タクシー運転者の適切な労働環境の確保

に関する連絡調整会議における検討結果




平成17年10月

国土交通省自動車交通局
厚生労働省労働基準局



目次



 I はじめに

 II タクシー事業者等の実態把握について

 III タクシー事業者に対する法令遵守等に関する指導のあり方について

 IV おわりに


(別添資料)

 1.タクシー運転者の労働実態等に関するアンケート調査(概要)

 2.輸送の安全及び利用者ニーズに関する調査(概要)

 3.自主点検実施結果(概要)



I はじめに

.連絡調整会議の設置に係る背景・趣旨

(1) タクシー事業においては、マイカーの普及、厳しい経済状況等により長期にわたって輸送人員が低迷している中で、利用者に対する利便の向上を通じ、タクシー事業者が自らの創意工夫を活かせる環境を整備するため、平成14年2月に需給調整規制の廃止を柱とする改正道路運送法が施行された。
 この結果、多数の新規事業者が参入し、運賃やサービスの多様化が図られるなど、一定の成果は見られつつあるものの、景気の動向等もあって輸送の需要が上向きに転ずるまでには至っていない。
 一方で、規制緩和後、既存事業者を中心に増車が盛んに行われていること等により営業収入が低下したため、歩合制を主流とする賃金体系を採っている事業者のタクシー運転者については、収入が低下し、最低賃金を割り込むような事態を招くなど労働環境を巡る問題も顕著化している。
 このような状況を鑑みれば、業界全体が発展し、持続的により良いサービスが利用者に提供されるようにしていく観点からは、事業の適正な運営を確保するとともに、それを支える労働者の適切な労働環境の確保を図っていくことが重要である。
 このため、このような基本認識の下、事業所管官庁である国土交通省と労働基準関係法令の所管官庁である厚生労働省とが密接に連携しながら、それぞれの施策を的確に実施していく必要があることから、平成17年5月に、「タクシー運転者の適切な労働環境の確保に関する連絡調整会議」を設置し、(1)タクシー事業者等の実態把握、(2)タクシー事業者に対する法令遵守等に関する指導のあり方について、検討を行ってきたところである。

(2) 平成17年5月25日に第1回目の連絡調整会議を開催し、以降、概ね2ヵ月に1回の頻度で開催し、検討項目に関する協議を行い、10月28日の第4回の連絡調整会議において「タクシー運転者の適切な労働環境の確保に関する連絡調整会議における検討結果」をとりまとめたところである。



II タクシー事業者等の実態把握について

 タクシー運転者の適切な労働環境の確保を図ることを目的とした施策の策定に資するため、国土交通省において、タクシー運転者、タクシー事業者及び利用者を対象に以下の実態調査を実施した。

.タクシー運転者の労働実態等に関するアンケート調査

 タクシー業界を巡る経営環境は依然厳しく、全国各地のタクシー事業者から地方の実態、特にタクシー運転者(乗務員)の労働環境の悪化状況を把握した上で、今後のタクシーのあり方について検討を進めるべきとの要望が寄せられていたところである。
 こうした要望を踏まえ、今後の政策立案の参考資料とすることを目的として、2,237のタクシー事業者を対象として、乗務員の勤続期間、乗務員の性別、年齢構成、乗務形態、給与体系、労働時間、社会保険料等の納付状況等についてアンケート調査を実施した。この結果986のタクシー事業者から回答(回答率44.1%)があった(調査結果の概要については、別添1のとおり)。

.輸送の安全及び利用者ニーズに関する調査

 需給調整規制の廃止によりタクシー事業の経営環境が変化した中で、タクシー事業者の安全管理に関する現状や利用者のサービスに関する満足度等について実態を把握し、タクシー事業の安全管理・サービスに関する在り方を検証することで今後のタクシー事業の更なる活性化を図ることを目的として、次の調査を実施した(調査結果の概要については、別添2のとおり)。

(1) タクシー事業者アンケート・ヒアリング調査
 都市規模、保有車両数を勘案して抽出した1,500のタクシー事業者を対象として、運行記録計、ドライブレコーダーの装着状況と活用方法、事故原因・種別、事故後の教育内容、実施しているサービスの内容等についてアンケート調査を実施した。この結果770のタクシー事業者から回答(回答率51.3%)があった。
 また、首都圏、関西圏の事業者(各5者)に対して安全管理の取り組みを中心にヒアリング調査を実施した。

(2) 利用者アンケート調査
 京浜地区と京阪神地区を対象に、年代構成や都市規模を勘案して抽出したモニター約2,300人を対象としてタクシーの設備や運転者に関するサービスの重要度、安全面・サービスに関する規制緩和前後の比較、規制緩和前と現在の比較等についてアンケート調査を実施した。この結果2,225人から回答があった。



