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3. 改革の骨格に関する基本的な方向性と論点

(1) 年金制度の体系

(1−1) 年金制度の体系

≪国民皆年金と社会保険方式を基本とした現行の制度体系≫

 現在の我が国の公的年金制度では、国民年金制度が、自営業者の他、無職者も含め、サラリーマンの加入する厚生年金制度等の被用者年金制度に加入しない国民をすべて対象とすることにより、国民皆年金体制を採っている。公的年金制度の老後の所得保障に占める役割を考えると、この国民皆年金の考え方は今後とも堅持していくことが必要である。

 現在の公的年金制度は、社会全体が連帯し、国民一人一人が保険料を納めるという自助努力を果たしながら、互いに支え合う社会保険方式を採用している。これは、働いて得た収入の中から保険料を納付したことが将来の年金給付に結びつくという形で、自律と自助の精神に立脚した方式である。

 また、現在の公的年金制度は、就業や稼得の態様に違いがあること、高齢期の所得保障の必要性に違いがあること等から、一階に全国民共通の基礎年金を設けつつも、二階の所得比例給付はサラリーマングループのみとし、大きく分けてサラリーマンの加入する被用者年金制度と、その他自営業者等が加入する国民年金制度に分かれている。基礎年金の財源については各制度が拠出金を負担することにより賄う仕組みとなっている。

≪基礎年金を税方式とする考え方について≫

 現行の制度体系は、基礎年金、被用者年金制度ともに、現役時代の保険料納付の実績に応じて年金給付が行われる拠出制年金の仕組みを採っている。

 これに対し、基礎年金について、すべての高齢者に対し普遍的に基礎的な生活費保障を行うものとして、税財源により無拠出制の給付が行われる税方式に改めるという考え方がある。

 これについては、国民年金における未加入・未納問題を解決できる等の利点があるものの、以下の問題点がある。
   さらに、税財源による無拠出制の一律の定額年金への移行を具体的に考えると、これまで保険料負担をしてきた保険料納付者について公平性を保つために、その納付実績を何らかの形で評価し、税財源による一律の定額年金とは別にこれまでの拠出に応じた給付等を行うことが必要であると考えられるが、その財源をどのように確保するのかといった問題もある。
 税方式による年金制度については、上記の論点についての総合的な議論が十分行われることが必要である。

《定額の公的年金とその上乗せの私的年金の組み合わせとする考え方について》

 また、公的年金としては、高齢者に対し基礎的な生活費保障を十分行える水準の定額年金のみとし、それを上回る多様な老後生活のニーズには個々人が企業年金、確定拠出年金等の私的年金で対応するという考え方もある。

 しかしながら、公的年金を定額年金だけとすることは、現役時代の所得の多寡に関わりのない定額の保障となる。このため、現役時代と比べて老後の生活水準を大きく低下させないという公的年金制度の趣旨から見て、特にサラリーマン層について老後の所得保障の機能が十分でなくなる等の問題があり、十分な議論が必要である。

《一本の社会保険方式による所得比例年金の導入と補足的な給付を組み合わせる考え方について》

 近年の就業形態の多様化等に伴い、必ずしもサラリーマングループと自営業者等のグループに明確に区分できなくなってきている状況等を踏まえ、公的年金制度を一本の制度体系とすべきとの指摘がある。

 サラリーマングループと自営業者等のグループを区別せずに一本の社会保険方式の体系とし、かつ、税財源を投入しない純粋な所得比例年金としつつ、無・低所得者に対しては税を財源とした無拠出制の補足的な給付を設けることが考えられる(分離補完型)。
 なお、スウェーデンにおいては、1999年改革において、目的税的な事業主負担と国庫補助を財源として国内居住要件により給付を行う一階の基礎年金制度を廃止し、二階部分であった所得比例年金のみとし、現役時代に十分な保険料拠出ができなかった無・低年金者に対しては、税財源による補完的給付を行う方式を採用した。

