アフターサービス推進室活動報告書
( Vol.2:2011年1月〜3月)
1 アフターサービス推進室とは
(1)アフターサービス推進室設立の経緯
アフターサービス推進室は、厚生労働省の制度や事業が本来の目的通り国民の皆様の生活に役立っているかどうか、制度・事業が本来の目的通りに機能していないと考えられる場合に何が問題なのか、国民の目線から調査・分析し、改善に結び付けることを目的として2010年9月に設置されました。
当室のメンバーは、国民の目線を重視し、4名の民間出身者と厚生労働省の職員5名(併任)および事務補佐員1名で構成されています。
(2)業務内容
[1] 国民、現場職員、専門家に対するヒアリング、各種資料やデータの分析を通じて現状について調査・分析
[2] 担当部署と連携・協働して改善案を策定
[3] 報告書を作成して公表
[4] その他、担当部署のアフターサービスに対する取組状況を示す指標の開発など、現状把握機能、制度・業務改善機能の向上に資する取り組み
2 活動報告(2011年1月〜3月)
アフターサービスの観点から、厚生労働省の制度・事業の中で改善が可能と思われるものについて、国民の皆様の声、現場視察、厚生労働省の制度・事業に関する情報収集を基に以下の6件を選定しました。
番号 | 案件名 | 概要 |
---|---|---|
1 | 女性医師等の復職支援方法に関する調査 | 「女性医師支援センター事業」(および女性医師等就労支援事業)を利用して復職した医師や離職したままの医師の意見を聴取し、事業のさらなる効率的・効果的運営を検討する。 |
2 | 労働基準行政の実態調査 | 労働条件の確保・改善および労働基準関係法令についての周知が、より適切に図られるよう、労働基準監督行政において改善すべき点がないかについて調査する。 |
3 | 障害者雇用対策のホームページ改善 | 障害者雇用施策のホームページを読みやすくなるよう改善する。 |
4 | 「退所児童等アフターケア事業」の推進支援 | 運営主体および利用者の声を通して、事業が果たしている役割や効果、課題について明らかにすることにより、事業の一層の推進を図る。 |
5 | 年金支払サービスの向上支援 | 「支払いが遅い」「いつ支払われるのかわからない」という国民の皆様の声に応えるため、支払案件を調査し、原因を明確にして、改善を図る。 |
6 | 年金フロントサービス改善支援 | 「日本年金機構の対応が悪い」「マナーが悪い」という国民の皆様の声が多いため、さらなる改善策を日本年金機構と共に検討する。 |
3 現段階の調査進捗報告
現時点までに取りまとめた調査結果について、以下に概要を示します。
3−1.女性医師等の復職支援方法に関する調査
3−1−1.予備調査(ヒアリング)の概要および意見・課題
都道府県・大学病院などの医療機関・関連NPOに9件のヒアリングを行い、以下の意見・課題を得ました。(具体的事例は別紙で紹介します)
意見・課題 | 改善提案 | |
---|---|---|
(1) | 復職のための研修の受講希望者の数を事業前年度に調査し、それに基づいて年度初めに予算化する方式を採用する都道府県が多い。 しかし、離職者の人数や所在地、状況を把握することは極めて困難なのが実状である。 希望者の予想が実際と異なり、予算が不要となるケースがある。 |
女性医師等就労支援事業への申請を、年1回から複数回に改め、年度途中での申請や変更が可能な仕組みを構築する。 離職者との連絡が途絶しないよう、名簿などの充実を図る。例えば、隔年ごとに実施される「医師・歯科医師・薬剤師調査」をこの目的に利用できないか検討する。自治体、あるいは民間企業で離職者の名簿を構築するなど。 |
(2) | 長期の離職から復職する例は、都道府県単位でみると、毎年数人であり、ノウハウが蓄積しにくいケースが多い。 | 中長期的に復職研修を継続提供できる医療機関を育成する。また、そのような医療機関から他の機関へ、復職のための研修のノウハウを伝える環境を整備する。 |
(3) | 40歳代、50歳代でも復職した例がある。 | 都道府県や医療機関などでは、復職希望者に対し、離職年数、離職回数、年齢、元の診療科などに関する制限を設けることなく、門戸を広く確保する。 |
(4) | 都道府県の中には、一般的な医師確保対策として事業を行っているところと、特定の診療科における対策として行っているところがある。 実際に復職した診療科を見ると、産科や救急の割合は比較的小さい。総合診療科・内科・小児科・皮膚科などが比較的多く、その他さまざまな診療科にも復職実績がある | 離職医師が復職を決意する際の心理的・物理的障壁を低くするため、都道府県や医療機関などで復職を勧誘する場合は、復職先診療科を狭く限定しない。 中長期的に復職研修を継続提供できる医療機関を育成することが望ましい。また、そのような医療機関から他の機関へノウハウを伝える環境を整備することが望ましい。(再掲) |
