についても記入してください。
 さらに、患者の病名や治療方法などの情報も必要です。そして、これまでは何剤投与されていたのか、今回だけ異なる処方であったのか、状況を記入してください。

■改善策に関するコメント
 個人レベルの改善策に期待するより、ミスが起きないしくみやミスを発見しやすいしくみを検討することが重要です。
 ここで想定される改善策は、(1)医師の処方時のエラーを防ぐための対策と、(2)処方エラーがあったとき、薬剤師や看護師などが調剤や与薬の場面でのチェックによって誤った与薬を未然に防止するための対策とに分かれます。

処方エラーの防止体制
 まず、医師の処方エラーを防止する体制として、オーダリングシステムを導入することが最も確実な方法です。ただし、オーダリングシステムの場合、記載不備はほとんどありませんが入力(選択)ミスはありえます。したがって、誤選択防止(選択薬確認)機能を実装する必要があります。たとえば薬剤選択には3文字以上の入力を必要とする、毒・劇薬などは通常の薬剤と同じ画面に表示しない、患者の病名・治療法・年齢等と照合し不整合がないか自動的にチェックする、複数投与の場合はあらかじめ決められた組み合わせ以外の投与ができないようにする(例外の場合は医師から直接連絡する)、画面のフォントを大きくして誤選択しにくくする、などです。
 上記を実現するためには、オーダリングシステムの構築の際に医師、薬剤師、看護師などの関係者が参加することが欠かせません。

調剤時の監査体制と疑義照会
 誤った処方がそのまま薬剤部門に届く場合も考えられます。薬剤師はもし処方内容に疑問をもった場合は疑義照会を行うことが必要です。
 特に抗がん剤の処方では抗がん剤の使用用途別の治療プロトコール、あるいはレジメンが異なるため抗がん剤治療を実施する診療科医師あるいは医局単位で日常使用される抗がん剤のレジメンの提出を義務づける必要があります。薬剤部、薬局、あるいは薬剤科でレジメンを整理し処方監査に素早く対応できるシステムの構築に期待します。また、特定の薬剤を使用する際には前回処方・薬歴確認後に調剤するという体制が必要です。
 病院薬剤師会RM対策特別委員会では、抗悪性腫瘍剤、糖尿病薬、ワーファリン、ジギタリス製剤が処方された患者については薬歴に従った調剤を行うことが必要であり、特にこれらの薬剤の初回投与時には、何らかの方法で医師に確認をとることが望ましい、としています。

看護師等による処方のチェック
 新しい内服薬が追加で処方された場合は、看護師が、指示受けまたは与薬の際、服薬の必要性、薬剤の内容・量が指示どおりのものであるか、患者の病態に適した量であるのかなどの確認が必要です。3剤とも抗悪性腫瘍剤であり、治療方法として3剤投与がありうるので、指示受けの際に医師に併用数を確認することで事前に防止することは可能です。
 すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、患者にもいつもの薬と同じかどうか注意をするように呼び掛ける、といった工夫によって、事故が防止された事例もありますので、必要に応じて検討してください。

【参考資料】
平林利康ら,「月刊薬事」2001.3(43),145-150,(2001)


事例571:(授乳時の感染の管理)

発生部署 (入院部門)
キーワード (感染防止)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 母乳栄養の児の家族が感染症にかかっていたにもかかわらず、母乳を飲ませてしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 感染症に関する知識不足、母乳と免疫力に対する知識不足。

■実施したもしくは考えられる改善策
 感染症に対する学習の徹底。確認の徹底。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 感染した母乳を何故授乳したのかという発生要因が明確ではありません。ヒヤリ・ハットの具体的内容の欄には、具体的に発生状況に関する情報を記入しましょう。発生状況が具体的であれば、改善策もより具体的になります。この事例では、下記の点について追加情報を収集することが望まれます。
1. 授乳に関する日常の手順はどうなっていたか
2. 感染症を持つ母親の母乳・授乳に関する看護計画はどのように立案・実施されていたのか
3. 感染症を持つ母親へ、授乳に関する注意事項などの説明を行っていたか
4. 感染症を持つ母親の乳児に関する授乳について、医師から看護師への指示はどうのようになされていたのか
5. ヒヤリ・ハットが発生した時間帯、発見された経緯はどうだったか
6. ヒヤリ・ハットが発生した前後に、他の業務の遂行状況はどうだったか
7. 家族が関わっていた経緯は何か
8. 何度目の授乳で気づいたのか。

