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平成12年度「障害者・児施設のサービス共通評価基準」による
各施設の自己評価実施状況について

はじめに

 平成12年度の障害関係施設(身体障害者・児施設、知的障害者・児施設、精神障害者社会復帰施設等)における、「障害者・児施設のサービス共通評価基準」を用いた自己評価については、昨年6月に各都道府県・政令指定都市・中核市を通じて各障害関係施設での実施をお願いしていたところである。そして、各都道府県、政令指定都市、中核市から、自己評価の実施状況について報告をいただいたので、その概要を報告する。

I 概況

 自己評価の実施状況について報告のあった自治体の総数は、都道府県:43、政令指定都市:12、中核市:27であり、その自治体から報告をいただいた管下障害関係施設は、4,776施設である。その内、自己評価を実施した施設数は3,667施設であり、自己評価実施施設の割合は、76.8%となる。また、自己評価に関する各施設の意見や感想が付してあった自治体は、都道府県:41、政令指定都市:11、中核市:27、計79自治体であった。
 自治体から寄せられた、各施設の意見や感想については、別紙1 「平成12年度障害者・児施設のサービス共通評価実施に係る各自治体からの意見」のとおり要約してまとめている。

II 自治体からの意見・感想に対する考察

 「別紙1 平成12年度障害者・児施設のサービス共通評価実施に係る各自治体からの意見」にて、集約した自治体からの意見や感想を6つの項目にまとめている。
 この別紙の見方は、先ず、意見のあった自治体の数をそれぞれ都道府県、政令市、中核市として示し、次にその合計を示している。「内容 特徴的な意見・感想(抜粋)」については、先ずそれぞれ分類した意見や感想の内容を示し、その下に、それぞれの分類に該当する意見・感想の内、代表的なものを例示的に記している。ただし、「2 各項目に関する意見等」の一部と「6第三者評価に関する意見」について、報告のあった全ての意見を示している。以下に、別紙に沿って考察を述べる。

1 評価を実施しての全体的な意見・感想

(1)前向きに受け止めた意見と批判的な意見
 「施設の現状を再認識でき、改善点や課題が把握できた。」、「これからの施設サービスの在り方について理解できた。」、「職員の共通理解に繋がった。」、「今後の課題が明確になった。」 とする意見が寄せられており、概ね自己評価についてはその意図である、職員の共通理解、課題の明確化が図られたといえる。
 しかし一方で、「施設独自の取り組みや個性が評価に表れにくい。」「基本的にシステムを評価することは福祉施設になじまない。」という意見や「評価基準がわかりにくい。」という意見に代表されるような、批判的な意見も寄せられている。これらの批判ははじめてこのような評価基準を示したことに対する反応と理解することができ、定着を図るための方策が必要と考えられる。

(2)ABCのスケールについて
 評価結果の取り扱いを危惧すると思われる、「ABC評価の意味が分かりづらい」、「施設のランク付けに繋がることが不安。」、「この評価が一人歩きをすることを危惧する」といった意見が寄せられている。
 ABCのスケールは、「結果整理表」の注1で示している通り、サービスの良し悪しを判断するものではなく、あくまでも着眼点にいくつチェックがついたかということを把握するためのみのものである。また、共通評価基準の性格や目的については評価の解説において、良し悪しを判断することが目的ではないことを明らかにしている。
 ただし、自己評価の目的が、施設の課題の明確化とするのであれば、ABCのスケールは必要ないのではという意見もあり、この点について検討する必要があるともいえる。

2 評価基準各項目に関する意見等

(1) 具体的な評価基準各項目に対する意見
 各項目について具体的に意見のあったものについては、「別紙2具体的な評価基準項目に対する意見に関する解説」のとおり整理し、解説を付けているので参照されたい。

(2) 曖昧な語句に対する対応
 語句の表現が曖昧であると具体的に指摘のあった箇所については、「別紙3 着眼点において語句が曖昧であると指摘のあった箇所に関する解説」のとおり整理し、解説を付けているので参照されたい。

3 評価内容についてI

(1)重度障害者の意思表示・自己決定について
 重度障害者の意思表示・自己決定に関する多くの意見が寄せられているが、これらのほとんどが、重度障害者の意思表示・自己決定が難しい、あるいはできないというものであった。
 しかし逆に、重度障害者の意思表示・自己決定という課題が、現実的に難しい状況にあることが理解できるが、「様々な活動、生活の中での働きかけなどにより、時々可能な面が見られる。」といった意見もあり、始めから、重度障害者は意思表示や自己決定ができないとしてサービスを行う施設と、どんな重度障害者でも、先ずはその理解に努めようとする施設との違いが評価基準に対する意見の差としてできてきている。