(5) | 女性医師等就労支援事業の交付要綱・補助要綱に基づき、自治体でどのような予算措置が可能か、不明確だという指摘が都道府県担当者からあった。また、実際には国費による補助の対象となるものでも、対象外だと誤解をしている担当者もいた。 | 事業の実施要綱を定める際、柔軟性を保ちつつ、具体的な例示を増やす。特に、就労環境改善については、不明確との指摘が多かったので、具体的な記述を増やす。 |
(6) | 独立行政法人が運営する病院が女性医師等の就労支援に重要な役割を果たし得るとしても、都道府県費による補助は難しいという声があった。 | 独立行政法人などに都道府県費を投入する場合、総務省と協議し承認を得る必要がある。これがかなり厳しい制約となっている。 国(厚生労働省)側では、自治体が、独立行政法人などが設置する病院に事業を委託できるよう、県費による補助が必須とされる現在の条件を見直す。 都道府県側では、「女性医師等就労支援事業」と「地域医療再生臨時特例交付金」との組合せなど、予算の組み方を工夫する。 |
(7) | 女性医師等の勤務環境を改善することで、離職医師の復職を促すだけでなく、離職・退職を未然に防ぐ目的でも事業を行っている都道府県があった。 相談窓口の整備、復職研修、就労環境改善の3つのうち、就労環境改善が最も有効ではないか、という声があった。 就労環境改善については、短時間正規雇用の有効性が高いという声があった。 |
離職医師の復職という観点だけでなく、医師が勤務を継続できる環境整備という観点からも、医師の就労環境改善を重視する。 その一環として、短時間正規雇用の導入を検討する。 |
(8) | 病院内外の保育施設の情報を集約しても、ホームページなどで公開していない都道府県が多い。 | 都道府県や医療機関等の相談窓口に病院内外保育施設の情報などを集約し、公開することが望ましい。これらの情報は、離職中の医師にとって重要なことが多く、入手が容易であれば、復職プランを立てやすくなる。 |
(9) | 都道府県、都道府県医師会、近隣の大学病院などの医療機関の連携が重要であるという指摘があった。 | 医師の流動性は高いので、行政や関係機関の連携を促進すると共に、日本医師会(女性医師バンクを運営)などの全国組織とも連携する。 |
3−2.労働基準行政の実態調査
3−2−1.調査結果:
(1) 調査した労働局・監督署とヒアリング対象者
労働局 | 福島、東京、愛知、大阪、広島 |
労働基準監督署 | 郡山、渋谷、名古屋北、大阪中央、広島中央 |
ヒアリング対象者 | 労働局職員、労働基準監督署職員、総合労働相談員 |
(2) 視察の結果
相談窓口の状況や、現場の第一線で働く監督官や相談員の生の声を聞くことができ、現状を把握することができました。現在、視察結果を分析して、課題を抽出中です。
3−3.障害者雇用対策のホームページ改善
3−3−1.改善の背景
障害者雇用のホームページ改善は利用者の観点から使い勝手を良くするために、ホームページの構成を整理し、障害者の方や事業主の方等の利用者自身に必要な情報を得やすいホームページにすることを目標として改善を実施しました。
3−3−2.改善の概要
(1) ホームページデザインの提案・改善
アフターサービス推進室が、障害者雇用に関連した多岐にわたる情報を想定利用者ごとに分類・集約しやすいホームページのデザインを提案しました。
(2) 利用者を想定した情報の分類と集約
厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課が、ホームページの利用者として想定される障害者の方や事業主の方等が、自身に必要な情報を得やすくなるように情報を分類・集約しました。また、視覚障害者の方の意見を聴取するなどし、問題点の把握の参考としています。
(3) 改善によって得られる効果
利用者ごとに必要とする情報がまとまっていることで、目的の情報にたどり着きやすくなり、障害者雇用対策についての情報が入手しやすくなることが期待されます。
(4) 障害者雇用対策課のホームページ
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha.html)
3−3−3.課題および改善事項
課題 | 改善事項 | |
---|---|---|
(1) | 「障害者雇用対策」のトップページが画面上縦に長い構成であり、ひと目では情報の全体像が把握しづらいため、目的の情報へたどり着きにくい。 | 該当ページを6つに再分類してページを作成し、それぞれのページの同一箇所に見出しを表示させた。また、「施策の紹介」として分類したページをさらに「障害者の方へ」、「事業主の方へ」、「特別支援学校、就労支援施設、地方自治体などの方へ」、「好事例集」と分類してページを作成した。 |