■改善策に関するコメント
 感染症に関する学習を深めることも重要ですが、感染症を持つ母親が入院した場合、母親や乳児に対してどのような感染管理を実施するか、具体的な手順を決めておく必要があります。感染症をもつ母親の授乳に関する具体的な基準を作成し、定期的に評価・改善しましょう。
1. 感染症を持つ母親の授乳に関する看護手順・基準を作成・評価する
2. 感染症を持つ母親の授乳に関する適切なインフォームド・コンセントを実施する
3. 家族が母乳をあげることがあることを踏まえ、母親だけでなく家族への教育、指導等の体制を見直す


事例601:(環境整備不良による薬物の誤飲)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (環境調整)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 看護師が不在の時に患者がオーバーテーブルの上にあったホウ酸綿を口に入れてしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 患者の周囲に置いてある事に気づいていたが、すぐに処理しなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 患者から離れる時には、他のスタッフと連携をとる。周囲に食事以外のものは置かない。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 ホウ酸綿の使用目的、事故に至るプロセス、発生時間が記入されていません。
 患者の意識状態、認知能力状態が記載されていないため、なぜ患者が食べられない物を口に入れてしまったのかが解りません。従って事故の要因が特定できず、具体的対策が個人の注意レベルに留まっていると考えます。事故の主原因の背景には、観察システムに着目して検討する必要がありますが、それが記入されていないため分析を困難にしています。
 本来実践すべきシステムがあり、それが機能しなかったために起きた事象なのか、観察システム自体がチームで取り入れられていなかったのかによっては、対策が変わってくると考えます。

■改善策に関するコメント
 環境整備は、療養上の世話にあたり看護業務の重要な項目です。従って看護過程に沿って援助が必要となります。その場合患者のセルフケア能力のアセスメントは不可欠となります。特に患者の認知能力のアセスメントを行い、看護計画を立案し、環境整備を実践する必要があります。
 認知障害のある患者の視野に入るところ、手の届くところには、危険な物は置かない。それをチームで周知し、徹底して実践することが重要と考えます。そして患者の認知の程度と計画を評価し、定期的に見直し修正、遵守のサイクルを繰り返すことが必要です。

 なおホウ酸は、経皮毒性があること、消毒効果はないことから医薬品再評価結果その24より、ホウ酸の皮膚科領域への使用は、"眼科領域の適用を除き、有用性が認められない"とされています。特に皮膚から吸収されるため拭き綿には適していないと判断します。早急にご検討ください。

【参考資料】
「ホウ酸またはホウ砂を含有する一般用医薬品の取扱いについて」(昭和60年7月30日付薬発第772号)
(社)福岡県薬剤師会薬事情報センターホームページ
http://www.jp-info.com/fukuyakuqa/qa01/qa01_15.htm


事例670:(ラベルの入れ忘れ)

発生部署 (薬剤部門)
キーワード (調剤)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 病棟のTPNの調製包装内にラベルを入れるのを忘れた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 他の病棟は全てTPNバックに直接ラベルを貼付して払い出すが、当該病棟のみ貼付せずTPNを包装する際に包装内にラベルを入れる運用となっており、運用が統一されていない。調製時、調製後のラベル確認の手順が徹底されていない。

■実施したもしくは考えられる改善策
 病棟と運用の際確認を今後行う。確認操作の手順を再教育する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
TPNバックの調製から払い出しのプロセスにおいて、どの段階でどのような作業中に発生したヒヤリ・ハットなのか、どの場面で誰が気づいたのかなど、もう少し詳しく記述してください。
 発生部所における現在の運用システムを簡単に示し、どのステップで発生したかを記載すると問題点がより明確になります。

