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(2) 給付と負担の在り方

(2−1) 年金給付の水準

《現在の年金給付の水準の設定の考え方》

 現在の年金給付の水準は、片働き夫婦のサラリーマン世帯について、基礎年金(夫婦2人)+厚生年金(夫)のモデル年金(23.8万円)が、月額換算した現役時代の手取り年収(40.1万円)の概ね6割の水準となるように設定されている。これは国際的にみても遜色ない水準である。

現役世代の賃金と比較した年金の給付水準(平成11年財政再計算)

《高齢者世帯の生計費を賄うという観点からみた給付の水準》

 このような現在の年金給付の水準について、高齢者世帯の生計費を賄うという観点からみると、厚生年金のモデル年金の水準(23.8万円)では、高齢者夫婦世帯(有業者なし)における消費支出のほとんどがカバーされている。

 また、夫婦の基礎年金の水準(13.4万円)では、高齢者夫婦世帯(有業者なし)における衣食住をはじめとする老後生活の基礎的な部分がカバーされている。

高齢者世帯の生計算と年金の給付水準

 なお、単身女性の年金給付の水準については、厚生年金の被保険者期間の短さや賃金水準の低さを反映して、男性と比べてかなり低くなっていることに留意が必要である。

《現役世代の生計費との比較の観点からみた給付の水準》

 現役世代の家計では、支出の中で住宅ローンの返済費や教育関係費が大きな割合を占めている。消費支出から教育関係費を除いた生計費について、高齢者夫婦世帯と現役世代で世帯人員の差を考慮した上で比較を行うと、平均的には、高齢者夫婦世帯の消費水準は、30歳台、40歳台の世帯の消費水準をやや超える水準にあると考えられる。

高齢者世帯の消費支出と現役世代の消費支出の比較

《年金給付の水準についてどう考えるか》

 年金給付の水準についてどう考えるかについては、以上のような状況を踏まえつつ、年金制度の給付と負担の在り方全体の中で考えていく問題である。

(2−2) 負担の水準

《現在の保険料負担の水準の設定の考え方》

 社会保険方式の公的年金制度では、一定期間の保険料納付を年金受給の要件としており、公的年金制度のスタート後、時間の経過とともに受給者が増え、これに伴って年金給付費が増加する。また、公的年金制度においては、社会経済の変動に対応した実質的に価値のある給付を行うため、賃金や物価の伸びに応じて給付水準を改定することが要請され、これにより年金給付費はさらに増加する。

 我が国では、昭和17(1942)年の厚生年金制度発足当初は(当時は労働者年金保険)、将来にわたって一定の保険料率で収支均衡を図る平準保険料方式が採用された。しかしながら、戦後の急激なインフレによって労働者の生活が困窮し、保険料の負担も困難となり、また、積立金の実質的な価値が減少する中で、現実の給付に要する費用の動向等も踏まえ、平準保険料に比べ低めに保険料(率)を設定し、その後これを段階的に引き上げ、最終的に収支が均衡する水準に到達する段階保険料方式が採用され、現在に至っている。

段階保険料方式【概念図】

《保険料負担の引上げ凍結の解除》

 平成12年改正では、このように段階的に引き上げられることとなっている保険料(率)について、当時の経済状況に配慮して、その引上げが凍結されたところである。しかしながら、少子・高齢化が急速に進行する中で、将来の保険料負担を過度に上昇させないためには、長期的・計画的な視点から、保険料負担を段階的に引き上げていくことが必要である。

 欧米主要国においても、保険料率は、制度の成熟化や少子・高齢化の進行等に伴って、これまで徐々に引き上げられてきている。

 仮に保険料引上げ凍結解除を行わず、現在の保険料水準を将来にわたって固定する場合には、新人口推計対応試算(中位推計)によれば、現在受給している年金を含め、直ちに給付水準を3割程度抑制することが必要となる(基礎年金国庫負担割合1/2の場合。1/3のままとすれば、4割程度の給付水準の抑制が必要となる。)。

 したがって、保険料引上げをこれ以上遅らせることなく、平成16年の年金改革において保険料(率)の引上げ凍結を解除することが必要である。

《基礎年金国庫負担割合の1/2への引上げ》

 現在、我が国の公的年金制度においては、保険料を主要な財源としつつ、公的年金制度の運営について責任を有する国として、制度の安定性の確保、給付水準の改善、現役の保険料負担への補助等の観点から、基礎年金の1/3について国庫負担を行っている。

 この国庫負担割合については、平成12年改正法の附則において「平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の1/2への引上げを図るものとする」とされており、平成16年の年金改革で対応すべき大きな課題の一つである。

 公的年金制度を将来にわたって安定したものとしていくためには、支え手である現役世代の制度に対する信頼感・安心感の確保や保険料負担を無理のないものとしていくことが重要である。
 平成16年の年金改革において国庫負担割合1/2を実現することは、給付水準の調整あるいは最終的な保険料水準上昇の抑制を可能とする。その効果は、特に国民年金の最終的な保険料水準の抑制に大きな効果があり、これによって、将来の保険料水準が過度なものとならない姿が国民に対して明確に示される。
 また、個人単位で見た場合に、期待される将来の給付に対する保険料納付の関係が改善され、自分の納付する保険料が確実に給付を増加させていく拠出のメリットを十分に実感できる仕組みとなる。
 その結果、特に若い世代を中心とした現役世代の年金制度に対する不安感や不信感の解消に寄与し、制度の長期的な安定化にとって重要なポイントとなる。

