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(3) 給付と負担の関係が分かりやすい年金制度

《将来の年金給付を実感できる分かりやすい仕組みや運営の必要性》

 現役世代、特に若い世代の年金制度に対する理解と信頼を高めるため、将来の年金給付を実感できる分かりやすい仕組みや運営が必要である。

《年金個人情報提供に向けた現在の取組》

 このため、年金個人情報を提供する体制を整備し、社会保険事務所において年金見込額に関する情報提供を行う対象者の範囲を58歳以上から50歳以上に引き下げるなど、被保険者サービスの充実に向けた施策を推進していくこととしている。

年金個人情報提供に向けた当面の取組

(1)  社会保険事務所における年金見込額試算対象年齢の引き下げ

 社会保険事務所における年金相談に際し、具体的な年金見込額に関し情報提供を行う対象者の範囲を58歳以上から50歳以上に引き下げる。(平成15年度から段階的に実施予定)

(2)  被保険者記録の事前通知と年金見込額の提供

 年金受給が近づいた58歳到達者に対し、被保険者記録を直接本人宛に通知するとともに、希望する者に対しては、年金見込額を別途通知する。(平成15年度実施予定)

(3)  インターネット等を利用した年金個人情報の提供

 個人認証に基づき、インターネットを通じた照会を可能とし、被保険者記録、一定年齢以上の者の年金見込額等の情報を提供できるようにする。(平成16年度実施予定)また、本人確認手段を講じることにより、個人記録に基づく具体的な年金相談に電話で対応できるようにする。(平成15年度から順次実施予定)

《ポイント制の導入と年金個人情報の通知》

 このような取組に加えて、ドイツが行っているポイント制のように、被保険者個々人の保険料納付実績を年ごとに点数(ポイント)化することにより、自らの拠出実績が確認できるとともに、被保険者にとって将来受給する年金が着実に増加することが実感できる仕組みを整備していく。

 また、年金ポイント数や将来受給する年金見込額等の年金個人情報を、定期的に被保険者に対して情報提供(通知)していく仕組みを導入する。

《ポイント制の具体例》

 年金額の算定式を、給付水準を変えずに、例えば、次のように変更する。
  現行の給付算定式 ポイント制
基礎年金
(年額)
804,200(円)×保険料納付済月数等÷加入可能月数(480月)

 基礎年金満額は、月額67,000円
基礎年金ポイント×単価

  •  ポイントは、納付1年で1ポイント
    (40年間の保険料納付で40ポイント)

  •  単価=804,200(円)/40(年)=20,105円(月当たり1,676円)
報酬比例年金
(年額)
平均標準報酬月額(賃金再評価後)×7.125/1000×加入月数

 40年加入の標準的な報酬比例年金
359,660(円)×7.125/1000×480(月)=1,230,037(円) (月額102,500円)
報酬比例年金ポイント×単価

  •  ポイント=年ごとの納付実績(ある年度の当該被保険者の賃金/当該年度の被用者年金の全被保険者の平均賃金)を累計

  •  被用者年金の全被保険者の平均的な報酬を有する者が1年保険料を納付すると1ポイント(40年間、全被保険者の平均賃金の場合、40ポイント)

  •  単価=1,230,037(円)/40(年)= 30,751円(月当たり2,563円)


ポイント制のイメージ

(1)基礎年金

  年金額  = 基礎年金ポイント ×
保険料納付1年で1ポイント
(40年間の保険料納付で40ポイント)
 単価(年金現在価値)
単価=804,200(円)(基礎年金満額)/40(年)=20,105(円)
(月当たり1,676円)
単価(年金現在価値)は、国民生活の動向等を踏まえて政策改定

(2)報酬比例年金

  年金額  = 報酬比例年金ポイント
毎年のその人の賃金をその年の被用者全体の平均賃金で割って点数化

 ┌
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 └
例えば、平均的な給与で1年間保険料を納めた場合を1ポイントとすると、標準的な労働者は、40年間の勤務で累積40ポイントとなる。







 ×単価(年金現在価値)
40ポイント獲得した場合に標準的な年金額を受給できるように設定
単価=1,230,037(円)(モデル年金 相当額)/40(年)=30,751(円)
(月当たり2,562.6円)
単価(年金現在価値)は、賃金等の上昇に応じて改定

《ポイント制の意義》

 ポイント制については、現在の仕組みと比べて、次のような意義がある。

(1)  保険料納付に伴いポイントが増加していくので、自らの拠出実績が確認できるとともに、将来受給する年金権が着実に増加することが実感できる。

(2)  例えば、上記の具体例であれば、基礎年金満額やモデル世帯の報酬比例年金を受給するためには、基礎年金ポイント、報酬比例年金ポイントが40ポイント必要となるが、このような標準的な年金水準に必要となる年金ポイント数と比較することにより、自らの年金権が現在どの程度の位置にあるかが分かるので、老後の生活設計がしやすい。

(3)  加入者からみて、年金額の算定式が分かりやすい。

《年金個人情報の提供(通知)の具体例》

 全被保険者を対象として、定期的に(例:1年ごと)年金情報を提供(通知)する仕組みを導入する。
  •  一定年齢(例:25歳以上)の被保険者を対象とすることも考えられる。

  •  段階的に通知対象者を拡大。

  •  一定年齢ごとに通知の頻度を変えることも考えられる(例:40歳以上の者は毎年、40歳未満の者は2年に1回)。

 年金ポイント(直前1年間の実績及び累計総ポイント数)、現在の年金加入期間、年金見込額等を通知する。
  •  年金見込額として具体的に何を通知するかは、今後具体的に検討。

    (例)

     現在障害になったと仮定した場合の障害年金額

     過去のトレンドに沿って今後も年金ポイントが増加していくと仮定した場合の老齢年金見込額

     現在までに獲得した年金ポイントにより将来受給することができる老齢年金見込額

《概念上の拠出建て方式は、将来、最終的な保険料水準に到達したときに、導入の可否について検討》

 なお、給付と負担の関係が分かりやすい年金制度としては、スウェーデン改革で取り入れられた「概念上の拠出建て」という方式もある。

 概念上の拠出建て方式は、名目賃金上昇率(実績値)を運用利回りとみなし、拠出された保険料が運用されると擬制して計算上の年金原資を計算し、これを65歳時の同一コーホートの平均余命を基とした数値で除すことにより、年金額を算定する方式である。

 この方式は、年金額の計算方式を自らの拠出した保険料総額が運用されて戻ってくるかのように擬制するので、拠出実績が確認できるとともに、将来受給する年金額が分かりやすくなり、保険料負担の納得が得られやすくなるという長所を有している。

 しかしながら、段階保険料方式を採用し、現在、保険料(率)の引上げ途上にある我が国公的年金制度においては、現段階で概念上の拠出建て方式を採用すれば、適用される保険料(率)がコーホートによって変わり、納付する保険料総額及びそれに基づく年金原資の規模が前のコーホートほど小さいものとなるので、世代間で給付水準に格差が生じることになる。

 また、概念上の拠出建て方式では、納付する保険料総額に基づいて年金額が決定されることから、公的年金制度における所得再分配機能が弱まることにも留意が必要である。さらに、スウェーデンと我が国では、高齢化のスピードや高齢化率のピークが異なることから、賦課方式の下での概念上の拠出建て方式が我が国でも実現するかどうかについては、慎重な検討が必要である。

 したがって、概念上の拠出建て方式については、将来、最終的な保険料水準に到達した時点での導入の可能性について、上記に掲げた論点等を踏まえ、引き続き検討すべきものと考える。


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