■改善策に関するコメント
病棟間における薬剤の運用方法の統一
 薬剤などの「モノ」とラベルなどの「情報」は常に一体にしておくことが原則です。これを切り離してしまうと、取り違えなどのエラーを誘発します。その意味において、TPNバッグに直接ラベルを貼らず、包装内に入れるという手順に問題があります。しかも、このような手順は当該病棟のみで、他の病棟と運用方法が違うということであり、薬剤部門内での手順の標準化がなされず、なおさら問題です。
 ただし、TPN溶液は遮光する場合もあり、「モノ」と「ラベル」が別々になる可能性が高いので、そういった場合には、遮光を必要とする調製済みTPNについての取扱い手順について病棟単位、あるいは、院内全体の講習会・研修会を開催し周知徹底を図ることも必要です。エラーを誘発する手順・システムが判明している場合には、(1)問題の手順・システムをなくす、(2)手順・システムを見直してリスクを小さくする、(3)(手順・システムを変えることができない場合)エラーを容易に発見できるような工夫など他のリスク低減策を導入する、という対策が考えられますが、今回のケースでは(1)ラベルを包装内に入れるという手順そのものをなくし、他病棟と同様にTPNバッグに直接ラベルを貼る方法に変更することが可能と思われます。そして薬剤部門内でのTPNバッグ調製手順を標準化すること、調整後ラベルの貼り間違いがないかどうかをチェックする仕組みを機能させることで、ヒヤリ・ハットの発生を防止できると思われます。


事例702:(点滴滴下速度のミス)

発生部署 (放射線部門)
キーワード (移送・移動・体位変換、与薬(点滴)、チューブ)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 エコー検査終了し車イスに移動介助中に点滴チューブが外れた。再接続して閉塞しないように全開で落としたら、患者が心悸亢進を訴えた。その点滴はカコージンであった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 看護師がその場を離れる時に放射線科の医師に点滴内容を伝えていない。医師は点滴の内容を確認せずに、滴下速度を上げた。

■実施したもしくは考えられる改善策
 循環動態に影響のある薬を点滴使用している患者の検査には看護師が付き添う。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 ヒヤリ・ハットの具体的内容は、5W1Hを基本にし、具体的に記入しましょう。患者の病名、点滴の滴下速度、点滴チューブのどの部分が何故外れたのか、放射線科への申し送り事項はどのようにされていたか等の追加情報が必要です。
 また、ヒヤリ・ハットが発生した要因では、下記の点について検討する必要があるでしょう。
(1) 何故点滴チューブが外れたのか、どの部分から外れたのか、ラインの種類、固定方法・手技等をアセスメントする
(2) 放射線科で患者が検査を受ける際の申し送りに関する事項について基準があったか
(3) 放射線科の医師は、何故点滴の内容を確認せずに全開で滴下したのか

■改善策に関するコメント
循環動態に影響のある薬を点滴使用している患者の検査には、看護師が付き添うことも必要ですが、複数の部門で患者が検査や治療を受ける場合の情報伝達について、伝達内容や方法等の基準を決めておく必要があるでしょう。厳密に点滴の滴下速度を管理しなくてはならない場合など、注意事項を確実に伝達できる仕組み(例:口頭だけでなく申し送り書を使用することや点滴ボトルへの記入等)を検討しましょう。
 また、点滴ラインの種類や点滴の接続部等の固定方法についても改善の必要がないか検討しましょう。接続部が外れにくくなるような工夫も、メーカー側と協力して検討していく必要があります。
 医療用具を有効・安全に使用するためには、使用上の注意を熟知しておく必要があります。厚生労働省では、平成13年12月、添付文書を充実しより分かりやすい内容とすることで医療用具の適正な使用を推進するため、添付文書の記載要領を新たに規定しています。このことにより、各メーカーは、医療用具の構造や使用方法をより具体的に示した新添付文書を作成していますので、重要な基本注意等、再度学習しましょう。


事例772:(抗がん剤のミキシング)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (調剤)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 抗癌剤の点滴を混注しているとき、手袋、マスクをしないで薬液が腕にかかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 薬液が終わりそうであせっていた。

■実施したもしくは考えられる改善策
 抗癌剤使用のマニュアルを徹底する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 抗がん剤がいつから開始になったのか、どこで、いつ、誰が(職種)、行ったのかが記述されているとよいでしょう。自らの目的をふまえて事例の経験を多くの医療人と共有するというヒヤリ・ハットリポートを記載するとよいでしょう。

