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4 育児期間等に係る配慮措置

1 育児期間等に係る配慮措置に関する我が国の現行制度

(1) 現行制度上の措置

 現行制度では、育児に対する支援策として、育児・介護休業法に規定する育児休業制度を利用する者を対象として、

(1) 育児休業を取得した期間について、厚生年金保険料(被保険者本人負担分及び事業主負担分)を免除、

(2) 当該保険料免除期間について、育児休業直前の標準報酬に基づいて年金額を算定、

という配慮措置が講じられている。(資料V−4−1(諸外国における育児期間等に係る配慮措置と育児休業制度)を参照。)

(2) 育児休業制度等の利用状況

就業継続者の間では育児休業制度の利用は進んできている

 育児休業制度は、出産に際して就業を継続できた女性に関しては、利用が進んできている。「平成11年度女性雇用管理基本調査」(平成12年7月、労働省女性局)によると、平成10年度に出産した女性労働者のうち育児休業取得者は半数を超え、特に100人以上の規模の事業所では、7割以上の者が育児休業を取得している。(資料V−4−2:育児休業制度等の利用状況

出生数と比較したときの利用者数はわずかにとどまる

 育児休業の利用の拡大に伴って、厚生年金制度において保険料免除を受けた者(平成11年度末で48,930人)も増加してきているが、出生数(平成11年度で117万8千人)と比較すると、利用者は、結婚、育児等に伴う離職の多さ等も反映して、わずかにとどまっている。(資料V−4−2:育児休業制度等の利用状況

(3) 育児休業制度以外の支援措置
     (資料V−4−3:働きながら子育てする労働者に対する育児休業以外の支援措置

事業所における育児休業以外の育児支援措置の導入及びその利用状況

 事業所における勤務時間短縮等の措置の導入及びその利用状況については、資料V−4−2のとおりである。例えば、平成11年度「女性雇用管理基本調査」によれば、短時間勤務制度を導入している事業所(制度の導入率は29.9%)で働いている女性で出産した者のうち24.7%の者が短時間勤務制度を利用しており、このほか事業所内託児施設やフレックスタイム制度、短時間勤務制度といった支援措置、育児に要する経費の援助措置も利用されてきている。

平成13年の育児・介護休業法の改正

 育児・介護休業法では、事業主に対して、1歳未満の子を養育する労働者であって育児休業しない者を対象として、勤務時間の短縮等の措置を講じることを義務付けている。
 第153回臨時国会において成立した育児・介護休業法の改正法では、これに加えて、1歳以上3歳未満の子を養育する労働者を対象として、育児休業の制度に準ずる措置又は勤務時間の短縮等の措置を講じることを新たに事業主に対して義務付けている(平成14年4月1日から施行)。
 なお、これらの措置に対して、年金制度においては、育児休業期間についてとられているような配慮措置は講じられていない。


2 諸外国における育児期間等に係る配慮措置と育児休業制度
     (資料V−4−1:諸外国における育児期間等に係る配慮措置と育児休業制度

 諸外国の年金制度における育児・介護期間に係る配慮措置と育児休業制度の概要には、資料V−4−1のとおりであるが、諸外国に共通する特色として、以下の点が指摘できる。

(1) 年金制度上の配慮措置に係る期間

 諸外国の年金制度において、育児休業制度で認められている休業期間と、年金制度において何らかの措置がとられている期間の間には、直接的な関連は見られない。
 これに対して、我が国の制度では、育児休業の期間と年金制度上の配慮措置に係る期間は連動している。

(2) 保険料に係る取扱い

 所得がない場合に保険料を求めないという点、就労し一定の所得のある者からはそれに応じた保険料が徴収されるという点で、諸外国の年金制度と我が国の制度は共通している。(育児期間に係る配慮措置として保険料は免除されていない。)

(3) 年金給付に係る取扱い
     (資料V−4−4:諸外国の年金制度で採用されている育児期間の評価方法と我が国の年金制度

 諸外国の年金制度において採用されている育児期間の評価方法は、資料V−4−4にあるように、各国ごとに様々なものとなっている。制度体系の違いから、諸外国でとられている措置を直ちに我が国の制度に導入できるものではないが、諸外国で採用されている措置に相当するものを我が国の制度体系の中で講じようとした場合、以下のとおり整理できる。
 なお、これは制度体系上の整合性という観点からの整理にとどまり、措置の必要性、妥当性については、別に議論が必要である。

(1) 厚生年金の報酬比例部分について、

(@) 育児期間中の標準報酬額について、何らかの配慮を加えること、

(A) 報酬比例部分の年金算定上の加入年数について、何らかの配慮を加えること、

については、仕組み上は我が国の制度にとり入れ得る。

(2) 基礎年金について、何らかの措置を講じることは可能かどうか。基礎年金は、20歳以上60歳未満の40年間の強制加入で全国民共通の給付となっているため、給付上の措置を講じることはできず、講じるとすれば保険料負担面での措置となる。

