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重要事例情報の分析について

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第4回重要事例情報の分析について

1 重要事例情報の収集の概要

1) 収集期間
平成14年 3月26日より平成14年 5月28日まで

2) 施設数
参加登録施設 265施設
報告施設数 88施設

3) 収集件数
区分 件数
総収集件数 1,077件
空白、重複件数 126件
有効件数 951件

2 分析の概要

1)分析の方法

 医療事故を防止する観点から、報告する医療機関が広く公表することが重要と考える事例について、発生要因や改善方策などを記述情報として収集した。収集されたヒヤリ・ハット事例より、分析の対象に該当するものを選定し、より分かりやすい表記に修文した上でタイトルやキーワードを付した。
 さらに、専門家からのコメントとして、事例内容の記入のしかたや記入の際に留意すべき点などを「記入方法に関するコメント」として、また報告事例に対する有効な改善策の例や現場での取り組み事例、参考情報などを「改善策に関するコメント」として述べた。

2)分析対象事例の選定の考え方

 収集された事例から、分析し公開することが有用な事例を選定した。選定の考え方は以下の基準によった。
 (1) ヒヤリ・ハット事例の具体的内容や発生した要因、改善策がすべて記載されており、事例の理解に必要な情報が含まれていること。
 (2) 次のいずれかに該当する事例であること。
発生頻度は低いが、致死的な事故につながる事例
他施設でも活用できる有効な改善策が提示されている事例
専門家からのコメントとして有効な改善策が提示できる事例
専門家からのコメントとして参考になる情報が提示できる事例
 (3) なお、個人が特定しうるような事例は除く。

 なお、報告された事例にはモノ(薬剤、機器等)に関する事例も含まれていた。これらは、ヒトがモノを取り扱う際のヒューマンエラーを防止するという観点から、当検討班においても有効な知見やコメントが得られると判断して事例を検討することとした。

3)事例のタイトル及びキーワードの設定

 第1回報告と同様に、各事例にタイトル及びキーワードを付した。キーワードは以下のリストから選択した。

■発生場所

大項目 分類項目
外来部門 (1) 外来部門一般
入院部門 (2) 入院部門一般
(3) 救急部門
(4) 集中治療室
(5) 手術部門
(6) 放射線部門
(7) 臨床検査部門
(8) 薬剤部門
(9) 輸血部門
(10) 栄養部門
(11) 内視鏡部門
(12) 透析部門
事務部門 (13) 事務部門一般
その他 (14) その他

■手技・処置など

大項目 分類項目
日常生活の援助 (1) 食事と栄養
(2) 排泄
(3) 清潔
(4) 移送・移動・体位変換
(5) 転倒・転落
(6) 感染防止
(7) 環境調整
医学的処置・管理 (8) 検査・採血
(9) 処方
(10) 調剤
(11) 与薬(内服・外用)
(12) 与薬(注射・点滴)
(13) 麻薬
(14) 輸血
(15) 処置
(16) 吸入・吸引
(17) 機器一般
(18) 人工呼吸器
(19) 酸素吸入
(20) 内視鏡
(21) チューブ・カテーテル類
(22) 救急処置
(23) リハビリテーション
情報と組織 (24) 情報・記録
(25) 組織
その他 (26) その他

4 分析結果及び考察

1)収集された重要事例情報の概要

 (1)全体の概要

 報告件数は前回からさらに増加し、3ヶ月間の報告期間で収集された件数は1,077件で、うち951件が有効な報告であった。
 改善策として有効な対策が検討されている事例が前回以上に多く見られた。
 報告数が比較的多かった事例として、手技・処置区分別に見ると以下のような事例が挙げられる。与薬、チューブ・カテーテル類、転倒・転落に関する事例が依然として多く、全事例の約6割を占めている。また、これらの事例のいずれにも、手書きの指示の誤読、伝達不十分、記載の誤りといった「医療従事者間の連絡・伝達ミス」に起因する事例が依然として多く見られている。

与薬(点滴・注射)に関する事例 180件(18.9%)
チューブ・カテーテル類に関する事例 139件(14.6%)
与薬(内服・外用)に関する事例 132件(13.9%)
転倒・転落に関する事例 131件(13.8%)
調剤に関する事例 40件( 4.2%)

 ヒヤリ・ハット事例発生要因については、「思い込み」「忙しかった」「確認不足」と指摘する事例が依然として多く見受けられた。この改善策として「マニュアルの遵守・徹底」をあげる事例が多く、事故防止マニュアル等の整備が進んでいることを示唆する一方で、状況によっては運用が徹底されていないことを示す結果となっている。
 マニュアルについては、遵守なのか、改訂なのか、見直し自体が必要なのかといった視点を持つことが必要である。その一方で、マニュアル通りのチェックにより未然に発見という事例報告もあった。このようにマニュアルがうまく機能した事例については、詳細を明らかにして参考とすべきである。
 しかし、マニュアルの改訂がそのまま実施されることを前提とし、マニュアルの改訂を改善策とする事例が少なくない。効果的かつ効率的に実施される改善策をまず工夫する発想が重要である。