■改善策に関するコメント
薬剤部門等でのミキシング
 医療関係者の抗がん剤への汚染は、点滴注射の準備、患者への投与、使用部品の処理、患者体液の取り扱いといった作業中に起こり得ます。空気中に放たれた抗がん剤の吸入、人体に付着したことによる皮膚からの吸収、不十分な手洗いや抗がん剤取り扱い場所での飲食による消化管からの吸収が考えられ、皮膚の損傷や結膜潰瘍、めまい、嘔気、頭痛等を生じるなど、抗がん剤の種類によっては重篤な障害を引き起こし難治性の潰瘍をきたすものもあります。
 この事例は、病棟入院中の患者の点滴追加交換時と推測されますが、抗がん剤は環境汚染の危険性がある薬剤であり、また投与量の間違いが起こりやすく患者の生命に重篤な影響を及ぼす薬剤ですから作業環境の整備された薬剤部門等でのミキシングが望ましいでしょう。

抗がん剤調剤に関する教育の徹底
 改善策から「抗がん剤使用のマニュアル」の存在が予測されますが、同時に抗がん剤の危険性について十分な知識を持つことがマニュアルの遵守の根拠となり有効でしょう。マニュアルにしたがって調剤が実施されているかどうか確認していくことも重要です。
 また、マニュアルの遵守・徹底だけに頼るばかりでなく、例えば、実技を取り込んだワークショップの開催など実践的な方法も有効でしょう。

【参考資料】
抗癌剤−取り扱いの危険性と安全対策,佐藤重美,看護,44(10),158-167,1992


事例804:(アミノフリードの上室・下室の混合忘れ)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 アミノフリードを上部・下部溶解しなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 薬剤の知識不足。確認不足。多忙だった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 防止マニュアルの徹底。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 発生場所などの記載が無く、状況が不明です。どこで、いつ、誰が、何を、どうしたかを順序立てて記載しましょう。
 また、上室、下室を開通していないとどのようにして気づいたか、実施したのかしなかったのか、薬剤の知識不足とあるが上室、下室を開通させる事の知識なのか、末梢から高カロリーの輸液が行われることの危険性に対する知識なのかを記入するとわかりやすくなります。

■改善策に関するコメント
 作業手順の省力化、細菌の進入を防ぐため上部、下部に分かれた一体化したプラバックが製造されたのですが、一部でこのようなヒヤリ・ハットが目立つようになりました。一見単純ミスのように考えられがちですが、上部がアミノ酸、下部が糖・電解質で、開通しない場合は11%の高カロリーの糖輸液が行われたことになります。末梢血管からの輸液は11%から12%が限度と言われていますので危険な状況になり得ます。上室と下室を開通させる知識だけではなく、開通しないことの危険性を教育する事も大切です。
 作業手順のなかでこれらのエラーを防ぐには、準備したとき開通するか、実施時に開通するか取り決めるとよいと思います。また、点滴を施行する前に現物をダブルチェックするルールを作ると確実に防止できます。
 本件のような事故が発生した場合、医薬品副作用情報として厚生労働省医薬局安全対策課へ報告するようにしましょう。また、(社)日本病院薬剤師会でも医薬品包装容器に関するクレームを受け付けていますので活用しましょう。

【参考資料】
「高カロリー輸液など静脈点滴注射剤の衛生管理に関する指針」,武澤純,1999
http://idsc.nih.go.jp/ddrug/drg1999.pdf


事例855:(手術前後のガーゼ数不一致)

発生部署 (手術部門)
キーワード (機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 術中使用していたデビガーゼが術後、1枚カウントが合わなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 デビガーゼの使用量が多く、カウントと使用部位が曖昧になったしまった。器械不良にて器械交換時、目を離してしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 確認の徹底。医師と看護師間の連携の強化。器械交換時の対策検討。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 ガーゼカウントが合わなかったという事実のみが記載されていますが、手術の内容(手術名、手術の状況、手術に関与している人員、看護職者であれば経験年数・配属年数)等記入してあると状況がわかりやすくなります。実際にガーゼはどの位置でどのような手順でカウントしていたのか、また、ガーゼカウントに関して、直接介助者、間接介助者のいずれの場合もマニュアルではどのような取り決めがあるのか記入してあるとよいでしょう。さらに、手術器械が不良で手術中交換したとありますが、これも手術器械の取り扱いに関して、どのような取り決めがあるのか記入してあるとよいでしょう。