(2) プライバシー保護、QOLの向上のためのハード面の改修の必要性に対する意見
 プライバシー保護、QOLの向上という観点からは確かにハード面の改善を伴うことがあるといえる。施設の財政的な支出を伴うハード面の改修が難しいことは理解できるが、共通評価基準は各施設における取り組むべき課題を明確にすることが一つの狙いであり、ハード面の改修ができないことをもって、プライバシー保護に欠ける、またはQOLを考慮していない施設であると判断するものではない。

(3) 最低基準等の改善を求める意見
 サービスの質の向上を図るのであれば、最低基準等の改善が必要という意見が寄せられている。これについては当初、共通評価基準作成時の検討経過の中で、評価を実施して明らかに最低基準等の改正が必要であるというデータが集まれば、改正に向けた検討も必要であるという議論が行われていた。しかし、今回寄せられた意見では、サービスの質の向上のために何が、どの程度不足しているのかといった具体的な意見ではなかった。

4 評価内容についてII(マニュアル関連)

(1)マニュアル化・文書化に対する意見
 サービスの文書化・マニュアル化の必要性が今回の自己評価においてどのように受け止められたのかという点を見ると、「マニュアルや作業手順の必要性を痛感した」、「マニュアル作成を検討していく」という、マニュアル化・文書化を受入れる意見と、「マニュアル化が施設サービスの形骸化につながる」といったマニュアル化の弊害を懸念する意見、「個々の利用者に応じたサービスを提供するという観点からマニュアル化が難しい」等、批判的な意見に二分される。
 福祉サービスのような人的サービスの場合、サービスはその場、その場で終了してしまい、どのようなサービスであったかは把握しづらい。結果として利用者がそのサービスに満足したかしないかといった、極めて主観的な判断に頼らざるをえない。しかし、全ての利用者のすべての要求に「満足」という主観的な結果を導き出せないとしても、それに近づく努力は必要である。そのために施設で行われるサービスを記録し、文書に残し、それに基づいてサービスを検証することは重要である。
 以上のことから共通評価基準は、サービス体制を問う評価(システム評価)となっている。そして、サービス体制を確認することを「文書化」という点に求めている。これはISO9000シリーズの影響を強く受けているものであるが、「ニーズ把握→企画→実行→検証→分析」といった過程を循環するシステムが必要である。このような過程毎に文書化がなされていなければ、システムがあるとは言い難いものである。
 また、「すべてにマニュアルが必要なのか疑問である。」という意見が寄せられている。基本は提供される全てのサービスについてマニュアル化等の文書化が必要である。
 しかし、一度にすべてを文書化することにはかなりの労力が必要であり、現実的には困難が予想される。システム評価という性格を持つ共通評価基準は今回はじめて公開されたものであり、多くの施設で文書化が短時間にできるとは考えていない。施設で提供される様々なサービスには、その必要性によって優先順位があると考えられることから、必要があれば複数年に渡る計画を立て、順次文書化に向けた取り組みを実施することも一方策である。

(2)マニュアル化・文書化に向けた支援を求める意見
 国又は団体等でマニュアルなどの作成に対してモデルを示すなどの支援を求める意見が寄せられている。
 サービス提供にかかわるマニュアルや、サービス実施記録等については施設が自らの実践を基本に作成していくものであり、作成するプロセスの中で議論や検討が職員間で行われることが重要である。マニュアル等の文書はそれに基づいて行われた実践により、不都合が生じることがあれば直ちに見直されるべきであり、施設の実践と密接に関係するものである。国や自治体が施設のマニュアルの雛形を作成し、それに沿ってすべての障害関係施設が同じサービスを提供するということになれば、サービスの形骸化につながる恐れがある。施設運営の基礎部分については最低基準や運営基準で示しており、それに上乗せした形で施設の立地条件や利用者の状況等を考慮して施設独自のサービス提供を図ることが必要とされているのである。
 ただし、サービスに新しい発想を取り入れようとする時においては、他の施設の状況を知るために、施設間の情報交換が必要である。これに関しては、研修や情報交換の機会を提供するために各施設団体や行政機関がその役割を果たすことも考えられる。

5 今後の課題、意見・要望等

(1) 独自の評価基準を作成する。
 約1割の自治体から、自治体や個々の施設が独自の評価基準を作成する予定であるとしている。既にいくつかの自治体で独自の評価基準を作成しており、施設サービスが利用者のより身近な地域のニーズや特性を考慮して展開される必要があることからして、このような独自の取り組みは歓迎すべきことである。また一部の施設からも施設独自に評価基準を作成するという意見があったことは、施設自らがサービス向上に向けた取り組みを主体的に行っている証であり、これも歓迎すべきことと考える。