 国庫負担割合を1/3から1/2に引き上げた場合の最終的な保険料水準や所得代替率への影響は、P.26、27、33参照。
 以上のとおり、最終的な保険料水準を過大なものとならないようにし、給付も適切な水準を保つことができるようにしていくため、また、若年世代の理解を得て安定的な制度運営を可能にしていくためには、国庫負担割合の1/2への引上げは不可欠である。

 一方で、この国庫負担割合引上げのためには、平成16(2004)年度で2.7兆円、平成37(2025)年度で3.8兆円(いずれも平成11年財政再計算ベースで、平成11(1999)年度価格。)という巨額の費用を要することから、この安定した財源の確保のための具体的方策と一体として検討が必要である。

《将来の最終的な保険料水準について》

 平成12年の年金制度改正では、厚生年金について、最終的な保険料率を年収の20%程度に設定した。(基礎年金の国庫負担割合1/2の場合で19.8%)

 すでに相当に高齢化が進んだ西欧諸国においても、保険料負担は20%程度に設定されている。これは、年金保険料の心理的な負担の限界と見られていること等のためである。

 他方、最終的な保険料(率)の水準を考える際には、年金だけではなく、租税負担や、医療、介護等の他の社会保障負担を合わせた全体的な負担という観点から考えるべきであり、医療・介護等の社会保険料負担も今後上昇していくことから、年金の最終的な保険料率を20%を下回る水準(例えば18%程度)にとどめるべきという意見があるが、この場合、この分給付水準が低くなることをどう考えるかという問題がある。

《新人口推計対応試算について》

 新人口推計では、一層の少子・高齢化の進行を予測しているが、その年金財政に与える影響について、現在の給付水準を維持しつつ保険料負担の引上げで対応することとした場合の、平成37(2025)年度以降の最終保険料(率)(総報酬ベース)は下記のとおりである。(新人口推計対応試算、平成14年5月)

  平成11年
財政再計算
ベース
新人口
高位推計
新人口
中位推計
新人口
低位推計
国庫負担割合1/2        
  厚生年金 19.8% (100) 20.6% (104) 22.4% (113) 24.8% (125)
国民年金 18,500円 19,900円 21,600円 24,000円
(平成11年度価格) (100) (108) (117) (130)
国庫負担割合1/3        
  厚生年金 21.6% (100) 22.8% (106) 24.8% (115) 27.5% (127)
国民年金 25,200円 27,100円 29,600円 33,000円
(平成11年度価格) (100) (108) (117) (131)

注1:  カッコ内は平成11年財政再計算ベースを100とした場合の指数。
注2:  現在の保険料(率)は、厚生年金13.58%(総報酬ベース)、国民年金13,300円。

《保険料(率)の引上げ計画について》

 平成11年財政再計算による財政計画では、遅くとも平成37(2025)年までに最終的な保険料(率)に到達することを想定している。

 これに対して、後世代への負担をできる限り軽くするとの観点からは、最終的な保険料水準への到達時期を前倒しすることが考えられる。この場合、最終的な保険料(率)を低くすることが可能である。

 他方、経済状況等を勘案し、例えば経済状況が悪く、実質賃金上昇率が低いときには、最終的な保険料水準への到達時期を後倒しするという配慮措置を採るという考え方がある。このような配慮措置を採る場合、最終的な保険料(率)は高くなることに留意しなければならない。

 また、経済状況への配慮という観点からは、厚生年金について、現在のように5年ごとに保険料率を引き上げるのではなく、毎年小刻みに引き上げることにより1回ごとの引上げ幅を圧縮することも考えられる。

(2−3) 少子化の進行等の社会経済情勢の変動を踏まえた給付と負担の見直し

《社会経済の変化と年金制度》

 公的年金制度の将来に向けた給付と負担の関係は、基本的には、財政再計算時に想定した人口構造や賃金をはじめとした経済状況等の外生的な社会経済情勢に変動が生じた場合、その変動に応じて変化する。

《これまでの方式:5年ごとの財政再計算の際に給付と負担の両面を見直し》

 このような社会経済情勢の変動に対して、これまでは5年ごとの財政再計算の際に、人口推計や将来の経済の見通し等の変化を踏まえて、給付内容や将来の保険料水準を見直してきた。

 しかしながら、この方式については、少子・高齢化が急速に進む中で、若い世代にとっては将来の給付水準も保険料水準も不透明なものとなり、年金制度に対する不安につながっているとの批判も強まっている。

 また、この方式を採る場合でも、例えば、保険料が相当な水準に達しているドイツでは、保険料水準の十分な引上げが困難となり、もっぱら給付水準の見直しにより財政均衡が図られていることに留意が必要である。