■改善策に関するコメント
手術介助手順の見直し
 ガーゼカウントは、原則として手術前・手術中・手術後(閉創前)に行うことが必要です。
 手術中のガーゼカウントの方法として、直接介助者にも使用したガーゼの数が一見して解り、未使用のガーゼと照らし合わせることができるように板書して明示するなどの方法を見直すことも必要です。
 また、手術終了時のガーゼ数が不一致の場合は、X線透視による確認は有効です。

医療従事者の連携
 手術が安全に行われるためには麻酔医・術者・看護師(直接介助者、間接介助者)が互いに信頼し合い、各々が個々の役割を果たすことが求められます。患者の安全を第一に考え、不明な事、疑問に思うことはお互い声に出して確認しあうことが大切です。

器械のメンテナンス
 器械の不良は、手術進行を妨げるものであり、器械点検のマニュアルの見直しあるいは作成が必要です。

※デビガーゼについて
 調べたところ"デビガーゼ"という名称のガーゼはありませんでした。施設で用いている通称名もしくは入力ミスによるものと思われます。
 参考までに、各メーカーから販売されているX線造影糸入ガーゼの一覧を以下に示します。

X線造影糸入ガーゼのメーカー別名称
川本産業    デグーゼX
大衛    X−RAYガーゼ
大崎衛材    OPガーゼX
朝日衛材    プラスガーゼX
カクイ    サージカルXガーゼ
大和工場    ラキュリーX
白十字    大学ガーゼ
ハクゾウ    オペガーゼ
タケトラ    トラアバーゼX
スズラン    オペックス


事例872:(接続不良及び警報対応不足による呼吸苦)

発生部署 (入院部門一般、集中治療室)
キーワード (人工呼吸器)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 呼吸器が正常に作動していなく、患者が呼吸苦を訴えた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 呼吸器とウォータートラップの接続が不適切だった。アラームの原因追求が不充分だった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 呼吸器管理の学習。他看護師との連携強化。確認の徹底。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 本来、誰が、いつ、どこで、何を、どのようにすべきところを、実際にはどうだったため、どうなったのかについて詳しく記入するとよいでしょう。「正常に動作していなく」「不適切だった」「不充分だった」とありますが、抽象的な表現ではなく詳細を具体的に記入することが必要です。
 呼吸器がどの様に正常動作していなかったのか、アラームが鳴ったのかどうか、どうやって発見することができたのか、発見時における呼吸器の状態を具体的に記入されているとよいでしょう。
 要因に呼吸器とウォータートラップの接続が不適切、アラームの原因追及が不十分だったとありますが、ウォータートラップ操作からアラームの有無、呼吸苦の訴えまでの時間経過を記載されているとリークの程度が判別できよいでしょう。また警報の種類と警報後の対応について記載されているとよいでしょう。

■改善策に関するコメント
人工呼吸器各部の構造や仕組みの研修会の実施
 人工呼吸器各部の構造や仕組みに対する研修会を行うのも有効です。装置の取り扱い研修は行われていることがありますが回路等の組み合わせ部品の構造や仕組みについての研修会は以外と少ないものです。構造や仕組みを理解することにより発生しやすいトラブルも予見しやすくなりトラブルへの対応も行いやすくなります。
 厚生労働省の医薬発第248号では、モニター等の併用、適切な設定・操作、保守点検の適切な実施に関する事項をわかりやすくまとめています。また、人工呼吸器点検のためのチェックリスト(日本医用機器工業会作成)も添付されていますので、参考にしてみてください。

機器操作マニュアル、トラブルシューティングの常備
 機器操作マニュアルおよびトラブルシューティングを人工呼吸器本体そばまたはいつでも開けるところに常備することも必要です。