(4) 介護期間の取扱い

 諸外国の年金制度上の配慮措置については、育児期間と介護期間の扱いには差が見られ、介護期間について、育児期間のように報酬比例年金算定上の賃金や加入年数について配慮を加える特別措置は講じられていない。
 なお、ドイツにおいては、一定の要件を満たす家族介護者については、年金制度の被保険者として年金給付を保障する措置が講じられているが、これは介護保険制度が年金保険料を負担することにより行われている措置である。


3 育児期間等に係る配慮措置を考える上での論点

(1) 育児期間に係る配慮措置を拡充しようとする場合の論点

 世代間扶養の仕組みを基本に成り立っている公的年金制度にとって、将来の年金制度を担う次世代の育成は重要な課題であり、現行制度においても、育児支援の観点から、育児休業期間について配慮措置を講じているところである。
 これをさらに拡充しようとする場合には、以下の点を今後詰めていくべきである。

(1) 配慮措置の対象者を拡大するか

 現在、年金制度上の育児期間に係る配慮措置は、育児休業取得者のみを対象としているが、厚生年金の被保険者として育児期間も働き続けている者、第1号被保険者、さらには育児を理由として離職して第3号被保険者となった者等、他の者も対象とすべきかどうか。

(2) 拡大する場合の配慮措置の具体的内容をどうするか

 育児を理由として休業、離職、短時間労働の選択を行うことにより、賃金が減少、あるいは厚生年金の加入期間が短くなることに配慮した措置として、報酬比例部分について、年金算定上の賃金の配慮や加入年数の加算措置が考えられるが、このような措置を講じるべきかどうか。その場合の対象者や措置内容はどう考えるか。その際、

○ 離職促進的に機能するのではないか、離職促進的に機能しないような工夫は考えられるか(例えば、再就職後の期間に係る配慮措置とした場合にはどのように機能するか、また就業行動をゆがめる可能性はないか等)、

○ 所得との関連のない定額の基礎年金給付のみである第1号被保険者との均衡をどう考えるか、

といった観点も踏まえつつ、検討を進める必要がある。

(3) 保険料における対応は適当か

 仮に第1号被保険者に対する配慮措置をとろうとする場合には、所得との関連のない基礎年金の給付で配慮を加えることはできないため、保険料負担等の面で配慮を行う(=保険料を免除する又は年金以外の何らかの給付を行う)かどうかということが問題となる。
 諸外国でとられている育児期間に係る配慮措置においては、所得のある者について保険料負担を免じているものはない。所得のある者には保険料を免じることを認めていない我が国の年金制度においても、支援措置として保険料免除を講じることは適当かどうか。
 保険料負担の面での配慮が困難であるとすれば、これに代わる配慮措置を講じ得るかどうか。

(2) 育児期間に係る配慮措置と第3号被保険者制度の見直しを関連させる考え方

 以上の育児期間に係る配慮措置については、現行の第3号被保険者制度を含む基礎年金制度を前提として議論してきたが、第3号被保険者制度の見直しと関連させる考え方がある(第3号被保険者に係る保険料負担の考え方の第VI案)。具体的には、第3号被保険者に係る保険料負担あるいは給付の見直しと併せて、現在の第3号被保険者としての保障を育児・介護期間にある者に限るとともに、育児・介護による就労中断を余儀なくされた者に対する報酬比例年金の給付において配慮を講じることが望ましいのではないかとの意見があった。


(参考) 育児期間前及び育児期間中の被保険者類型別の論点整理

 育児期間前及び育児期間中の被保険者類型別に、育児期間に係る新たな配慮措置を検討する場合の論点を整理すると、以下のとおりである。

育児期間前・中の被保険者類型 現在とられている措置 さらに措置を講じる場合の論点
(1)第2号→第2号
(育児休業取得者)

○一時的な休業として、休業前の標準報酬で厚生年金に適用。

○休業前の標準報酬を基に、算定された保険料について被保険者、事業主とも免除。

 
(2)第2号→第2号
(改正育児・介護休業法における1歳以上3歳未満の措置)

○1歳以上で育児休業に準ずる休業を取得した場合、育児休業のように保険料免除措置は適用されておらず、休業前の標準報酬をもとに算定された保険料負担を求める。

○勤務時間の短縮等の措置の場合の扱いは、一般の被保険者と同様に算定された標準報酬で厚生年金に適用され、保険料や年金算定上の特別の扱いはない。

○法律上事業主の義務としてとられる1歳以上3歳未満の間の育児休業の制度に準ずる措置や勤務時間短縮等の措置についても、(1)の者に対する措置のように、何らかの措置を講じるべきか。
(3)第2号→第2号
(育児休業取得せず)

○一般の被保険者と同様に算定された標準報酬で厚生年金に適用。

○勤務時間の短縮等の措置を受けた場合も含めて、保険料や年金算定上特別の扱いはない。

○(1)の者に対する措置との均衡を考え、何らかの措置を講じるべきか。
(4)第2号→第3号
(育児により離職)