《新しい方式:最終的な保険料水準を固定する考え方(保険料固定方式)》

 スウェーデンの年金改革にみられるように、将来にわたって保険料水準を固定し、その後、人口構造や経済の見通しが想定を超えて変動する場合には、給付水準を自動的に調整することで対応するという考え方に、関心が集まっている。

 この考え方を我が国の年金制度に導入する場合には、最終的な保険料水準を法定し、その負担の範囲内で給付を行うことを基本に、少子化等の社会経済情勢の変動に応じて、給付水準が自動的に調整される仕組みを制度に組み込むことになる(以下「保険料固定方式」という。)。

 少子・高齢化が急速に進行する我が国においても、世代間の公平や現役世代の保険料負担の限界を考えれば、最終的な保険料水準を法定する保険料固定方式の採用は、選択肢として考えることができる。

 保険料固定方式を採る場合、我が国では、現在、最終的な保険料水準に向けた保険料(率)の引上げ途上にあることから、直ちにある水準で保険料(率)を固定することはできず、保険料(率)を段階的に引き上げていく計画や最終的な保険料(率)の水準を、あらかじめ制度として固定することになる。

 一方、給付面では、想定を超えて少子化等の社会経済情勢に変化が生じた場合に、制度の見直しを要することなく自動的に給付水準が調整されることとなる。こうした仕組みは、少子化等の社会経済情勢に柔軟に対応できるだけでなく、少子化への取組や経済の発展に向けた経済社会全体の努力を、将来の給付水準に自動的に反映させることができる。

 なお、保険料固定方式では、公的年金が老後生活の支えとしてふさわしい価値のあるものであるよう、給付水準の調整には一定の限度が設けられることが必要である。

《保険料固定方式における給付水準の調整の基本−年金改定率(スライド率)の調整を軸として、時間をかけて緩やかに給付水準を調整》

 保険料固定方式では、少子化等の社会経済情勢に変化が生じた場合、その程度に応じて給付水準が自動的に調整されていくことになるが、その調整の方法については、高齢期の所得保障の主柱としての公的年金の役割を踏まえれば、給付水準が急激に調整される方法は適切ではない。むしろ、年金制度の支え手である現役世代全体の保険料負担能力とバランスのとれた給付水準とするという観点や、国民生活に急激な影響を及ぼさないよう、時間をかけて緩やかに給付水準を調整していくという観点から、年金改定率(スライド率)の調整を軸として考えていくことが適切である。

《年金改定率(スライド率)の具体的な調整方法−マクロ経済スライド:マクロの経済成長率や社会全体の賃金総額の伸び率等を年金改定率(スライド率)に反映》

 現行の年金給付の改定方法は、新規裁定時に、厚生年金については、一人当たりの可処分所得(手取り賃金)上昇率に応じて、年金額の算定基礎となる現役時代の賃金を再評価し、国民年金(基礎年金)については、国民生活の動向等を踏まえて政策改定し、裁定後は、年金額を物価の変動に応じて改定している。

 賦課方式を基本とした社会保険方式を採る年金制度は、現役世代を中心として社会全体が生み出す所得や賃金の一部を保険料負担として求め、これを年金給付に充てる仕組みである。保険料固定方式における給付水準の自動調整方法を考えるに当たっては、年金制度を支える力である社会全体の所得や賃金の変動に応じて給付が調整されるように、年金改定率(スライド率)が自動的に設定される仕組みとすることが考えられる。

 具体的には、マクロの経済成長率(GDP(国内総生産)や国民所得の伸び率)や社会全体の賃金総額の伸び率を、年金改定率(スライド率)に反映させる方法、あるいは一人当たりの可処分所得(手取り賃金)上昇率等を反映している現行の年金改定率に対して、労働力人口や被保険者数の変動率を併せて反映させる方法が考えられる(以下これらの方法を「マクロ経済スライド」と総称する。)。

 マクロ経済スライドでは、次世代育成支援策により少子化傾向に改善がみられるなど、社会経済情勢が将来好転した場合には、そのことが社会全体の賃金総額や被保険者数等の指標の変化を通じて年金改定率(スライド率)の自動的な改善という形で、年金給付に反映されることとなる。

 また、社会全体の賃金総額や被保険者数等の変化を年金改定率(スライド率)に反映する方法については、次の2つが考えられる。

(1) 実績準拠法

 少子化による労働力人口(被保険者数)の減少等が、マクロの経済成長率や社会全体の賃金総額に現に反映し始めたときに、それに応じて自動的に給付水準の調整を行う方法。

(2) 将来見通し平均化法

 少子化による労働力人口(被保険者数)の減少等の将来に向けての変動見通しについて、その傾向の平均をあらかじめ織り込んで自動的に給付水準の調整を行う方法。

(2−4) 給付と負担の見直しに関する方式の整理とその試算結果

 以上述べた諸論点を踏まえ、給付と負担の見直しに関する方式の整理とその試算結果を、以下に示す。(試算の詳細については後出の参考資料を参照。)ここで示す給付と負担の見直しに関する方向性と論点は、今後の制度の根幹に関わる問題であり、今後、さらに議論を深め、適切な結論を得ることとする。