警報時の対応
 警報時には、警報内容を確認し適切な対応をとることが必要です。対応が出来ない場合には患者の安全を確保した上で人工呼吸療法に熟知した者の支援を求めることが必要です。警報は、人工呼吸器の設定条件、患者の病態変化等により同一警報であってもその意味が異なることがあり、医療従事者間で事前に対応方法を定めておくことも必要です。

モニタの併用
 人工呼吸器使用時は、意識が無かったりセデーション等により意識が低下しており訴えが出来ないことがあります。このため動脈血の酸素飽和度や呼気中の炭酸ガス濃度をモニタするパルスオキシメータやカプノメータを併用し呼吸器のトラブルなどによる換気不良を早期発見する事が重要です。

人工呼吸器の統一
 人工呼吸器は、機種が異なると操作方法や呼吸回路が異なるものです。医療機関内において機種を統一し操作性を統一することも接続間違いや操作間違いを少なくするのに有効な方法です。一機種にすることが難しい場合には、高機能機と汎用機の2種にすることで機種の統一を行いやすくすることができます。

【参考資料】
「生命維持装置である人工呼吸器に関する医療事故防止対策について」(平成13年3月27日医薬発第248号)
「医療スタッフのための人工呼吸療法における安全対策マニュアル」Ver.1.05,日本臨床工学技士会,2001年11月
http://www.iijnet.or.jp/JACET/
「人工呼吸器による事故を防ぐ」医療・看護安全管理情報No.4,日本看護協会,2002年2月


事例917:(前投薬3種類のうち、1種類の実施忘れ)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 プレメデ前の投与薬3種類の内、硫酸アトロピンを投与しなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 マニュアル通りに実施しなかった。伝票の確認不足。麻酔科の伝票が手書きでわかりにくかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 マニュアルの徹底。伝票指示システムの改善。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 まず「プレメデ前の投与薬」とありますが、「プレメデ」自体が前投薬ですので「術前の投与薬」あるいはそのまま「前投薬」と表現するべきでしょう。
 注射の投与忘れに関しては、実施者である看護師のエラー要因を探るだけでなく、注射に関わった人(指示を受けた者、準備をした者、朝の処置確認をした相手など)からの情報も大切です。そして誰が、いつ、どのようにして発見できたという情報も必要です。これらの記載も忘れずに行うようにしましょう。
 伝票がわかりにくかったとありますが、それは今回に限ってなのか、以前から指摘されていたことなのかも記載があると分析しやすくなります。

■改善策に関するコメント
 注射の投与忘れ、それも3種類のうち1種類の実施忘れです。レポートにはマニュアル通りに実施しなかったとか、伝票の確認不足と記載されていますが、なぜマニュアル通りに実施できなかったのか、なぜ伝票を十分に確認できなかったのかがわからなければ再び同じようなことが起こってしまいます。実施をする看護師が疲れていたのか、焦っていたのか、めがねを外していたのか、重複した業務を行っていたのかなど、マニュアルを徹底できなかった要因を探ることが必要です。臨床の現場ではマニュアルは常に徹底できない状況にあるということを、臨床におけるリスクと捉えておくことが必要です。
 また伝票が手書きでわかりにくかったとあります。前投薬は少なくとも術前日には指示がでていたはずです。なぜ気づいた時点で「わかりにくいから、書き直してください」と言えなかったのでしょう。手書きの伝票で不明な点がある場合は、変だと思った時点で確認することが大切です。たとえ伝票のシステムを改善したとしても、このように必要なことを言えない関係が現場にあると、それ以外の事故が起こる危険性が潜んでいることになります。

【参考資料】
「組織で取り組む医療事故防止 看護管理者のためのリスクマネジメントガイドライン」,日本看護協会,1999
http://www.nurse.or.jp/jna/riskmanagement/


事例952:(電動ベッドの取扱い)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 9月〇日の午前3時、前日の入院患者S氏がベッド柵の間(折りたたみサイドレール縦桟の空間)に頭を突っ込んだ状態で入眠されているのを、巡視中の看護師が発見した。S氏は軽度の痴呆症状があるが昨夜は22時頃から静かに休まれており、2時の巡視時には異常はなかった。ベッドは電動ベッドで手元スイッチは床頭台の上においてあった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
(1) 折りたたみサイドレール縦桟の空間は24cmあり、人間の頭部(幅17cm前後)が入る設計であること。
(2) 痴呆症状のある患者に対し、電動ベッドの電源プラグを入れたまま使用していること。
(3) 電動ベッド使用上のリスク対策についての基準が明確でなく、看護師個々の判断に任せていること。