III タクシー事業者に対する法令遵守等に関する指導のあり方について

.タクシー運転者の労働条件に関する自主点検の実施
 タクシー事業においては、需給調整規制の廃止後、車両数の増加や営業収入の低下によって、タクシー運転者の収入低下を招くという状況の中で、拘束時間などの改善基準に関する問題のほか、最近は、特にタクシー運転者の賃金が地域の最低賃金額を下回るという問題も発生している。このため、タクシー事業者自らが、事業場における労働基準関係法令等の遵守状況を点検し、把握した問題点に応じて自主的な改善を図ってもらうため、9,142のタクシー事業者に対して「自動車運転者(タクシー)労働条件自主点検表」による自主点検を実施した。この結果7,140事業場から報告(報告率78.1%)があった(自主点検結果の概要は別添3のとおり)。
 なお、自主的な改善が望めない事業場に対しては、監督等を実施し、タクシー運転者の適切な労働条件の確保を図っているところである。

.合同監査・監督の実施
 地方運輸機関(地方運輸局及び地方運輸支局)及び労働基準監督機関の双方が有する監査や監督に係る権限行使について、従来それぞれ単独に行っていたところであるが、より効果的な指導を行うため、新たに、実施方法、実施時期など基本的枠組み(注)を定めた上で、合同で実施することとした。
 なお、本年度については、合同の監査・監督を秋の交通安全週間の時期を中心として試行的に実施している。
(注)例えば、従来道路運送法に基づく監査では事前に通告を行っていたが、合同監査・監督では行わないことなど。

.相互通報制度の拡充
 国土交通省と厚生労働省とが一層密接に連携しながら、それぞれの施策をさらに的確に行うため、現在実施している地方運輸機関と労働基準監督機関との間の相互通報制度について、下記のとおり制度の拡充を図ることとした。
(1) 地方運輸機関と労働基準監督機関との相互通報の対象事業者として、新たに最低賃金法の重大な違反の疑いがある事案を加える。
(2) 地方運輸機関から労働基準監督機関(社会保険については社会保険事務局)に対する通報の対象としている労働保険及び社会保険へ未加入の事案について、現行の貨物自動車運送事業者に加え、タクシー事業等の旅客自動車運送事業者についても新たに対象とする。

.タクシー事業者等に対する法令遵守に関する指導等

 新規参入タクシー事業者及び運行管理者に対し労働関係法令遵守に関する指導等を徹底することにより、タクシー運転者の適切な労働環境の確保を図るため、以下の施策を実施するものとする。

(1) 新規許可事業者の情報提供

 労働基準監督機関において新規参入タクシー事業者を速やかに把握することを可能とするため、地方運輸機関において一般乗用旅客自動車運送事業の許可を行った場合、労働基準監督機関へ事業者名等の情報提供を行う。

(2) 労働基準関係法令リーフレットの配布

 新規参入タクシー事業者の労働基準関係法令の遵守を徹底するため、地方運輸機関において許可書交付時の指導講習の際、道路運送関係法令の指導と併せ、厚生労働省で作成した労働基準関係法令に関するリーフレットを配付し、同法令の周知を図る。

(3) 「新規起業事業場の労働条件整備サポート事業」の利用勧奨

 地方運輸機関において、許可書交付時の指導講習の際、厚生労働省で実施している「新規起業事業場の労働条件整備サポート事業」(注)について、利用を勧奨するとともに、利用を勧奨した事業者名等の情報を労働基準監督機関へ提供する。
(注)「新規起業事業場の労働条件整備サポート事業」とは、新たに事業を始めた事業主等を対象に、労働基準法や労働条件の管理に詳しい社会保険労務士等の専門家が会社を訪問し、実情に応じた労働条件の整備などについて無料でアドバイスを行うものである。

(4) 許可申請審査時における最低賃金確保についての確認

 地方運輸機関において許可申請を審査する際、資金計画上の人件費が最低賃金額を上回っているか否かについて、現在の許可基準の規定に鑑み、最低賃金額の確保について確認する。

(5) 運輸開始届の添付書類の追加

 新規許可事業者について、就業規則の作成及び社会保険・労働保険への加入状況を確認するため、地方運輸機関に対する運輸開始届の添付書類に「就業規則(写)」、「労働保険/保険関係成立届(写)」、「(健康保険・厚生年金保険)新規適用届(写)」を追加する。

(6) 運行管理者試験問題における労働基準法関係問題の追加

 運行管理者に対し労働関係法令の遵守の徹底を図るため、平成18年度第1回運行管理者試験から、労働基準法関係の出題数を従来の4問から6問に増加するものとする。



IV おわりに

 両省においては、本会議での検討・協議と併行して、前記II並びにIIIの1及び2の施策を講じてきたところであるが、今後においても、本検討結果を踏まえ、そのフォローアップを行う必要があること、また、タクシー運転者の労働環境の変化に対応する新たな施策の必要性が生じる可能性もあることから、必要に応じて連絡調整会議を開催するなど両省において緊密に連携を図り、適切な対応を図って行くこととしている。

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