(2) | 障害者の方のための相談・支援機関に関する情報を探すには、「職業リハビリテーションの実施」から入る必要があり、わかりにくい表現になっている。 | (1)で作成した「障害者の方へ」と「事業主の方へ」のページそれぞれに「相談・支援機関の紹介」の項目を作成した。 |
(3) | 障害者の方に対する支援策を探すには、複数のページを探す必要がある。 | (1)で作成した「障害者の方へ」に「就労に向けた支援策」の項目を作り、障害者の方の支援策に関する情報を集約した。 |
(4) | 事業主の関心が高いと考えられる障害者雇用率等に関する情報を探すには、複数のページを探す必要がある。 | (1)で作成した「事業主の方へ」のページに「障害者雇用率、障害者雇用納付金、特例子会社などについて」の項目を作り、障害者雇用率等に関する情報を集約した。 |
(5) | 特別支援学校や自治体等の関係者が自身に関連する施策を探すには、複数のページを探す必要がある。 | (1)で作成した「特別支援学校、就労支援施設、地方自治体などの方へ」のページに、特別支援学校や自治体等に関する情報を集約した。 |
(6) | 事業主の関心が高いと考えられる助成金の情報が見つけにくい箇所にあり、情報にたどり着きにくい。 | 事業主が把握しやすいように、「事業主の方へ」の中に「障害者を雇い入れた場合などの助成」のページを作成した。((1)で既述) |
3−4.「退所児童等アフターケア事業」の推進支援
3−4−1.調査結果:
事業を実施している自治体の担当課と、運営主体(社会的養護の当事者参加推進団体であるNPO法人「日向ぼっこ」、社会福祉法人 大阪児童福祉事業協会アフターケア事業部、鳥取こども学園が運営している「ひだまり」)および、この事業の利用者などに対して、ヒアリング調査を行いました。併せて、関連資料の分析を行いました。
3−4−2.課題および改善提案:
課題 | 改善提案 | |
---|---|---|
(1) | この事業は先駆的な事業でもあり、具体的な内容や実施プロセス、および事業が果たしている役割について、自治体や関係機関(運営主体になり得る可能性のある機関や組織)の理解、周知が十分に進んでいない。 このような状況が事業を推進していく上での課題となっている。 |
運営主体や利用者の声などを通して、児童養護施設の退所者などに対する具体的な支援の状況や、この事業が果たしている役割を明らかにする。 これまでの運営主体の活動の中から、この事業を行うのに必要なノウハウやポイントを集約する。 上記活動で明らかになった事柄に関し、さまざまな機会を活用して自治体や関係機関に周知を図り、事業の実施を積極的に促す。 |
詳細な調査報告は次回に行う予定です。
3−5.年金支払サービスの向上支援
3−5−1.調査結果:
(1) 調査した事務所
- 日本年金機構本部
- 厚生労働省 年金局
(2) 調査の結果
平成22年1月1日に日本年金機構が発足してから、国民年金保険料の還付金の支払や年金再計算(時効特例)に伴う時効特例給付の支払が遅れるケースが少なからず発生しています。その原因を解明し、改善案をまとめるため、現在、支払手順を精査しています。詳細な調査報告は次回に行う予定です。
3−6.年金フロントサービス改善支援
3−6−1.調査結果:
(1) 調査した事務所
- 日本年金機構本部
- 江戸川年金事務所
- 京都南年金事務所
- 所沢年金事務所
(2) 調査の結果
年金手続きに関する質問、処理状況についての問い合わせ、接客マナーなどに対する指摘など、さまざまな国民の皆様の声に迅速に対応するための体制作りと、その継続的改善の状況、現場の声を聞くことができました。現在、課題や改善案について分析作業中です。
4 今後の活動について
(1)既存案件の継続調査
調査途中の案件、調査後に課題や改善案を分析中の案件、改善内容について担当部局と調整中の案件に関しては、結果取りまとめに向け、引き続き調査・分析、調整を行います。また、今回改善提案を行った内容についても、提案しただけで終わりにならないよう、一定期間経過後に改善がなされているかについて検証する予定です。
(2)新案件の追加選定
継続案件に加えて、新規案件の追加選定を行い、アフターサービスの観点から制度・事業の改善可能性をチェックします。
(3)実査・分析
上記選定案件について現場ヒアリングやより詳細な情報収集を行い、担当部署との意見交換および情報分析を通じて、連携・協働して改善案を策定します。
(4)活動報告
国民の皆様に広く情報を公開するため、活動内容を報告書にまとめ、3〜4カ月ごとにホームページで公開します。次回の報告は2011年6月を予定しています。