■実施したもしくは考えられる改善策
(1) 電動ベッド使用上の事故防止対策を明文化し、院内規則として周知徹底を図る。
(2) 事故防止対策の中には、電源プラグを抜く、内側に防護マットを設置するなど、患者状況に合わせた具体策を盛り込む。
(3) メーカーにフール・プルーフの設計について検討を依頼する。(例えばサイドレール縦桟の空間に人間の頭が入らないように、現在3本のポールを4本にし、空間を12〜13cmにするような設計)
(4) メーカーにフェ−ル・セーフの設計について検討を依頼する。(例えば車のパワーウィンドウのように、電動ベッドの手元スイッチがONになっても、異物をセンサーでキャッチしたら操作が止まるしくみにする、など)


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 5W1Hできちんとかかれており、非常によく書けた報告書だと思います。職場のシステムについて明記されているとさらによいでしょう。改善策についても簡潔に書かれており有効だと考えます。

■改善策に関するコメント
安全管理情報の窓口設置
 メーカーではホームページ等で安全情報(例えば、パラマウントベッド株式会社製品安全情報(http://www.paramount.co.jp/notice/motor.html))を提供しているところもあります。製品によっては、安全性を向上するためにベッド柵の隙間を埋めるスペーサーや安全に使用するための個人学習できる教材を無償で提供してくれるところもあります。自分の病院がどのような医療用具を使用しているか調査し、それぞれの安全性について再検討してみましょう。
 また、メーカーからの情報を入手するための窓口を決めておく事をおすすめします。さらに、入手した情報について、適切に管理し、使用者等が周知できるシステムも必要でしょう。

諸物品等の中央管理部門における一括管理
 医療用具等も中央管理部門における一括管理が進められていますが、ベット等の諸物品も医療機関全体で管理水準を一定に保つために、一括管理を行うことは有効でしょう。

物品の採用
 諸物品の採用に当たっては医師、看護師等の使用者や保守管理の担当者を含む組織全体で、医療安全の観点から採用を検討することが必要です。

危険を認識する能力を身に付ける職場風土
 今回の事例のように痴呆老人や幼児など安全に操作することができない患者が、手元スイッチに触れる可能性がある場合には電源プラグを抜くなどの適切な措置を取る事が必要です。患者の心身の状態をアセスメントし、生じ得る様々な危険を認識する能力を身に付けましょう。物品等については操作取り扱いについて十分熟知してから操作するよう必要な研修を行いましょう。またすぐに確認できるよう操作手順書を常備しておくことも有効です。

米国における取り組み
 米国においても、ベッド柵にはさまれる事故はその危険性が高いことから注目されています。連邦医薬品管理局(FDA)が安全警告を出しており、特に危険性の高い患者として、錯乱状態、情動不安、筋力が弱っている患者が挙げられ、また高齢者に多いことが指摘されています。
 さらに、ベッド柵に関連したガイドラインとして、以下の2つが策定されています。
病院、長期介護施設及び在宅介護施設におけるベッドレールの評価・実行のための臨床ガイダンス
ベッドシステムのデザインガイドライン(策定作業中)
【参考資料】
「病院、長期介護施設及び在宅介護施設におけるベッドレールの評価・実行のための臨床ガイダンス」ベッドシステムのデザインガイドライン"Clinical Guidance For the Assessment and Implementation of Bed Rails in Hospitals, Long Care Facilities and Home Care Settings",病院用ベッド安全作業部会,2000年2月
「ベットを安全に使用するための手引き」"Bed Safety Equipment" (Medical Devices Agency, Dept. of Health, U.K.)
http://www.medical-devices.gov.uk/mda/mdawebsitev2.nsf/SimpleSearch?CreateDocument


前ページ  次ページ

ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 重要事例情報の分析について > 事例コメント

ページの先頭へ戻る