【給付と負担の見直しに関する方式】

方法I  5年ごとの財政再計算の際に、人口推計や将来の経済の見通しの変化等を踏まえて、給付水準や将来の保険料水準を見直す

方法II  最終的な保険料水準を法定し、その負担の範囲内で給付を行うことを基本に、少子化等の社会経済情勢の変動に応じて、給付水準が自動的に調整される仕組みを制度に組み込む(保険料固定方式)

【試算に関する諸前提】

諸前提 基準ケース
経済前提 平成20(2008)年度以降
  実質賃金上昇率1.0%、実質運用利回り1.25%
(名目賃金2.0%、物価1.0%、名目利回り3.25%)
平成15(2003)〜19(2007)年度
  実質賃金上昇率0.5%、実質運用利回り1.25%
(名目賃金0.5%、物価0.0%、名目利回り1.75%)
将来推計人口 新人口中位推計(平成14(2002)年1月)
  合計特殊出生率(2050年) 1.39
2050年における平均寿命 男80.95歳、女89.22歳
国庫負担割合の引上げ 次期制度改正時に、安定した財源を確保し、基礎年金国庫負担割合を1/2に引上げ
国庫負担割合引上げ時の保険料(率)の取扱い 保険料(率)の引上げ幅の抑制や引下げを行わない
保険料(率)の引上げ計画 毎年度引上げ(最終保険料(率)に到達するまで)
  厚生年金 毎年0.354%(総報酬ベース)引上げ
(国庫負担割合を1/3にとどめた場合、0.384%)
平成11年財政再計算と5年間での引上げ幅を同じとする

平均的な被用者(月収36.7万円(ボーナスは年2回合計で月収3.6ヶ月分)の場合、毎年、保険料率の引上げにより、月650円程度(ボーナス1回分につき1,150円程度)保険料負担(被保険者分)が増加する。

国民年金 毎年600円(平成11年度価格)引上げ
(国庫負担割合を1/3にとどめた場合、800円)
厚生年金の最終保険料率 20%(保険料固定方式の場合)

 以下の各方式について示したイメージ図は、今回の試算において、上記の諸前提について基準的なケースを想定した場合の結果を示したものである。今回の試算は、現時点での諸データに基づいて計算したものであり、数字は最終的に確定したものではない。

方法I−1  給付水準維持方式

 現行の給付水準を維持し、5年ごとの財政再計算の際に、少子化等の社会経済情勢の変動に対応して、保険料水準の見直しを行う

《試算結果(基準ケース)》

 基準ケースでは、現行の給付水準を維持するためには、最終保険料(率)は、厚生年金について23.1%、国民年金について20,500円(平成11年度価格)とすることが必要。

  厚生年金の最終保険料率
(総報酬ベース)
国民年金の最終保険料
(平成11年度価格)
平成11年財政再計算 19.8% (100) 18,500円 (100)
新人口対応試算(H14.5)(中位推計) 22.4% (113) 21,600円 (117)
今回の試算の基準ケース 23.1% (117) 20,500円 (111)

注1:  ( )内は、平成11年財政再計算を100とした指数である。
注2:  基準ケースと新人口対応試算が異なるのは、経済前提、国庫負担割合引上げ時の保険料(率)の取扱い、保険料(率)の引上げ計画等が異なるためである。
注3:  現在の保険料(率)は、厚生年金が13.58%(総報酬ベース)、国民年金が月額13,300円。
注4:  国庫負担割合を1/2に引き上げるためには、基礎年金全体で引上げ分として、平成16年度2.7兆円(平成11年度価格。その後所要財源は増加。)の税財源の確保が必要となる。

厚生年金の段階保険料率

国民年金の段階保険料

《基礎年金国庫負担割合を1/2に引き上げなかった場合》

 基準ケース(国庫負担割合1/2)の最終保険料(率)を100とした場合、基礎年金国庫負担割合を1/3にとどめると、厚生年金の最終保険料率は113、国民年金の最終保険料は143と上昇する。

 基礎年金国庫負担割合の1/2への引上げの効果は、厚生年金より国民年金の保険料の方が大きい。これは、厚生年金は2階部分があるため、基礎年金国庫負担の全体の給付に占める比率は、国民年金の方が大きいためである。

  厚生年金の最終保険料率
(総報酬ベース)
国民年金の最終保険料
(平成11年度価格)
国庫負担割合1/2
(基準ケース)
23.1% (100) 20,500円 (100)
国庫負担割合1/3 26.2% (113) 29,300円 (143)

注1:  ( )内は、次期制度改正時に国庫負担割合を1/2に引き上げた場合(基準ケース)を100とした指数である。
注2:  現在の保険料(率)は、厚生年金が13.58%(総報酬ベース)、国民年金が月額13,300円。

厚生年金の段階保険料率

国民年金の段階保険料

  基礎年金国庫負担割合の引上げ方法
1/2
(基準ケース)
次期制度改正時に、安定した財源を確保し、基礎年金国庫負担割合を1/2に引上げ
1/3 基礎年金国庫負担割合1/3