(2) 評価実施後の課題
 サービス評価を前向きに捉えている意見として、「評価実施以後、改善に向けた取り組みが形骸化しないよう施設として努力が必要。」、「今後の継続的評価が必要。」、「評価基準の定期的な見直しが必要。」、「評価を定着させるための研修会の開催等が必要。」といったものがあった。
 評価後の改善に向けた取り組みについては、評価実施によって明らかとなった課題を次の評価実施時に、その達成状況について確認できるようにすることが望まれる。その意味において、継続的に評価が必要という意見も当然のことといえる。
 また、評価の実施結果に基づき、評価基準の見直しも重要である。さらに、評価を定着させるための研修等も必要と考えている。

(3)障害種別、入所・通所・在宅型施設の別、地域性の違いなどを考慮した種別毎の評価
 種別毎の評価が欲しいという意見がかなり多く寄せられている。特に授産施設、障害児施設、さらに通所の施設からの意見が多い。
 施設種別毎の評価基準については、評価の解説で示しているとおり、国として示すつもりはないが、施設種別毎の団体が自ら作成することに対して何らかの支援ができないかという点については、検討する必要がある。

(4)具体的なサービスの方法等について指針やモデルを示してほしい。
 これについては、現場を預かる専門職の役割である。必要に応じて同種の施設との情報交換や研究者との共同研究等、実践を基礎として主体的に取り組むべきことと考える。

6 第三者評価に関する意見

 第三者評価については、本年3月に「福祉のサービスの質に関する検討会」から、「福祉サービスにおける第三者評価事業に関する報告書」が最終報告として社会・援護局長に提出されており、この報告をもとに、今後具体的な第三者評価体制が構築されると考えられる。
 障害関係施設の第三者評価も、この報告に沿って今後展開される予定であり、今後整備される予定の各評価機関において、この共通評価基準を直接的又は間接的に利用することが想定されている。

7 まとめ

(1)共通評価基準の見直しについて
 各自治体から寄せられた意見を検討した結果、表現や語句の抽象的な部分について、一部修正する必要があると判断している。
 また、各施設における自己評価によって、確認された取り組むべき実施後の課題として、その達成状況を次回の評価で把握できるような項目の追加も必要である。またABCスケールの取り扱いについても再度議論が必要と考える。

(2)今年度の自己評価
 国が共通評価基準を作成した理由のひとつに、今後の障害関係施設におけるサービスのあり方の基本的な理念を示すことがあった。その意味では今回の自己評価実施により施設や自治体にある程度理解されたと考えているが、今後も理解を深めていただく必要がある。また、自己評価の普及と障害関係施設のサービスシステムの構築にむけた取り組みを進めるため、平成13年度も昨年度と同様に、都道府県等を通じて自己評価の実施を依頼する予定である。なお、その際提示する共通評価基準は、平成12年度に示した共通評価基準に一部修正を加えた、平成13年度版の共通評価基準とする予定である。


平成12年度障害者・児施設サービス共通評価実施施設数

施設種別 (1)施設数 (2)実施数 実施率
肢体更生 31 24 77.4%
視覚更生 10 7 70.0%
聴覚言語更生 2 2 100.0%
内部更生 7 4 57.1%
重度更生 71 58 81.7%
身障療護 359 288 80.2%
身障授産 85 62 72.9%
重度授産 117 88 75.2%
身障通所授産 237 160 67.5%
知的更生(入所) 1240 1002 80.8%
知的更生(通所) 332 240 72.3%
知的授産(入所) 218 181 83.0%
知的授産(通所) 843 597 70.8%
通勤寮 115 95 82.6%
精神生活訓練施設 163 126 77.3%
精神入所授産 13 10 76.9%
精神通所授産 140 114 81.4%
盲児施設 11 10 90.9%
ろうあ児施設 14 12 85.7%
難聴幼児通園 25 20 80.0%
肢体不自由児施設 62 45 72.6%
肢体不自由児通園 95 70 73.7%
肢体不自由児療護 6 4 66.7%
重心児施設 93 68 73.1%
知的障害児施設 253 212 83.8%
自閉症児施設 6 3 50.0%
知的障害児通園 228 165 72.4%
  4776 3667 76.8%

※ 表中(1)及び(2)に示している数は、各自治体から報告のあった実数を掲載している。

(照会先)
社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課

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