図

 この考え方については、就業の実態、稼得の態様、高齢期の所得保障の必要性の違いの問題、さらに、保険料納付の基となる所得把握が十分行われていない問題が指摘されている現状等を踏まえると、現時点では所得に応じた保険料納付を前提とした所得比例の給付を統一的に行うことは負担の公平性の問題があり、直ちに一本の所得比例の体系に移行することは困難があると考えられる。
 また、
  といった論点がある。

 今後さらに、上記の論点について引き続き十分な議論を進めていくことが必要である。

≪公的年金制度の制度体系》

 以上のような議論を踏まえると、社会保険方式に基づく現行の制度体系を基本として、改革を進めていくことが適切である。

 改革に当たっては、安定した財源を確保して基礎年金に対する国庫負担割合を1/2に引き上げるとともに、保険料納付のしやすい環境整備等を図り、徹底した保険料収納対策を講じるなど、長期にわたる安定的な運営の確保を図っていく。

 現行の国民年金制度は、所得把握の問題等から定額保険料、定額給付となっているが、特に保険料水準の上昇から来る低所得者を中心とした負担の限界、抵抗感の高まりの問題があり、できる限り保険料納付を容易にして給付に結びつけるため、多段階免除の導入の検討が必要である。

図

 このように、現行制度においても可能な限り負担能力に応じた給付体系を目指していくことは、基本的な方向としては、上記の一本の社会保険方式による所得比例年金と補足的給付とを組み合わせた制度体系にも近づくものである。

 制度体系の在り方については、次期制度改革により長期的に安定した制度とする措置を講じた上で、適切な所得把握を前提とした所得比例構造に基づく一本の社会保険方式による年金制度の導入等を含め、今後さらに議論を進めていく。

(1−2) 現行制度の財政方式と積立金の保有

≪賦課方式の原則≫

 老後生活の支えとして実質的に価値のある年金額を、終身にわたって、確実に保障するという公的年金の役割を的確に果たしていくためには、賦課方式(世代間扶養)を基本とすることが適切である。

≪積立金保有による将来の保険料水準の抑制≫

 賦課方式は人口構造の変動の影響を受けやすいため、少子・高齢化が進行する中では、世代間の公平の観点から負担の平準化を図るため、保険料(率)を段階的に引き上げつつ、現役世代の保険料が急速に上昇し過度なものとならないよう、積立金の運用収入を確保し、ピーク時の保険料水準を抑制していくことが必要である。

 我が国では、実際の制度運営において、相当程度の積立金を保有し、その運用収入を含めて年金給付を賄うことで、急速な少子・高齢化の進行による急激な保険料水準の上昇を緩和しつつ、長期的な収支の均衡が図られている。

≪公的年金における拠出建て方式の論点≫

 現行の公的年金制度は、給付建て(予め設定される算定式に基づき、年金額が決定される方式)の仕組みを採り、かつ、その財政方式は賦課方式である。給付建ての仕組みにおいては、少子化の進行等により給付費が所与の財源で賄えない場合は、給付内容の見直し(支給開始年齢や算定式の変更など)又は保険料負担の引上げといった制度設計面で何らかの調整により対応することとなる。

 年金制度の仕組みとしては、給付建ての仕組みのほか、拠出された保険料額及びその運用収益に基づいて年金額が決定される拠出建ての仕組みがある。拠出建ての仕組みにおいては、少子化等の社会経済の変動があっても、制度設計の調整を行うことなく対応が可能である。しかしながら、この仕組みのみで公的年金制度を設計することは高齢期の生活保障の機能が不安定になるという問題がある。

 給付建ての賦課方式を公的年金制度の基本とすべきであるが、公的年金制度の一部として強制加入の拠出建て制度を導入したスウェーデンの例や、公的年金外の拠出建て制度への加入を奨励する措置を設けたドイツの例があり、今後の我が国の公的年金制度の在り方を考えていく際の留意点である。


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