方法I−2  給付と負担の双方見直し方式

 将来の保険料水準が過重なものとならないように、5年ごとの財政再計算の際に、少子化等の社会経済情勢の変動に対応して、保険料水準とともに、現行の給付の内容や水準の見直しを行う


 この方式の場合には、給付と負担の双方について総合的に検討して設定することとなるが、給付内容の見直しについては、支給開始年齢の見直し、基礎年金水準の見直しや厚生年金の給付乗率の見直し、年金改定率(スライド率)の変更等の方法を組み合わせることが考えられる。

方法II  保険料固定方式

 最終的な保険料水準を法定し、その負担の範囲内で給付を行うことを基本に、少子化等の社会経済情勢の変動に応じて、給付水準が自動的に調整される仕組みを制度に組み込む

《考え方》

マクロ経済スライドによる給付水準の調整

 年金制度を支える力である社会全体の所得や賃金の変動に応じて給付が調整されるように、年金改定率(スライド率)が自動的に設定される仕組みとする。

 具体的には、少子化等の社会経済全体(マクロ)の変動の実績(または将来見通し)を、一人当たり賃金や物価の上昇を年金改定率(スライド率)としている現行の年金給付の改定方法に反映させることにより、時間をかけて緩やかに給付水準を調整する(マクロ経済スライド)。例えば、以下の実績数値(または将来見通しを平均化した傾向)を反映させる。

(1)  労働力人口や被保険者数の変動率

(2)  GDP(国内総生産)、国民所得、被用者年金の報酬総額等、マクロの経済成長率の変動

 少子化等の社会経済情勢が好転すれば、給付水準は改善される仕組みである。

マクロ経済スライドを適用する特例期間(給付水準調整期間)の設定

 固定した最終的な保険料水準による負担の範囲内で年金財政が安定する見通しが立つまでの期間、年金改定率(スライド率)についてマクロ経済スライドを適用する特例期間(給付水準調整期間)を設ける。特例期間中、給付水準は時間をかけて緩やかに調整される。

 特例期間は、固定した最終的な保険料水準による負担の範囲内で年金財政が安定する見通しが立った時点で終了する。その後は一人当たり賃金や物価の上昇を年金改定率(スライド率)としている現行の年金給付の改定方法に復帰する。

《試算における給付水準調整の具体的な仕組み(実績準拠法)について》

実績準拠法:被用者の総賃金(手取りベース)の伸びの実績により調整

 試算では、マクロ経済スライドを適用する特例期間中、新規裁定者の年金改定率(スライド率)、すなわち厚生年金の賃金再評価及び基礎年金の政策改定を、被用者の総賃金(手取りベース)の伸びの実績により行うこととした。また、基礎年金部分と報酬比例年金部分は同じペースで給付水準が調整されることとした。

 厚生年金では、一人当たり賃金(手取りベース)の伸び率の実績と総賃金(手取りベース)の伸び率の実績に差がある場合、この差の分だけ給付水準が調整される。なお、この差(=スライド調整率)は、労働力人口の変動率に相当する。

 既裁定年金の改定率(スライド率)は、物価上昇率からスライド調整率を控除した率とした。ただし、既裁定年金が、その時点の新規裁定年金の8割を下回る水準となるときは、当該既裁定年金に関する改定率(スライド率)は、以後、新規裁定年金と同じ率を適用することとした。

名目年金額下限型

 一人当たり賃金や物価が上昇局面にある場合に、新規裁定者、既裁定者それぞれについて、スライド調整を行うと前年度の名目年金額を下回るときは、年金改定率(スライド率)をゼロとすることとして試算している。これは、一人当たり賃金や物価が下落する場合を除き、名目年金額は下げないという考え方に立っている(名目年金下限型)。

名目年金額下限型

試算における一人当たり賃金(手取りベース)の伸びと総賃金(手取りベース)の伸びの差の見通し

  高位推計 中位推計 低位推計
〜2025年度(平均) −0.30% −0.30% −0.31%
2026〜2050年度(平均) −0.92% −1.18% −1.50%

(参考1)  保険料固定方式における基準ケースの保険料(率)の引上げ計画(基礎年金国庫負担割合1/2の場合)

厚生年金の段階保険料率

国民年金の段階保険料

 国庫負担割合を1/2に引き上げるためには、基礎年金全体で引上げ分として、平成16年度2.7兆円(平成11年度価格。その後所要財源は増加。)の税財源の確保が必要となる。

《試算結果(基準ケース)−マクロ経済スライド(実績準拠法(名目年金額下限型))・厚生年金の最終保険料率20%》

 マクロ経済スライドは、固定した最終的な保険料水準(基準ケースでは厚生年金の最終保険料率20%)による負担の範囲内で年金財政が安定する見通しが立つまで適用され、この間、給付水準は時間をかけて緩やかに調整される。

 実績準拠法では、2025年までは比較的小さな給付水準調整となるが(2025年時点の所得代替率は56%)、労働力人口等の減少が本格化する2025年頃から給付水準調整度合いが大きくなる。