 (2)与薬に関する事例

 与薬に関する事例としては、薬の種類・量や患者の間違い、三方活栓や輸液ポンプなどの操作の間違い、患者の自己管理下での服用忘れなどが依然報告されている。
 薬の種類・量や患者の間違いについては、口頭指示、伝票の未確認によって発生する事例が多く報告された。記憶に頼らない手順(口頭指示や薬の中止の際のルール)を作るとともに、組織体制も検討することが引き続き重要である。
 薬剤の未投与や誤投与に関する要因として、看護師間の与薬業務の代行や中止薬の未回収を挙げる事例が多い。しかしこの改善策としてシステマティックな具体策は示されていない。個々での改善策だけではなく、院内の医療安全対策委員会等へ報告し、病院の体制に応じた組織的な改善策を検討する必要がある。

 (3)チューブ・カテーテル類、転倒・転落に関する事例

 チューブ・カテーテル類に関する事例は、自己抜去やルートの閉塞によるものが見られた。患者の状態の観察と周囲の環境整備や固定方法についてアセスメントすることが重要である。
 転倒・転落のトラブルについては、患者本人の自発的行動によるものが多い。また、「家族がいたので安心していた」という事例もいくつかあり本人のみならず患者家族への説明を十分に行っていくことが重要である。

 (4)医療従事者間の連絡・伝達ミスに関する事例

 医療従事者間の連絡・伝達ミスに関する事例としては、口頭指示による間違いや伝達が不十分で受け手の解釈が異なっているなどの事例が見られた。やむを得ず口頭指示を受ける際のルール作りを検討する必要がある。
 手書き指示の間違いや口頭指示による不徹底や誤解釈、見落としによる事例は依然として多く見受けられる。受けて側のミスとしているものが多いが、これは指示出し・指示受け双方の問題であり、指示系統を明確化するなど指示のあり方そのものを踏まえた改善策を検討する必要がある。

 (5)その他の報告事例

 新人看護職やローテーション間もない研修医によるヒヤリ・ハット事例が挙げられている。新人看護職の知識不足や分かっているだろうという思いこみによる確認不足、支援不足があり、新人看護職の技術面・知識面からの評価や教育体制を検討することが必要である。
 情報・記録に起因するヒヤリ・ハットの中で、パソコンへの入力自体が間違っている報告が見受けられるようになってきている。例えば、おかしいと思っても、入力されたものを信じて(過信)しまう傾向がある。パソコンを使用した情報管理法について、入力内容のチェック機能やその警告システムの導入、確認方法などを示す必要がある。
 検査前薬剤投与の未実施や、検体紛失(蓄尿破棄)、食止め未実施、指示の見落としによる検査の未実施が報告されている。検査に関しては非日常的なものも多いので、マニュアルを整備し、実施時のチェック等の対応をする必要がある。
 患者が外国人のため、内服薬の説明が十分理解されないという事例があった。英語以外を母国語とする外国人の増加も考えられ、コミュニケーションに関する新たな医療安全対策の局面を迎えている。
 今回テーマに定めた人工心肺に関する事例も報告された。ハイリスクな領域等については、今後、テーマを定めて報告を求めることも有効な方法である。

 (6)まとめ

 前回報告後に収集されたヒヤリ・ハット事例の分析を行った。報告件数は前回からさらに増加した。
 報告数が比較的多い事例は前回とほとんど変わっていないが、有効な改善策が検討されている事例が、前回以上に多く見られた。医療安全対策ネットワーク整備事業を通じて、ヒヤリ・ハット事例の分析および改善策の質がさらに向上しつつあることがうかがわれる。
 さらに、収集事例を専門的な立場から分析し、前回以上に有効な改善策の提案や参考事例の紹介を行うことができた。
 医療従事者全体でヒヤリ・ハットを防止するという姿勢を持ち、医療の主体者である患者に十分な説明を行い、ともに事故防止に取り組む姿勢は、より安全で安心な医療機関づくりに資するものである。

2)今後の課題

 前回と同様に、収集事例の中には次のとおり記載の改善が必要なものが見られた。
  • 事例の具体的な内容についての記述が不足している、あるいはあいまいで、事例の状況が分からないもの。
  • 要因を「確認不足」「大丈夫だと思った」「思い込み」としており、なぜそうせざるを得なかったのかという背景要因の分析がなされていないもの。
  • 改善策についての記述が不足している、あるいは改善策の具体的内容が分からないもの。
  • 組織的な背景や要因を分析しておらず、改善策が「確認の徹底」など個人の努力や責任に帰するような表面的なものになっているもの。

 今回の分析にあたっては、記入の際の参考となるよう各事例に「記入方法に関するコメント」を付している。「記載用紙」のフォーマットについては、今後、記入者がより報告しやすい形に変更していく必要がある。


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