○退職により厚生年金の適用はされないが、配偶者が厚生年金に適用されている場合は、第3号被保険者となり保険料負担は要さない。

○第3号被保険者である期間は保険料納付済期間と扱われ基礎年金給付は保障。

○基礎年金給付は保障されているが、それに加えて、育児により退職せざるを得なかったことにより厚生年金への加入期間が短くなり年金額が低下するという事情に配慮して、厚生年金制度においても何らかの措置を講じる必要性はあるか。

○育児退職を促進するのではないか。そうならないようにするためには、どのような工夫が必要か。

○育児を理由とする退職のみを対象とすべきか。また、それは可能か。

(5)第1号→第1号
(自営業従事)

○世帯全体が低所得で保険料免除される場合を除き、20歳以上60歳未満の期間は稼得活動に従事している期間として一律に適用し、保険料負担(定額)を求める。

○給付は基礎年金のみ。

○就業や稼得の形態が一様ではない自営業者について、休業により賃金が得られなくなる被用者と同様の考え方をとって保険料を免除することは適当か。

○保険料負担の面での配慮が困難であるとすれば、これに代わる他の配慮措置を講じ得るか。

(6)第2号→第1号
(育児により離職。配偶者(夫)が自営業に従事)

○退職により厚生年金の適用はされず、配偶者が自営業者等の場合、第3号被保険者としての扱いも受けられず、定額の保険料負担を求める。

○給付は基礎年金のみ。

○(5)に掲げた論点。

○(4)の者と同様、厚生年金への加入期間が短くなり年金額が低下するという事情に配慮して、何らかの措置を講じる必要性はあるか。

(7)第3号→第3号
(育児前から非就業)
○第3号被保険者として、保険料負担は要さず、基礎年金給付が保障される。 ○育児による稼得の減少はなく、現行制度のもとでは保険料負担も求めていないので、年金制度上これ以上の措置を講じる必要はないのではないか。

(3) 育児期間に係る配慮措置以外の年金制度における対応

 少子化の進展が安定的な運営に大きな影響を及ぼす年金制度においては、年金の給付と負担に係る育児期間への配慮措置を超えて、育児や子育てを支援する措置をさらに拡大させるべきではないかという考え方も指摘されている。検討会においては、

(1) 公的年金の積立金を財源とした「若者皆奨学金制度の創設」
(2) 年金制度における保育費用の助成

という提案があった。(資料V−4−5:育児期間に係る配慮措置以外の年金制度における対応について
 これらの提案については、次に述べるような育児期間等に対する年金制度上の配慮措置の基本的な位置付けに係る論点のほか、(1)については、官民の役割分担からみた時の妥当性といった論点、(2)については、税財源により行われている保育施策について社会保険制度である年金制度が行うことの妥当性といった論点があり、これらを踏まえ、その是非も含めてさらに議論を深めていくべきである。

(4) 年金制度における育児等に対する支援の拡充の是非

 年金制度において、育児期間等に対する配慮措置の拡大等に係る検討を行うに当たっては、この際、改めてどのような政策目的で配慮措置を考えるのかという点についての整理が必要である。

(1) 将来の年金制度を担う次世代の育成の観点

 まず、世代間扶養の仕組みを基本として成り立っている年金制度において、将来の年金制度を担う次世代の育成は重要な課題であることから、年金制度としても、育児期における仕事との両立支援や育児負担への配慮のための措置を拡充していくことが必要ではないかという考え方がある。
 この考え方に対しては、年金制度で対応するのではなく、政策目的に応じ、例えば保育サービスなどによって対応するのが本質的な解決であるという意見もある。

(2) 育児を理由とした休業、離職、短時間労働の選択に伴う、年金水準低下の補填という観点

 現状においては、女性は育児を理由として休業、離職、短時間労働の選択をすることが多く、老後の年金水準も低いものとなりがちな実態がある。こうした中で、男女それぞれの加入実績が老後の年金に反映することを通じて女性、男性それぞれの年金が充実していくことを目指すためには、次世代の育成にかかわる休業等により年金額が低くなることについては、これを補填するような配慮が必要ではないかという考え方がある。
 この考え方に対しては、女性の就労継続への意欲を阻害しないようにする必要があるとの意見、さらに、育児休業として長期間休暇を取ること自体が女性のキャリア形成を損なうことにもつながるので、むしろ休業せずに働き続ける女性を支援するような措置を検討すべきとの意見もある。
 いずれにしても、少子化に関わる対策は社会全体を挙げて取り組むべき課題であり、特に、世代間扶養を基本として成り立っている年金制度においてどのような対応を講じていくことが適切かについては、上記の様々な視点も踏まえつつ、十分な議論の下に判断がなされるべきものと考える。

(3) 介護休業期間に関する考え方

 なお、介護休業期間についても、育児休業期間と同様に、年金制度上の配慮措置をとるべきではないかという意見があった。将来の年金制度を担う次世代の育成という観点から見ると、介護期間と育児期間は性格が異なっており、また諸外国においても育児期間と介護期間では年金制度上の扱いを異にしているが、介護を理由とした休業や離職等により年金額が低くなる構造は育児と共通しており、このような点も踏まえつつ、今後検討していくべきものと考える。



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