 基準ケースでは、マクロ経済スライドによる給付水準の調整が2032年まで行われ、その後は一人当たり賃金や物価の上昇を年金改定率(スライド率)としている現行の年金給付の改定方法に復帰する。

 その結果、給付水準は2032年にかけて緩やかに低下していくが、その後は水準が維持され、最終的な給付水準は、モデル年金の所得代替率(現在59%)でみて52%となる。

 このとき、国民年金の最終保険料(平成11年度価格)は、18,100円となる。

基準ケース(保険料固定方式)

《基礎年金国庫負担割合を1/2に引き上げなかった場合−マクロ経済スライド(実績準拠法(名目年金額下限型))・厚生年金の最終保険料率20%》

 基礎年金国庫負担割合を1/3にとどめると、基準ケース(1/2)と比べ、給付水準調整期間が長くなる(2032年→2043年)とともに、最終的な給付水準が低下する(モデル年金でみた所得代替率 52%→45%)。

 なお、基礎年金国庫負担割合1/2の場合、1/3にとどめた場合と比べ、最終的な給付水準が高くなることから、給付に要する費用が多くなり、これを賄うために必要となる保険料と税を合わせた全体的な負担の水準も高くなることに留意が必要である。

 また、このときの国民年金の最終保険料(平成11年度価格)は、国庫負担割合1/2の場合(18,100円)と比べて5,000円上昇し、23,100円となる。

基礎年金国庫負担割合を1/2に引き上げなかった場合(保険料固定方式)

(参考2)  保険料固定方式における基準ケースの保険料(率)の引上げ計画(基礎年金国庫負担割合を1/2に引き上げなかった場合)

厚生年金の段階保険料率

国民年金の段階保険料

(参考3)

1 将来見通し平均化法について

《考え方》

 マクロ経済スライドについては、上記で示した実績準拠法のほか、少子化等の社会経済情勢の変動の将来見通しに基づき設定する一定率(=スライド調整率)を、年金改定率(スライド率)から控除する方法が考えられる(将来見通し平均化法)。

 これは、人口等の将来見通しに基づいて、実績が判明する前から計画的に給付水準調整を行う方法である。例えば、労働力人口や被保険者数の変動率の将来見通しに基づきスライド調整率を設定し、これを年金改定率(スライド率)から控除することが考えられる。

(参考) 2050年までの労働力人口の平均変動率の見込み

高位推計 中位推計 低位推計
−0.5%程度 −0.65%程度 −0.8%程度

注: 「日本の将来推計人口(平成14年1月)」及び「労働力率の見通し(平成10年10月)」より算出した。

《実績準拠法と将来見通し平均化法の違い》

 実績準拠法では労働力人口等の変動の実績が反映されるのに対し、将来見通し平均化法では労働力人口等の変動の将来見通しが反映される。

 将来見通し平均化法では、労働力人口等の変動の将来見通しを足下から反映させるため、実績準拠法と比べると、給付水準調整が早くから本格化する。これに対して、実績準拠法では、労働力人口等の減少が本格化する2025年頃から給付水準の調整度合いが大きくなる。

 このため、将来見通し平均化法の方が、足元から給付水準調整が大きく行われることとなるが、その分、実績準拠法よりもマクロ経済スライドを適用する特例期間(=給付水準調整期間)が短くなり、また、最終的な給付水準が高くなる。

 なお、将来見通し平均化法では、5年ごとの財政再計算期において、労働力人口等の変動の将来見通しの変化に応じて、単年度当たりのスライド調整率を修正していくことが必要となる。

2 単年度当たりの年金改定率(スライド率)に下限を設ける方法について

 単年度当たりの年金改定率(スライド率)に下限を設ける方法については、次の2つの方法が考えられる。

(1) 名目年金額下限型

 新規裁定者、既裁定者それぞれについて、一人当たり賃金や物価が下落する場合を除き、スライド調整を行うと前年度の名目年金額を下回るときは、年金改定率(スライド率)をゼロとすることとする。

(2) 物価下限型

 新規裁定者、既裁定者それぞれについて、スライド調整を行うと前年度の年金水準を物価改定したものを下回るときは、物価上昇率により年金を改定することとする。

 物価下限型では、既裁定年金の物価スライドを保証することから、保険料固定方式による給付水準調整は既裁定者には及ばないこととなる。その結果、名目年金額下限型よりも、給付水準調整期間が長くなり、また、最終的な給付水準が低下する。

 将来見通し平均化法及び物価下限型に関する試算については、後出の参考資料を参照。

(2−5) 人口等の諸前提について基準ケースと異なる仮定を置いた場合の試算結果

 今回の試算では、上記2−4(給付と負担の見直しに関する方式の整理とその試算結果)で示した基準ケースについての試算結果に加えて、人口や経済等の諸前提について基準ケースと異なる仮定を置いた場合についても、試算を行った。概要は以下のとおりである。(詳細は後出の参考資料を参照。)

1 給付水準維持ケース

(1) 人口が変動した場合

 基準ケース(中位推計)の最終保険料(率)を100とした場合、少子化の状況が改善する高位推計の下では、厚生年金の最終保険料率は91、国民年金の最終保険料は93となる。

 一方、少子化がさらに進行する低位推計の下では、厚生年金の最終保険料率は115、国民年金の最終保険料は110となる。

厚生年金の段階保険料率

国民年金の段階保険料

新人口推計(「日本の将来推計人口」平成14年1月推計)
     高位推計(1.63)
     中位推計(1.39)(基準ケース)
     低位推計(1.10)

注1:  ( )内の数値は、合計特殊出生率の仮定(2050年)である。(平成9(1997)年推計(中位)の2050年における合計特殊出生率は、1.61である。)
注2:  寿命の延びの仮定は全ケース共通。2050年における平均寿命は、男子80.95歳、女子89.22歳である。(平成9年推計の仮定は男子79.43歳、女子86.47歳)

(2) 経済が変動した場合

 基準ケース(ケースB)の最終保険料(率)を100とした場合、経済状況が好転するケースAの下では、最終保険料(率)は、厚生年金、国民年金ともに97となる。

 一方、経済状況が悪化するケースCの下では、厚生年金の最終保険料率は113、国民年金の最終保険料は109となる。

厚生年金の段階保険料率

国民年金の段階保険料

【平成20(2008)年度以降】

  実質賃金
上昇率
実質運用
利回り
備考
ケースA 1.0% 1.5% 名目賃金2.5%、物価1.5%、名目利回り4.0%
ケースB
(基準ケース)
1.0% 1.25% 名目賃金2.0%、物価1.0%、名目利回り3.25%
ケースC 0.5% 1.0% 名目賃金1.0%、物価0.5%、名目利回り2.0%

 ただし、平成19(2007)年まで全体的に低い前提とし、次の経済前提を使用した。

【平成15(2003)〜19(2007)年度まで】

  実質賃金
上昇率
実質運用
利回り
備考
ケースA 1.0% 1.5% 名目賃金1.0%、物価上昇率0.0%、名目利回り2.5%
ケースB
(基準ケース)
0.5% 1.25% 名目賃金0.5%、物価上昇率0.0%、名目利回り1.75%
ケースC 0.0% 1.0% 名目賃金0.0%、物価上昇率0.0%、名目利回り1.0%

注1:  実質賃金上昇率とは、物価上昇率に対する実質的な賃金上昇率のことである。
(実質賃金上昇率=名目賃金上昇率−物価上昇率)
注2:  実質運用利回りとは、名目賃金上昇率に対する実質的な運用利回りのことである。
(実質運用利回り=名目運用利回り−名目賃金上昇率)
注3:  上表の運用利回りは自主運用分の前提である。試算に用いている運用利回りはこれに財投預託分の運用利回り(平成13年度末の預託実績より算出)を勘案した数値を使用。
注4:  平成14年の物価上昇率は、平成15年度の年金改定率として予算の概算要求に使用した−0.6%を使用。名目賃金、名目利回りは、それぞれケースA(1.0%、2.5%)、ケースB(0.5%、1.75%)、ケースC(0.0%、1.0%)とした。
注5:  平成13年度以前は、実績値を使用。

(3) 保険料(率)の引上げ計画を変更した場合

 基準ケースの最終保険料(率)を100とした場合、保険料(率)の引上げペースを早めて引上げ幅を2割増加させたとき(前倒しケース)、厚生年金の最終保険料率は98、国民年金の最終保険料は99となる。

 基準ケースの最終保険料(率)を100とした場合、保険料(率)の引上げペースを遅らせて引上げ幅を2割減少させたとき(後倒しケース)、厚生年金の最終保険料率は103、国民年金の最終保険料は101となる。

厚生年金の段階保険料率

国民年金の段階保険料

  保険料(率)の
引上げ頻度
保険料(率)の
引上げペース
基準ケース 毎年度引上げ  平成11年財政再計算と5年間での保険料(率)の引上げ幅を同じとする。
《単年度当たりの保険料(率)の引上げ幅》
  厚生年金 …  0.354%(総報酬ベース)
  国民年金 …  600円(平成11年度価格)
ケースA
(前倒し)
毎年度引上げ  保険料(率)の引上げ幅を基準ケースの2割増とし、最終保険料(率)への到達年度を前倒しする。
ケースB
(後倒し)
毎年度引上げ  保険料(率)の引上げ幅を基準ケースの2割減とし、最終保険料(率)への到達年度を後倒しする。
2 保険料固定方式

 各前提の変動のパターンは、給付水準維持方式と同様である。

 試算結果は、マクロ経済スライド(実績準拠法(名目年金額下限型))の場合についてのみふれる。(詳細は後出の参考資料を参照。)

(1) 人口が変動した場合−マクロ経済スライド(実績準拠法(名目年金額下限型))・厚生年金の最終保険料率20%

 少子化の状況が改善する高位推計の下では、基準ケース(中位推計)と比べ、給付水準調整期間が短くなる(2032年→2020年)とともに、最終的な給付水準が高くなる(モデル年金でみた所得代替率 52%→57%)。

 一方、少子化がさらに進行する低位推計の下では、基準ケース(中位推計)と比べ、給付水準調整期間が長くなる(2032年→2040年)とともに、最終的な給付水準が低くなる(モデル年金でみた所得代替率52%→45%)。

人口が変動した場合(保険料固定方式)

(2) 経済が変動した場合−マクロ経済スライド(実績準拠法(名目年金額下限型))・厚生年金の保険料率20%

 経済状況が好転するAケースの下では、基準ケース(Bケース)と比べ、給付水準調整期間が短くなる(2032年→2029年)とともに、最終的な給付水準が高くなる(モデル年金でみた所得代替率 52%→54%)。

 一方、経済状況が悪化するCケースの下では、基準ケース(Bケース)と比べ、給付水準調整期間が長くなる(2032年→2048年)とともに、最終的な給付水準が低くなる(モデル年金でみた所得代替率 52%→45%)。

経済が変動した場合(保険料固定方式)

(3) 厚生年金の最終保険料率を18%とした場合

 厚生年金の最終保険料率を18%とすると、基準ケース(最終保険料率20%)と比べ、給付水準調整期間が長くなる(2032年→2043年)とともに、最終的な給付水準が低くなる(モデル年金でみた所得代替率52%→45%)。

 なお、このときの国民年金の最終保険料(平成11年度価格)は、厚生年金の最終保険料率20%の場合(18,100円)と比べ、基礎年金の給付水準が低くなるため、1,700円低下し、16,400円となる。

厚生年金の最終保険料率を18%とした場合(保険料固定方式)

(4) 保険料(率)の引上げ計画を変更した場合−マクロ経済スライド(実績準拠法(名目年金額下限型))・厚生年金の最終保険料率20%)

 厚生年金の保険料率の引上げペースを早める(引上げ幅を2割増加、前倒しケース)と、基準ケース(平成11年財政再計算のペース)と比べ、給付水準調整期間が短くなる(2032年→2031年)とともに、最終的な給付水準が高くなる(モデル年金でみた所得代替率52%→53%)。

 厚生年金の保険料率の引上げペースを遅める(引上げ幅を2割減少、後倒しケース)と、基準ケース(平成11年財政再計算のペース)と比べ、給付水準調整期間が長くなる(2032年→2033年)とともに、最終的な給付水準が低くなる(モデル年金でみた所得代替率52%→51%)。

保険料(率)の引上げ計画を変更した場合(保険料固定方式)

(2−6) 現在受給している年金の取扱い

《現在の年金受給者に対する給付水準の調整について》

 現在受給している年金については、公的年金が今後も老後生活の支えとしてふさわしい価値のあるものであるためには、手取り年金額が現役世代の手取り所得の一定割合となることを保障することが必要であり、裁定後の年金について現在の物価スライドではなく、賃金スライド(いわゆるネット・ネット方式)とすべきであるとの意見がある。

 他方、これまで議論してきたように、平成16年の年金改革において、将来世代に対して保険料負担の引上げや給付水準の調整を求めることとする場合、世代間の公平の観点から、現在の年金受給者に対しても、一定の給付水準の調整を求めていくことが必要との意見も多い。

《考えられる具体的な方法》

 その場合の具体的な方法としては、年金受給者の生活の安定を考慮すれば、一人当たり賃金や物価が下落する場合を除き、年金の名目水準を維持しつつ、時間をかけて給付水準の調整を行うことが考えられる。例えば、次の方法が考えられる。

《年金課税の見直し》

 世代間の公平や高齢世代内の公平の視点に立って公的年金に対する課税(公的年金等控除)を見直すべきではないかという意見が多い。

 年金課税を見直した場合には、現在の年金受給者も対象として給付水準を調整するのと同様の効果が結果として生ずる。この場合、高額年金受給者や他の所得を有する者にとって、より大きな効果が生じ得る。

 また、これにより得られる財源を、世代間扶養を基本として運営されている年金制度の趣旨にかんがみ、年金制度に還元することが考えられる。

《今後の国民的な議論の下に適切な結論》

 いずれにしても、現在受給している年金の取扱いについては、年金課税に関する上記の議論を含め、公的年金制度の給付と負担の在り方全体に関する今後の議論の中で、適切な結論を得ることとする。

(2−7) 企業年金、確定拠出年金等の拡充、育成

《公的年金を補完する企業年金、確定拠出年金の拡充、育成》

 高齢期の生活の基本部分を支えるものは公的年金であるが、高齢期の生活は個人によって様々であり、私的年金は、公的年金を補完して多様化した老後生活のニーズに対応する役割を持つ。このような公私それぞれの役割を踏まえ、公的年金を土台として、両者を組み合わせて老後の収入を確保することが適当である。

 また、公的年金の給付の調整が今後図られる場合には、企業年金や確定拠出年金(いわゆる日本版401k)等の一層の拡充、育成が求められ、税制による優遇策を拡充していくことが必要である。

 このような考え方の下で、平成16年の年金改革では、公的年金制度の改革とともに、企業年金制度や確定拠出年金制度等の改善を図っていく。


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